番外編 聖夜の約束
本編の間ではありますがクリスマスssということで……
これは誠が召喚される1年前のクリスマスのお話です。
本編とは殆ど関係ありませんので飛ばしてもらっても大丈夫です。
短いですが宜しければお楽しみください。
乾いた風が、冷気と共に素肌を刺激する。
その度に掌を口元にやり、ふぅーっと温める。
それにしても、やはり聖夜ということもあって最寄りのショッピングモールは混みあっている。
恋人繋ぎを見せつけるような男女の組が何処にでもいて、場違い感を覚えるが何とか精神を安定させる。
とはいえ、俺も傍から見れば似たようなものだろう。
俺の隣には一回り小さな身体の二歳年下の妹――天野風莉が手を繋いで自分に買ってもらうプレゼントを物色中だ。
「お兄、あれ可愛いっ」
風莉は握っていた誠の手を引いて、もう片方の手で指した。
「ん? あれは、スノードームだったか」
それは掌に収まるほどのドーム状の中で、雪景色が広がる模型であるスノードームだった。
赤い屋根の家と、隣に一本そびえ立つモミの木。そして庭には赤いバケツを斜めにかぶった二体の雪だるまが笑みを浮かべている。
「あんなのでいいのか? 探せばもっと良いのがあると思うぞ?」
「ううん。私はあれがいい」
どうやら風莉はどうしてもあれがいいらしい。
確かに可愛らしいし、何よりお値段も俺の財布で間に合うくらいだ。
……なんで妹に財布を握られているのかって? ほっとけ。
そうじゃなくてもこんな可愛い妹にプレゼントを買わない兄なんているだろうか? いや、いない。
というわけで早速お望みのスノードームを手に取って、店のレジへと持っていく。
「1200円です。こちらプレゼント用に包装致しますか?」
「お願いします」
代金を渡して財布と睨めっこするが、そこにはもう小銭が小さな音を立てるくらいしかなかった。
……いや、複雑な心境ではあるがこれで風莉が喜ぶと思えば良い。……良い、のか?
ともあれ、喜んでくれているようなのでいいとしよう。
少しすると、デフォルメされたサンタやトナカイがプリントされた包装紙に包まれたスノードームが、クリスマス特有のポップな袋に入れられて手渡された。
「ありがとっ、お兄っ!」
「あー、いいよ。でも、こんなので本当に良かったのか?」
正直そんなに高いものでもないし、特別なものですらないのだが、やはり俺には女性の気持ちというのはわからない。
これ以上高いものは財布的にも厳しいのでやめて欲しいが……
「良いんだよ。そもそもお兄あんまりお金無いでしょ?」
「……わかってるなら手加減してくれよ」
「ふっふーん。十分手加減したと思うよ? それに……」
「それに?」
ノリノリな風莉が、急に萎んで下へキョロキョロと視線を泳がせている。それに若干頬が赤い気がする。
……熱でもあるんだろうか。
「風莉、どうした?」
「ひゃっ! なっ、なんでもないよっ」
「……なら良いけど」
変な声をあげて飛び上がりそうな風莉だったが、元気らしい。
でも、本当に風邪でもひいたら大変だしな。
「風莉、ちょっとこっちに」
「なぁに?」
風莉を近づけて正面に据える。
そして俺が着けている灰色のマフラーを解いて、そのまま頭からすっぽりと黒羽のような長髪が覆う首元へ巻き付ける。
「これなら、寒くないだろ」
「…………ありがとっ」
うん。可愛すぎるぞ妹よ。
若干の照れを残しつつも、満面の笑みを浮かべる風莉はやはり俺の妹とは思えない。
しかもこれで彼氏の一人も居ないとかにわかに信じられない。……そもそも変な奴だったら追い返してやるが。
これがシスコンと呼ばれる所以だと理解はしているが、辞めるつもりは毛頭ない。
てかこの顔を見て辞められる奴を見てみたいくらいだ。
「……あったかーいっ」
「ならいい。じゃあ、そろそろ帰るか」
「あっ、お兄。ちょっとクリスマスツリー見ていかない?」
「それくらいならいいぞ」
風莉が目的のクリスマスツリーはこのショッピングモールの中庭にある、高さ15メートルくらいでキラキラと装飾が施してあるものだ。
辺りにはやはり男女の組がごった煮のように集まっていて、とてもでは無いがその中に割ってはいるのは難しそうだ。
「うわー、混んでるねぇ」
「風莉、手離すなよ。はぐれたらヤバそうだ」
俺は風莉の手を握る強さを強める。
コートの裾から出る病的なほど白い手はほんのり温かくて、繊細で。
解けないようになのか風莉は手と手を絡め、俗に言う恋人繋ぎになってしまった。
……うーん、若干複雑だが気にしないでおこう。
「綺麗だねー、お兄」
「そうだね」
じーっと二人で上を見上げて呟く。
闇夜は街のLEDライトに照らされているものの、このツリーの辺りだけはそれが無い。そのお陰でここではツリー以外の明かりが存在しない。
ツリーのてっぺんに飾られている黄色い星がキラリと輝く。
その時、夜風に流されて宙を舞う白いものが見えた。
「あっ、……雪?」
俺達が見たのは夜風に流され、ふわりと舞う白い綿――雪だ。
東京で雪が降るなんて思ってもいなかった。しかもこれだとホワイトクリスマスだろうか。
「珍しいな」
「そうだね。……ねぇ、お兄」
「何?」
「来年も、来れるといいね。また、二人でっ」
「……そうだな」
きっと来年も、風莉と一緒に来よう。




