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第10話 再会

ようやくこの話で少し動きます。

日常パート(?)は難しいのです。

「……これで大丈夫でしょう」


 カチリと天井に取り付けられたライトの蓋を閉めて魔力を流す。

 すると温かみを感じる色合いの明かりがついた。


「いつもありがとうございます。アルムさん」

「いえいえ、これも私の仕事ですから」


 アルムはとある孤児院へ自身が作って使ってもらっている魔法道具(マジックアイテム)の点検に来ていた。

 すっかり慣れたこの作業だが、手は抜こうとしない。

 それがこの街で魔法道具(マジックアイテム)を作る錬金術師としてのプライドで、譲れない部分だ。

 それに、こんなことでここの子供達の笑顔が少しでも増えるならやらない理由はない。


「それにしても大変ではないですか? これだけの人数の面倒を見るのは」

「私はここの子供達といるのが楽しいですから。でも、それだけにあのことが心配です」

「吸血鬼……ですか」


 いつからかこの街を騒がせるようになった吸血鬼。

 夜の闇に紛れ、人々を襲い、血を啜る化け物。

 何度もギルドは討伐を計画し、夜に待ち構えたが結果は人間の死体が増えるだけだった。

 それ以来まともに討伐しようという動きはなく、ただ怯えて暮らすことを強いられていた。


「実は近くで見つかってしまって……もしかしたらって考えると……」

「そうですか。……こんなことがいつまで続くんでしょうね……」


 どうやらこの孤児院の近くで被害が出ているらしい。

 それは確かに心配にもなるだろう。

 吸血鬼のやり口は残忍極まりなく、事件があった場所には大量の血溜まりと被害者の首だけが置かれていると聞いた。


「なら夜は出歩かないようにしないといけませんね」

「それはもう何度も言い聞かせていますよ」


 ですが、と彼女――マリアは言う。


「こんな風にいつまでも怯える生活を子供達にはさせたくありません。どうにかギルドにも掛け合ってみようと思うんです」


 だが、それは無理だろうとアルムは思う。

 そんなことに割く時間と金は恐らく無いだろう。

 勿論そんなことで済まされる問題では無いことはわかっているが、あまりに労力と対価が見合わない。


「えぇ、そうですね。……それでは私はこの辺で失礼します。他の場所にも行かなければならないので」

「あぁ、すみません。ありがとうございました」


 それでは、と会釈して庭の方へと目を向ける。

 そこでは孤児院の子供たちと、アルムが連れてきているルーナが一緒になって遊んでいた。

 息抜きも必要ということでルーナも連れてきて、自分の仕事が済むまでここに預けて貰っている。


「ルーナはまだここに居るかい?」

「……まだ、居たい」


 相変わらず口数は少ないものの、楽しげな表情でそういう娘を見て「なら先に仕事を終わらせてくるよ」と一声かけてアルムは孤児院を後にした。



 ◇



 私の中で数少ない休みの時間。

 それはアルムの仕事に着いていって、孤児院の子供達と一緒に遊ぶことだ。

 初めは少し緊張したが、彼らは持ち前の笑顔で私を輪の中に取り込んだ。

 正直何百年と生きている記憶がある私が今更子供みたいに遊んでいるのは不思議な気分だったが、それがどうにも楽しかった。

 頭を空っぽにしてそこらじゅうを体力が続く限り走り回って、滑って、転んで。

 体格的に見れば同じくらいの歳の子達と笑いあって、これまででは考えられない時間だった。

 昔の記憶なんて血生臭い戦いと一族以外から迫害されるだけの日々。

 まるで笑顔や平和とは無縁の生活をしていたせいか、いつしか私にとってこの時間は大切なものになっていた。


「ルーナちゃん、どうしたの?」

「……なんでもない、よ?」


 未だに不自然な笑みを作って話しかけてきた女の子に言う。

 ……やっぱりおかしいのかな?

 とはいえ私にはこれくらいが限界なので仕方ない。

 今は鬼ごっこの最中だが、立ち止まっていたから心配されたのだろうか。

 私もなんで今こんなことを考えていたんだろう。

 そう思って走りだろうとしたら庭の垣根の奥に二人の姿が見えた。

 それは数日前に店にやって来た黒い人と白い人だった。

 そしてそれはこっちを見ているような気がした。

 私と同じような、不器用な顔で。



 ◇



 孤児院まで来た誠達だったが、どうやら遅かったらしい。

 アルムの姿は何処にも見えないので恐らく別のところへ向かったのだろう。

 一方でアルムの所にいたルーナは孤児院の子供達と仲良く遊んでいた。


「いませんね」

「みたいだな。どうせなら本人が良かったが、仕方ないからあの娘にするか」


 誠がルーナを見ながらそう言うと、隣から冷ややかな視線が刺さった。


「……何をするんですか」


 何でだろう、ディアの機嫌が悪い気がする。


「俺はただ王女に送った時みたいに監視を付けたいだけだよ。今のままじゃ情報が少なすぎるから行動に起こせない」

「……確かにそうですね。少なくともタイミングだけは間違えられませんから」

「そういうことだ。それにあの娘ならあいつの近くにいることも多いから適任だろう。それに……」

「それに?」


 言葉を詰まらせる誠に首を傾げてディアが返す。

 けれどこれはあまり言いたくない話だ。

 個人的な感情でもあるし、何よりそれを知るのは自分だけの方が良いと、そう思った。


「いや、なんでもない。じゃあ遊んでくるかな」

「私も行きます」


 意外にも乗り気なディアも連れて二人は孤児院の門を潜る。

 すると遊んでいた子供達の目がこちらに向いた。

 彼らはみんな誠が名前を知っている仲の良かった子供だ。

 記憶は無いはずだが、何となくほっとする光景ではある。

 しかし、このままでは怪しまれるので大人しく話のわかる人を呼ぶことにする。


「すまん。マリアさんはいるか?」

「いるよ! あの時のお兄さんでしょ?」

「あぁ、覚えていたのか。呼んできてくれるか?」

「わかった!」


 そう言って男の子――ハインは教会のような見た目をした院の中へ走っていった。

 それから待つこと数分、マリアが院の中から出てきた。


「あら、貴方は……あの時の」


 うーん、と何かを考えているようだが恐らくは俺達の名前だろう。

 確かあの時は自己紹介はしていなかっだろうかと思い、誠が切り出す。


「誠だ」

「ディアです」

「マコトさんにディアさんですね。今日はどうされたんですか?」


 ぽんと手を叩いてにっこりとするマリア。

 その笑顔を見て心が少し痛むが、やむを得ない。


「前にいつでも来てくださいと言っていたので、少し子供達の様子を見に来たんですよ」

「そういうことでしたら助かりますよ。ちょっとばかりやる事が増えてしまって」

「やること?」


 悲しげな目を隠すように俯いたマリアに思わず聞いてしまう。


「……詳しくは言えないですが、吸血鬼の事です」

「あぁ、例の」

「子供達には何とか隠してはいますが、この近くで……その…………」


 そこまで言ってマリアは涙を流し始めてしまった。

 同時にまたしても白銀の髪の間から視線を感じるが、誠はそれどころではなかった。

 何か引っ掛かりを感じていた。

 僅かな違和感ではあるが、無視してはならないような気がした。


「無理には話さなくても良いですよ。一時間くらいですが彼らと遊んでいることにします」

「そうですか……ありがとうございます。それでは私は失礼します」


 服の袖で涙を拭いてマリアは戻っていった。


「そういう事だからディアも付き合ってくれ」

「それは別に良いですけど、何か嫌な感じがします」


 どうやらディアも同じような感情を抱いていたらしい。


「正体はわからないが警戒するに越したことは無いだろう。それよりもこいつらの相手は疲れるぞ」

「でしょうね」


 二人で見合って苦笑を交わす。

 そして子供達を見るとキラキラとした視線が返ってきた。

 ……これはまた筋肉痛コースかな。

 そんなことを考えながら見ていると、どこかで見た少年がいた。


「なあ、もしかしてベルか?」

「あれ? あの時のお兄さんたちじゃん」


 それはアルメリアへ来る途中に知り合った少年によく似ていた……というかそのものだった。


「なんでこんな所にいるんだ?」

「いやね、夜に街を歩いていたら危ないから入りなさいって言われてそれからここにいるよ。いい所だよねここ」


 あははと笑ってベルは答える。

 何となくの事情は掴めたが、無防備すぎるだろ。

 門番の人に注意されなかったのだろうか。


「それはそうとさ、お兄さん達随分面白そうなこと考えてるよね」

「……何のことだ?」


 思いもよらないことを聞かれて、低い声が出る。

 ベルのその目は奥底を見るように細められ、不気味さを感じた。


「それに、どういう訳かそっちは気づいてないみたいだしね。でもこの場合は僕に原因があるのかな……? まぁ、今のところ僕は何も出来ないからなぁ……君達が羨ましいよ」


 一人で何かを言い出したベルの目は、未だに誠とディアへ向いていた。


 気づいていない? 羨ましい?

 それが何のことかは分からなかったが、少なくともまともな事じゃないのだけはわかった。

 それを問い詰めようとして、逸らしていた目をベルがいた場所へ向けると、そこにはもう居なかった。


 それから何とも言えない気持ちを抱きながら、遊びの輪に混じるのだった。


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