第6話 『聖堂遺跡』Ⅱ
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目を開けば、白く光る一面の壁と、出入口の扉、そして帰還用の『転送面』。
覚醒しきっていない脳でそれを見ていたせいか、数秒かかってようやく思い出す。
ここは『聖堂遺跡』の安全地帯だ。
「んんんっ、……ディア、起きろ」
軽く体を伸ばしてから、寄りかかって寝ているディアに殺気をぶつける。
どうやらこの姿勢のまま寝ていたようだ。随分寝相がいいらしい。
しかし、その殺気に当てられて一瞬体をビクッとさせると、直ぐに目を覚ました。
「――――ッ!? ……マコト様ですか」
「ああ。こっちもそこそこだな」
これも訓練していたものだ。殺気を感じたら起きる、これが寝ている間にも出来るようになれば不意打ちされる可能性は格段に減るからだ。
こんな起こし方をしたせいか、ディアの機嫌が悪い気がする。
「じゃあ、今日はボス前の辺りまで行くぞ」
「はい。……でもボスは倒さないんですか?」
「取り敢えずそこまで進むだけだ。そこにも安全地帯があるからな。それからのことはそっちで決めよう」
今日の方針が決まり、再びダンジョン攻略が始まった。
と言っても基本的には昨日と同じように殲滅していくだけなのだが。
気をつけるべきことは先に進むと出現するアークエンジェルくらいなものだ。
上位種の天使種は攻撃面も防御面も強化されていて、特殊行動も追加されている。それは『眷属召喚』という、下位種であるエンジェルを数体呼び出す能力だ。
なので『眷属召喚』をされる前に速攻で倒すか、耐えつつ眷属と本体の相手をするかの二択に別れる。
今の二人では残念ながら火力が足りないので、自然と持久戦になってしまう。
戦闘は長引けば長引くほど注意が途切れやすくなる。それ故になるべく戦いたくない相手だ。
それでも何度か戦う羽目になったが、時間をかければ倒せるレベルだった。
「……やっぱ俺こいつ嫌い」
「私もです。取り巻きのエンジェルが邪魔過ぎます」
「もっとレベルが高ければバッサリいけるんだけどなぁ……」
アークエンジェルを討伐した誠とディアは呻くように言葉を漏らす。
でも仕方ないだろう。他の魔物に比べて、こいつは倍以上の戦闘時間がかかっている。
「……あ、アレ試してなかったな。って言っても今のmp量じゃ連発出来ないからどうするかな……」
「アレ、とは?」
「一言で言うと切り札……みたいなやつだな」
僅かに言葉を詰まらせてそう言う。
確かに誠には幾つかの切り札がある。
何度か使えるものから、ほぼ一度きりの大技まで。
その中でも今考えていたものはコスパが良い方のものだ。
しっかり使えればアークエンジェルくらいならば今のレベルでも一撃で殺せるくらいのものだ。
「……噂をすればアークエンジェルが。……よし、ちょっと見ててくれ。試してくる」
「わかりました。無理はしないでくださいね」
「わかってるよ」
いつもよりも集中して、アークエンジェルと相対する。
右手にはいつも通りの銀色の輝きを放つ神剣が握られている。
「それじゃ、試し斬りに付き合ってくれよ」
口元を吊り上げて笑う誠は、とある魔法を使う。
自分の中のスイッチを入れる意味も込めて、呟く。
「――オーバーリミット」
瞬間、膨大な魔力が誠から吹き荒れたと思えば、そこには既に誠の姿はなかった。
その代わりにヒュッと風を切る音と、地面を蹴る音が同時に聞こえる。
そして、気が付けば誠の神剣によってアークエンジェルの胴体と頭は切り離されていた。
「――こんなもんか……」
極端にmpを消費した誠は疲労感が滲んだような声だ。
これが誠の切り札の一つ。
――『多重魔法』。
そう呼んでいるものの一種だ。
仕組みは単純だが、出来るのは誠くらいなものだ。
その理由は並列思考と解析にある。
まず解析によって最高効率で魔法を発動、それを並列思考による処理で多数の魔法を同時に使用することで一時的に人体で出せる限界以上の出力を引き出すものだ。
今回の場合は強化魔法を多重使用していた。
勿論抑えてやっているのでそこまでの負担はないが、いずれ頼ることになるはずなので試しておきたかった。
「マコト様っ、大丈夫……ですか?」
「あー、魔力の使い過ぎで少し動きずらい程度だ。問題ない」
「……ならいいですけど」
ディアのジト目が壁に背を預ける誠に突き刺さる。
どうやらまた心配させたみたいだ。
……というかいい加減やめて欲しい。
なんかこう、精神にくるのだ。
「んんっ、それよりいくぞ。こんなので休んでいられない」
そう言って振り返り、先へ進もうとした時だった。
誠の『探知』に一つの反応があった。
それは僅かな気の緩みから生じた一瞬の油断。
しかし、こと戦闘に至っては致命的な隙になる。
「――ディア! 前に全力で飛べッ!」
切羽詰まったような誠の声に、理由を問うことなくディアは従う。
空中に体を放り出したディアを、誠はしっかりと受け止める。
「一体なんです……え……?」
誠の腕に収まり状況を把握しようとするディアだが、その光景に言葉が詰まる。
さっきまでディアがいた場所は、その通路ごと光に飲み込まれていた。
あまりに常軌を逸したその光の帯は視界を白く塗り潰していく。
「走るぞッ!」
その声でようやく現実に意識を引き戻されたディアは、訳が分からないとエラーを叫ぶ頭を必死に動かして走り出す。
「はぁっ……マジで運が無い……クソッ」
「もしかしてっ……さっきのは」
「ああ。……アイツだ」
一番会いたくない『悪魔憑きの祓魔師』にこんなにも早く遭遇するあたり、やはり運が無い。
あれはとてもじゃないがデタラメ過ぎる。
なんで視認出来ない距離から攻撃されなければならないのか。
ここに来て後悔の念が浮かんでくる。
わざわざここに来なくてもレベル上げは出来た。だが、そうしなかった。その結果がこれだ。
今すぐ自分の顔をボコボコになるまで殴りたくなるが、それどころではない。
一歩でも遠くへ逃げなければ。
「でも、こんなんじゃ逃がしてくれないよなぁ……」
今も依然として『探知』で感じるそれは、誠達の後を追っているようだ。
いつアイツの攻撃範囲に入るかわからない以上は走り続けるしかない。
「……これ、追いつかれるな。ディア、次の十字路を右だ!」
「はいっ!」
不利を察して魔物の反応が無い右の道へ全速力で入る。
そこに広がるのは安全地帯を四つ並べたくらいの空洞だった。
円形に広がったその空間には中央に大きな柱が一本あるのみの簡素な部屋だ。
かつて『悪魔憑きの祓魔師』の討伐にも使用されたのもこの場所だ。
「ディア、俺らには二つの道がある。一つは安全地帯を探して『転移面』で離脱。もう一つはここでぶっ倒す。どっちがいい?」
「つまり戦うか逃げるか、と言いたいんですよね。なら答えは一つですよ」
自分たちが来た道を鋭く見つめるディア。
それを見て誠も同じような眼差しを浮かべる。
「答えは見たらわかるが、何でか聞いていいか?」
「……私は、こんな所で逃げる訳にはいかないんですよ。たとえどれだけ敵が強くても、噛みつかない理由にはなりません。それと、私も一つ聞いていいですか?」
「何だ?」
ディアはすぅーっと深呼吸をして、一拍置いてから聞いた。
「アイツは、私達が過ごしてきた過去よりも強いんですか?」
「……そんなことかよ。強いて答えるならクソ雑魚だな」
俺達の過去と比べてどうかって?
そんなの考える時間が惜しいくらいだ。
でも、言葉に出したら自然と感じていた嫌な感じが遠ざかっていく気がする。
それと同時に二人の顔に獰猛な笑みが浮かんでくる。
「だったら、俺も腹括るか。ディア、あいつが来たら10秒ほど時間を稼いでくれ。攻める必要は無いから耐えているだけでいい。多分それだけあれば十分だ」
ディアがその気なら、俺が出し惜しみをする理由はない。
俺達はこんな所で死ねない、その理由がある限り全力以上で生きようとする。
抗おうとする。
それがどれだけ理不尽な力の差であっても二度と後悔しないと、そう決めたから。
そんなことをしていると、奴が姿を現した。
足首まで丈がある闇色のローブを纏い、禍々しい装飾が施された銀色の錫杖を持ちながらゆっくりと歩いている。
――しかも、嗤ってやがる。
ここは既にあいつの攻撃範囲内の筈なのに光が飛んでこないということは、俺達は舐められているんだろう。
「……どいつもこいつも似たような顔しやがって……その巫山戯た面を直ぐにでも後悔させてやるよ」
――だから、お前の力を当てにさせてもらうぞ。
――人がやることじゃない?
――俺はもう唯の化け物だ。
――ここで死ぬかもしれないぞ?
――うるせぇ、生き死にを決められるのは辞めた。
出来る出来ないじゃないんだよ。
殺るしかないんだよ。
もう俺達に残されたものはそれだけなんだ。
そのたった一つすら満足に満たせないなら――
――俺は、悪魔にだって魂を売るさ。
「ぶっつけ本番だが、何も問題ない。――やるぞ、マモン」
最近空気でしたがようやくです……




