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第5話 『聖堂遺跡』Ⅰ

 中に入ると、暖色系の明かりが灯っている12畳程の部屋だった。周りは大理石のように白い壁と、一つの両開きの扉だけがある簡素な部屋。そして誂えたように壁の一箇所には『転送面』。

 ここが『聖堂遺跡』に設置されている安全地帯(セーフティエリア)だ。

 ここなら魔物も寄り付かず、さらにこの部屋には出入りが出来る『転送面』がある。もっとも入って来る場合はこの部屋にしか入れないが、出る場合は何処の部屋からでも脱出出来る良心設計だ。


「それじゃ、ここの説明しておくぞ」

「あっ、はい。あと、その……手……ありがとうございました」


 最早浮かれてる初恋の乙女みたいになっているディアだが、誠は意図的に無視を決めることにした。


「……じゃあ、話すぞ」


 それからの話を要約するとこうだ。


『聖堂遺跡』は主に魔法でしか攻撃が通らないエレメント系と呼ばれる魔物がいる珍しいダンジョンだ。それ以外にも上位種のエレメント、聖の属性を持つホーリーアーマーや、天使種(エンジェル)もそこら辺を闊歩しているこの辺りでは高いレベルのダンジョンだ。平均レベルにして80前後が多かったはずだ。

 これらの『聖堂遺跡』に出現する敵は例外なく闇属性の攻撃が弱点になる。

 だが、二人が闇属性で攻撃をしようとした場合は、属性付与の魔法に頼る他無い。それ以外でも攻撃は通るが、闇属性程ではない。

 よってそれなりに厳しい戦いを強いられることになる。

 そしてそれとは別にこの『聖堂遺跡』では気をつけるべき敵がいる。一つは当然ながらダンジョンボスだが、それとは別にダンジョン内をアクティブに動き回るダンジョンボス並の敵がいる。


 ――『悪魔憑きの祓魔師(デビルズエクソシスト)


 一度目の世界ではかなりの苦戦を強いられた相手だ。

 こいつの嫌な所を上げればキリがないが、最大の脅威はなんと言っても固有技能による『悪魔召喚』だ。

「お前祓魔師だろ?」と大いにツッコミたくなるが、実際に召喚するのだからどうしようもない。

 そしてこの悪魔は光属性が弱点になる。

 しかし、この強敵と遭遇するまでは全ての冒険者が闇属性寄りの装備で攻略をしていた為、ダメージが殆ど見込めず多くの犠牲を出すことになった原因だ。

 極めつけは悪魔は自立行動する為、悪魔からの近距離と『悪魔憑きの祓魔師(デビルズエクソシスト)』の遠距離からの攻撃が絶え間なく襲ってくる地獄のような戦場が作り出されることになるのだ。

 その為、こいつを倒す為だけの討伐隊が編成され、重傷者を何人も出しながら倒されたのは懐かしい話だ。

 誠もその時の討伐隊に参加していて戦闘を経験しているが、その時の誠のレベルは90だった。それでも苦戦となったのでその強さは折り紙付きだ。


 ……と、『聖堂遺跡』の中に入ってからディアに話していた。


「中々厄介そうな場所ですね。そのエレメント系には私の固有技能も半分しか使えませんし」

「あー、確かにそうだな。対象に水分が無いと破裂までは出来ないんだったか」


 この『聖堂遺跡』に出現する魔物は、残念ながらディアの固有技能とは相性が悪い。所謂生物系にしか十全に使えないが、ここにいるのは大抵が無生物系だ。


「でも、それなら見せる甲斐があって面白いかもしれないですね」

「ん? なら楽しみにしておこうか」


 どうやらそれでも自信はあるようだ。

 その自信の程を見せてもらうとしよう。



 ◇



 安全地帯(セーフティエリア)から出た二人は、いつものように敵を探して進む。

 誠の『探知』の方がレベルとしては高いが、ディアの実戦訓練も兼ねている為その辺りは任せている。


「あっ、あれがエレメントですか?」


 ディアが指を指して言ったのは、空中にふわふわと浮きながら移動している煙のようなものだ。


「だな。あれはルミナスエレメントだ。あいつらは危害を加えなきゃ無害だからほっといても大丈夫だぞ」

「そうなんですか。そう考えたら意外と可愛いですね」


 エレメント系は基本的に温厚で、攻撃をされなければ反撃することも無いという癒しキャラなのだ。但し、怒らせると中々に曲者だ。

 物理攻撃が効かない上に周囲から仲間を呼んでくるのだ。処理の手間もかかり、それなりに強いにも関わらずめぼしい素材は手に入らない。

 それを除けば確かに可愛いと思えなくも……なくも……ない。……かもしれない。

 そこはディアの感性が独特ということにしておこう。


「あいつらは無視でいいが、どうやら来たようだぞ」


 誠達の目の前には、ガチャガチャと音を立てて歩いてくるホーリーアーマーがいた。純白のフルプレートメイルがさながら騎士のように悠然と近づいてくる。右手にはミスリル製と思われる直剣と、左手にラウンドシールドを構えるそれは、準備万端といった具合なようだ。


「どうする? 初めだし二人でやるか?」

「いいえ、私一人でやらせてください。訓練の成果を見てもらいたいので」

「なら後ろで見ていることにするか。危なそうなら手は出すからな」


 肯定の返事の代わりに腰から短剣を抜いてディアはホーリーアーマーへと駆け出す。

 小気味よくディアのブーツが床を叩く音が鳴り、距離をかなりの早さで詰める。

 ホーリーアーマーも盾を前に構えて、真正面から受ける体勢のようだ。


「――せあぁッ!」


 気迫の篭った叫びと共にディアの手元が銀色の閃光を帯び、ホーリーアーマーの元へと殺到する。が、どうやら盾に受け止められてしまったようだ。

 その瞬間を見逃さずにホーリーアーマーが持つミスリルの刃がディアを襲う。

 しかしこれは予想していたようで、バックステップで難なく回避。そしてそのまま魔法での攻撃に移るようだ。


「『水弾』」


 無詠唱で放たれた直径30センチ程の水の弾丸は直線の軌道を描いて、ホーリーアーマーへと直撃した。

 無詠唱による魔法も、アルメリアに来るまでで習得した技術だ。とは言っても、出来るのは初級の水と風魔法くらいだがそれでも十分だ。

 水浸しになったホーリーアーマーは、何の問題も無いかのように鎧を震わせて再びディアへと迫る。


「――ですが、終わりです。『破水』」


 余裕を感じさせるディアの声が響くと、さっきの『水弾』で撒き散らされた水が膨張しだした。


 ――『破水』。

 これはディアが自身の固有技能の技に名前をつけた使い方の一つ。主に水や血液など、液体を膨張させるだけの魔法。

 しかし、ディア自身の魔法で作り出した水には例外なくディアの魔力が溶けだしている。その為、このような使い方も出来るのだ。


 ホーリーアーマーの中は空洞になっていて、どうやらそこにも水が入り込んでいたようだ。そのせいで内側で膨張し続ける水が鎧を突き破り、ホーリーアーマーを絶命させるのと同時に本体だった破片を撒き散らした。


「どうです?」

「上出来だ。このレベルなら一対二くらいまではいけそうだな」


 正直今のディアを疑ってはいなかったが、それでも良く動けていた。

 これなら普通に探索するくらいなら大丈夫だろう。


「それじゃ、どんどんいくぞ」


 それから数時間はサーチ&デストロイ方式で、エレメント系以外の魔物を片っ端から狩りまくった。

 結果から言えば、やはり余裕があった。

 誠の場合は既に見たことがある上に、今は闇魔法も使うことが出来るため大した脅威ではなかった。

 ディアも言わずもがな、ホーリーアーマーには同じ戦法で対処をし、天使種(エンジェル)相手には短剣で毒を盛って確実に倒していた。時折攻撃が掠ったりはするものの、それでも危なげなくこなしていた。


 そして現在は新しく見つけた安全地帯(セーフティエリア)で休憩中である。やはり初めの部屋と同じような構造になっている。


「どうだ、慣れてきたか」

「このぐらいなら全然大丈夫そうです。マコト様のお陰ですね」


 クスクスと笑いながらそう言う。

 でも実際まだ余裕があるように見えていた。勿論戦っている間にレベルが上がって、それに伴ってステータスが上がっているからというのもあるが。

 誠も買っていた干し肉を噛みながら自分のステータスを確認する。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 天野 誠 【勇者】


 HP1189/1345  MP873/1183

 レベル68


 筋力705

 体力727

 耐久682

 敏捷760

 魔力738

 魔耐746


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 成長補正値の影響もあってか、ステータスとしては既に平均的な冒険者を基準に考えるとレベル80後半くらいにはなっている。

 つくづく化け物だと思うが、それも役に立っているのでどうこう言うつもりは無い。

 因みにディアはこうなっている。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ディア


 HP931/1139 MP627/1016

 レベル65


 筋力605

 体力616

 耐久592

 敏捷670

 魔力643

 魔耐655


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 こちらは大体レベル70後半といった具合だろう。

 誠と比べれば低いものの、それでも高い能力値だ。


 この『聖堂遺跡』の平均レベルから見れば人数としては心許無いが、安全地帯(セーフティエリア)と高水準の成長補正値があるからこそ成り立っている。それ以外にも二人の技術の高さも影響しているだろう。

 誠の場合は解析と並列思考により最小限の動きで最大効率を叩き出しているので、他と比べれば2から3倍は体力の消費が少ない。

 ディアも誠の動きをいつも見ているせいか、最低限とまではいかないものの、効率的な動きが出来るようになっている。

 それでも慣れない場所と言うだけで精神的には披露するものだ。


「一度寝ておこう。ここなら安全だしな」

「わかりました。それでは、おやすみなさい」


 ディアは誠の肩に頭を預けるようにして瞼を閉じた。

 それから直ぐにディアの静かな寝息が聞こえてくる。


「……寝付き良すぎじゃないか?」


 昨日の今日でダンジョン探索だから、疲れていたんだろう。

 それなら今くらいはこのままにしておこう。

 そう思い、誠も仄かな甘い香りに耐えながら眠りについた。

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