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第2話 『魔工都市』アルメリア

 猛然と誠が作ったシチューを食べている少年を見て、二人は頭を悩ませる。


「お前、名前は?」

「……ぼぶの、なあえあ――」

「……食うか喋るかにしてくれ」


 誠がそう言うと少年は食べるのを止めて話し出す――と思ったら水を飲んで、また食べ始めた。

 これには誠も怒るかと思ったが、どちらかと言えばそね食い意地に引いているようだった。


 にしても、この少年の体のどこにこんな量が入っていくのだろうか。胃袋にブラックホールでも飼っているんじゃないかと真剣に考えるような速度で鍋に残っていたシチューが消えていく。

 でも、美味そうに食べてるならいいか。

 警戒しない理由にならない訳では無いが、どうにもこの姿を見ているとそんな気も失せるというものだ。


「――ふあぁ、美味しかったっ!」

「ならいいが……それで、名前は?」

「僕は……ベル。本当にありがとねっ!」


 ベルと名乗った少年は立ち上がり二人に一礼。そこから顔を上げてニッコリと笑う。

 短く淡い金髪が視線を集める一方で、紺碧色の瞳がキラリと輝く少年は快活そうな印象を与える。


「ベルか。喜んでくれたなら何よりだよ」

「本当に美味しくてつい……それに久しぶりの食事で」

「ベルさんは何処から来たんですか?」

 ディアからの質問が聞こえると、ベルは唸るように考え始めた。


「えっと、狭くて暗い所、かな。周りに誰もいなくて、ずっと一人ぼっち」

「それは……ごめんなさい」

「気にしなくて良いよ、お姉さん。僕も気にしてる訳じゃないからさ」


 萎れるディアを元気づけるようにベルは笑いかける。


「そう言えばこっちの自己紹介がまだだったな。俺は誠だ、よろしく」

「私はディアです」

「マコト兄ちゃんにディアお姉さんね、うん。大丈夫そう」

「それなら団欒はこんな所にしといて、さっさと街に入ろう。宿だけは確保しないとならないからな」

「そうですね。でも、ベルくんは?」

「僕は街に入れればいいかな。あとは何とかするよ」

「わかった。それなら街までは一緒に行くか」


 こうして街までは同行が決まったベルだが、いつもの誠らしくないと思うだろうか。

 大抵は人を信用しないし、裏切られるかもしれない人間を招き込むなんて考えられないが、子供とか自分に害がないとわかっている人に対しては別なのだ。

 でも一応ということでベルのステータスを解析で見てみることにした。


 しかし、見えたものはベルという()()()()だった。



 ◇



 時刻はまだ昼前だろうか、頭上から照りつける陽の光がより強くなっている。

 誠達が向かう街はアルメリア。ダリアから見て東にある通称『魔工都市』と呼ばれる場所だ。この都市の主な産業は魔法技術を利用した『魔法道具(マジックアイテム)』の生産だ。そして、その『魔法道具(マジックアイテム)』を作製する錬金術師が多く暮らす場所だ。


「お前達、止まれ」


 街へ入ろうとした誠達を止めたのは門番の兵士だ。

 ここの警備は街の性質上かなりのものになっている。一般には売りに出せない『魔法道具(マジックアイテム)』も多く取り扱っていることから、それへの対策なのだろう。


「身分証の提示をお願いします」

「……これでいいか?」


 誠とディアの二人は金級(ゴールド)のギルド証を見せる。

 ランクが低ければ時折時間をかけて話を聞かれたりすることもあるが、このランクならまずそれは無い。


金級(ゴールド)の冒険者でしたか。問題ありません。それで、そちらの子供は……」

「ああ、こいつは持っていなくてな」

「うーん、それは困りましたね。本来なら問題ないと判断するまで数日はかかるんですが子供ですし、何より金級(ゴールド)の冒険者の連れですし……」


 この兵士もこんな子供を数日も監禁まがいな目に合わせるのは気が引けるようだった。


「ならどうしたらいい? 流石にこんな所に置いていく訳にもいかないんだが」

「僕がいて街に入れないなら何日かこの人たちとお話するくらいはいいよ? そんなに悪い人達じゃ無さそうだし」

「……ベルがいいならそれでいいか。そもそも街までの予定だったからな、一応は果たしたと言ってもいいのか?」

「お兄さん達と別れるのは惜しいけどね。またあのシチュー食べたかったし」


 どうやら食べ物の心配をしていたらしい。

 ここまで食事に対する熱意があると、大変だなと思う。


「ならここで別れよう。じゃあな、ベル」

「じゃあね、また何処かで会えたらいいなっ」

「その時はまたシチューでもなんでも作ってやるよ」

「絶対、絶対だよっ?」

「わかってるって、約束は守るさ」


 そうして別れを告げて、俺達はアルメリアへと入ろうとした時、門番の兵士に話しかけられた。


「一応言っておくが、今街には『吸血鬼』が存在する……らしい」

「それは随分不確かな忠告だな」

「そう言われると返す言葉がないが、念の為夜は出歩かない方がいい。やつは夜にしか動けないようだからな」

「そうか、ありがとな。お前らも気を付けろよ」


 少し引っかかるものを感じながら、誠達は街へ入っていった。



 ◇



「ようやく着いたな、アルメリア」

「綺麗な場所ですね、ここ」

「ああ、ここは『魔工区』だからな。『魔法道具(マジックアイテム)』関連の工房が多いし、自分の作ったものを見せるためにこうして外にも並べていたりするからな」


 この街、アルメリアには幾つかの区画が存在する。

 一つは誠達が今いる『魔工区』。ここは主に『魔法道具(マジックアイテム)』の工房兼店舗がずらりと並ぶアルメリアのメインストリートと言うべき場所だ。

 他にも多くの家が建ち並ぶ『居住区』や、生活に必要なものを揃えられる『生活区』、外からの冒険者が多くいる『外縁区』が存在する。


「それで、これからどうするんですか?」

「あいつに会いに行きたいところだが、まずは別なところに行こうと思う」

「仕方ないですね」

「悪い、少し着いてきてくれ」


 バツが悪そうに答える誠は、目的の場所へ歩き出した。

 その場所は誠にとって数少ない安心出来る場所だ。この世界に来てまもなかった頃の俺はよくそこに足を運んでいた。

 それは『居住区』にある、20人ほどの子供と5人の職員が管理する、アルメリアの管轄下にある孤児院だ。


「ここだよ、ディア」

「これは、孤児院ですか。ここがどう復讐と関係が?」

「……昔を懐かしむくらい良いだろ。それにここには色々世話になったからな」

「確かにそうですね。それなら良いと思いますよ」


 二人は庭で遊んでいる子供達を遠目で見ていた。

 歓声をあげながら走り回る子供達は、とても楽しそうで笑顔がそこには溢れていた。


「でも、今の俺にはまるで似合わないな」

「そうでもないと思いますよ? それはそれ、これはこれでもいいんじゃないですか?」

「……意外だな。まさか裏路地であんなことをしていたディアに言われるとは」

「それはもう過ぎた話じゃないですか。私だって気にしてるんですよ、一応」

「悪い悪い」


 平謝りではあったが、ディアは許してくれたようだ。

 でも、それもそうだな。

 あの子供達は敵でもなければ復讐対象ですらない。ならきっちりと線引きさえしているならそんな考えでもいいかと思った。


「もう十分だな。一旦『魔工区』に帰ろう」

「わかりまし――えっ!?」


 孤児院を後にして歩きだそうとした時だった。

 子供達が遊んでいたボールがディアに向かって飛んできた。当たっても特になんともないだろうけれど、何となく気が引けたのでディアを左手で引き寄せて、右手で飛んでくるボールを掴み取った。

 ディアの悲鳴は恐らく驚いた拍子に出たものだろう。急に動いたから仕方ないだろうか、許してくれるといいんだが。


「ごめんなさいっ!」

「お怪我はありませんか?」


 一人の少年と職員が誠のもとへ駆け寄って謝りに来たようだ。

 綺麗に頭を下げている職員と、ぎこちなさがある少年を見て、懐かしさを覚える。


「ああ、大丈夫だ。次は気を付けて遊ぶんだぞ」


 そういって少年にボールを手渡す。


「ありがとう、お兄ちゃん!」

「ご迷惑お掛けしました……私はマリア。この子はハインと言います。宜しければ今度遊びに来てください」

「気が向いたら行くことにするよ。大変だろうけど頑張って下さい」


 裏のない顔で別れを告げて、孤児院を後にした。



 ◇


「それじゃあお待ちかねの顔合わせといきますかね」

「やっとですか。待ちくたびれましたよっ」


『魔工区』へ戻った誠達は、もう一つ行くべきところへ行くことにした。

 一組の夫婦が経営する『魔法道具(マジックアイテム)』を扱う店であり、今回の復讐対象の二人がいる場所だ。

 こいつらも他の錬金術師の例に漏れずこの街で『魔法道具(マジックアイテム)』を製作していて、さらに多くの錬金術師が(ひし)めくこの街でも有数の腕を誇っている。

魔法道具(マジックアイテム)』の質というのは、その効果の規模から決められることが多い。時間・範囲など細かく分ければキリがないが、それは置いておこう。

 誠が使っている『異界倉庫の指輪』も『魔法道具(マジックアイテム)』の一種だ。

 そんなことを話しながら歩いていると、目的地へ着いた。


「……ほら、着いたぞ」

「ここにマコト様を貶めた豚がいるんですね」

「今はまだ暴れたりするなよ? 俺はただ殺したいんじゃないんだからな」

「わかってますよっ。それより早くしましょっ!」

「そうだな」


 ディアの言うことはもっともなので、目の前のドアを引いて中に入る。

 リンリンとドアに取り付けられたベルが鳴って、店内に鳴り響く。


「いらっしゃいませ」

「……いらっしゃいませ」


 出迎えたのは、一人は復讐対象であるアルム。もう一人は娘のルーナだった。

 まずは一安心と言っていいだろう。ルーナも元気なようだし、アルムがいることも確認できた。

 やっぱりお前は何も覚えていないんだな、アルム。その顔を見れば丸わかりだ。

 でも、だからこそ殺しがいがあるというものだ。寧ろ楽しみを奪われなくてよかった。

 どうにかして黒い感情を押さえつけて、笑みを浮かべるとまではいかないが、当たり障りのない表情を作る。


「今日は見に来ただけだから大丈夫だ」

「左様ですか。それではごゆっくり」


 今日は買う意思は無いと伝えると、アルムは一言添えて去っていった。


(マコト様、あれが今回の……)

(そうだ。あいつが今回の標的の一人、アルム・ミレナリオだ。もう一人は今は姿が見えないがディーナ・ミレナリオというあいつの妻だ)


 流石にこの会話は聞かれるわけにはいかないので、『念話』を使って話している。

 これは魔力の経路(パス)を繋いだ相手と念じるだけで会話できるようになる方法だ。今回の場合はマモンでの契約を通してディアと話している。


(あの巫山戯た面を覚えとけよ、ディア)

(……あれがマコト様の標的……絶対に逃がしません)

(頼もしいな。でも、メインは俺だからな。ディアも楽しませない訳にはいかないが)


 でも、もういいだろう。

 あいつの顔は十分に見た。それにこれ以上は危険だ……主に俺の理性が。


「ありがとうございました。()()()()()

「ええ、是非」


 二人は揃って店を出た。


 ――三日月のような笑みを浮かべながら。



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