退職願 3
返信を待って1週間が経った。
あの社長、本気で社長の器じゃないな。
自分が話を断った後に、別の部署のウメさんに話を持って行ったらしいが、ウメさんには「半日配達を」と言ったのだという。
性格的に難しいと判断したのだろうが、既に自分に言った話と違っている。
欲しかったのは営業の筈。配達で構わないのなら、始めから配達を募集すればいいだけの事。
9月3日月曜日、社員の大半が予想した通り、退職願を取り下げてくれと言ってきた。
社長自身が出せと言った退職願だった筈だ。
「退職願を出せと言いましたよね」
こちらは辞める気満々である。
「辞めるという人には全員に言っているだけで、返す事もある」
言い訳にしか聞こえない。
「状況は変わって無いですよね」
「ウメさんが配達の話を受けてくれたから、状況は変わっています」
そもそも、営業が仕事を取って来れないから仕事量が減って、工場の人達の手が空いているのである。それを解雇せずに営業に回ってもらって仕事を確保すると言っていた筈だ。
半日配達に回ったところで仕事量が増える事はないだろう。
何をもって変わったというのか理解出来ない。
中途半端な決意で退職願を出した訳じゃない。
「もう辞めるって決めたので」
しつこく食い下がる社長。
次の職場を決めたのかだの、人間関係が駄目なのかだの。
家庭の事情と言えば引き下がるかと思えば、「皆それぞれ事情はあって、休んでも何も言わない」と言い出す。
が、それも口だけで、事務員さんが休むと言った時に嫌味を言っていたらしい。
挙げ句の果てには「皆が引き留めてくれと言っている」と言い出す。
誰も引き留めてくれとは言っていない。
自分が辞めたら、辞めると言っている人がいるだけである。
引き留めたいというなら、まずする事があるだろう。
「頭を下げろ。話はそれからだ」
と言いたいが、さすがに駄目だろうと自重する。
社長の、退職願は封も切っていないだの、誰にも辞めると伝えてないだの言い訳は続く。
自分の退職が決まれば連鎖するので必死で取り繕っているだけにしか見えない。
社長と会話をするのは苦痛でしかない。
まぁ、最終的に社長が頭を下げたので、とりあえず退職願は引き下げる事にした。
あくまで、とりあえず。
今回は引き下げたが、また出さないとは言っていない。
自分が退職願を出してから、社長が朝礼で何かを言う事は無くなったが、ほとぼりが冷めたら言い出すだろう。
ICレコーダーを準備しておくべきか。
いい加減、「口は災いの元」と学習して欲しいものである。