探し物
探し物が見つからない時、母親は「7度探して他人を疑え」とよく言う。
が、片付けの苦手な自分は、先ず自分を疑って探し物をする。ちょっと置きそうな場所、しまいそうな場所。
そして、大概の探し物は、「探した場所から出て来る」。
2度3度探して、ない事を確認したにも拘らず、ずっとここにいるよという顔で探し物が存在するのだ。
そんな事を何度経験したか分からない。
次に、探し物で意外と効果的なのは、他人に探して貰う事だ。別の視点で探す事で実にあっさりと見つかったりする。
さて、今回の探し物は、「母親の運転免許証」。
数日前から見つからないという。
更新期限が1年後で、その時には返納する予定だったのだが、6月にスクーターで転倒し、もう運転は止めると決心した母親。
すぐに免許証の返納をしてしまっても良かったと思うのだが、手放し難かったのだろう。
いつもバッグのポケットに入れていたのに見えなくなったらしい。
ここで容疑者が一人。
父親はかなり認知症が進んでおり、既にお金を持たせられる状態ではなくなっているのだが、ほぼアル中で、飲まずにはいられない。
1日に2度、発泡酒1本分のお金を持たせて買いに行かせているが、油断していると、母親の財布から小銭を持ち出してしまう。
あった物をあった様に戻す事が出来ないので、すぐに分かるのだが、あった場所に戻さない時には大騒ぎになる事もある。
父親はやたらと物を取られる事を心配し、色々な物を隠す癖があるのだが、どこに隠したのかを忘れてしまうので、非常に困るのだ。
もしかしたら、父親が別の場所にしまったのかもしれない。
可能性として、何処かで落とした。という事も考えられる。
とりあえず、警察に紛失届けを出す様にアドバイスした。
土曜日の午前中、母親を車に乗せて、大体1週間分の食材や消耗品を買いに行く。
父親の運転免許証を返納してからスーパーと八百屋を回るのが定番になっているのだ。
往きの途中の会話で、スーパーで買い物を済ませてから警察に行く事に決めた。
その予定は、刺し身用の冊を買った事であっという間に変更。八百屋に行き一旦家に戻ってから出直す事に。
その日は出掛ける時間が遅かったため、家に戻ると昼時で、ご飯を食べてからという事になった。
食休み中。それでも一応探してみるかと、ごそごそしてみた。
父親が隠しそうな引き出し。普段使いの上着やバッグの掛けてある物入れの中。
「そこも何度も探した。」と、テレビを見ながら母親が言う。勿論そうだろうとは思ったが探してみる。
母親は出掛ける用事に合わせてバッグを持ち替える。その中でも普段使いにしていたバッグが目に付きやすい所に掛けてあったので、内ポケットを念入りに漁った。
と、見慣れたケースが出てきた。
開くと、31年まで有効の免許証。
「あるじゃないか。」
驚く母親にケースを渡す。
「何処にあった。」
「バッグの内ポケット。ちょっと奥に入ってた。
警察行く前で良かったな。」
免許証をしげしげと眺めながら母親が呟く。
「何度も探したのに。」
「そんなもんだよ。」
そして、警察に行く予定も変更になった。
こっそりと謝っておく。
父よ、疑って悪かった。