触手のマリネ ~下級迷宮の低ランク触手~
練習版
今回のような形式で書いていこうと思います。
料理名
『触手のマリネ』
食材名
『触手(通常種)』
生息地:Eランク迷宮『○○の○○森』(森林型迷宮)
ランク:D
保有スキル:【生命力吸収】【粘液分泌】【拘束】【隠密】
最もありふれた品種。触手型モンスターでは最下級の存在。触手の数は5~7本と少なめで、切り落とすとそこから体液があふれ出す。根元を切り落とすのが最も効率的な倒し方。魔術に対する抵抗性が低いため、初級魔法でも殺害可能。見習い魔術師のレベル上げには最適とされている。
近接戦で倒す場合は、触れたものを捕まえる性質を利用する。知能が低い生物は生物と無生物の区別が瞬時に行えないため、触れたものをしばらくの間掴んで離さない。その性質を利用して、中身がつまったナップザックなどを疑似餌にして、獲物に気を取られている好きに無防備な根元を攻撃するのである。
高ランクの触手は騙しにくくなるが、疑似餌に摂取したばかりの体液(尿、血、嘔吐物、……)をかけることで無生物だとバレにくくなる。また、疑似餌ではなく生きている餌を使う方法もあるが、高ランクの触手だと一瞬で生命力を吸い尽くしてしまうため、触手のランクに合わせた個体を用意する必要がでてくる。
皮(粘液付き)が素材として高く売れるのは有名だが、触手自体も魔力伝導率の高い素材として一定の需要がある。ただ、伝導率の高さは抵抗率の低さにも直結するため、装備に使われるケースは希少。また、触手の肉は生モノであり、品質を損なわず保存加工するのは手間がかかる。そのため主に使い切りの道具の魔力経路として用いられる。
被害者
『新米冒険者(15歳、女性)』
身体能力:D
魔力量:E
属性:時
なかなか珍しい女性冒険者。迷宮には5人の仲間と共に潜ったが、強力なモンスターから敗走した時にはぐれてしまったらしい。仲間を探して1人で迷宮を散策している時に、触手型モンスターに捕まえられたようだ。拘束時間は2時間ほどで、発見時は意識が朦朧としていた。触手が体内に侵入しなかったのが功を奏したのか、長時間生命力を吸収され続けたのに命に別状はなかったのが救いである。
追記
女性冒険者の情報が足りないと言われたので追記。
茶髪のショートボブの少女。容姿は普通よりやや上。娼館なら十分「当たり」の部類に入る顔立ちをしている。他の男性冒険者からセクハラを受けることも多かったらしく、その結果女性だけのパーティに入ったらしい。身長は女性にしてはやや高い部類に入る。胸は平坦だが下半身がしっかりしており、尻と太ももが太い。
装備は洋服の上に金属製の胸当てと甲殻製の手甲。武器は金属製の槍で、【頑強(微)】が付与されている。背中には荷物で膨らんだナップザックを背負い、ベルトにはポーションや小型のフライパンをぶら下げていた。
注目すべきは、彼女が履いていたデニム生地のショートパンツだ。金がなくてサイズが小さいのを履いていると、彼女の尻と太ももが若干大きいせいか、後ろから見るとパッツパツになっていた。これにより、洋服の隙間から触手を潜りこませるのが困難になっていた。このことが彼女の生死をわけたといっても過言ではないだろう。迷宮に潜る者は、触手対策としてパツパツのズボンを履くべきなのかもしれない。
材料(1人分)
触手:1 kg
触手型モンスターから刈り取ったモンスターは、乾燥を防ぐため切り口を縛って保管するのが望ましい。生モノなので、速めに消費するのが肝心。
玉葱:3個
マリネといえば定番。迷宮内で自生しているケースも多い。この他にもキュウリやトマトなども可。
【マリナード(1 L)』
(祝福された食酢:0.25 L)
(水(魔力生成水でも可):0.75 L)
(砂糖:60 g)
(乾燥唐辛子:2本)
(聖塩(食塩でも可):10 g)
(胡椒:10粒)
(食用油:10 ml)
お好みでニンニク、パセリ、ケッパー、ショウガなどを細かくして加える。
道具
鍋
瓶(【拡張(小)】
包丁
まな板
レシピ
①触手に根本から先端までまっすぐな浅い切れ込みを入れる。その後、先端と根本を切り落としてから、側面の切れ込みに指を入れて、皮をめくる。皮を剥いた後、少量の祝福された食酢で洗う。
②沸騰した湯に入れて、再び湯が沸騰したら火を止める。その後5分放置。表面を洗ったとしても内部に悪い魔力が残っていることもあるため、子供やお年寄りは食べるのをやめた方が良いだろう。
③瓶の中に食材以外の調味料を投入し、混ぜ合わせる。
④玉葱を薄くスライスして、触手と一緒に瓶に入れる。
⑤1~2時間放置すれば毒は消える。また、1日ほど置くと玉葱が柔らかくなり、まろやかになる。
解説
触手型モンスターの調理方法で、ここ数年で最も一般的なのが「マリネ」である。これは近年、教会によって開発された調味料「祝福された食酢」の影響によるものだ。
端的に言うと従来の「聖水」の亜種に当たる。水の代わりに食酢を祝福し、【抗菌・破邪】の効果を付与したもの。とある牧師が迷宮の探索者たちのために開発した者であり、大量生産されているため非常に安価。低級の毒ならば解毒する効果もあり、ワイバーンの肉やレッサーマンドラゴラなどの、初級探索者が食べたら即死するようなものでない限りは無毒化できる。
手荷物の削減のため、獣や野草などの食材(になりそうなもの)を現地調達する探索者からしてみれば、「混ぜる・かける・漬け込む」といった方法で手軽に消毒ができるこの毒は探索に不可欠な。食材だけでなく飲み水の除菌にも使えるため、濃縮して持ち歩く人間が数多く存在している。
最近、新しく務めた法王は「宗教の現代改革」として、様々な戒律の緩和を行っている。聖水の商業利用もその一環だ。教会内では敵対派閥の多い現法王だが、迷宮の食文化に大きく貢献した彼は探索者からの人気が高い。この他にも様々な「祝福品」が開発され、化粧水やローションなどが出回っているようだ。
祝福された食酢の使い道は幅広く、食事以外にも「食器類の殺菌」や「タンパク質系の汚れとり」などにも使えるし、「幽霊系モンスターの討伐」など普通の聖水としての使い道もある。
ただ、性病予防にこれを使うのはやめた方が良い。酢で性病予防ができるという俗説が一部地域では出回っているが、あれは数世紀前の本に書かれた迷信だ。表皮細胞や有益なバクテリアにダメージを与えるため、逆に性病に対する耐性が低くなる。また、聖水に病の予防効果はあるのは事実だが、最近では聖水耐性菌が王都を中心に流行っているときく。これよりもっと確実な予防法を試した方が良いだろう。
避妊で思い出したが、読者の方々はそもそも触手型モンスターがどのようにして生殖するのかご存知だろうか?
官能小説の影響で、そもそも触手の生殖方法を誤解している人は多い。触手型モンスターの「食事」を人間における「性○為」と勘違いしたのが理由だろう。そのせいで「卵を植え付ける」「小型の触手を体内に寄生させる」「人間と触手のハーフを作る」など多くの誤解が生まれた。触手の粘膜からの生命力吸収による肉体の衰弱を、腹の中の子供に養分を吸われたからと人々が勘違いしたのだ。
それなら、一体どうやって生殖するのかって? それは簡単だ。そもそも触手は「自己複製機能を持たない生物」なのだ。触手型モンスターを増やしているのは迷宮の【生物複製機能】である。
迷宮は、亜神大陸を中心に世界各地で発見されている特殊構造物だ。ゴーレムを製造して生物を集め、その中から「一定以上の知能を持たない生物」を複製する。誰が製作したかも、その魔術原理も一切不明。神が天より授けたとされる時代錯誤遺物である。
探索者組合から【触手マスター】と称される私の任務は「迷宮への触手持ち込みの取り締まり」であり、「危険な触手の討伐・回収」だ。触手の第一人者である俺が迷宮の内外で触手の流通を取り締まり、必要以上に触手型モンスターの生息域が広まることを防いでいるのである。
高ランクの探索者である私が下級迷宮に入ったのも、「触手の発生を確認せよ」という組合からの任務によるものだった。そこで、私は偶然にも触手に捕まった1人の女性を見つけたのである。この迷宮には触手が発生するという記録はなかったし、油断していたのだろう。私は、救出した探索者の前で触手を下処理し、殺菌して茹でた触手をひとまずは食べさせ、当面の魔力を回復させた。そして、その後、時間をかけてきちんと殺菌・消毒をおこなったマリネを与えた。
今回の事例では、相手がスムーズに触手を食べてくれた。いくら早期回復に良いと説明しても嫌がる人は多いのでとても都合が良かった。他の人と違い、今回の探索者は触手体内侵入の被害を受けず、単に捕まえられていただけだったので、触手に対する忌避感が薄かったのだろう。これが自分の体内に入っていたものなら、抵抗していたはずである。
この相手のように、触手に忌避感の無い人がもっと増えて欲しいものである。そうすれば、もっと触手を食べようとする人も増えるだろう。
その後、帰還する途中で私は、5人の集団探索者に襲撃を受けた。その正体はなんと、少女とパーティを組んでいた探索者たちだった。
無力化して話を聞いた結果、どうやら彼等は裏社会と繋がりがあったらしい。この迷宮に触手を持ちこんだのも彼等で、新米探索者を置いて行ったのも「迷宮にエネルギー源をささげるため」だった。
彼等の話を聞いたところ、今回の騒動は裏社会の「新種触手の開発」に由来するものだった。
迷宮の核には生息する生物の情報が保存されているのだが、交雑現象により生物同士の遺伝情報が混ざることがある。その結果、ある植物が使う毒を口ばしから分泌する鳥や、食人植物などが発生する。
森林型迷宮の核には自生する植物が記録されており、その情報の中には薬草や毒草も含まれる。人気がない迷宮を利用して、薬品成分を取り込んだ触手を秘密裏に作り出そうとする計画だったらしい。
その後、私によって迷宮内に植えられた触手は狩りつくされた。幸いにも迷宮の核に触手の情報は登録されていなかったので、この迷宮でそれ以降触手が発生することはなかった。探索者組合は荷物チェックの体制を厳しくし、今後は持ちこまれないよう対策を取ることを決定したという。
ちなみにだが、新米探索者の少女は、魔術師組合への移籍が決まった。彼女の生命力を吸った触手を味見した時に、珍しい『時属性』の使い手と発覚したので、組合へ紹介状を書いておいたのだ。
魔術師としての彼女は発展途上。生命力も控えめで、はっきり言ってまだ生命力の品質が悪い。だが、魔術師として成長すればオンリーワンの風味を身に付けるだろう。今後、成長した彼女が触手に襲われることがあったら、その時は再び救出に向かいたい。
瓶(【拡張(小)】
牛乳瓶ほどのサイズだが、梅酒の瓶くらいの内容量がある。
探索者
上位の冒険者ほど大量の食事を必要とする。また、この世界では食料生産が魔術によって超効率化されており、需要と供給が完璧に釣り合っている。魔力を含まない低級の食材なら大量に作れるが、高濃度の魔力を含む食材は基本的に高い。
また、この世界では食材を食べて魔力を回復する(人間の体内で合成できる魔力量は微量のため)。その結果人によって必要とする魔力の属性が変わるため、魔力を大量に使う魔術師は偏食家になりやすい。触手マスターの属性は闇を中心とした複合属性であり、ほとんどの魔力への耐性が高くどんな食材でもバクバク食べられる。