誕生日パーティー
由美の自律神経もだんだんと落ち着いてきた。
由美はしばらく長野さんの問いかけにも答えられないくらいまで落ち込んでいたので
楽器屋に行くのが少しプレッシャーだった。
(やっぱりキツくても答えるべきだったよな、長野さん機嫌悪くしてないかなぁ)
そう思い、いつもはそのまま行くけれど、窓から外の楽器屋を覗いて長野さんが来るのを待った。
開店時間になっても誰も出てこない、流石に由美はソワソワしてきてしまった。
「やっぱり行こう、一人きりだと寂しい。」
「こんばんはー」
声をかけるといつの間にかいつものメンバーが顔を揃えていた。
「由美ちゃん。今呼びに行こうと思ってたんだよ。」
長野さんはいつもより柔らかい笑顔で由美を迎えてくれた。
「由美ちゃん、これから店長のバースデーパーティーするのよ、一緒に行きましょ。」
瞳が由美を手招きした。
「え、今日長野さん誕生日なの?」
由美は長野さんの誕生日を知らず何も準備してなかった。
(やっぱり本当に何も知らないんだなぁ、私って。)
平井もその場にいて由美の方を無表情で見ていた。
パーティーはおじ様がよく行く居酒屋で行われた。
「本当に長野にはいつも世話になっててなぁ、音響も安心して任せられるし、頼れるやつだよ」
酒が回り出したおじ様は長野さんを褒めちぎった。
「分かりますよ、私もよく相談に乗ってもらって、叱咤もしてくれるんです私が間違った考えに行っちゃうと。昔から音楽してる人にしか相談出来ませんもんねこういう内容って。」
瞳は率先して話に参加していた。少しだけ酔っているのか、目元が赤くなってて彼女の色気を倍増させているようだった。
「なんだなんだ、誕生日だからって持ち上げても何も出らんぞ。」
長野さんはそう言いながらも笑顔だった。
「照れることないですよ、店長って目立たないけどいつも俺らの事支えてくれるもん、精神的にって言った方がいいかな。だからこんな誕生会だって開くし、俺こういうの苦手だけど参加したいと思ったんです。」
平井が珍しく語っていた、普段は単語を幾つか話すくらいの印象しかなかったから由美は驚いてしまった。
そして自分も何か話したくなった。
「私も、部屋でキツかった時に最初に話しかけてくれたの長野さんなんです。私が具合悪くて不機嫌な時でも話しかけてくれたり、挨拶だけしてくれたり、長野さんってそう言う温かさがありますよね。」
ここぞとばかりに感謝の言葉を伝えた。
長野さんは続々と続く褒め言葉に本気で戸惑ってるらしく、何度もジョッキを口元に持っていって傾けた。
誕生日パーティーが終わる頃には長野さんはだいぶ酔ってしまって1人では歩けなくなっていた。平井が送ると言ったので家が近い由美も一緒に送ることにした。
居酒屋から家まではタクシーを呼ぶには短い距離だったので歩いて帰る事にした。
「あー、俺って幸せだなぁー。」
「店長酔いすぎ、あぶねえからもっとしっかり歩いてくれよ、支えるの大変だぜ俺。」
フラフラしながらそんな事を言う長野さんを平井は懸命に支えていた。由美もフラフラする2人が心配で何度も手で2人を支えた。
それでも何だか家族と遊びに行った帰りみたいで一挙一動にみんなで笑い合った。
「なー、こんな夜っていいよなぁ。生きてていいんだって言って貰ってる気分になるんだよ。」
「そうだね、私も生きてていいんだって言って貰ってる気分になるよ、今日は長野さんにお裾分け貰っちゃった。」
「お前は一番そうだよな。家から出れなかったのを1日に1度は出てこれるようにして貰ったんだしさ。」
「そうだね、ってか平井くん私の事お前って呼ぶの辞めてよー。前々から思ってたけど私にだけツンケンするよねー。」
酔いも手伝って普段なら言えない事をダイレクトに聞いた。
「そうか?喋りやすいのかもな、俺ってこれが素だからさ。元々気を使うの苦手なんだ。」
「そうなんだ、私平井くんがこんなに喋る人だとは思わなかった。」
「俺も思わなかった、でも結構語るぜ?音楽の事については特にな。」
「いいなぁ、青春だなぁ、いいなぁ。」
いつの間にが黙り混んでしまった長野さんが割り込んできた。
「そうやって本当の自分を見せられる人をたくさん作りなさい。人生は一度きりで、人は楽しむ為に生まれて来たんだから。楽しい事をたくさんしなさいね。」
「どうしたの長野さん、いきなり」
由美はなんだかいつもと違う空気を感じていた。
「いや、酔ってるんだよ、色々な事に。」
「今日楽しかったもんね。」
そう言うと長野さんはそうだねと言って笑った。
布団まで送ると平井と由美はそっと外に出た。
「あー!店長重かったぁ!痩せの大食いだから質量があるんだよ店長。」
平井が伸びをしながら言った。
「あはは、お疲れ様でした。」
「お前も疲れただろ、最近まで調子が悪かったのに急にパーティーだもんな。」
「そうだね、歩いて帰ったのもあって実はかなり疲れてる。体力欲しいよ。」
「まぁ焦らずに行けよ、自律神経ってバカにしてたら結構重症になるぜ。」
「ありがとう。なんか今日はお互いよく話したね。」
「そうだよな、お前もあんまり俺に関わらないようにしてるみたいだし。」
由美は突然確信を突かれてドギマギした。
「いや、なんか本当にツンケンされてる気がして、こっちが嫌われてるのかなって思ってたから。」
「嫌ってなんかねーよ。なんでそう思ったのかわかんねーけど、なんかほっとけねーんだよなあんたって。自信なさすぎだし、お人好し過ぎだし。」
「う…よく見てるね…」
「店長の事好きなのも知ってる」
「はい!?好きじゃないよ!尊敬はしてるけど!」
「そっか?いつも目でおってるぜお前、自覚がないって怖いよな。」
「そんな…そんな…」
次の言葉が出てこなかった。
長野さんへの想いは尊敬だと自分に言い聞かせたばかりだったので、脳がパニックを起こしていた。
「そんな事ないったら!」
つい大声で返してしまっていた。
「分かったよ、耳元で大声出すなって、夜中だから近所迷惑だっつの。」
「あ、ごめん。」
「じゃあお前はやっと店長への恋を自覚したって事で」
「だから!違うんだってば!」
そんなやり取りを繰り返しながら2人はなかなか家路につかなかった。