意識してる?
長野さんはバツイチの独身、子供は居なかったので自分の好きな楽器屋を初めてのんびりと独り身を楽しんでいた。
ただ、やはり寂しいらしくよく由美を引き止めては閉店が過ぎても話し込んでいた。
「じゃあ由美ちゃんはいつもあの部屋でする事もなくて辛い思いしてたんだ、俺、由美ちゃんが窓から顔覗かせてる時以外は何も知らなかったんだなぁ、なんか知ってる気で居たよ。」
「そうだよね〜、私も長野さんの楽器屋さんでの生活とか想像してるだけなのに知ってる気で居たもん。面白いよね実際にお互いの生活見たり聞いたりしてみると全然イメージと違うんだもん。」
レジの留守番も慣れた頃、由美は長野さんに対して敬語は使わなくなっていた。それだけ話し合う機会に恵まれたのと、長野さんは以外と子供っぽい無邪気な人だと分かったからだ。
「この間買ってきてくれたケーキさ、どこの店だった?俺あれ気に入ったからからまた買ってきたいんだよね。」
「あれ?言わなかったっけ。向こうのガソリンスタンドの並びにあるお店だよ?」
「なぁ、そこ夫婦漫才みたいだから辞めてくれよ」
ロックをするおじ様が突然奥の机から冗談っぽく声をかけてきた。
「長野、お前寂しいからって由美ちゃんに手を出すなよー。」
ニヤニヤしながらそんな下世話な事を言う。
由美は急に緊張して恥ずかしくなって少し下を向いてしまった。
「何言ってんだよ、俺は40で由美ちゃん28だぞ、相手にしてくれる訳ないじゃないか。」
由美の気持ちが一気に凍りついた。
そして凍りついた自分にびっくりした。
(え、どういう事?私別に長野さん意識してないし…)
それと体は別に早鐘を打ち出した。
(え、や、だから違うし)
「ほら、変な事言うから由美ちゃん迷惑そうな顔してるじゃないか、なあ、困るよなぁ。」
由美はどうすればいいのか分からなくて下を向いたままになってしまった。
「あれ、由美ちゃん本当にごめん。そんなに反応するとは思わなかったんだよ」
おじ様は意外だったらしく戸惑ってしまったようだった。
由美は更に混乱してきた。
「あ、私ちょっと買い出しがあるんで出てくるね!」
そう言ってなんとか席を離れた。
「びっくりした…」
自分の反応は由美さえ意外だった。
「よう、どしたこんな所に突っ立って」
平井が由美の目の前に立ってた。
「あ、こんにちは。ううん特に何もないんですけど、ちょっと外の風に当たりたくなって。」
「ふーん、俺今からスタジオだからよろしく。」
相変わらず何を考えてるのか分からない顔をしている。
すれ違ってそのまま行こうとしたら平井がまた声をかけた。
「お前さ、店長にタメ語で俺には敬語かよ。店長に失礼だからやめた方がいいぞ。」
「え」
「じゃあな」
突然そんな事を言われてムッとしたが、反論する間もなく平井は行ってしまった。
「え、え?もうなんなのよ皆して!!」
由美はその夜なかなか眠れなかった。