秘密じゃない秘密
由美には酷く辛いのが昼間だ、
皆は学校や仕事に行ってるのに自分は寝込んでるだけ。
色んな感情が頭の中をぐるぐると巡って吐き気が倍増になる。
由美の身体は運動不足と薬の影響で通常よりも太っていて、それがコンプレックスだった。
「こういう時に長野さんの声が聞けたら嬉しいんだけど、そうも行かないしなぁ…」
吐き気止め
自律神経の薬
眠剤から抗不安薬と
由美の薬は増える一方だった。
「このまま死んでしまえたら…」
世の中生きたくても生きれない人が居る
その言葉は確かに正解だろうが、重い症状に気力は失われていく一方だった。
1日寝ているだけで、慰めてくれる人も居ない。話し相手も居ない空間は何とも虚しい時間だ。
やっと夕方になる頃にはだいたい由美の体は疲弊している。
考える事と症状を受け流す事で精一杯戦ってるからだ。
「由美ちゃん、今夜は覗かないのかい?」
待ちに待った長野さんの声がして、由美は何とか身体を起こした。
「長野さん…へへ、今日はちょっとキツかったんだ…」
「そうか、顔色も良くないしなぁ。今日はいいお客さんばかりの予約しか入ってないから、ゆっくり横になって聞きなよ」
「ありがとう〜、もう起き上がるのも辛くて、ごめんね弱音が出ちゃって。」
「いいってことよ、由美ちゃんが一番辛いだろうに。」
その時、いつも由美の方を目で追う青年が来た。
長野さんはすぐにそっちへ向いて話を始めたが、やはり青年は由美の方を見ていた。
基本黒のスタイルが多く、髪は長め、細身の体にそれはよく合っていた。
「今日は調子悪いの?」
「え?」
青年が突然由美に話しかけたので長野さんも由美もびっくりしてしまった。
「なんだよ、平井くん分かってたのか。」
「分かりますよ、長野さんいつもあの窓の方を気にしてるもん。」
由美が唖然としている内に2人は会話を進める。
「今日は調子が悪いの?」
平井という青年は再び由美に話しかけた。
「あ、あの、うん。いつも覗いてごめんなさい。」
特別指摘はされなかったが、なんだか悪い事をして見つかった子供みたいな気持ちになって謝ってしまった。
先程から話している平井は無表情で心の内が読みにくい、それも謝ったひとつだった。
「謝る事ないよ、いつか降りておいでよ、結構な人が気付いてて気にしてるからさ。」
由美の中で密かな楽しみは完全にバレていたらしい。由美はあまりの恥ずかしさに顔を引っ込めてしまった。
「あーあ、平井くんダイレクト過ぎるよ。あの子はゆっくりがいいのに」
「あ、そうなんだ。ごめん。」
特別悪びれもしない平井という青年の声が聞こえてきた。
(うそーー!バレてたのぉーー!?)
由美は今までのボサボサの頭や可愛くないパジャマ姿の自分を思い出してじたばたと暴れた。
それでもなんだか心の中で嬉しさが暴れていた。自分1人だと思ってたのに知ってもらえてたという事がこんなに嬉しかったとは、由美は思わぬ自分の反応に更に混乱した。