表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

それぞれの歩む道はその人にしか決められない。

逢坂 一 (おうさか はじめ)

本作の主人公。高校2年生で地元の高校に通っている。

大晦日の夜に大掃除をしていた時に眺めていた卒業アルバムを見て、転校していった一人の少女の事を思い出したことがきっかけで連絡が途絶えた前川がどうなっているかを探すことに決めた。


飯山 大智 (いいやま たいち)


逢坂とは小学校からの付き合い。お互いに色々なことを言い合うことができる気さくな仲。

中学では進学普通クラスに所属している。部活には入っていないがアクティブ。


吉川 歩 (よしかわ あゆむ)


逢坂と同じ特進クラスの学級委員長。明るく朗らかな容姿と気さくで話しやすい性格で男女からの人気が高い。逢坂とは席が近いこともあってか話す機会が多い。料理研究会という部活動に入っている。


西条 明

主人公たちの担任教師。専門科目は社会地歴。

あまり生徒思いでもないため、生徒からの人気が高いわけでもない。


前川 

逢坂と一緒の小学校だった少女。逢坂とはよく話す仲であったが突然の転校により連絡先が分からない。

唯一残された情報をもとに友人たちと探すことに。

下の名前までは覚えていない。

夕刻を過ぎ、寒々しい印象を残させる緑色の年季入りの階段から現れたのは我がクラスのお節介委員長吉川歩であった。

スラリとした流麗な体躯に、肩までふんわりと伸ばされた薄茶色の髪は彼女の明るい性格を表に出していた。俺達の間に何気もなしにひょこひょことと入ってきた。


彼女はクラスだけでなく、学年でもモテると噂されている。身の回りの恋愛事情にてんで興味がなかった俺でさえ耳に入るくらいだ。ちなみに飯山のランキング情報では男子の彼女にしたいランキングで上位にいるだとか。順位に関しては番狂わせが起きていてどうも収集つかないらしい。データベースくらいちゃんと管理しろよ。こいつ絶対営業職向きでその場のノリと勢いでテキトーなこと喋る奴だ。あと、机の上が汚そうってのも追加しておこう。


「別に、俺ら男だけの秘密の内緒話ってやつだよ。なぁ、逢坂?」

飯山は先ほど言いかけていた言葉を掻き消し、平静を装って俺に首肯の合図を促した。

ここは従っておくべきかと俺はこのくだらない男のために話を合わせることにした。

「まぁ、そうだな。男同士のイけない話だな。最近、ここらへんの地域で夜な夜な暴走族集団が廃墟に訪れては謎の心霊体験に襲われてしまったというとてつもなく不気味でイケない話と学校の怪談話ver2.3が更新されてver2.8にアップグレードしたとかそんな話だな」

どうしてこうもまた面白くもないことを口にしてしまうのだろうか。誰か俺の悩みを解決してくれ。


「な~にその嘘くさい話!見え見えだよ!特に、暴走族の話なんてこの当たりじゃほとんど聞かないじゃない!男子ってなんでこうもっと上手い冗談つけないのよ!学校の怪談はちょっと何言っているか分からないけれど。」

「さすが、委員長。お手厳しいツッコミ」

「いや、そこ褒めるところか?」

「いいんだよこのくらい飄々としたくらいが生きやすいってもんだぜ?」

こいつは営業職確定だな。こうやってそれっぽいこと言ってごまかすタイプだ。管理職には一生上がることはないだろうな。


「そうやってテキトーなこと言っているからお前は女子生徒からの評判が悪いんだよ」

「おい!それの情報源はどこなんだよ!教えろ逢坂!」

「これは意味の無い冗談だよ。その場を取り繕うために考えた言葉だ」

中身のない言葉のおかげで、話題は振り出しに戻ることができた。俺は目の前にいる吉川を見つめる。

「で、こんな誰もいない時間にどうして吉川はいるんだ?今日は別段、委員長会議なんてものは無いはずだが?」

委員長会議というものは、月に1度定期的にクラスの委員長が学校行事に関しての議題についてあれやこれやと話し合うだけのよく分からない会議である。会議は職員会議くらいにしてくれないだろうか。

「あぁ、わたし?うーん、ちょっと先生に進路のことで呼び出されて…」

吉川は視線を少し落としながら苦い表情をしながらもゆったりと話し出した。

「担任の西条先生がえい、君はもっと上の志望校を狙えるだの。推薦の話も職員会議で上がってるだので色々と話をされてね…こう、大人って学校の大学進学ばかり考えて当の生徒本人の気持ちをあまり考えていないというか。そこにいた私のことをまるで道具か何かにしか見えてないんじゃないかなって思ったんだよね」


「結局、私達は生きるともがらと書いて生徒なのかもね。学校に迷い込んだ羊なのかも。」

高校生ながらにして、そんなネガティブに将来を考えてしまう吉川という人物に俺は少し戸惑いを覚えてしまった。高校生なんだから好きにすればいいじゃないかなどと思ってしまう。彼女の心に蟠りが生じるのはきっと周りにあるしがらみがそうさせてしまったのだろう。


「吉川がそんな風に考えているなんて意外だな。俺はてっきり優等生としての自分の位置に満足していると思っていたんだんだが。あと、そんな暗いことを口にするの控えたほうがいいぞ。イメージダウンに繋がるからな。優等生のお手本としてしっかりやってくれよな」

「おい、逢坂それは却って委員長を追い込んでねぇか?」

飯山は細かなところにツッコミを

「追い込んではいないぞ。これが俺なりの励ましと世の中に対する諦観だ」

「それ、自分もネガティブに陥れてないか…」

飯山はこのまま暗い雰囲気のままだと間が悪いと感じたのか、腕を組みながら首を縦にかしげて考え事をした。

「進路かぁ…どうしようっかな」

飯山は思いあぐねるように重たそうに口を開いた。そんなに進路を決めるのが嫌なのだろうか。確かに悩むものではあるがうちくらいの自称進学校クラスであればほぼ全員が進学を目指すことが普通であるが、この男にそんな普通のことを言っても面白くないので俺は新たな道を示すことにした。

「お前は、進学しないで端金を持ってラスベガスにでも行って一攫千金したほうが性に合うと思うぞ

俺が保証してやる。」

「逢坂、てめぇ内心でほくそ笑んでいるんだろうな」

「あぁ、ラスベガスのカジノで大敗した腹いせにヒッチハイク世界一周をしてしくれないかと望んでいるよ」

「うふふ…あなた達っていつもそんな感じで話していて仲良さそうよね。それを見ているとわたしの悩みも少し吹き飛んでくれるわ」

さきほどの吉川の沈んだような表情から一転していつもの明るい印象を持たせる委員長様に戻った。

「そうそう、君ら一部の女子の間では、お似合いのカップルなんて言われてるよ~~」


「おい、ちょっと待て」

俺はさすがにそのことを聞いて前のめりになって吉川に近づいた。甘いお菓子のような匂いが鼻孔をくすぐる。俺の後ろにいた1人の男からは別の反応が耳に入った。

「どっちが受けなんだ?」

「お前、頭おかしくなったのか?興味津々ってどういうことだ」

飯山が男好きの趣味を持っていたとは、もしかして、こいつ俺に男好きの趣味があるから恋愛の相談に乗ってもらいたいと思ったんじゃないんだろうな。

「えーっとそれはね…私の友達から聞いた話じゃ逢坂くんが…」


「止めろ。聞きたくない勘弁してくれ。お願いします」

まさか、こんな所で俺と飯山のイケない関係の話を聞いてしまうとは思っていなかった。

文芸部あたりが薄い本のネタとして書いてそうだなぁ……もうやだ俺の人生。


「そういや、吉川は西条先生からどこの進路をオススメされたんだ?」

「私は先生から、関東のW大学をめちゃくちゃ推されているんだけど私は関西のK大に行きたいんだよね。経済や商学を学びたいし」

「どちらにせよ九州を去ることになるのか。」

「俺は地元でのんびりやるくらいがお役柄に向いているからこっちで大学を選ぶよ」

「2人はちゃんと決まっていていいよなぁ…こっちはてんで決まらねぇよ…」

「別に目の前に差し出された選択肢が全て正しいとはは言えないから自分で思ったカードを選んで突き進めばいいんじゃないのか?俺は、あくまで安定のカードを選ぶためにそうしているだけだし」


「まぁ、人それぞれ進路があるからね」

これ以上進路の話をしたくなかったのか、俺達の持つ温度よりもいくらか低い声音でそう言った。そして、俺達の会話のタイミングを測っていたかのように、吉川が言い終わった後に最終下校時刻のチャイムが校内をこだました。


「あっ、もうこんな時間なの!」

吉川は、チャイムの音を聞いて慌てふためいていた。

「じゃ、私はこれから用事があるから先にお暇するね!また明日ね!」

どんな大事な用事なのか知らないが俺らの前から一目散に逃げ帰ってしまった。残ったのは吉川のドタドタと階段を下る反響音と暗闇からひっそりと見え隠れする夕日だけだった。


反響音が俺たちの耳から遠ざかったのを確認してから、飯山が俺らもそろそろ帰るかと言ってきた。

時間も時間なので別に構わなかったは、飯山の言おうとした言葉が心残りだった。

完全に沈んでしまった赤い玉の代わりに夜の番人が俺たちの帰り道を妨げるように視界をどっと暗くした。まるでそれは今日の話はこれ以上してはならないというお告げのようにも捉えられた。

「はいはい。分かったよ。今日はそんな日なんだな」

「何言ってるんだ??ふぅぅ、寒い寒い…こんな場所で話してられねえよ」

「結局、お前の悩みは何一つ解決されないままだったな」

「うるせぇ」

悩みから目を背ける友人にこれ以上声をかけないようにと俺と飯山は、大急ぎでどこかへ行ってしまった1人の生徒の足跡を辿りながら学校を去ることにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ