8・疑
その日の帰り、商店街に差し掛かった際、その景色を見るうち、ふと頭にある考えが浮かんだ。
「……あの「えれめんとふおう」は何ゆえ早朝よりあそこに居たのであろう?」
拙者は通学路ゆえ、毎日通る。
であれば、たまたまその場所でひったくりに出会う事もあろう。
しかし、きゃつらは違う。四人揃って、何をしていた?
義賊めいた活動をしているのは知っている。
てれびじおんでは、大規模てろだとか、森林火災、誘拐事件の解決等に関わっている姿がよく紹介されていた。
わざわざひったくりを探っていたとも思えぬ。
或いは、最近拙者を見張るようなあの視線――きゃつらでは?
否、拙者など見張ってどうなろう。
胴狸三十郎の生まれ変わりである事など、誰も知らぬ事。
「ならば……何か別の目的が有るという事か。学校の近くに何の用が……」
「ねえ、何を考えているの?」
「!」
突如、話しかけられて驚いた。
「失礼ね。お化けでも見たみたいに」
声の主はふあらであった。
夕日を黒髪が照らし、黄金が如く輝き、神々しささえある。
「これは無礼仕った。気配を感じぜざるがゆえ……」
今朝の車は拙者の油断だが、この女人は伊賀の忍でもあるまいに、どうにも気配が読めん。幽霊などでは無いのは当然であるが、どこか茶の湯の達人めいた落ち着きがあるのだ。
わび数寄の境地と言おうか、武や技と違う何かによって、その気配を悟らせぬ。
「私なんか眼中にないという事ね」
「そうは言ってござらぬ。むしろ、その佇まいに感服している次第」
「そう……」
ううむ。この女人、どうにも苦手だ。
こちらに興味があるのか無いのかも読めぬ。上手く会話など出来ようはずも無し。
「それで、何を考えていたのか聞いているのだけど」
「……大した事ではござらぬ。今朝の一部始終を見ていたならわかるであろう。えれめんとふおうなる輩がなぜ斯様な所に居たかという事を考えておったまで」
「……へえ。面白そうね」
「……別に面白くはござらぬ……うぐっ」
間が持たず顔を背けようとしたのだが、その顔を無理やり両手で曲げられる。
ちょうどふあらに向く形だ。
「何をする……」
「私を見なさい」
なんたる無礼な振る舞いであろう。しかし、悪意は感じぬ。
「そちらこそ、何がしたいのだ?」
「せっかくなのだし、調べてみましょう。彼らが何をしにここに来ていたのか」
言った彼女は、どこか般若めいた笑みを浮かべていた。
その笑みに、不覚にも刀を突き付けられたが如く、鳥肌が全身に出ていた。