7・『ファル・2・ファツラ』
学校へ着くと、隣席のふあらが怪訝な顔で話しかけてきた。
斯様な早朝より学校に来る生徒は拙者くらいかと思ったが、違うらしい。
いなば時代の記憶では、ふあらから話しかけて来た覚えが無い。
そも、彼女は能面が如き有様にて、他者と話をする事も稀のはずだ。
「……大丈夫なの?」
「何がだ」
「車にひかれてたじゃない」
「見ていたのか」
見られていたからとてどうという事も無いが。
「無様な油断ね。貴方らしくもない」
「む……」
そう言われてはぐうの音も出ぬ。
あれは完全なる油断。車でなく槍であったら今頃死んでいたであろう。
「それとも、武器でも無ければダメなのかしらね?」
妙に満足げな顔でふあらが言う。
「左様な事はござらぬ。今回の油断に言い訳はせぬが、痩せても枯れても拙者は武士。武器に頼る事はござらん」
「……む」
拙者の言葉に、ふあらは露骨に眉を顰める。反論がそれ程に気に食わぬのであろうか。
彼女は高飛車のように見えるが、いなばの時代に話した事がほとんどないゆえ、よくわからぬ。
「そも、貴方らしくも無いと言うが、拙者の事を知るほど親しき仲ではあるまい」
「……馬鹿」
呟くと、ふあらはそっぽを向いてしまった。
「……?」
全くもってわからぬ。
拙者には戦場以外の事など、元よりわからぬが。