6・四
天空から真一文字に落ちた雷は、男の意識を一瞬で刈り取りせしめる。
男はその場に膝から崩れ落ちた。
おかしい。空は快晴。雷どころか雨も雲も無い。
ならばこれは――
「ヘイ、大丈夫かボーイ? ミーが来たからにはもう大丈夫だゼェ!」
黒髪を大きく前にせり出した茄子が如き頭を持つ長身の男が言った。
服も悪趣味なほどに金色に光っている。軽薄な喋りと裏腹に、その手に集まりし雷の爆ぜようは、即ち今の雷はこやつの落とせしものという事。
てれびじおん曰く、確か「えれめんとふおう」の「さんだあすとおむ」とか言う男だ。
雷のみならず風も操ると聞く。
「礼は申す。しかし、助太刀は無用!」
「おいおい。無茶いうなヨ。……それにもう終わってるしな」
「何?」
二の句を聞くまでも無かった。
車が道路に半ばまで沈んでいるのだ。
有り得ぬ事だ。ここも「あすふあると」の筈。
それが斯様な、蟻地獄が如く沈むなど考えられぬ。
「フン……他愛のない……」
車の傍に立つ大男が呟いた。
全身これ筋肉。古今これほどの筋肉と巨躯のものはおるまい。
身長は8尺、体重は50貫近いのではあるまいか。
こやつもてれびじおんで見た事がある。
「御苦労サン、クイックサンド」
さんだあすとおむが大男に声をかける。
やはりこやつも、えれめんとふおうの一人、「くいつくさんど」なる男だ。
土や砂を自在に操ると言うから、その力であすふあるとを蟻地獄へと変えせしめたのであろう。
「ひ、ひぃい……寄るな寄るな!」
車からまろび出た男は、錯乱して懐から筒のようなものを取りだした。
小ぶりな種子島であろう。その銃口は、くいつくさんどに向かう。
確かこの世界の種子島は大変に発達しており、狙いを外さぬと聞く。
「いかん!」
拙者は止めるべく走りだそうとしたが、その肩をさんだあすとおむが掴む。
「心配ナッシング。ほら」
「うわあああっ!!」
男の持つ種子島が突如赤色化した。
さながら、刀鍛冶が打つ熱き鉄が如く。否、熱き鉄そのもの。
「早く捨てないと腕まで焼け落ちるよ」
種子島を握り、それを焼き溶かした男が飄々と言う。
慌てて種子島を捨てる盗人の仲間は、その顔を絶望の色に染めている。
相手はかの有名な「ぼるけいの」であるから、それも無理はなかろう。
全身から炎を吹き出し、流れ星のように空から突如現れたのだ。
てれびじおんで見ておらねば、神仙の類かと思うところであった。
「さて、投降するかい? どちらでもいいけど、まぁその方が楽だからね」
笑みを浮かべるぼるけいの。だがやはりその目は笑っておらぬ。
「ひっ、ひいいいい!!」
恐怖に駆られ、男は逃げだした。
「あーあ」
残念そうに両手を開くぼるけいの。
こやつも他の二人も追おうともせぬ。
逃げ出した男は商店街脇の路地に逃げ込もうとする。
「ひいいいい……うわああああっ!?」
逃げ込もうとした路地から突如押し寄せた波。男は飲まれ、壁に叩きつけられた。
その波の中から女が飛び出す。
全身にぴたり吸いつく「ぼでいすうつ」なる珍妙な青き服に身を包む、豊満な女である。
「情けないの。もう気絶しちゃってつまんない」
至極残念そうに、倒れた男を拾い上げる。その顔には嗜虐の色が見えた。
妖艶なるこの女もまた、「えれめんとふおう」の一人、水を操る「ふらつど」。
即ち、これで「えれめんとふおう」の四人が揃った事になる。
地水火風を操る超常集団。
義により行動すると言うが……拙者にはどうにも信用できぬ。
きやつらからは、戦場にて見た、戦人特有の雰囲気がある。
戦人が泰平を望むようには思えん。
「ああ、少年。ここは私たちが処理しておくから、早く病院に行くといい。車にはねられていたろう?」
ぼるけいのが歯を見せるように大きく笑みを作る。
どうにも不快感が消えぬ。
「心配無用。では御免」
病院など行くほどではござらぬが、きやつらと話していたくは無いので、その場を辞した。
「おや、病院に行かないのか。……気をつけて登校しなよ?」
最後にかけられた言葉が、妙に心にひっかかった。