2・拙者
どうやらこの学級において、拙者は変わり者らしい。
それも無理なき事。
拙者は日の本侍。そこを曲げる気はござらぬ。
最早、尽くすべき主君もおらぬが、己の道は変わらぬ。
「なぁ……イナバ、お前どうしちゃったの?」
授業が終わり、廊下に立たされた拙者の元に級友の男、ぐしおん・1・あるふあが現れた。
いなばとしての拙者が、中学より親しくしていた者だ。赤に染めた髪が示す通りのお調子者で、おだてれば木に登るような性格で、女子の興味を引く事だけを考えている男である。
一方で、こう見えて父は政府高官だと言う。彼の軽薄な素行もあって親子の仲は非常に悪いらしく、いつも喧嘩をしているらしい。
それでも懲りずに、他の上流階級の子らを集めて不良まがいの事ばかりしている。
「どうしたとは? 拙者は拙者だ」
「そういうとこだよ。何よ拙者って」
そうは言われても、他の一人称など気持ちが悪くて言えぬ。
「やっぱりおかしいって。この間頭打ってから、おかしな言葉遣いするようになって……」
「拙者は己を取り戻したのだ。これが自然な姿よ」
日の本生まれの胴狸三十郎であるなどと言って信じるとも思えぬ。
ゆえに、拙者はその事を誰にも伝えておらん。
「……中二病もほどほどにしとけよ。……それともまさかミュータント能力にでも目覚めたとか言わねえよな?」
みうたんと。
ここ10年ほど、突如この世界生まれた超能力者だと聞く。
てれびじよんによれば、「えれめんと・ほお」なる4人組が、その力を人助けに使っていると言う。義賊のようなものであろう。
「お前、親御さんも心配するだろそんなじゃ」
「心配無用。数えで16、一人立ちは当然ゆえ」
いなばの両親は、家を空けがちだ。共に夜型の仕事をしているせいもある。
拙者は、日の入りとともに置き、日没と共に寝るがゆえ、二人とはしばらく顔を合せておらぬ。
「……やっぱおかしいわお前」
あきれ顔で去っていくぐしおん。
彼は間違いなく友であった。心よりの心配であろう。
そんな彼が、拙者の言動で去っていくかもしれぬ。
胸は痛むが、やはり拙者は己を曲げる気は無い。
諸行無常。あるべき形に収まるであろうよ。