18・刀
拙者の言葉を受け、ふあらの両足が鋭い光を放った。そして、両の足首から膝に至るまでが薄き刃と化す。
その美しき刃紋は、まさしく拙者の愛刀・蝶々開そのもの。
「愛された器物には魂が宿る。貴方が死して数百年、東京大空襲で私も焼失した。刀は武士の魂。貴方と私は不可分。ゆえに、私もこの世界に転生した」
「左様か! 蝶々開ほどの刀に斯様に申されるなど、まっこと恐悦至極!!」
何という事であろう。宿世。奇縁。なんでも良い。
これで鬼に金棒。負けはせぬ。
「何だ? 足を刃物に変化させるミュータントか? それなら話は別だ。貴重なミュータントだ。お前だけは助けてやっても構わないが、どうだい?」
「黙れ下郎。膾にするから正座して待ってなさい」
蝶々開はにべもない。
「さぁ! 早く私を使って!!」
「委細承知!!」
拙者は、蝶々開が手を取り、一方の手を腰に回した。
当然、刀と人とは大きく形が違う。
されど、体が自然と如何に蝶々開を扱えばよいかを、知っていた。
これが最も自然、最善が構えたる確信。
「ふん! 面白ェ! ミュータント相手に戦うのは初めてだ!」
くいつくさんどが次々と壁を生み出しながら突っ込んで来る。
此奴は自身が壁と同化できる故、一方的に突進出来る。
だが、蝶々開が現れた今、その戦法は通用せぬ。
「愚策中の愚策!!」
蝶々開と歩を揃えて突っ込む。
眼前に迫る石壁を腰の前に持ち上げて蝶々開を回転。
そのまま屈み、脇を抜け背中の上を通し蝶々開を回し、その回転により大きく振り払われた脚が、次々と石壁を障子紙が如く斬り裂く。
それは、てれびじおんで見た「だんす」に良く似ていた。
「なっ……!?」
よもや石壁が斬られるなど想像もしておらなんだろう、くいつくさんどの間抜け面を唐竹割し、止まらずに駆ける。
石切りが如く回転し、疾風が速度で迫る拙者らにふらつどは反応出来ぬ。
足元より水を巻き上げようとしたが、遅すぎる。
「え?」
その背後まで通り抜ける。
「な、何よ。何ともないじゃない。こけ脅し?」
乾いた笑いで虚勢を張るふらつど。
その様に蝶々開が正に刀剣が鋭き視線を送る。
「八丁念仏という刀を知っているかしら? あまりの切れ味ゆえ斬られた相手が気付かぬまま、八丁歩いて突然真っ二つになったと言うわ」
「あ……あ……?」
その言葉の意味を知り、ふらつどの笑いが凍りつく。
「流石に私もあそこまでの名刀と言うつもりはないわ。せいぜい数歩で事切れるでしょう。下手に動かない事を忠告するわ」
「ふざけ……!」
死の宣告を振り払わんがため、水の槍を宙空に生みつつ飛び出したふらつどの、その胴が二つに裂けた。
「う、うそ……」
水の槍が形を失い、雨のように降り注ぐ。それもすぐに血だまりと交じってどす黒く染まった。
「三歩。私もまだまだね……」
「拙者の腕が至らぬゆえ」
「いいの。これからゆっくり馴染ませれば良いのだから」




