16・能
拙者は手製の槍を構え、飛び出した。
が――
「む!」
眼前の床より、石の壁が突き出して来た。
慌てて後ろに跳ねるが、あやうく激突する所であった。
続いて体育館の石壁が溶けるように開き、そこから大男と美女が現れる。
「何か面白そうなのがいるじゃねえか」
石壁を出したのは、この大男、くいつくさんどに間違いあるまい。
拙者に下卑た笑みを向けながら寄って来る。
「けなげだねェ。そんな槍で抵抗しようなんてよ」
「抵抗にあらじ。貴様を斬り捨てる」
「くくっ、その耳かきでどうにかできるつもりならやってみろよ」
くいつくさんどはその身に具足が如く岩を纏って行く。
「物の怪めが!」
槍を突き出すも切っ先が弾かれる。
「ほらほらどうした? ん?」
何度突いても刺さらぬ。斯様な鈍らではこやつを斬れぬか……!
一方、ぼるけいのは炎を振り撒きながら、女、ふらつどと語らっていた。
「遅いぞ」
「サンダーストームの奴が見つからないのよ」
ふらつどが忌々しげに言う。
「ふん、大方遊び癖を出しているんだろ。ほっとけ。さっさと始末するぞ。一人も残してはならんからな」
「わかってるわ。彼らは一人残らずテロリストに殺されてしまいました、お涙ちょうだいの筋書きですものね。くっだらない」
「この犠牲で対テロの強硬策が正当化されるだろう。そうなれば大手を振って暴れられる。我慢してさっさとやれ」
「わかってるって言ってるでしょ」
ふらつどが不機嫌そうに振った手から水が刃となりて吹き上がり、直線状に飛んでゆく。
その先に居た者は、鯵が開きが如く二つに裂かれて絶命する。
炎も変わらず飛びまわり、体育館は地獄と化した。
悲鳴は消えず、血の臭い、炎の臭いがまき散らされる。
止めねばならぬ。戦では斯様な状況などいくらでもござった。
されど、これは戦に有らじ。
此奴らは宮仕えでありながら、市中の者を虐殺など許される事では無い。
義を見てせざるは勇無きなりと言う。斯様な虐殺を許しはせぬ!
「どけ!」
刃が通らぬ槍を打ち捨て、素手がまま踊りかかる。
「うぜえ!」
しかし、眼前に再び石壁が飛び出し、拙者の拳を防ぐ。
痛みに呻く間もなく、壁からぬるりと現れたくいっくさんどが拳を放って来た。
不覚! それをまともに受けて吹き飛ばされる。
「がっ!」
そのまま壁に叩きつけられる。
衝撃に息がつまり、痛みが背中から頭まで駆け上ってきた。
あの壁ある限り、おおよそ手が出せぬ。
拙者の刀……蝶々開さえ有ればあの程度の壁なぞ斬り伏せられように……!
「はぁ~ツマンネ。抵抗がねぇとつまらん割に、相手になるような奴もいねえ」
「当たり前だ。ミュータントでもない限り相手になるわけがないだろう。さっさと終わらせろ」
「だとよ」
立ち上がろうとする拙者の前に、くいつくさんどが歩んで来る。
斯様な所では終われぬ。ここで悪鬼討たずして何が侍であろう!
「終わりだ」
振りかぶられる拳。
と、そこに――
「終わりなのは貴方達ね」
声が、響いた。




