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 拙者の名は、胴狸三十郎。

 石田治部少輔三成公に仕える侍だ。

 天下分け目の関ヶ原の合戦、拙者は治部少輔をお守りすべく島左近殿らと突撃したが、黒田長政に敗れ、その怪我が元で死した……はずであった。

 仏教には六道輪廻の考えがあるという。人はその行いにより、天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道のいずれかに生まれ変わると聞く。

 馴染みの和尚はそれは例えに過ぎぬ、人の心の有様だと言っていたが、どうやら誤りだったようだ。

 なぜならば、拙者はその転生とやらを体験しているのだから。

 これも仏教にいわく、世界は三千世界とも呼ばれるようにいくつもあるらしい。

 ここはその一つであろう。

 日の本どころか、南蛮とも思えぬ。

 否、この世ではあるまい。彼岸と言われる方が納得できよう。

 拙者自身、未だ満足な理解ができておらぬが、順を追って説明したい。


 まず、ここは「いんざげえと」なる世界。

 中でも「たんほいざあ」なる国だ。

 ここには帝も将軍もおらぬ。

 国民主権なる考え方により、国の代表は国民が選ぶのだと言う。

 また、侍もおらず、しかし軍人はいるらしい。

 鉄の車が行き交い、天守閣もかくやと言える巨大なる建物「びるぢんぐ」が立ち並ぶ。

 天人が住まう天道とはこれなる所かと思いしが、さにはあらぬ。どうやら、拙者が生まれた天正の頃より、遥かに進んだ世界であるようなのだ。

 このあたりの知識に関しては後述する。

 さて、肝心の拙者についてだが、この世界では「いなばうあ・1・ていえつ」なる名前である。多くの者が「いなば」と呼ぶが、豊臣家臣におわした稲葉一鉄殿が如き、拙者には過ぎた名に感じる。

 年は数えで10と6。

 生まれ変わり、赤子からやり直したわけだ。戦場に出るべき年であるが、この世界ではまだ子供であるという。

 理解できぬ事だが、この年でまだ学校なる教育施設に通う必要がある。

 この15年の間、拙者は拙者である事を忘れていた。

 いなばとして生き、いなばとして暮らした。 両親もおり、ごく平凡に

 しかし、ある日ふと自分が胴狸三十郎である事を思い出したのだ。

 それはいなばなる人物に胴狸三十郎が乗り移り、意識を上書きしたというわけではない。

 邯鄲の夢が如く、いなばとして生きた夢から覚めた感覚なのだ。

 最早、以前のいなばがどのように自然に振舞っていたかももうわからぬ。

 それまでに大きな欠落を感じ、それが埋まった実感だけはある。

 見た目は大半が金髪の世界にありながら黒髪なれど、妙に白い肌と青い瞳と、違和感はぬぐえぬが、記憶を取り戻して以来、もやしのようだった肉体も、次第に筋肉がついて引き締まりつつある。

 肉体もかつての己を思い出しているのであろう。

 身長は大きく伸び、4尺5寸であった胴狸三十郎のそれを超え、既に5尺以上であるが。

 何にせよ、かような記憶が戻ったというのは、何らかの意味がある事であろう。

 前世の宿業、捨てがたし。

 かかる宿世を持って、何事かを成すのが我が使命ではあるまいか。

 ただ、それが何であるか、今の拙者にはまだ掴めぬ。


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