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やるせなき脱力神  作者: 伊達サクット
エピローグ
95/98

第94話 天界神と冥王の対峙

もうすぐ終わり!

 天界神エタナールの神殿。

「ミナ様、お待ちしておりました」

 大天使コスモエルの案内により、純白で彩られた荘厳な神殿へと足を運ぶ。

 大理石が光り輝く通路を進むと、各所を警備している屈強な神兵がこちらに深々と頭を下げる。

 最高位七神が集められるとは、一体何が起こったのであろうか。

「ふふふ、久しぶりね、裁き」

 正面から現れ、ミナを呼ぶ人物。

 やや褐色がかった肌、妖艶な雰囲気を纏う長身の美女。その肘から先の両手、膝から先の両足は、よく見ると肌と同色の機械でできている。

 艶やかな緑色の長髪を三つ編みにし、両肩から垂らしており、南国を思わせる色鮮やかな赤い花を髪飾りにつけている。身に着けているものは、体の要所要所に巻きつけた白い布一枚のみで、体の肌という肌の大部分を晒している極めて刺激的な姿である。

 そして、それらの身体的特徴の全てが霞んで見えるほどのインパクトを持つのが、股間から生えた体ほどの大きさの、肌と同じ色の機械の手である。

 彼女は最高位七神の内の一人、快楽の女神・リップルーナ。この股から生えた巨大な手。実は女性器から生えているのである。

「リップルーナ……。相変わらず凄い姿ね」

 ミナは呆れて言った。リップルーナは、自らに感じる快楽を極めるため、自らの四肢を切り落とし、何かに触れるだけで絶頂にも似た快感を得られる手足に改造した。

 更にそれでも飽き足らず、同じ性質を持つ巨大な手を女性器から生やすに至った。

 魔界と契約して手に入れた手であった。彼女は天界の女神でありながら、魔界と関係を持ち、現在の異形の姿となったのだ。そして、それをエタナールに許されている。

 元々は股から生える巨大な手もなく、両手足も生身のものだったのに。愚かなことをしたものだとミナは思う。

「ふふ……」

 リップルーナは尾のように背後に突き上げている巨大な手を、ゆっくりとミナに向かって降ろした。長い機械の指でミナの髪を撫でる。

「あっ……あああんっ!」

 リップルーナは熱っぽい喘ぎ声を上げた。そして、ミナの頬を、服を指でいじる。

「あっ……あっ……あっ……」

 更に嬌声を上げ、口元から唾液が垂れ、あられもない様子を見せる。この女神、いつもこの調子である。

「嫌な女神ねー」

 ミナは巨大な手をつかみ、横にのけた。

「やああああんっ!」

 快感のあまりビクビクと痙攣するリップルーナ。

「相変わらず楽しそうね……」

 ミナはうんざりして言った。会う度にこれである。

「ええ……。ほんとに最高……。あ、あなたにもあんっ、付けてあげるわ」

「結構!」

 ミナは構わず奥の会議室へ向かって歩いていった。

 すると、今度は案内のコスモエルがリップルーナの犠牲になった。巨大な手で彼女の翼を撫で回し、両手で頭上の輪を触り、また喘いでいる。

 広々とした回廊に嬌声が響き渡り、周囲の神兵達が顔をしかめた。コスモエルは立場上、目上の女神であるリップルーナの愛撫を拒否することもできない。ミナはコスモエルを放っておいた。

 警備の兵達に礼をかけられながら会議室へ入る。

 すると、正面の長いテーブルの左右に、四人の神が座っていた。

 右の一番奥に座る、漆黒の鎧に全身を包み、兜の奥から赤い両の目を光らせている、巨体を誇る魔人。破壊の神・ゼルバドル。

 その手前に、白衣を着た科学者の姿をした老人。創造の神・フォゴー。

 その隣に座る、青いマントに身を包んだ旅人風の姿をし青年。希望の神・ロード。

 テーブル左の手前から二番目の席に座っている、歳の程三、四歳前後に見える、赤紫の髪をツインテールでまとめた可愛らしい幼女の姿をした女神。時の女神・ルチア。

 して、そのルチアの傍に付き従う商人風の若い男。高位三十三神の内の一人、ルチアに仕える商いの神・スビーダである。

 ミナは座っている神々に挨拶もせず、ルチアの左隣に座った。

「ここはあなたが入っていいところではないはずだけど?」

 規律に厳しい裁きの女神・ミナはスビーダに目を向けて言った。

「は、はい。申し訳ありません。それではルチア様、私はこれで……」

 スビーダは慌ててミナに頭を下げ、会議室から出ようとする。しかし、ルチアがスビーダの袖をつかんだ。

「嫌じゃ、嫌じゃ! わらわはスビーダにいてほしいんじゃ!」

 頭を振って駄々をこねるルチア。

「会議の間は我慢して下さい」

「嫌じゃ、嫌じゃ! 会議の話を聞き逃すかもしれんから、お前にも聞いててほしいんじゃ!」

 何とも我儘な理由だ。ちなみに、この時の女神ルチア、このような幼い姿と態度だが、現在の最高位七神の中では最年長であり、長らく最高神エタナールの相談役を務めている神である。

「駄目です。いくら何でも私がここにいるのはまずいです! ほら、後でキャラメル買ってあげますから」

 何とかルチアをなだめようとするスビーダ。

「歳下のくせにわらわを子供扱いするな!」

 スビーダが泣きそうな目でミナの方を見る。ミナは溜息をついた。

「あんまスビーダを困らせちゃだめでしょ。聞き分けなさい」

 ミナがスビーダを援護するが、ルチアはますます意固地になる。

「嫌じゃ! そんな意地悪言うなら泣くぞ! わらわは泣くぞ! いいのか!」

「それはおやめください! 何卒!」

 必死に懇願するスビーダ。ルチアが号泣でもしたら、時空の流れが荒れ狂い、下界の時の流れが滅茶苦茶になる恐れがある。

「そこまでにしなさい、ルチア」

 透き通った声が会議室に染み渡る。

 ミナを含む神々が入口へ顔を向けた。そこには、黄金の長髪を揺らしながら悠然とこちらへ向かってくる、天界神エタナールの姿があった。脇に快楽の女神・リップルーナを伴っている。

「あうう……。ごめんなさい……」

 ルチアが唇を噛みしめながらうつむいた。

「ももも、申し訳ありません!」

 スビーダが慌ててエタナールに向き直り跪いた。

「行きなさい」

 リップルーナがそっけなく言うと、スビーダはそそくさと会議室を後にした。通り過ぎる彼をエタナールは一瞥もくれない。

 エタナールは一番奥の、意匠を凝らした特等席に座り、リップルーナはルチアの左に座ろうとする。

「んっ……ああっ……」

 湿っぽい嬌声が漏れる。股間から生えている特大の手を、背中の後ろから上に向けて伸ばし、仰々しく腰かけた。頭上に展開する巨大な手がビクビクと震える。彼女は恍惚の表情で目を移ろわせていた。このまま会議に参加するつもりなのであろうか。

「皆さん、今日はよく私の呼びかけに応じて集まってくれました」

 エタナールが六人の神を見回しながら言う。よくも何も、天界神の呼びかけを断れるはずもない。

「あっ、あっ、エタナール様の仰せなら……んっ、当然ですわ……ひあっ……らめ、らめぇええええ!」

 どうやらリップルーナは話している途中でイッてしまったらしい。ビクビクと痙攣しながら机に突っ伏す。

「うげー、何じゃこいつ……」

 ルチアがうんざりした様子で隣のリップルーナを見遣る。

「今日、あなた達に集まってもらった理由は他でもありません」

 エタナールは全く表情を変えることなく話を続けた。

「勝利の女神・ウィーナが死にました」

 エタナールの口から出た言葉は衝撃的な内容だった。

「何じゃと!」

 ルチアが舌足らずな口調で、背を伸ばしてテーブルに身を乗り出す。

「そんなのらめえええ!」

 リップルーナが頭上の大きな手で虚空をつかみながら、アヘ顔で叫ぶ。黙れ。ミナは心の中でリップルーナを罵倒した。

「冥界で、一体何が……」

 ミナは天界神に問う。十年前、下界の人間に直接加担した罪で冥界に追放されていたウィーナ。追放された当初は、女神としての力は失っていなかったはずだ。それに彼女の操る三つの神器も、バラバラではあるがエタナールの手によって冥界に送り届けられていた。将来的に許すことを視野にいれた、かなり温情のある処置であったはずだ。彼女の身に何が起こったのであろうか。

 エタナールの話した内容はこうだった。

 ウィーナは冥界に追放されてからというもの、悪霊を退治する仕事をしてきたが、下界に現れた勇者・イケメンコの錬金術によって、下界のディログ大陸の民が勝利を求めることをしなくなった。

 その結果、自らを信仰する民の願いが力の源であるウィーナは、どんどん弱体化していった。そして、冥界にヘイト・スプリガンという史上最強の悪霊が出現し、冥界は滅亡の危機に立たされた。

 ヘイト・スプリガンは、元はカマセーヌという人間で、勇者イケメンコの引き立て役となって死んだことで彼に恨みを持っていた。

 そこでウィーナとその部下達は、イケメンコを冥界に連れてきてヘイト・スプリガンに恨みを晴らさせようとした。その間に冥王の周辺でクーデターが発生し、事態は混迷を極めた。

 そんな中で、多くの犠牲を払いながらも、イケメンコを下界から冥界に連れてくることに成功し、ヘイト・スプリガンは恨みを晴らし、元の人間・カマセーヌの心を取り戻して冥王の手によって成仏した。クーデターの首謀者も倒し、冥王は反乱を鎮圧された。

 戦いの中で、カマセーヌの恨みを増幅させ、イケメンコに万能の錬金術の力を与えた黒幕がいることが発覚した。

 その者の名はリアル。

 彼は別の次元からやってきた、人によった作られし対神抑止兵器であり、自らが生まれた次元の神々を滅ぼすため、また、無数に存在する全ての平行世界を消滅させ、自らの次元が滅亡の運命を歩む分岐点を潰す『世界の最適化』が目的であった。

 神々に対する絶対的対抗力を身に着けるために、リアルは数々の次元の神を滅ぼし、その世界を消滅させながら成長していった。

 そして、我々のいるこの次元へとやってきて、手始めに冥界に目をつけたのである。

 リアルは、力を失ったウィーナに元の強さを与え、戦うことでデータを収集しようとした。カマセーヌとイケメンコの件も、ウィーナがそれらの障害を排除し、本来の力を取り戻すことを計算してのことだった。

 そして、真の力を取り戻したウィーナと戦い、冥界も消滅させようとしたが、ウィーナと冥王の共闘により返り討ちにあったのだった。しかし、ウィーナは相打ちとなり、命を落とす結果となった。

 天界神の話に、リップルーナ以外の神々は驚きを隠せなかった。

 リップルーナは改造した四肢と、股間から生えた巨大な手が与える無尽蔵の快楽に酔い、喜んでいるようだったが、一同彼女を無視した。

「……その冥界の危機に際して、我々ができることはなかったのでしょうか」

 ミナがエタナールに問う。

 全知全能の天界神、最高神の代弁者であるエタナールには全てが見えていた。

 見えていながら、指をくわえて見ているだけだったというのか。リアルとやらが神々を滅ぼす気ならば、援軍を送ってでも冥界に助力すべきだったのではないだろうか。それとも、最高神が傍観を望んでいたとでもいうのか。

「リアルは、冥界を滅ぼした後、下界を消し、この天界に上ってくる気でいました。冥界を守るのは冥王の役目。我々は下界を守らねばなりません」

 エタナールの言葉は、正論だが詭弁であるような気もした。ミナは反論できずに黙った。

「勝利の女神のことは、私としても非常に残念に思っています」

 エタナールは静かに語った。会議室が重苦しい雰囲気に包まれる。定期的に聞こえるリップルーナの喘ぎ声がミナの癇に障る。

「しかし、事態は我々に悲しむ時間を与えてはくれません」

 エタナールは若干口調を力強くした。これで終わったのではないのか。ミナは息を飲んだ。

「その戦いで大きな次元の裂け目が生まれ、リアルがやってきた次元と冥界が繋がってしまったのです」

 六人の神々は表情を固くした。この世界が創造されて、そのような事態が過去に起こった例はない。

「そうですね? 冥王」

 エタナールの呼びかけに応じるように、会議室の扉が開いた。

 そこに現れたのは、漆黒のマントと礼服に身を包み、頭から歪曲した禍々しい角が生えたシルエット。皺の刻まれた力強い表情を持つ中年の男性の姿をした人物。

「ゴッドオブ天界のエブリバディ。ナイスミーチュー。ミーが冥王。アメリカーンデース」

 独特な口調、野太い声色。

 そこの知れない風格は、天界の神々を圧倒する威圧感があった。そして彼はミナの右、ミナの正面に座るロードの左。つまり、天界神エタナールに向き合う位置に腰かけたのだった。


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