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やるせなき脱力神  作者: 伊達サクット
第8章 心なき者に心臓を
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第91話 勝利の女神に勝利あれ

 ウィーナの目の前に広がるのは無限の宇宙だった。

 まるで上下左右が夜空で占められたかのような空間。

 どれほどに存在しているかもつかめぬ、無数の星々達。

 心地よい浮遊感。体がとても軽い。

「ここは……」

 聖剣ジークを油断なく握り、敵の気配を探ってみる。

 無音の宇宙。静寂の中、呼吸を整え、感覚を研ぎ澄まし、敵の気配を。

「OH! ディスイズ・ア・ユニヴァーッス!」

 研ぎ澄まそうとしたが、左手に抱える冥王の首が大はしゃぎしたので、ウィーナの集中力が吹き飛んだ。

「静かにしろ……」

「イッツワンダフル! マイハニーと二人っきりでこんなロマンチックなシチュエーションとは! 興奮しマース!」

「こんなときに気色の悪いことを言うな! それに何でわざわざ首だけになってついてきたのだ」

 ウィーナはうんざりして言った。

「だってマイハニーの危機とあらば、ミーが行かないで誰が行くんだって話デース!」

「首だけでは足手まといだ!」

「ノープロブレム! 冥王の秘奥義! デュラハン首飛行!」

 冥王はウィーナの腕を離れ、首だけで宇宙を浮遊して回った。

「身軽で丁度いいデース!」

「元気だなお前は」

 そのとき、ウィーナは何者かがこちらへ向かってくる気配を感じた。

「来る……!」

「しかしこれはリアルではありません」

 ウィーナと冥王が警戒して、こちらへやってくる存在へ身構える。

「ウィーナ様ーっ!」

 聞き慣れた声。

「ロシーボ?」

 宇宙の向こうからやってきたのは、まるで城のように大きな人型のロボットだった。

 宇宙の星明りに照らされて光沢を放つメタリックボディ。携行している数々の火器。スマートな体躯。背中から青白い炎を噴射して勇躍するその姿は、力強さと機能美を感じさせる。彼はコクピットの中からスピーカーで声を発していたのだった。

「ウィーナ様! 冥王様! さあ、こちらへお乗り下さい!」

 コクピットのハッチが開き、中からパイロットスーツ姿のロシーボが出てきた。

「あ、ああ……」

 ウィーナと冥王は、とにかくロシーボに言われるがまま、ロボットの中に乗り込んだ。

「申し訳ありません。椅子が一人分しかないのでつかまっていて下さい。飛ばしますので!」

 ロシーボが手早く操縦席のコンソールを操り、ロボットを急速な機動で発進させた。

「OH! 一体何なんデースかこの世界は!」

 流れについていけずに困惑する冥王。

「ロシーボ! どこへ向かうのだ?」

 ウィーナの当然の問いかけに、ロシーボは不思議そうな顔をして首をかしげた。

「えっ? どこって……。当然冥王星に決まってるじゃないですか?」

「冥王星?」

 ウィーナと冥王が同時に言った。

「そうですよ。にっくき我らの宿敵、リアルの居場所じゃないですか」

「そ、そうだっけ……?」

 ウィーナは怪訝な思いで首をかしげる。

「そうですって。遥か遥か宇宙の果て。そこまで辿りつくために、ウィーナ様が私にこの『ロシーボット1号』の開発を命じられたのではないですか」

「そうだったのか?」

「そうでしょう! 私、ウィーナ様のために一生懸命造ったんですよ、これ!」

 ロシーボは一生懸命な様子で説明した。

 それを聞いてウィーナは何となく状況を把握した。ロシーボがそう言うのなら、そうなのであろう。この次元ではそういうことになっているのだ。

 破理(はり)の指輪、赤信号の効果だ。指輪から発せられた赤い光。それによってウィーナとリアル、冥王がこの世界へと導かれ、ロシーボもそこに巻き込まれたのだろう。

 冥王は、ウィーナに加勢したい一心で、首だけでこの宇宙へと乗り込んできた。

 もしかしたら、ロシーボもウィーナを助けたいという強い思いを持っていたから、彼だけがここまで来たのかもしれない。

「そうか……。見事だ。よくここまで造り上げた。本当に、よくこんなところまで来てくれて……。ロシーボ、ありがとう」

 ウィーナは、彼の到来を素直に喜んだ。

 操縦席に座る彼の頭をヘルメット越しに撫で、冷たいヘルメットの装甲に自らの額を当て、ロシーボの顔を間近で見つめた。

「ショタはやめて下サーイ!」

 やきもち気味で横槍を入れる冥王をウィーナは無視した。飄々とした風貌のロシーボでも、こうして横から見るといくらか表情が引き締まって、頼りがいがあるように感じられた。

「あ、ありがとうございます……」

 ロシーボは緊張した様子で言った。青いバイザー越しでも、顔を赤らめているのが分かった。

「それではこれからワープに入ります。一気にリアルのところへ飛びます!」

 照れ隠しのようにロシーボが言う。

「よし! 行け!」

「了解! ワープ! 冥王星へ!」

 モニターに広がる無限の宇宙が、虹色の光を放ち、うねりを上げる亜空間に切り替わった。コクピットに激震が走る。

「WHOOOOOO!」

 生首がハイテンションで叫んだ。楽しそうである。どこまでも肝の据わった冥王だ。



「これは一体、どういうことなの?」

 その頃、ロシーボが破壊してしまったウィーナの屋敷では、ハイム達が途方に暮れている最中だった。突如として、ロシーボと、ロボットのガラクタが虹色の光に包まれ消滅してしまったのである。

 先程から、空が、と言うか、まるでこの冥界そのものに亀裂が入り、崩壊していく。そう思ったら、再び修復が始まったり、また世界が壊れたり、そんなことが繰り返されていた。正直、何がなんだか意味不明だった。

 そんな中、四肢がバラバラに吹っ飛んだポンコツのロボットをロシーボは黙々と修理していた。こんなもので加勢に行っても無駄だと諭したが、ロシーボは夢中で修理に励んでいた。すると、途端にロシーボが光に包まれ、ロボットと共に忽然と消え去ってしまったのである。

 一同、次から次へと巻き起こる異常事態に、言葉も出なかった。

「行っちまったのかな……。ウィーナ様の元へ……」

 トリオンフがロシーボやガラクタがあった辺りを見て言った。

「ウィーナ様……」

 ハイムは、途方に暮れながらも、ウィーナの勝利をただ祈った。

「勝利の女神に勝利あれ」

 脇に立つフィーバが、そう呟いて、ハイムに続いて祈りを捧げた。

 リザルト、メクチェート、トリオンフ、ユーイも続く。

 ハイムは、空を見上げた。

 空は優しい、黄色い光の幕で覆われ、冥界の修復に勤しんでいた。



 ロシーボット1号は、亜空間の中を冥王星へ向けて突き進んでいた。

「もうすぐ抜けます!」

 ロシーボの報告により、勝負をつけるときが近いことを否応にも感じる。

「敵の反応多数!」

 ロシーボが咄嗟に叫ぶ。

「何!」

 モニターに現れたのは、ロシーボット1号に勝るとも劣らない巨体の姿。

「待っていたわ、ウィーナ!」

 再び聞き覚えのある声。

 ファウファーレだ。

 褐色の上半身に白馬の下半身。背中は天使のような翼。リアルに与した裏切り者。

 しかも一人ではない。巨大なファウファーレが亜空間の向こう側から無数に出現したのだ。

「ふふふふ……」

 無数のファウファーレ達がロシーボット1号の周囲を舞い、妖艶な笑い声が幾重にも響き渡る。

「どういうことなんだ」

 ウィーナも訳が分からない。

「そしてミーも置いてけぼりデース!」

 冥王も訳が分からない。

「やはりリアルは私のことを見捨ててはいなかった。だって私にこんな新しい肉体を授けてくれて、こうして蘇らせてくれたんだもの……。世界の女王に相応しい肉体を……」

 一際妖艶な声が響く。

 大量のファウファーレ達が左右に退き、中央に道ができる。

 そこから出現したもう一人の巨大なファウファーレ。

 彼女は他のファウファーレとは違い、下半身の白銀の毛並が漆黒に染まり、背中の片翼が、蝙蝠のような、魔族を思わせるものとなっており、天使のようなもう一つの片翼と対を成していた。酷く禍々しい様相だった。

「ホーッホッホッホ! どう? 私のクローン達は? 美しいでしょう?」

 漆黒のファウファーレの高笑いが亜空間にこだまする。

「美しい、だと……。こんな無様な分身を」

 ウィーナはファウファーレの問いかけを一蹴した。

「ふふ……。私はね、一度は死んだけど、今またこうして蘇ったの! リアルの偉大な力によってね! そしてウィーナ! 私はあなたの量産化計画に失敗したから、責任取って、代わりに自分の体をこのプロジェクトに捧げたのよ! そしてオリジナルの私はこんなにカスタマイズしてもらったの!」

 ファウファーレは嬉々として語った。この女は死してなお蘇らされ、リアルの手駒として利用されているらしい。

「ウィーナ様」

 ロシーボがモニターの光景に顔を向けたまま言った。

「何だ?」

「ワープの出口はもう目の前です。ここは私に任せて下さい」

 ロシーボは覚悟を決めたような力強い口調で言った。

 口ぶりは力強かったが、唇と、操縦桿を握る手は微かに震えていた。本当は怖くて仕方がないのだが、必死で虚勢を張っているのが痛々しい程に伝わってくる。

 ファウファーレは今にも襲ってくるだろう。考えている時間はなかった。

「分かった! 私と冥王は前へ進む。ここは頼んだ! ロシーボ!」

「了解しました! こいつらをすぐに片づけて追いつきます!」

「待っているぞ! 絶対に来い! 生きて来い! 勝利の女神の命令と心得よ!」

「はい! ウィーナ様も!」

 ハッチが開いた。

 冥王の首を両手に抱え、身を乗り出して宇宙へと出る。

「頼みましたよロシーボ! アンタがアイルビーバックした暁には、特別冥王地獄名誉勲章の授与をもって称えマース!」

 外へ出る際に、冥王もロシーボに言葉をかけた。

「冥王様! ありがたき幸せに存じ上げ奉りまする!」

 ロシーボがやけに時代がかった口調を言い、ハッチを閉じた。

「飛ばすぞ冥王! いざリアルとの決戦へと参らん!」

「OK! 奴も大分ダメージを受けている! 奴は焦ってマース! 奴の体力が少しでも癒えないうちに、一刻も早く!」

 つい先程指輪を使用してから、大して時間は経っていない。

 敵も相当に消耗している。今ここでケリをつける。

 ウィーナは背中に光の翼を形成し、全速力で飛翔した。

「そうは行かないわ! あなたには言いたいことが山ほどあるの!」

 オリジナルのファウファーレがこちら目がけて手を振り降ろしてきた。鋭い巨大な爪が襲いかかる。

「生憎お前と話すことなど何一つない!」

 ウィーナは再びファウファーレの台詞を一蹴し、腕を回避して敵をやり過ごした。

「逃がさないわ!」

 クローン達が襲いかかるが、背後から無数のレーザーが飛び交い、ファウファーレのクローンを次々と撃ち落としていく。

「おのれ!」

「お前の相手は俺だっつってんだよ!」

 ロシーボット1号のレーザーガンがウィーナの前進を援護する。

「ぐっ、この雑魚が! この戦いの舞台に、アンタのような奴は場違いよ!」

 オリジナルのファウファーレが天使と悪魔の翼を翻し、ロシーボに接近する。

「一応俺は上司で先輩なんだけど? 敬語使えよ!」

 ロシーボはファウファーレ達が縦横無尽に放つ雷撃の魔法を、回避運動でかいくぐった。

「黙れ! 前からアンタのことは大っ嫌いだったのよ!」

 オリジナルのファウファーレの罵倒が亜空間に響く。

「見ていて不快でしょうがなかった!」

 クローンの罵倒も響く。

「今すぐに私の視界から消えて!」

「いつも私のことジロジロ変態の目で見てたでしょ!」

「気色悪いのよ!」

「私と同じ空気吸わないで!」

「アンタをリアルの所へは行かせないわ!」

 クローン達が言いたい放題で、ロシーボに攻撃魔法の嵐を浴びせる。必死でシールドを展開し防御するロシーボ。まさに集団リンチの様相を呈していた。

「くっそーっ! 馬鹿にするな! お前の誕生日は前回が最後だああああっ!」

 無数のファウファーレ達と、ロシーボの孤独な戦いが始まったのだった。

 一方、ウィーナ達はロシーボがファウファーレを引き受けてくれたことで先へと進んでいく。

 やがて、ウィーナの眼前には七色に光る亜空間にぽっかりと空いた黒い穴が姿を現した。

「行くぞ!」

 悩んでいる時間などない。そこにウィーナは迷わず飛び込んだ。

 ワープを抜けた先。

 再び静寂なる宇宙。眼下に広がる灰色の大地。

「ここが冥王星……」

 冥王が言う。灰色一色の大地に、ドーム状の都市がポツポツと点在しているのだ。

「貴様ら、一体どこへ逃げていた? どうやって俺達はここにきた? またその指輪の力か」

 リアルが正面からやってきた。

「リアル……。いたか……」

 それを聞いたリアルは鼻で笑った。

 ウィーナが聖剣を構える。ハチドリが最後にくれたエリクサーで、まだ戦う力は残っている。

「勝手に次元を移しておいてよく言うぜ。俺は逃げも隠れもしない。探したのはこっちの方だ」

 金色の瞳がキラリと光る。

「ではやるか」

「そうだな。どのみち、お前達の次元が崩壊するか否かは俺達の勝負で決まる。悔しいが、つい先程、俺の仲間達はみんな死んだよ。妹もな……」

「そうか」

 ウィーナは何となしに言った。直前にロシーボと別れたばかりだから、まだファウファーレは死んではいないだろう。どうやらリアルにとってファウファーレは仲間の内に入っていないようだ。

「ああ、そうだ。こうなったら、貴様らと刺し違えても、俺は目的を達成させる」

 リアルが赤と青の双剣を構える。緑色の髪が漆黒の宇宙でふわりとなびく。

「YOUはミーの冥界でフリーダムにし過ぎマーシタ……。ニューヨックゥーのフリーダム女神が許しても、この冥王アメリカーンが許しまセーン」

 冥王が荘厳な面持ちで前口上を述べるが、そもそも口調がフランクな上、首だけの姿では今一つ威厳が足りず、かなり間抜けに見えた。

「そうか……。だったら?」とリアル。

 そこで三者、言葉が途切れる。一瞬の静寂。

 そして激突。ここで全てが決まる。

 本当に、最後の戦いが始まったのだった。


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