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やるせなき脱力神  作者: 伊達サクット
第8章 心なき者に心臓を
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第89話 破理の指輪・黄信号

 崩壊する時空を覆っていく光の幕は、穏やかで温かい、それでいて力強い光であった。

「狂った時計塔のせいで崩壊しかけていた冥界の時空が、姉上の指輪の力で修復されていく……」

 ウォーンが周囲を見回しながら言う。

 ウィーナはその様子に構わず、今度こそリアルを討つべく、リアルを押さえている冥王に加勢しようと光の翼を展開させた。

 が、そのとき。

「私達の邪魔はさせない!」

 女の声が聞こえる。

 修復されていく時空の奥から、真紅の髪の女剣士が飛来してくる。リアリーだ。

 彼女は手にした黄色い剣を高く掲げた。すると、その剣は光に包まれ、巨大なネジへと姿を変えた。

 そして「黄色には黄色よ!」と訳の分からない理論を振りかざし、ネジを時計塔の頂上にブスリと突き刺したのだ。

 巨大なネジはぐるぐると勝手に回転を始める。すると、周囲の時空を包んでいた光の幕が取り払われて、再び時空の崩壊が進行し始めた。

「姉上の破理(はり)の指輪の効果が、あのおかしなネジによって打ち消され、その結果、以前に発動された時空の崩壊がまた進んでいるんだ!」

 ウォーンが混迷極まる状況を的確に解説する。

「姉上! ネジは私が! 姉上は冥王と共に奴を!」

 ウォーンが体中を闘気のオーラで包み、ドライブドラゴンの手綱を引いた。そして、崩壊する空間を、時計塔に向かって滑空した。

(冥王!)

(マイハニー!)

 弟を見送ったウィーナは、すぐさま冥王と連携した。

 リアルもかなり余裕がなくなってきていた。正確無比なその剣筋には、明らかな焦りを帯びてきている。

 決着の時は近いはずだ。

 ウォーン――彼はこの時計塔に着地した時点でドライブドラゴンを乗り捨て、戦場から退避させていた――がネジへと手に伸ばす。その刹那、殺気に満ちた一撃が彼の頬をかすめる。

 リアリーだ。

 彼女が立ちはだかり、水晶でできた光り輝く長槍を容赦なく振りかざしてきたのだった。

 ネジを前にして剣と槍の応酬が繰り広げられる。

 ウォーンは、勝利の女神の弟である。正真正銘の純粋な神族であり、神兵の中でも、神々や上級天使達の近衛兵を務める最上級の位にあった。

 その誇りを汚すような戦いは許されないという自負が彼にはあった。

 ウォーンとリアリーが斬り合って突き合う最中、巨大な竜の影が戦いに割って入る。

「貴様あ! ワシらを無視するとはいい度胸しとるのう! 一体何色のパンツ履いとるんじゃけしからん!」

 大地に震わすようなセクハラ発言と共にやってきたのは巨大な竜へと化けたキヌーゴだ。リアリーを追いかけここまで来たのだろう、その巨大な背の上にはアツアーの姿も見える。

 竜の背から真紅の鎧に身を纏ったアツアーが飛び降り、颯爽とした様子で時計塔のてっぺんに降り立った。

「せえええええいっ!」

 アツアーは力強い掛け声を上げ、回転するネジを勢いよく引き抜いた。

 その瞬間辺り一面に黄色い光が出現し、崩壊する時空を修復し始める。

「おお! あのネジが引き抜かれたことで、再び黄信号の効果が……」

 ウォーンが槍を剣で受け止めながらも解説の言葉を搾り出す。

「させるかああっ!」

 リアルがウィーナと冥王の猛攻の合間を縫い、アツアーに向かって突っ込んできた。

「ぐわあっ!」

 リアルの一閃をミラージュソードで受け止めるも、アツアーは吹き飛ばされ、ネジはリアルの手に渡る。

「ハァッ!」

 リアルがネジを時計塔の頂上に突き刺す。すると、再び時空が崩壊へと進んでいく。

「FACK! シュケナベイベー!」

 冥王が挑発的な言葉を叫びながらリアルにドロップキックを浴びせる。見事リアルは遠方へと吹き飛ばされた。

 そして、ネジを引き抜く。周囲は再び黄色い光へと包まれる。

 それを阻止せんとばかりに冥王へと突撃するリアリー。

「マイハニー!」

 冥王はウィーナにネジを投げた。ウィーナはそれを力強くキャッチする。こんなものは捨ててしまえばいい。

「きええええええええいっ!」

 ウィーナは肩に渾身の力を込め、ネジを冥界の果てに向け、勢いよく投げ飛ばした。

 しかし、全身を鎧で固めた武人風の男が飛んできて、そのネジをキャッチした。

「何!?」

 女神としての力を取り戻したウィーナの反射神経をもってしても、にわかには整理し難い状況。

「次元十闘士が一人、ファクス参上! リアル! 助太刀するぞ!」

 ファクスと名乗る男が、ネジを小脇に抱えて名乗りを上げた。

 それを見て、ウィーナ達だけではなく、敵であるリアルやリアリーも面食らっていた。

「OH! ユーはさっきミーが倒したはずデース!」

 驚愕する冥王。

「ファクス、お前、生きていたのか?」

 リアルがファクスに問いかける。

「はて? 我ら次元十闘士、誰一人欠けてはおらぬが……」

「何だって? ……いや、そういうことか」

 リアルは最初は驚いていたが、すぐに納得したような表情を見せた。

「時空の流れが修復される過程で、つい先程死んだ者が蘇った。いや、正確に言うと、死ぬ前の状態に戻ったんだ」

 再びウォーンの的確な解説が、聞き取りやすい澄んだ声色で発せられる。

「ではシュロンも?」

 ウィーナはシュロンが復活していることを期待して、周囲の気配を探った。

「いや、シュロンという禁呪の娘さんは蘇ってはいないようデース。生きた魂の存在を感知できまセーン」

 冥王だからこそ、冥界の住人の生き死にも分かるのだろう。

「そうか……」

 ウィーナはやや落胆したが、すぐに戦いの方に意識を持ち直した。

「破理の指輪の効果の範囲は不安定なもの。その効果がどこまで及ぶかは使う者にも分からない……。敵は時が戻っても、味方のシュロンさんは戻らなかったということか……」

 再びウォーンが説明じみた台詞を力なく吐いた。

「ならば!」

 ウィーナは聖剣を構え、ファクスへ向かって突撃した。

「リアル!」

 ネジを放り投げるファクス。ウィーナは構わず聖剣の一撃を見舞った。

「ぐわあああっ!」

 瞬殺。「ファクス!」とリアルとリアリー、兄妹の声が重なって聞こえた。

 次元十闘士の一人・ファクスは、一撃で消滅した。

 しかし、そのネジはリアルの手へ渡っていた。

 リアルは再び時計塔の頂上へ飛翔する。

「うおおおおっ!」

 キヌーゴの巨体がその前に立ち塞がり、その口から剛炎のブレスが吐き出される。

 しかし、その灼熱はリアルには全く通じていなかった。

 恐ろしい強さ。改めてウィーナは戦慄した。

「死ね」

 リアルが双剣をキヌーゴに向かって振り下ろさんとする。

「ガッデエエエム!」

 冥王が突撃。

「ぐわっ!」

 リアルが吹き飛び、ネジを手から滑り落とす。

 落下するネジをリアリーがキャッチ。

 ウォーンとアツアーがそれを阻止せんと時計塔に降り立ち、リアリーに立ち向かうが、その前に二人の人影。

「次元十闘士が一人、オリッキ!」

「同じくブリンター!」

 二人の戦士が突如出現し、ウォーンとアツアーに相対する。

 その隙にリアリーはネジを差し込む。

 崩壊する時空。

「しまった!」とウォーン。

「くそうっ!」とアツアー。

「はあああああっ!」

 すぐさまウィーナがネジを引き抜かんと、時計塔に転進。しかしリアルが許さない。

「どけええええっ!」

「させるかあああっ!」

 激突する聖剣と双剣。

 そこを冥王がすり抜けて時計塔に降り立つ。土壇場で迎え撃つリアリー。

「ユーだけは! ユーだけは絶対に許さああああああんっ!」

 怒り狂う冥王の荒々しい大鎌と、リアリーの水晶の槍が交錯した。

 その周囲で先程から一進一退の火花を散らし続ける、ウォーン&アツアー対オリッキ&ブリンター。

「うおおおおおおおっ! 限界爆裂推進烈波(げんかいばくれつすいしんれっぱ)ああああああっ!」

 そんな中、甲高い掛け声と共に流れ星のような火の玉が戦場に乱入する。小さな火の玉は、ネジに一直線に向かっていく。

 ハチドリだ。目は血走り、涙のしずくを引き伸ばしながらネジに突っ込んでいく。

「そうはいくかああああっ!」

 一筋の光芒と化したハチドリを迎え撃つ新たな乱入者。

「サイダーン!」

 乱入者に目配せしながらリアルが叫ぶ。

「うおおおおっ!」

「ああああああっ!」

 突っ込むハチドリに対し、次元十闘士・サイダーンは巨大なハンマーを振りかざして迎え撃った。

 両者が交錯した。

 サイダーンのハンマーは空を切り、胸に開いた巨大な穴は、ハチドリが彼の体を貫通したことを物語っていた。

「見事……!」

 サイダーンが大爆発したとき、ハチドリは既にその小さな体で大きなネジを担ぎ上げていた。冥界は再び優しげな光に包まれ修復されていく。

 反転してハチドリを討たんとするリアルをウィーナは結界で封じた。

「ハチドリいいいいいっ! 行けえええええっ!」

 ウィーナがハチドリへ檄を飛ばした。

「限界爆裂推進烈波ああああああっ!」

 ネジを担いだままハチドリは燃え上がり、遥か彼方へ飛び去ろうとした。

「このクソジジイ! 次元十闘士パンチと!」

「ホチキスがお相手するわ!」

 キヌーゴも既に増援を相手にしていた。周囲を高速で飛び回る男女の戦士に翻弄されている。

「年寄りと思って舐めるでない!」

「ジジイは家で寝てろ!」

 パンチの大剣が唸りを上げる。

「ルクェブツリ・アパヤース・ベデ・ルバーズ……」

 ホチキスが謎の呪文を呟きながら、手にした杖に凄まじい魔力を集約する。

 キヌーゴの背中のアツアーが、こめかみに一筋の汗をたらして舌打ちをした。

「うおおおおお!」

 ハチドリは超高速でネジを持って遥か遠くへ離れようとしていた。

 しかし。

「うおおおおお! ってあれえええええっ!?」

 元の戦場だった時計塔の上空へ戻ってしまった。

「しまった!」

 ハチドリはあまりに飛び過ぎて、冥界を一周して元の場所へ戻ってきてしまったのだ。

 そのとき、ハチドリは何か柔らかいものにプルルンと衝突し、急遽停止した。

 冥界を一周する程までに加速したハチドリを受け止めたのは、女性の豊満な胸だった。

「うっぷ! うぷううっ!」

 巨乳の谷間に頭を突っ込み、もがき苦しむハチドリ。

「うふふふふ……」

 魔術師風の装いをした妖艶な女性だった。唇を釣り上げて、怪しげな笑みを浮かべて胸の中のハチドリをぎゅっと圧迫する。ネジは既に奪われ、彼女の手の中にあった。

「うぶぶぶ……」

 ハチドリはジタバタするが、柔らかな胸が衝撃を吸収し、ハチドリを逃さない。

「スキャーナ!」

 アツアーを蹴り飛ばして、ブリンターがスキャーナと呼ばれた女の正面へ回る。

「ふふふ……」

 スキャーナはネジをブリンターへパスした。キャッチしたブリンターは追ってきたアツアーのミラージュソードをトンファーで防ぎ、正確なコントロールでオリッキへと投げる。

「よっしゃ!」

 オリッキはネジをキャッチしようとするが、ウォーンが前に出てネジを奪い取る。

「なめやがって!」

 怒るオリッキをだったが、ウォーンは軽くあしらい身をかわした。

「うふふふ、死になさい」

 一方で、スキャーナはハチドリを未だ胸に挟んだまま、頭上に掲げた両腕を妖艶に舞わせた。

 すると、ウォーンの周囲に魔方陣が回転しながら現れ、そこから光の柱が吹き上がる。

「ぐわああああっ!」

 煙を上げながらウォーンは墜落し、地面へと激突した。

「ウォーン!」

 リアルを牽制しながらウィーナは叫ぶ。とても弟の援護をしている暇はない。

「これで終わりだ!」

 ノーマークとなったブリンターに再びネジが渡った。彼は時計塔の頂上へ降り立ちネジを差し込む。世界の崩壊が始まる。

「決まったな。勝利の女神!」

 鍔迫り合いをしながら勝ち誇るリアル。

「ぐ……」

 ウィーナが歯を食いしばった。

「ふはははは! 回れ回れ!」

 ネジは勝手に回るのだが、ブリンターは自らの手でもネジを回し、世界の崩壊を加速させる。

「オーノー! ヤメナサーイ!」

 冥王がリアリーを魔術で吹き飛ばし、ブリンターを止めるべくネジへと突っ込む。

「ぐふっ!」

 そのとき、冥王の胸から水晶の長槍が突き出た。冥王の口からどす黒い血が吹き出た。背後からリアリーが冥王を刺し貫いたのである。

「甘いわね。私相手に片手間で戦おうなんて」

 リアリーは冷たい金色の瞳を光らせ、真紅の髪を振り乱した。

「冥王様ああっ!」

 落下する冥王を背中に乗せたのは、キヌーゴだった。その背中には手負いのウォーンも息を切らしながら乗っている。

「冥王ーっ!」

 冥王にとどめを刺すべく、次元十闘士の一人・パンチが飛来してくる。その手にはオーラを纏った大剣が。

「あああああっ!」

 ウォーンが全力を込めて、横一線に剣を振りかざすと、三日月形の衝撃波が発せられた。ウォーンの膝ががくがくと震え、竜の鱗に膝を突く。

「ぐはああっ!」

 衝撃波が直撃したパンチは、胸元からおびただしい血を吹き出した。

「ま、まだっ! まだだあああっ……!」

 パンチは口から血を吐き出しながら、最後の力を振り絞って大剣を投げつけた。

 ウォーンではなく、その後ろへ倒れこむ冥王に。

 そして、その剣は冥王だけでなく、キヌーゴの巨大な背中も串刺しにした。

「ぐわああああっ!」

「ぐほえええっ! 年寄りになんちゅうことすんじゃあ!」

 冥王とキヌーゴの悲鳴が響き渡る。それでも、キヌーゴは翼を羽ばたかせ、高度を維持していた。

「このおおおっ!」

 何とか立ち上がったウォーンは再び剣を振り、三日月形の衝撃波を撃ち出した。

 直撃を受けたパンチは、今度こそ爆発して果てた。

「ぐおおおおおっ!」

 キヌーゴは背中の傷を堪えながら、青白い炎のブレスを時計塔の頂上でネジを回すブリンターへ吐きつけた。

「効くかそんなもの!」

 ブリンターは両腕のトンファーを交差し、灼熱のブレスを防ぎきった。

「うおおおおおっ! 限界爆裂推進烈波あああああああっ!」

「そ、そんな……!」

 スキャーナの豊満な胸から光が溢れた。

「さ、させないわ! 私の胸の中で窒息死しなさい!」

 スキャーナは両腕を胸に回し、ぎゅっと胸を圧迫し、更にハチドリを締めつけようとする。

「危険よスキャーナ! すぐそいつを開放して!」

 ホチキスが杖から雷撃の魔法を発射して、周囲を旋回するキヌーゴを威嚇しながらスキャーナに警告する。

「問題ないわ! こんな鳥の一匹ごとき、私のGカップで埋めてやるんだから!」

 スキャーナはホチキスの警告を聞こうとしない。

「他人の心配をしてる場合か? お嬢さん」

 その背後にはアツアーがいた。鏡のようなミラージュソードに、怯えで瞳を見開いたホチキスの表情が映り込んだ。

「なっ?」

 一閃? 十閃? 百閃?

 それは分からない。しかし、アツアーが放った豪雨のごとき斬撃は、光の糸を紡いだような残影を跡にし、ホチキスの体を無数の肉辺へと分解していた。

「ホチキス! うっ……」

 スキャーナが仲間の死に気を取られた瞬間、彼女は顔を歪めた。

「限界ッ! 爆裂ッ! 推進ッ! 烈波ァァァァッ!」

「ひっ……嫌っ……リアル!」

 スキャーナが怯えた声を上げたとき、彼女の胸元には風穴が開いていた。その先には体中を敵の血で染め上げたハチドリ。怒りの形相。

「そ、そんな……。この……全ての次元の中で最高の美しさを持つこのスキャーナが……。私の……美しい……胸が……」

「うるせええええっ! アホか貴様はああああっ!」

 ハチドリのクチバシに真っ赤な火球が形成され、熱線が発射された。

「キャアアアアアア!」

 駄目押しの一撃を食らったスキャーナは爆発四散して果てた。

 ハチドリは体中を震わせ、懐から小さな煙草を一本取り出し、震えるクチバシに挟んだ。そして束の間の一服をした。

「もう崩壊は止まらんぞ!」

 ネジを回して世界の崩壊を加速させるブリンター。

 しかし。

 突如として時計塔の天井をぶち破り人影が現れた。そして、その人影はブリンターの脳天に剣と手斧を一直線に振り下ろしたのだ。

「がっ!」

 訳も分からぬまま、一刀両断に分割されたブリンターは左右にぱっくりと開いて倒れた。両腕のトンファーが天井にぶつかり、乾いた衝撃音を響かせる。

「ジョブゼ!」

 ウィーナは見た。時計塔の頂上に立つ、ブリンターの返り血で染まった。青き鎧の男を。

 そして、彼の戦いへの喜びに歪んだ灰色の顔を。そして、彼は口に、男性と思われる生首の髪の毛を咥えていた。胸元でその生首を振り子のようにぶらぶらと揺らしている。

「ボルーペン!」

 リアルが失意の声を上げる。ジョブゼはここに到着する前に、既に次元十闘士の一人・ボルーペンを殺していたのだった。

 ジョブゼはネジを引き抜いた。周囲が再び光の加護に包まれる。

「させない!」

 上空のリアリーが、水晶の長槍でアツアーを払いのけながら、左手をジョブゼにかざし、光弾を発射した。

 ジョブゼはニヤリと笑い、口を開けた。

 こぼれ落ちるボルーペンの首を、思いっきり放たれた光弾に向けて蹴っ飛ばした。

 稲妻のようなオーラをバチバチと放ちながら、ボルーペンの首は回転を帯びて飛んでいく。そして、光弾と衝突して大爆発を巻き起こした。刹那、周囲が熱く鋭い光に覆われた。

「くっ!」

 ウィーナは腕で目を防護した。無意識の行動だった。

 だがそのとき、オリッキがウィーナの背後に回り、彼女を羽交い絞めにしたのだ。

「リアル! 俺に構わず殺れ!」

 オリッキが叫ぶ。しかし、この程度の力、勝利の女神であるウィーナには全く通用するものではなかった。

「雑魚が!」

 ウィーナは一瞬にしてその羽交い絞めを振り解き、聖剣ジークの一撃であっさりと切り捨てた。

「ぐはっ!」

 そのとき、ウィーナに僅かな隙が生まれたのは事実だった。オリッキは殺した。だがその代償として、堅固なる霊鎧(れいがい)サリファを破られ、彼女の胸から赤と青の剣が突き出ることとなった。

「よくやったよ。いいデータが取れた。だからもういい。すぐ屍をオリッキに手向ける」

 耳元でリアルが冷酷にささやく。ウィーナのセミロングの黒髪をその指先で挑発的にいじりながら。冷たい表情だった。

「がはっ……」

 激痛。

 ウィーナは目を見開き、口から血を噴射させた。

 激痛。狭まる視野。

 激痛。遠のく意識。

「ウィーナ様ああああっ!」

 クチバシから煙草を落とし、ハチドリが叫ぶ。

「姉上!」

 ウォーンが目に涙を浮かべて叫ぶ。だが彼も満身創痍で、リアリーを迎え撃つのに手一杯だ。

「マ……マイハニー」

 胸はリアリーの槍、腹はパンチの大剣。その肉体に二つの風穴を開けられた冥王は、霞む視界でその様子を見据え、届かぬ手で小さいウィーナをつかもうとした。それが無意味な行為であっても。

 ハチドリが頭にかぶる小さなソフト帽を脱いだ。

 頭には、僅かなエリクサーの入った、小さな、小さな、本当に小さな小瓶が隠されていた。

「限界爆裂推進烈波ああああっ!」

 ハチドリが再び体を炎で燃やし、ウィーナを刺し貫いているリアルに特攻した。

「うおおおおっ!」

 一瞬にしてリアルとハチドリは激突。

 その衝撃でリアルは後方に押し出され、胸元に埋め込まれた双剣からウィーナが引き抜かれた。

 真っ逆さまに墜落していくウィーナ。背中の光の翼は既に失われていた。

「無駄だ!」

 ハチドリはリアルを押し切ることはできなかった。

 リアルは難なくハチドリの限界爆裂推進烈波を受け止め、再びハチドリをその手に握った。

 息を切らしながら血走った目でリアルをえぐるように見つめるハチドリ。

 リアルは手に力を入れ、小さなハチドリをぐしゃぐしゃに握りつぶした。

 ウィーナは、墜落していく最中、おぼろげな意識の底で、僅かな力が湧いてくるのを感じた。

 彼女の周囲は淡い光に包まれていた。後は、ただ側に、ウィーナと共に落ちゆく小さなエリクサーの小瓶があった。

 それは僅かだが、力強い治癒の力だった。傷口に薄皮が張る程度だが、止血はなされ、剣を持つ手にも何とか力が入った。

 ウィーナは、霞む意識を奮い立たせ、失われた光の翼を再び形成し、地へと向くその頭を天空へ向けて持ち上げた。そして視線の正面へとリアルを映す。

 リアルは、無機質な表情でハチドリをゴミのように放り捨てた。

 ウィーナは、燃えるような怒りを胸に抑え込み、静かに息を吐いた。

 ややあって、破理の指輪を嵌めた左手を静かに掲げた。

「……破理の指輪、赤信号」

 そして。


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