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やるせなき脱力神  作者: 伊達サクット
第8章 心なき者に心臓を
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第88話 破理の指輪・青信号

「行くぞ! 破理(はり)の指輪・青信号!」

 ウィーナは左手の人差し指にはめた指輪を高らかに掲げる。

 すると、無色の輝きを放っていた宝石が、緑がかった青い光を放つ。

「何の光だ」と訝しがるリアル。

 破理(はり)の指輪は、力を発動させるとこの世の理に干渉し、あらぬ結果を生み出す禁断の力を持っている。

 ともすれば、この世界に不利益を被る結果を産む可能性があるが、このままリアルに世界を消されるよりはましである。

 指輪から発せられる力強い光は納まることなく、周囲を照らし続ける。

 再び、ウィーナとリアルが繰り広げる、凄まじい剣技や魔法の数々の応酬が周囲を揺るがす。

 そんなとき、ふと、大地から激しい振動が巻き起こり、地面に亀裂が走った。

 亀裂から眩い光が溢れ出し、山のように巨大な人影が出現したのだ。

 その人影とは、筋骨隆々で緑色の肌をした、ピンク色の瞳のない目をもった巨人。

 忘れもしない。カマセーヌことヘイト・スプリガンだった。

 リレー作戦の終了後、冥王の手によって安らかな眠りについたはずである。

「カマセーヌ……」

 リアルはヘイト・スプリガンが出現した様子を無言で見ながら、小さく舌打ちをした。

「私は正義の巨人、悪霊ヘイト・スプリガン改め善霊ジャスティス・スプリガン! 正義の力を見せてやる!」

 名乗りの直後、ジャスティス・スプリガンはリアルに豪速を誇る巨大な拳を叩きつけた。再び大地が振動する。拳を食らったリアルは深々と地面にめり込んだ。

「うおおおおおおおっ!」

 次々に繰り出されるジャスティス・スプリガンの強烈なパンチの数々。リアルとてひとたまりもないのではなかろうか。

「破理の指輪・青信号!」

 ウィーナは続けて破理の指輪を頭上に掲げる。

 指輪から青緑の光が放たれる。その頃、リアルはジャスティス・スプリガンに青い剣を振りかざして応戦していたが、巨人はそれをものともしない。

「フハハハハハ! ハーッハッハッハッハア! ついに蘇ったぞおおおおおっ!」

 天空から光の帯が降り注ぎ、その光と共に、巨大な手そのものの化け物が降臨してきた。

 握力大魔王。

 十年前、下界を征服しようとしてウィーナに倒され、ウィーナが冥界に追放されるきっかけとなった握力大魔王。

 半年前復活したがイケメンコによって倒され、悪霊となり冥界で暴れたところをウィーナが浄化したはずの握力大魔王。

 その握力大魔王が、三度ウィーナの前に姿を現したのだ。破理の指輪で世の摂理が組み変わり復活したのだった。

「フハハハハ! ハーッハッハッハア! ウィーナ! 貴様はここで死ぬ! 貴様はここで死ぬの……」

「うるさい!」

 握力大魔王が言葉を最後まで出し切るのを待たずして、ウィーナは闘気を込めた聖剣ジークを振り下ろした。

「ぼんぎゃああああああ! この握力大魔王が! この握力大魔王がこんなクズにやられるなんて! 馬ぁぁぁぁ鹿ぁぁぁぁぬわぁぁぁぁぁぁんっ!」

 握力大魔王は十年前のあのときと同じように大爆発して死んだ。

 リアルはジャスティス・スプリガンにかかりっきりで握力大魔王など最初から眼中にない様子であった。

「うおおおおおっ!」

 ジャスティス・スプリガンのパンチ。遥か遠方にリアルが吹き飛ぶ。しかし、ジャスティス・スプリガンの方も、頭が半分吹き飛び、左腕が肘から千切れている状態だった。この冥界という世界では、肉体を有しない霊魂にも負傷という概念が存在する。

「ああああああああっ! 限界爆裂推進烈波(げんかいばくれつすいしんれっぱ)ああああああっ!」

 そのとき、リアルが吹き飛んでいく方向から、ハチドリの叫び声が聞こえてきた。

 小さい身体を燃え上がらせ、炎の玉となってリアルに正面衝突をしたのである。リアルから奪い取った剣を両方の翼に携えて、切っ先を奴に向けながら。

 大爆発。

「ううっ!」

 思わずウィーナも腕で顔を覆い、爆発の余波を防御した。

 爆発が晴れたとき。そこにはハチドリを手につかみ、握りつぶさんとするリアルの姿。腹部を貫通する赤い剣。しかし涼しい顔を浮かべるリアル。ハチドリ渾身の一撃は、リアルに大したダメージを与えられていないことが一瞬で分かった。

 そのとき、ウィーナは背中の光の翼を展開し、ハチドリの『限界爆裂推進烈波』など問題にならない程の全速力でリアルに接近した。そして、リアルが握るハチドリを奪還した。

「ハチドリ!」

「ぐぐ……。これしき……」

 ウィーナの掌の中で、ハチドリは目を細め、クチバシを震わせていた。骨も翼も脚もぐしゃぐしゃに潰れ、ひん曲がり、ほとんど死にかけていた。

 ウィーナはすぐに掌に回復魔法を凝縮させ、ハチドリの全身に万遍なく満たした。重体だったハチドリは一瞬にして完治する。

「ありがとうございます!」

「ハチドリ。ありがとう。だがもういい、逃げろ」

 ウィーナは手の中のハチドリを見つめて言った。

「分かりました!」

 ハチドリは素直にウィーナの言うことに従った。彼はウィーナを困らせることを嫌う男だ。

「ご武運を! 限界爆裂推進烈波あああああっ!」

 再びハチドリは炎に包まれ、爆発的な推進力で遥か遠方に逃げ去った。

「調子に乗るなカマセーヌ。所詮貴様など俺の目的を達成する一つの要素に過ぎない」

「正義の拳を受けてみよ! うおおおおお!」

 ジャスティス・スプリガンは全身を緑色のオーラで多い、今の位置からでもウィーナに震えを感じさせる程のパワーを込めた拳でリアルに殴りかかる。対してリアルは紫のオーラに包まれ、自らの手に揃った赤と青の双肩を圧倒的な速度で振りかざした。

「どうなる……」

 ウィーナは自らに自動回復魔法や防御魔法、攻撃力増加の補助魔法、速度アップの魔法等、考え得る補助魔法を重ねがけしまくりながら、固唾を飲んでその様子を見守った。

 その結果、ジャスティス・スプリガンは体中に裂傷を刻まれ、ばらばらに砕け四散した。

「手こずらせてくれる」

 リアルは再びウィーナに向き直った。するとそのとき。

「まだまだあああああっ!」

 飛び散ったジャスティス・スプリガンの頭部の両目から怪光線が発射され、リアルの背中に直撃した。

「何っ!?」

 その瞬間、リアルの姿は巨大な頭に筋肉質の両腕と両足が生えているという一頭身と化していた。

「馬鹿な!」

 苦し紛れの言葉を吐き出すリアル。ウィーナも食らった一頭身の呪いだ。

「ぐええええええっ! 俺は正義の咬ませ犬アババババーッ!」

 力を使い果たしたジャスティス・スプリガンは今度こそ爆発四散して果てた。

「今しかない!」

 ウィーナはリアルに手をかざし、相手の周囲を結界で封じた。

「はああああああっ!」

 結界の封印力を最大限にして念じ、一頭身のリアルの動きを封じる。何とかリアルは脱出しようと結界の内壁を叩くが、結界は崩れない。

 ウィーナは結界の遥か真上へと飛び上がり、聖剣ジークを突き出して、流星のように急降下した。全力を振り絞って。

 そして、剣が相手に届く寸前で結界を解除して、リアル本体に、聖剣での全力の一撃を叩き込んだ。

 しかし。

 リアルはこの状況にあっても、ウィーナの剣を両手で挟んで白羽取りにしたのだ。

「ぐぐぐ……!」

「くううううっ!」

 両者、歯を食いしばって一歩も譲らず。両者を中心に、周囲一円オーラの爆発で消し飛び、草木一本生えぬクレーターがまた生み出されることとなった。

「破理の指輪・青信号ーっ!」

 ウィーナの宣言と共に、再び指輪が光を放つ。

 すると、再び地面が揺れる。またカマセーヌが出てくるか。

 そのとき、ウィーナとリアルの足元から地面が割れ、巨大な建造物のようなものが突き出てきた。

 両者の間に割って入ってきた建造物によって、押し合いが終了して両者は距離を取る。

 地上五階程度の高さまで伸びた細長い建造物。その塔のような建物の頂上部には、大きな時計が取り付けられていた。建造物の正体は、謎の時計塔だった。

「何だこれは?」

 リアルが言う。

「何だこれは?」

 ウィーナも言う。

「お前が言うのはおかしいだろう! お前の指輪の仕業だろうが!」

 リアルが怒りとうんざりが混ざり合った表情をこちらへ投げかけた。

「私にも分からない」

 ウィーナは意にも介さず返答した。

 そのとき、時計塔が突如、鐘を鳴らし始めた。冥界の首都全体にまで響き渡りそうな大きな、厳かな音色だ。

 すると、時計の長針と短針が、左周りにぐるぐると逆回転し始めたのだ。

「逆回転……」

 ウィーナが何となしにつぶやく。何が起こるのだろうか。

 すると、遠方に広がる首都全体が柔らかな優しい光にぼんやりと包まれ、ほとんど壊滅状態だった街並みが再生していくのだった。

「おおっ!」

 ウィーナが感嘆の声を上げる。奇跡だ。

 それに従い、一頭身となっていたリアルも、青白い光に包まれて、元通りの姿へと戻った。時間が巻き戻り、ジャスティス・スプリガンが死に際に放った呪いが解けたのである。

「させるか!」

 元の姿に戻ったリアルはジャンプして――凄まじいジャンプ力であった――時計塔の最上階に入り込んだ。

 すると、掲げられた大時計は針の動きを止め、今度は右回りに回転し始めた。

 再生しかけていた街並みが再び赤い爆発に飲まれ、崩壊の道を歩み始める。

「くっ!」

 ウィーナも急いで時計塔の最上階へと入り込んだ。

 時計塔の中はあちこちに歯車が入り組んだからくり仕掛けの作りだった。

 その中でリアルは、部屋の中央にあるレバーを握っていた。彼の体が青白く包まれ、一頭身の姿へと戻った。時間の流れが正常の戻ったのだ。

「待て! そうはさせない!」

 ウィーナはリアルからレバーをひったくって、逆方向に倒した。

 時計塔の窓からは、炎上する首都が一望できた。首都は再び優しい光へと包まれ、崩壊した部分が元通り再生していく。

 それに従い、正面に立つリアルも人型の姿へと戻る。

「勝利の女神! そうはさせんと言ったはずだ!」

 リアルはウィーナからレバーをひったくって、逆方向に倒した。

 首都が、先程リアリーの放った爆発に再び見舞われ、崩壊の一途を辿っていく。

 それに従い、正面に立つリアルに再び呪いがかかり、一頭身の姿に変化する。

「駄目だと言っている!」

 ウィーナはリアルからレバーをひったくって、逆方向に倒した。

 首都は再び優しい光へと包まれ、崩壊した部分が元通り再生していく。

 それに従い、正面に立つリアルも人型の姿へと戻る。

「それはこっちのセリフだ!」

 リアルはウィーナからレバーをひったくって、逆方向に倒した。

 首都が、先程リアリーの放った爆発に再び見舞われ、崩壊の一途を辿っていく。

 それに従い、正面に立つリアルに再び呪いがかかり、一頭身の姿に変化する。

「いやいやいやいや」

 ウィーナはリアルからレバーをひったくって、逆方向に倒した。

 首都は再び優しい光へと包まれ、崩壊した部分が元通り再生していく。

 それに従い、正面に立つリアルも人型の姿へと戻る。

「いやいやいやいや」

 リアルはウィーナからレバーをひったくって、逆方向に倒した。

 王都が、先程リアリーの放った爆発に再び見舞われ、崩壊の一途を辿っていく。

 それに従い、正面に立つリアルに再び呪いがかかり、一頭身の姿に変化する。

「いやいやいやいや」

「いやいやいやいや」

 ウィーナとリアルが同時にレバーをつかみ、両者自分の反対側へ押し倒そうと力を入れある。先程の白羽取りと似たよな構図だ。

「くううううっ……」

 力を振り絞るウィーナ。

「ぐううううっ!」

 歯を食いしばるリアル。

「いい加減諦めろ……! もう次元の消滅は止まらんぞ」

「私とて勝利の女神! よその次元からきた者にこの世界の秩序をどうにかされてたまるか!」

 罵り合う両者。両者の顎からしたたり落ちる汗がレバーの取っ手を濡らす。

「マイハニーッ!」

 そのとき、時計塔の窓から冥王アメリカーンがやってきた。まさに天の恵み。

「手伝え!」

 ウィーナは冥王に向けて思念の声を送った。

「何だか分かりマセーンが! OKデース!」

 冥王もレバーをつかみ、ウィーナを後押しする。

 そのとき。

「OH! NO!」

「うわっ!?」

 つんのめって倒れるウィーナと冥王。

 冥王が力を入れた途端、レバーがすっぽ抜けて三人とも床に倒れ伏せてしまった。

 その途端、冥王はリアルにヘッドロックを仕掛ける。

「俺には通じん!」

 リアルは素早くその輪郭をぼやかし、青白い光の塊となって冥王のヘッドロックから脱出した。

 そうしている内に、そとが異様な雰囲気に包まれていることに気が付いた。

 すぐ背中に光の翼を発生させて、空へと飛び立つ。

 すると、冥界の空一面に、まるで亜空間のような渦が渦巻いており、この世界全体を包みこんでいるのである。そして、森が、川が、ウィーナ達の戦闘で崩壊した大地が、首都が、全てがうねうねと歪んで、七色の光消えていく。消滅して切り取られた景色は、空を覆う渦と同じうねりがその場所に存在するようになる。

「時空の崩壊が……」

 ウィーナの口から失意の言葉が漏れる。

 時計塔の大時計に視線を映すと、長針と短針がそれぞれ別の方向に、もの凄い速さで回っていた。レバーが壊れたせいで、時の流れが滅茶苦茶になり、時空の崩壊の引き金になったのだ。

「勝負あったな! これでこの冥界も時空の彼方へ消えてなくなる! お前達もその存在を削除される! これで終わりだ!」

 リアルも時計塔の外へ出ており、不敵な笑みを浮かべていた。

「うわあああああっ!」

 ハチドリの悲鳴が聞こえた。

 ちょうど真上の上空を見てみると、先程この場を離れたはずのハチドリが、時空の渦に巻き込まれてぐるぐると回転しているのである。

「ハ、ハチドリ……」

 ウィーナは苦々しい気持ちだった。

 このままでは今まで続けていた戦いの意義が全て失われてしまう。

「こうなったら……」

『破理の指輪・黄信号』を使うしかない。危険であるが。このまま滅ぶよりはましだ。

 ウィーナは指輪に向けて念じ始めた。ウィーナの指輪が黄色く光る。

「その指輪を使わせるわけにはいかん!」

 リアルが双剣を構えるが、時計塔から冥王が飛び出してきて、その前に立ちはだかる。

「マイハニー! ここはミーが!」

「助かる!」

 ウィーナは構わず指輪に向かって念じ続ける。強くなる光。

「破理の指輪・黄信……」

「姉上ーっ!」

 突如、ドライブドラゴンの手綱を引いたウォーンが飛来してきて、指輪をはめたウィーナの手をつかんだ。指輪の宝石の中へと黄色い光が収束して、無色の輝きに戻る。

「ウォーン! 何をする!」

「それはこっちのセリフです姉上! 黄信号ですよね! それだけは駄目です!」

「もうこれしか手段がない!」

「青信号で何とかするべきです! さっきから街が壊れたり直ったり……。すぐ姉上の指輪だと分かりました。黄信号は使っちゃいけない! この冥界だけでなく、下界、魔界、天界までもが取り返しのつかないことになるかもしれません!」

 ウォーンは必死になって制止するが、ウィーナは聞く耳を持たなかった。

「そうまで言われると使いたくなっちゃうぞ」

 ウィーナは口元に笑みを浮かべ、じっとりとした目で弟を見つめた。

「だーめーでーす!」

「どうしようかな?」

「こういうふざけたやりとりをしている間でも、ミーはちゃんと戦ってマース!」

 冥王が存在をアピール。

「俺も真面目に戦っているぞ! こういうやりとりをしている最中でもな!」

 敵のリアルも存在をアピール。

「駄目ですってば! 青信号使えば時空の崩壊直るかもしれないじゃないですか!」

 必死に止めるウォーン。やはりそう言われると、むしろ『使え』という前フリのように思えてならない。

「そうかな? 青信号でいいかな?」

「十分です! 青信号で十分!」

「そうか……。だが黄信号を使う!」

「姉上えええええっ!」

「私を信じろウォーン! 破理の指輪・黄信号!」

 指輪から放たれる黄色。

 その黄色は、冥界の全てを覆わんばかりに満ち溢れ、崩壊する時空を防護し始めた。


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