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やるせなき脱力神  作者: 伊達サクット
第8章 心なき者に心臓を
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第86話 破壊装置 ー妹ー

 前方には敵、背中には冥界の王都。

 ウィーナが聖剣ジークに闘気を注ぎ込み、刀身がまばゆい光を放つ。

 頭上に掲げた剣を全力で振り下ろす。全てを消し飛ばす衝撃波がリアルを飲み込む。

 リアルは赤と青の剣を交差して、衝撃波を受け止めた。

 その瞬間、冥王がリアルの足元に向けて手をかざす。すると真っ白な光に覆われるリアルの足元の周りに真っ黒な影が生じ、そこから闇の手が生えてきて、リアルの足首をつかんだ。

「ぐっ!」

 足元をつかまれて踏ん張りがきかなくなったリアルはガードを砕かれ、姿勢を大きくのけ反らす。しかし彼は咄嗟に青き剣で足元の影の腕を切り裂き、飛翔して衝撃波から逃れた。

「アラスカンブリザード!」

 冥王が凄まじき威力の魔力を両手に凝縮させ、漆黒の闇に包まれた猛吹雪をリアルに放った。ウィーナの位置からでもその低温が伝わってくる。

 リアルの全身が青い氷に包まれて凍結した。

(今デース! 奴を遠くに引き離して!)

 頭の中で冥王の声が響く。ウィーナはリアルに向けて左手の掌をかざした。

 リアルの周囲が一瞬にして水晶のような結界に包まれる。

 冥王の氷とウィーナの結界。この二重の檻に閉じ込めたリアルを、市民に被害が及ばない遠くへ吹き飛ばすべく、ウィーナは再び魔力を集中させた。

 しかし。それは実現しなかった。

「そうはさせない!」

 リアルの正面に赤い光が立ち込め、一人の少女が姿を現したのだ。

 燃えるような赤い髪に、リアルとそっくりな顔の造詣。女剣士のような出で立ちをしている。その金色の瞳は、リアルと同じ、人の血が通っていないかのような無機質さがあった。女神ウィーナは、一瞬にして眼前の少女が、リアルと同じように命を持たない存在であることを見抜いた。

 少女は腰の鞘から黄色の刀身の剣を抜き、リアルを覆う結界を切り裂いた。

「何!」

 結界にいくつもの直線が刻まれ、そこから光が漏れる。

「くっ!」

「OH!」

 漏れる光の余りのまばゆさにウィーナと冥王は腕で目元を覆う。使用者であるウィーナ自身が目を覆う程の強さを持つ、神聖な属性を持つ光。上級魔族でさえ、光を受けるだけで消し飛んでしまう威力を持つ。

「お兄様!」

 光が爆発し、ウィーナの結界が砕ける。そこから、真っ青な氷に包まれたリアルが姿を現す。しかしそれも一瞬で、リアルは内側から氷を砕き、復帰を果たした。氷と結界の破片が、それぞれに小さな光芒の明滅を巻き起こす。

「フーアーユー! アンタは誰デースか?」

 冥王が忌々しげに問いかける。

「私の名はリアリー。兄リアルの計画を実行する破壊装置」

 少女・リアリーは金色の瞳を光らせ、淡々と答えた。

「すまない。リアリー」

 リアルは体からオーラを放出し、まだ体に残っていた氷を消し飛ばした。そして、こちらに歩み寄りリアリーを庇うように位置取りした。

 手ごわい敵が一体増えてしまったようだが、ウィーナの闘志に陰りはなかった。何人立ち塞がろうと、倒すのみ。

「もう大丈夫だ。お前は予定通り始めろ。最適化を」

「でもお兄様」

「構わない。全て予定通りだ」

「分かったわ」

 リアリーは自らの周囲に赤いオーラを放出し、空へ舞い上がった。

 そして、赤い流れ星のようになって真っ直ぐに首都の上空へと飛翔した。

「なっ……!?」

 ウィーナは目を見開いて背後の流星を見遣った。

 その瞬間、背後から殺気。気が付いたら体が反応してリアルの斬撃を防いでいた。思わず注意を反らしてしまい、リアルの不意打ちが襲いかかったのだ。もう一瞬でも反応が遅れていたら赤と青の刀身が自分を切り裂いていた。この圧倒的な双剣の威力を、霊鎧サリファで防ぎきれるかは正直疑わしい。

「勝利の女神、俺から目を反らすなんて随分な余裕だな」

「ぐ……、当たり前だろう。このウィーナがお前などに負けるものか!」

 自らを奮起させるため、虚勢でも言葉を搾り出す。

「きええええええーっ!」

 甲高い掛け声を上げ、両手の筋肉をこれでもかというほどに酷使するが、相手のパワーの方が強い。

 すぐさま冥王が援護に入ってくるが、その瞬間リアルはその場から姿を消し、大鎌は空を切る。瞬間移動だろうか。

 背後に気配。振り向くウィーナと冥王。そこには涼しい顔で緑の髪をなびかせるリアルがいた。リアルと首都の間を阻むものはない。

 しかし、そんなことはもはや関係なかった。

 首都を囲む分厚い城壁の内部でいくつもの赤い爆発が巻き起こった。

「ホワット! まさか、まさか……!」

 失意の叫びを上げる冥王。息を飲むウィーナ。

 首都の遥か上空に、真っ赤な太陽のような光珠が、凄まじい力を放ちながら浮かんでいた。女神の力を取り戻しているウィーナは、その復活した本来の視力でその中心にいるものを見定めた。リアリーだ。

「何という……愚かなことを……」

 ウィーナは悔しさで言葉を滲ませた。敵にも自分にも向けた言葉。無機質に破壊を執行する敵の愚かさ、神であるにも関わらずそれをまんまと許した自分の愚かさ。

「おのれええええ! 命も持たぬ人形の分際で、我が治める世界を壊すか! 許さん! 絶対に許さんぞクズ共が!」

 冥王が顔中に皺と血管を浮かび上がらせて吠えた。すっかり「素」に戻っており、王族言葉をかなぐり捨てている。

「冥王! お前は街とあの子娘を! こいつは私一人で片づける!」

 ウィーナは言いながらリアルに斬りかかり、再び超高速の斬り合いを繰り広げる。

「お心遣い感謝します! グッドラック!」

 冥王は腕を交差させ、呪文を唱える。すると周囲に紫色の魔方陣が現れ、闇が立ちのぼる。その闇が冥王を包みこむと、彼は闇に溶け込むようにその場から消え去った。

「はあああ!」

「うっ!」

 二本の剣が唸りを上げて襲いかかり、ウィーナの胴を打ちすえる。その衝撃は霊鎧サリファの強力な守りを通り越し、ウィーナの生身を内部から痛めつける。頑強な神族の内臓・器官が悲鳴を上げる。吹き飛ばされ、背中に地面を打ち付ける。そのまま地面に背中で線を引きながら、しばらくは止まれない。そこへ容赦なく追撃。紫の衝撃波がウィーナに降り注ぐ。

 咄嗟に手をかざし、得意の結界で自分を包みこんだ。

 衝撃波の着弾と共に、爆発が巻き起こる。その爆風に身を隠し、何とか体勢を立て直そうと、結界で身を守りながら光の翼を展開。地面すれすれを滑空する。

 その時、胸が苦しくなり、思わず数度咳き込んでしまった。吐血だった。口元から一筋の血が流れる。こんなことは今までの戦いの中では珍しいことではなかった。しかし、冥王との共闘を放棄した弊害が如実に形となって表れてきたものでもあった。

「まずい、このままでは」

 負ける。防戦一方でジリ貧になっている。敵も消耗しているのは間違いないが、こちらが消耗するペースの方が速いということだ。神器が揃ったというのに情けない。それだけリアルが強いのだ。間違いなく神を超えている。こんなものを人が造り出したとは。ウィーナは、人の持つ底力とその力の危うさを、今正に思い知らされていた。

 岩陰に隠れて、血を拭いながら何とか呼吸を整える。体に回復魔法を注ぎ込み、体力を取り戻そうと試みる。傷を癒すより、長時間の戦闘で蓄積された疲労を回復させるのが最優先だ。少しでも動きが鈍れば一瞬にして刈り取られるのは明白だ。

「無駄なことだ」

 背後から声がして、はっと振り向く。そこには既にリアルが立っていた。

 すぐに回復魔法を中断して剣を構えて向き直る。まだ息が荒いままだった。

「すまなかったな。お前も力を取り戻しさえしなければこんな目に合わずに済んだものを」

「黙れ、どのみち我ら全てを滅ぼすつもりなのだろう。この力は、お前の計略などではなく、この私が、私自身が取り戻したものだ!」

「その魂の輝き、全てデータ化して、将来的に完全に再現させてみせる。この俺の中にな!」

「人形では無理なことだーっ!」

 ウィーナは全ての力を聖剣ジークに注ぎ込み、最大限の一撃をリアルに叩きつける。どうせジリ貧になってやられるなら、今この一撃に、全てを賭けた方がましである。

「うおおおおおおーっ!」

 リアルの咆哮と共に双剣が共鳴し合い、紫色の光を帯びた。そして、二つの太刀筋がウィーナに襲いかかる。

 再び両者を中心に大爆発が巻き起こった。そして、光の幕が吹きとび、巨大なクレーターが露わになる。その中心では、聖剣ジークを吹き飛ばされ、左の肩口を赤い剣で斬り裂かれたウィーナの姿があった。

「ぐあっ!」

 口から大量の血がこぼれる。霊鎧(れいがい)サリファが砕かれ、肩に埋め込まれた赤い剣はウィーナの骨と肉を断ち切っていた。文字通り、身を切られる痛みが走る。

「とどめだ! 死ね!」

 リアルが青い剣をウィーナの胸に伸ばさんと振りかざす。

 ウィーナは動く右手をリアルにかざし、指先から光線を発射しようと試みるが、間に合わない。ウィーナは覚悟を決めた。

 そのときであった。

「わああああああああっ!」

 絶叫と共に、横から小さい光の玉が凄まじいスピードで飛来し、リアルの胴体に突進してきたのだ。

「何?」

 流石のリアルも不意を突かれてはかなわず、ウィーナの肩口に押し込んだ赤い剣を手放し、遠方へと吹き飛ばされた。

「ウィーナ様!」

 自分の名前を呼ぶ聞き慣れた声。

「ああ……」

 か細い声を漏らし、ウィーナはがくりと膝を地面についた。

 光の正体は、色鮮やかな羽根を持つ小鳥のような戦士、幹部従者ハチドリであった。両足で、その小さな体に不釣合いな大きなカバンをつかんでいた。

「剣を抜きます! 堪えて下さい!」

 ハチドリはウィーナの左肩に埋まった赤い剣を、両の翼でつかみ、ウィーナの肩から引き抜いた。痛烈な痛みが走る。意識が吹き飛びそうだ。

「ぐっ!」

 そして、赤い剣を地面にうち捨てると、すぐに足にぶら下げたカバンを地面に放り出し、中を開けた。

 そのカバンの中には、大量の高級な補助・回復アイテムが詰まっていた。

 ハチドリは何も言わずにその中から、どんな深手も一瞬にして治療する最高級の回復薬・エリクサーを取り出してウィーナの肩口に振りかけた。緑色の神聖なオーラを帯びたエリクサーがウィーナの全身を満たす。一瞬にして吹き出す血が止まり、骨と肉と皮膚が再生、起床したばかりであるかのように疲労が回復する。

「ハチドリ! すまない!」

「ありがとうございます!」

 リアルが復帰する。一度はウィーナの下から逃亡したハチドリとの再会。両者に言葉を交わす時間はない。

 ハチドリは、アイテムの詰まったカバンを足でつかみ、地面に落ちているリアルの剣を手に取った。

「私は攻撃では役に立ちません! このアイテムを死守し、リアルの剣を奪って逃げまくります」

 そう言いながら、ハチドリはカバンの中からもう一つエリクサーを取り出し、ウィーナに投げた。

「頼む!」

 ウィーナがエリクサーをキャッチしようとした瞬間、一筋の光が目の前を横切り、エリクサーを消し飛ばした。その光はその先にいるハチドリをも狙ったが、彼は間一髪で回避した。

 続けてリアルが青い剣を両手に持ち迫ってきた。怒りの形相。この男は本当に心がないのだろうか。ハチドリはすぐにカバンと赤い剣を持って遥か遠方へと飛び去る。そしてウィーナはリアルに向かう。霊鎧サリファは破損し、その守りの力は半分程度にまで減ってしまったが、それ以上にこの回復は大きかった。このチャンス、何としても活かさねばならない。

 しかし、今までの正攻法では打ち負ける。こうなったら、一か八か、最後の手段を使うしかない。

 ウィーナの左手の人差し指に納まる「破理(はり)の指輪」が妖しげな輝きを放った。


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