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やるせなき脱力神  作者: 伊達サクット
第8章 心なき者に心臓を
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第82話 ラスト開始

この話からラスボス戦が始まります!

 ウィーナと冥王が降り立ったのは、冥界の果ての果て。

 暗い空に包まれた殺風景な岩場であった。

 半年前、握力大魔王の亡霊が出現した場所である。

 戦いの際に、握力大魔王の放った攻撃によってできたクレーターや、冥王が作らせたウィーナのモニュメントが遠方に見えた。

「民の税で余計なものを作ったものだ」

 ウィーナがモニュメントに目を遣り、呆れて言った。

「まさかこのタイミングで見てもらえるとはね」

 冥王が肩をすくめた。

 会話はそれきりで、二人は黙って来たるべき戦いのときを待ち続けていた。

 ウィーナも冥王も分かっていた。この冥界の変異に立ち向かった中心人物、冥王と勝利の女神がこうして待ち受けていれば、その奥に控えている黒幕も決着をつけにやってくる。そして、黒幕の意を受け状況をひっかき回していた小物共が退場すれば、決着をつける段階へと移行する。

 一連の戦いが収束の時を迎えようとしているのだ。ただし、それが自分達の勝利か、敵の勝利か。それはまだ分からない。

 ウィーナと冥王が勝利を勝ち取り、運命を切り開かねばならない。

「お前は見たのだな? リアルを」

 ウィーナがぽつりと言った。

「ええ。一度。ヘイト・スプリガンの件が片付いたとき。姿を見せた緑の髪の青年……。おそらくあのヤングマンがリアルデース」

「そうか……」

「力が戻ってからいきなりですが大丈夫デースか?」

「問題ない。とてもいい気分だ。それに一連の騒動で我が愛しき部下達を随分と失った。幸い闘志には満ち溢れている」

「ベリグー。ミーもです」

 それで会話は終わった。

 冷たい風が、兜からのぞかせるウィーナの髪を、そして冥王の衣装をなびかせ続ける。

 どれほど待ったであろうか。

 遥かなる遠方。首都の方角から巨大な力の気配を感じ取り、首を向けた。

 そして、丁度冥王も同じ動作をしていたところだった。

 冥王が嬉しそうに笑みを浮かべた。

「流石マイハニー。その研ぎ澄まされた感覚。素晴ら……」

「おしゃべりはいい。来るぞ。じきに……」

「OH……。こんなときもつれないデースね……。これが最後の会話になるかもしれないのに」

「私は勝つ」

 ウィーナは冥王に目もくれずに言い切った。

 冥王が『最後の会話になるかもしれない』などと自信なさげに言っているが、彼が負ける気などないのは分かり切っていた。彼の死は冥界の終焉も同義である。鬱陶しい戯言に付き合うのは戦いが終わった後で十分だ。

 今、ふと戦いが終わった後に戯言に付き合う気でいるのかと、自問自答した。そんな自分が少しだけ可笑しかった。

 そのとき、二人の前方に、金色の光が出現した。周囲の景色が明るくなる。

 ウィーナは腰の鞘から聖剣ジークを抜き、右手に構えた。

 そんなウィーナをよそに冥王は、両手を腰に手を回した姿勢で悠然と直立し、光を真っ直ぐに見つめていた。まだ戦闘態勢は取っていない。

 光は一瞬にして人型をなし、緑色の髪の、金色の瞳をした騎士風の青年の姿になった。鎧にマントを身に着けた戦装束である。

 温かさも冷たさもない、無機質な表情。捉えどころがない。これがリアルという男か。

「その様子では、俺が何者か知っているようだな」

 リアルは、よく通る澄んだ声で口を開いた。

「何となくはな。だが、お前が何者かなどには興味がない。何を目的としているかもな」

 ウィーナは剣を構えたまま言った。

「ミーの治めるこの世界でよくも好き勝手やってくれマーシたね。これは完全にミーに対するデクラレーション・オブ・ウォーデースよ」

 泰然とした様子のまま言う冥王に対して、リアルは怪訝な表情を作った。

「お前には用はない。俺の目的は勝利の女神を消すことだ」

「それを許すわけには行きまセーン」

「なら勝利の女神共々排除するのみ」

「HAHAHA! 命なき存在が、よくしゃべるものデース」

 冥王が嘲笑した。

「気づいていたか」

 ウィーナが言う。ウィーナも気づいたが、どうやらリアルは非生命体の類であるようだ。

「伊達に死者の魂が集う世界を支配してませんから」

 冥王が得意げに言った。

「では、始めよう」

 リアルが鞘から、真っ赤な刀身の長剣を抜いた。

 ウィーナは聖剣ジークを両手に構え、自らの内に秘めた力を一気に解放した。

 剣が、自身が、光に染まる。自らの目線で相手を抉る。

「きええええええっ!」

 掛け声を上げ、爆発力をもって一直線に推進。

 初太刀には全身全霊を込める。

 リアルの選択は剣で受け止めることだった。

 敵は聖剣の一撃を赤い剣で受け止めた瞬間。ウィーナとリアルを中心に、握力大魔王があのとき放ったビームなど問題にならない程の凄まじい力の波紋が周囲に広がった。

「HOOOOO! イヤーッハッハッハッハー! ブゥゥゥラボオオオッ!」

 周囲一帯が光に包まれたそのとき、光の中から、この上なくハイテンションな冥王の笑い声が聞こえた。何が楽しいのだ。ウィーナは若干いらついた。

「はああああああっ!」

 ウィーナは掛け声を上げて集中力を研ぎ澄ませながら、剣の応酬をリアルに浴びせた。

 その度に発生する互いの力の干渉によって発生する凄まじい波紋。光と瓦礫が渦をまき、景色そのものが踊り悲鳴を上げる。

 その最中、突如リアルの背後に冥王がワープ。リアルを背後からつかみ、動きを封じる。

 その隙に遠慮なくウィーナはリアルの喉元に剣を突き出す。

「無駄だ」

 リアルから凄まじい衝撃波が発せられ、ウィーナと冥王は遥か天空に吹き飛ばされ、そびえ立つ山々をいくつも貫通し、ようやく岩肌にめり込んだところで止まった。

 ウィーナは視界を確保するために、すぐに自身も周囲にエネルギーを放射して岩肌を蒸発させた。

 視野が明瞭になった瞬間に、リアルが光を帯びて飛行してくるのを見た。ウィーナも背中に光の翼を展開し突撃。ウィーナとリアルは再び正面から、しかし此度は地から足を離した状態で剣舞を演じる。すると冥王も飛来してきた。両の拳に闇を纏わせ、そして筋骨隆々の二の腕の周囲に呪文が構成された光の文字を渦巻かせ。

 ウィーナの剣舞に息を合わせ、目にも留まらぬ格闘技の応酬を見せる。

「ハアアアアアッ!」

「きええええええっ!」

 もしかしたらウィーナの剣舞より若干スピードが上かもしれない。

 リアルの赤い剣がウィーナのオーラを突き破り、幾重にも施した防御魔法をも貫き、スリットからのぞかせた太ももを傷つけてきた。

 ウィーナはすぐに距離を取り。舌打ちした。しかし。

「だからどうしたーっ!」

 すぐに体勢を立て直し、ウィーナは冥王とリアルに向かって飛翔し(ウィーナが手を休めたこの一瞬で、彼らは空中の遥か遠方に移動しており、すでに豆粒のように見えていた)、攻防に割り込んだ。

 ものの数分で、当たりの地形は様変わりしていた。

 冥王が先程放った禁断魔術『冥王殺烈衝』なる技がリアルに回避され、地面に当たったことで周囲からマグマが吹き出し、大地に枝分かれした赤熱の血管を描き出した。

 リアルが光に包まれ、その輪郭を歪めていき、四肢は一瞬に収束して光の玉になった。

 そしてそれは光の矢となり、冥王を射抜かんと迫りくる。

「ガッデム!」

 冥王が魔力のシールドを前面に展開し、それを迎え撃つ。

 光となったリアルは冥王の腹を貫通し、冥王の背後ですぐ人型に戻った。

「ぐおおおお!」

 野太い冥王の悲鳴が冥界に木霊した。

 その瞬間にウィーナは戦場に復帰。

「冥王!」

 ウィーナは左手で自らの魔力の三割を注ぎ込んだ継続性のある回復魔法を冥王の腹部にかけた。これならどんなに身体が欠損しても、完全に死んでさえいなければ間違いなく完治するはずだ。本当は、自らがこれから戦う分も考慮したとき、冥王のために一度の回復に割ける魔力はぎりぎり二割程度が限界だと思っていたが、結局はそれ以上の魔力を注いで回復させてしまった。

 そして、左手で回復魔法を唱えた同時に、右手の剣でリアルに斬りかかる。

「甘い!」

 リアルは赤い長剣で迎え撃ち、剣と剣が再びぶつかり合う。今までにない力の干渉が発生し、ウィーナの身体を内部から痛めつける。

「ぐっ!」

 片手で持っていた聖剣ジークがウィーナの手からこぼれ落ち、遥か下の地面へ落下していった。

「片手間で俺と斬り合えると思うなよ。女神ウィーナ!」

 リアルは初めてウィーナに対して嗜虐的な笑みを見せた。

 瞬時にウィーナは魔法主体の戦法に切り替え、両手を構えて渾身の無属性の攻撃魔法を放つ。青白い光がリアルを飲み込む。

 刹那、後ろから感じる殺気。振り向くとリアル。その頭上に構えられたのは赤い剣。

 またまた刹那、冥王が飛来、闇で包まれた拳でリアルを殴りつけ、大地に叩きつけた。

「ぐばああっ!」

 冥王の口からどす黒い血が大量に噴き出た。

 まだ腹には風穴が開いたままであった。回復しきらない内にウィーナの援護に入ったのである。

「冥王! まだ下がっていろ!」

 ウィーナは口調強く警告する。

「なんの! 足手まといにはなりまセーン! はああっ!」

 冥王が両手を広げて念じると、彼の周囲が闇に包まれる。すると、空や地面からどす黒い闇の柱が伸びてきて、冥王の身体にに吸い込まれていく。

 闇が晴れると、彼の腹に開いた穴や衣装は、元通り再生されていた。

「ミーはこの世界の王デース! この冥界の闇ある限りミーの存在は不滅! エターナルリバイバルデース!」

 冥王が息を切らしながら言う。

「なるほどな……」

 流石は冥王、ウィーナは感心した。

「マイハニーにも魔力をキャッシュバック!」

 冥王から闇の洗礼を受け、ウィーナの体内に失われた魔力が再び溢れてきた。

「闇の再生力か……。流石はこの冥界を治める存在なだけのことはある。だが息が上がっているようだが? そう何度も使えるわけではあるまい」

 背後から声がした。

 二人が慌てて振り向くと、そこにリアルが浮いていた。

 地面に叩きつけられ、鎧やマントに汚れがついている。

「大きなお世話デース……」

 冥王が苦し紛れに言葉を吐き捨てた。

「有意義なデータが蓄積される。楽しませてくれるものだ」

 リアルは鼻で笑った。

 そして、赤い剣を頭上で振り回すと、光の刃が無数に渦巻、二人に襲いかかる。

「させるか!」

 ウィーナは急速な機動でその刃を紙一重で回避しながら、手をかざして念じた。リアルを透き通った結界で包み込んだ。

 今まで多くの敵を封じ込めてきた結界。ウィーナの大技の一つである。

「はああああっ!」

 ウィーナは右手をかざしたまま魔力を込める。

 すると結界の中に無数の雷撃が発生し、リアルに襲いかかった。

 これなら確実にダメージを与えられるはずだ。

 しかし。

「無駄だ」

 リアルは剣を幾重にも振りかざした。すると、ウィーナの結界にいくつもの直線が刻まれる。その直線から黄色い光が漏れ、リアルは自らを囲む結界を粉々に切り刻んだ。

 光り輝くガラス片のような結果の破片が、口元を固く結んだウィーナの顔を映し出した。

(冥王、私が牽制する。力をためておけ)

 ウィーナは冥王の頭に自らの思念を送った。

(OK!)

 頭の中で冥王の声が響く。思念の返信だ。

(なるほど。息が合っているな)

 再び頭の中に響く声。リアルの声だった。まさか。

 ウィーナは思わず目を見開いた。冥王もリアルを驚愕の表情で見つめていた。

(どうした? やるんじゃないのか)

 再び挑発の思念が頭の中に投げかけられた。不敵に笑うリアル。

「こちらの心の会話を盗み聞くとは……。心がないくせに舐めた奴だなっ!」

 ウィーナは毒づいた後、手を頭上に掲げた。

 飛び散った結界の破片がリアルを包囲する。

「喰らえ!」

 ウィーナが手を振り払って無数の光線を発射した。

 光線は、凄まじいスピードで結界の破片に当たって乱反射し、縦横無尽にリアルの周りを駆け巡る。明滅を繰り返して反射を繰り返す光線を、リアルは最初から射角を完全に計算し尽しているかのように、全てを綺麗に回避する。

 ウィーナもこれは時間稼ぎが目的で、敵に通用するとは思っていなかった。

 冥王は当初の予定通り力をためて、必殺の一撃の準備をしている。

 そのとき、光線の一発がリアルに命中した。

 リアルが腕を交差して防御態勢を取る。

 すると他の光も反射しながら一気にリアルめがけて収束する。

「今だ冥王!」

 冥王の手に闇が発生し、それはドクロを模した禍々しい大鎌へと姿を変えた。

「うおおおおおーっ!」

 冥王が振り下ろした鎌から、巨大な闇の刃が放たれた。

 これは直撃すれば大きい。いけるか。

 しかし。

 リアルはウィーナの放った無数の光を浴びている最中にも関わらず、体勢を立て直して剣を振りかざし、返し技を放ってきた。

 真っ赤な波動が放たれ、前方の闇の刃と衝突。

 大爆発が巻き起こった。

「ぐっ!」

「ヒャー!」

 ウィーナと冥王は揃って爆発に吹き飛ばされた。身体の内部に凄まじい力の余波が駆け巡る。強靭だと自負する、女神の体内構造が悲鳴を上げる。

 息を切らしながら空中で対峙するウィーナと冥王とリアル。

 奇妙な間が訪れた。戦いの最中に訪れた静寂の中、両者はしばし睨みあう。

 気が付いたら、周囲の地形はすっかり変わって、完全に別の世界になっているかのようだった。山脈は崩れ、天は割け、マグマが吹き上がり地面を駆け巡る。降り立つ場所にも困るぐらいだ。

 場所を移動して正解だったと改めて痛感した。

 自分達が本気を出して戦うと、世界に与える影響が大き過ぎる。他人の巻き添えを気にせず、存分に力を振るえる場所と言ったら、このような世界の隅っこの不毛の大地しかないのだ。

 しかし、そんなウィーナと冥王が全力をぶつけても、リアルには未だ有効なダメージを与えられていない。

 このままではジリ貧を招く。何か有効策を考えなければ打開できない。

 ウィーナは歯を食いしばった。


・ニック


 冥界の住人である亜人タイプの戦士。

 冥民調の構成員で、デブギルドという謎のギルドの所属。

 まるで山のように大きな、異常なまでの肥満体の男。スキンヘッドで、眉毛も無い。

 3つ子の親衛隊が、ファウファーレの公開処刑の執行人として連れてきた。俊敏な動けるデブであることに加え、まるでスライムのようにどんな攻撃も跳ね返す弾力のある脂肪を持ち、異様なまでのタフネスを誇る。総合的な戦闘能力自体はファウファーレにやや劣るレベルだが、ファウファーレが一連の戦闘で体力を消耗していたことと、槍も受け付けない脂肪や前もって体中に塗ってきた魔法を跳ね返す油などのお陰で、ニックの一方的優勢となった。

 更には毒対策も万全であり、ファウファーレの隠し武器である毒爪も通用せず、ファウファーレの心を完膚無きまでにへし折って凌辱の限りを尽くし、処刑人としての役割を全うした。


HP 800 MP 0  攻撃力 200  防御力 500  スピード 400

運動能力 150  魔力  0  魔法耐性 20   総合戦闘力 2070


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