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やるせなき脱力神  作者: 伊達サクット
第7章 復活の女神
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第74話 小物達の黄昏

結果的に普通の冥界人と魔物の境界線が曖昧になってしまったのは失敗だった。

シュロンの変身後の姿の登場後に、ミズキやファウファーレが登場して、シュロンの変身後も別に冥界人感覚で見ればそんなおかしな姿ではない感じになってしまった。

あえて冥界人と魔物の違いを言うならば「デカい」ってことか。

 冥界民間軍事契約組織調整委員会の本部では動揺が広がっていた。

 冥王アメリカーンの絶対王制を排除して、民間人の手でこの冥界を支配するという委員会の野望。それが崩れ去ろうとしていたのだ。

 ダッシ委員長の耳に届いたウィーナ拉致失敗の報。そしてファウファーレの脱走。冥王に勝る武力を手に入れようとして計画した『ウィーナ量産化計画』。その鍵となるウィーナ本人を確保できないようではこの計画は台無しである。

 ダッシ達は冥王政府で起きた内乱の鎮圧に乗じて事を起こした。冥王軍の正規軍側に加担する一方で、魔術師ギルドから接収した破壊兵器デストロイ・エッセンス砲を城にぶち込むなど、派手な行動を起こした。

 委員会からウィーナやヴィクト、フンニュー副委員長など、ワルキュリア・カンパニーの派閥を排除して、万全を期した計画だったはずだ。

 デストロイ・エッセンス砲の発射に関しては、冥王城を占拠する反乱軍側が発射した砲撃と相殺され、戦果を得ることができなかった。冥王城に攻撃を仕掛けた事実に対しては、すでに反乱軍の手に落ちた城へ向かって砲撃したのだと言えば、批判はかわすことはできる。問題は、ワルキュリア・カンパニーの報復である。

「死んだサクス氏の話によると、ウィーナを殺したって……」

 本部の会議室で、ドーニンテンが苦々しげな顔をして言った。

「拉致するのが目的であるはずなのに殺してどうするというのだ。今まで苦労して地下新聞にリークするっていう算段をつけてきたのに、これでもうおじゃんだ」

 ウェアスクも怒りの表情を滲ませて言う。それはもちろん、ダッシ委員長も同じ思いだった。我らの野望をどうしてくれよう。

「ファウファーレの奴、許せん! 我々の同志まで殺しやがって! 所詮あんな女を信じた我々が浅はかだったということか」

 セーガは失意の表情を浮かべる。

「まあ、まあ、駄目だったのはしょうがないじゃないの。仕方ないわよ。それより、すぐフンニュー副委員長を牢屋から出して口止めを含めた懐柔をして、我々の計画の証拠一切を処分しちゃいましょう」

 コナミーが周囲の顔色をうかがいながら言う。

「いや、て、手ぬるいよ。フンニュー殿は知り過ぎた。こうなったら……もういっそのこと……」

 ガプコンが青ざめた表情で、追い詰められた表情で言う。口封じすべきだと暗に言っている。

「馬鹿言え! いくらなんでもそれはまずい! もしばれたらそれこそ我々の破滅!」

 ダッシは強い口調でガプコンをたしなめた。

「しかし委員長、ファウファーレは委員会内のウィーナ派を粛清したんです。今更善人ぶったところで……」

 ソーニが言う。かなりうろたえているようだ。

「さあな、そんなのあの女が全て勝手にやったことだ。我々は一切関知していない。もちろんサクスがウィーナを殺害したのも我々には一切関係ない。みんな奴らが勝手にやったことで我々は知らなかった。いいな?」

 ダッシはさも当然という風で言い放った。そりゃあそうだ。ファウファーレの醜態のせいで自分達まで破滅に引きずり込まれてしまってはたまったものではない。

 委員会から逃げてくれたのは却って好都合だ。ファウファーレ一人に全て責任を押し付けることができる。

「そ、そうか、なるほど……」

 バンナムが小刻みに首を振って、安堵の表情を浮かべていた。

「しかし、レディコマンドーがジョブゼと一戦交えた件はどう説明するんですか? 彼女は良く戦ったが、右腕を失い敗走。何でワルキュリア・カンパニーの者を襲ったんだと言われたらいかがします?」

 エニクスが不安げに発言した。

「アホか! そんなのワルキュリア・カンパニー側が我々にスパイを仕込んでいたから、それを追っていたと言えばいいだろう!」

 ダッシはエニクスの頭の回転の鈍さにイライラして怒鳴った。レディコマンドーはワルキュリア・カンパニーのスパイだったチューリーという人物を追って、それをかばうジョブゼと交戦したのだ。この一件に関してはこちらに分がある。

「あの、委員長。早く副委員長を牢から出して説得しないと。副委員長とて、委員会の解体までは望んじゃいないだろう。我々と共に後の処理に当たってもらわないと」

 ハードソンの発言に対して、ダッシは「うむ。すぐ牢に使いを寄こそう」と言い、深く頷いた。せめて最強戦士レディコマンドーさえ戦える状態だったらと思うと悔やまれてならない。

「ああああああ! らっきょ食いてえええええ!」

 らっきょ大臣が突然叫んだが、全員が無視した。

 議論も煮詰まってきた頃、会議室の扉が開き、角刈りの中年女性にして委員会最強の戦士・レディコマンドーが入ってきた。室内の運営委員達の視線が、彼女に向かって一斉に集中する。

「レディコマンドー。腕はどうしたのだ?」

 ダッシがすぐに注目したのは、ジョブゼに切り落とされたはずの腕だ。綺麗に再生していたのだ。切断された腕をこうも短い時間で治療できる術者が今の委員会にいただろうか。

「悔しいが、この女に治してもらったのさ……。ここに案内するっていう条件でね……」

 レディコマンドーはすっかりうなだれて、落ち込んでいる様子だった。

「ん?」

 ダッシが扉の奥に視線を移すと、そこにいたのは巨大な人影。いや、およそ人とは言えぬ見た目をしている女だった。

 上半身は六本の腕を持つ女性、そして下半身は巨大な蛇という姿だった。ダッシは冷静に振舞ったものの、にわかに背筋が凍りつき、思わず息を飲んだ。

「ひいっ!」

 コナミーがその姿を見て、血の気の失せた様子でのけ反り、口をパクパクさせる。

「みなさま、ごきげんよう。わたくし、勝利の女神ウィーナが従者・シュロンと申します」

 蛇女が尻尾を滑らかにくねらせ、妖艶な笑みを浮かべながら口を開いた。

 会議室の委員達は完全にこの異形の存在の放つ圧倒的な雰囲気に呑まれていた。

「シュロン。ウィーナの側近か。その姿は?」

 何とか勇気を振り絞って、ダッシは声を絞り出した。すると、シュロンはまたも妖しげな笑顔を浮かべた。しかし、ダッシを見つめる瞳は笑ってはいない。

「聞かない方がよいことよ?」

 そう言われたら聞くにも聞けない。思わず歯を食いしばる。

「ああ、ちなみに、ここに来るまでに何人か貴方達の手勢に襲われましたけど、殺さずに眠って頂いたから。心配なさらないでね」

「うう……」

 エニクスが声を詰まらす。

「ま、待て、何か貴殿は誤解しているようだが、我々は貴殿らの敵ではなく」

 ガプコンが口火を切ったが、その言葉は途切れる。なぜなら、新たな人物が部屋に入ってのである。

 豚の顔を持った中年男性の獣人タイプ。フンニュー副委員長だった。

「げっ!」

 ハードソンが仰天する。

「フンニュー殿……!」

 ドーニンテンも顔が引きつり、にわかに椅子から尻を浮かせた。

「らっきょ食いてええええ!」

 らっきょ大臣が絶叫する。

「話はみーんなフンニュー殿に聞かせて頂きましたわ。うふふふ。ウィーナ様を生贄にして、更には大切なウィーナ様の神器を触媒にするだなんて。そしてウィーナ様のお姿をした人形をたくさん作り意のままに操ろうとした。随分とやってくれましたわね」

 シュロンが尻尾をくねらせ、ゆっくりとダッシへ近づいてくる。

「ひっ!」

「あわわわ」

「うう」

「らっきょ食いてええええ!」

 シュロンが横を通り過ぎると、委員達は恐れおののいて彼女から距離を取ろうとした。

 シュロンは、そこで動きを止め、尻尾をくるくると巻きながら、恐れるコナミーに目を向けた。

「ねえ、私のこの姿。そんなに怖い?」

 投げかけられた問いに対して、コナミーは目に涙を浮かべ言葉を詰まらせる。

 シュロンは少しだけ悲しそうな顔をして、すぐダッシへと目を向けた。がっくりとうなだれて落ち込むコナミー。

「待て! 待て! 誤解だ! 我々は全てファウファーレに脅されて仕方なく!」

 ダッシは椅子から立ち上がり、シュロンの高い位置にある頭を見上げて訴えた。必死である。

「委員長! この期に及んで何言ってんだい! アタシらは負けたんだよ! かくなる上は一切の罪を認め、華々しく自死あるのみだああ!」

 レディコマンドーが興奮した様子で息巻いた。冗談ではない。

「いいですわ。それに関しては」

「は、はあ?」

 ダッシが拍子抜けしたように唇を浮かす。

「……わたくしもあなた方と同罪。ウィーナ様を生贄にしようとした点においては」

 言わんとしている意味が分からず、ダッシは何も言えない。

 シュロンはしばらく、ダッシを見つめていた。その瞳は何かの魔力を宿しているようで、吸いこまれてしまいそうな感覚に襲われた。募る恐怖心。

「あなた達にお願いがありますの」

「お願い?」

「ファウファーレはオッカー・ネ・モッチーノ爆爵の屋敷にいるわ。捕まえてくれるかしら?」

 シュロンは冷たくも優しげな笑みを浮かべて言った。

 ダッシが反応したのは速かった。レディコマンドーの腕を治し、屈服せしめるほどの強さを持った化物だ。従ってこちらに逆らう意思がないことを見せなければならない。自分達の今後の運命が彼女にかかっていると言っていいだろう。

「分かった! やる! やる! すぐ手勢を送る!」

 ダッシは必死に応え、すぐに構成員達にファウファーレ捕縛の命令を下した。

「大義なき者……情けなや……」

 フンニュー副委員長が、保身に走る委員達を見まわし、大きな豚鼻から徒労感を凝縮された鼻息を噴き出した。

 そのゴミを見るような目が屈辱的だったが、ダッシは返す言葉もなくうなだれるだけだった。

「らっきょ食いてええええ!」

 そんな中、らっきょ大臣だけは元気いっぱいだった。

「ハーッハッハッハ! 我らの大勝利、貴様ら肉体を滅ぼしてくれるわ! ファーッハッハッハ!」

 いつの間にか変なスライムも会議室に紛れ込んで、意味不明なことを言っていた。

 もはやダッシはまともに取り合う気力もなかった。


・ダッシ


 冥界の住人であるヒューマンタイプの戦士。

 オールバックの髪形で口髭を蓄えた鎧姿の騎士風の男。

 冥界民間軍事契約組織調整委員会(冥民調)の委員長で、派閥順送り人事で構成される運営委員の指導層の一人である。

 冥民調は、冥界に多く乱立するギルドや傭兵組織の利害を調整したり、共同で作戦を展開するための組織である。

 ダッシはワルキュリア・カンパニーのウィーナやヴィクトと同じ、委員会創生期のメンバーだがウィーナ達とは対立する派閥である。

 野心家で、かねてより冥王の絶対王政に反感を抱いており、民間の力で冥界を収めるという野心を抱いていた。ヘイト・スプリガンの暴走、それに合わせて勃発した冥界での悪霊の大量発生、反乱軍の決起など、一連の騒乱に乗じて宮殿を制圧し、冥界を牛耳ろうとしていた。

 反乱軍の決起の際は、表向きには冥民調は兵を出し、正規軍と共に悪霊退治や反乱軍の鎮圧に当たっていたが、裏では計画の実現のため、魔術師ギルドから超兵器「デストロイ・エッセンス砲」の徴収、政敵であるフンニュー副委員長の幽閉、ファウファーレを委員会幹部に抜擢しての「ウィーナ量産化計画」など、様々な策謀を巡らしていた。

 だが、ダッシを含めた運営委員のメンバーは結局のところ、ファウファーレの野望のためにそそのかされ、いいように転がされていただけであった。

 その後、ファウファーレがサクスを使ったウィーナ拉致作戦を失敗したことにより計画は破綻。結局はファウファーレが逆上して委員会の構成員を殺害してダッシらとは決裂する。

 ダッシ達もファウファーレを完全に見限り、彼女に全責任を押し付けて自分達は無関係の立場を貫こうとしたが、ウィーナの命令で冥民調の制圧にやって来たシュロンによって幽閉していたフンニューを奪還され、事の全ては露見してしまう。

 この期に及んでもダッシは全てファウファーレに脅されて仕方なくやったことだと見苦しく言い逃れをするが、シュロンは全てを不問にする代わりにオッカー・ネ・モッチーノ爆爵の屋敷に逃げたファウファーレを捕えるために兵を差し向けるよう持ちかける。

 ダッシら運営委員はこの提案を蹴る勇気も気力もなく、保身の一心で即答し、構成員を差し向けた。

 いざとなったら怯えて保身に走るばかりで、壮大な野心に釣り合わない器の小ささ、小物ぶりは、レディコマンドーを悲憤させ、フンニュー副委員長を失望させた。

 実際のところ、彼自身は割と強いのだが、基本的に自分は指揮官で後ろにどっしり構えるべきだと思っており、自ら剣を取って戦うことはない。

 尚、フンニュー副委員長を幽閉したときに殺しはせず、自分達の理想に同調するか委員会を去るかを選ばせようとしたり、フンニューの口封じを暗に示唆したガプコンをたしなめるなど、政敵同士であるもののフンニューにはある程度の情は持っていたようである。

 また、裏で陰謀を巡らしていたものの、冥界の騒乱を鎮圧させようと構成員を動員して治安維持の指揮を取っていたのは事実であり、単純に小悪党と言いきることのできない一面も持ち合わせている。


HP 200  MP 150  攻撃力 250  防御力 200 スピード 150

運動能力 150  魔力 250  魔法耐性 150  総合戦闘力 1500


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