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やるせなき脱力神  作者: 伊達サクット
第6章 殺戮の性欲
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第68話 ウィーナ量産化計画

 冥界民間軍事契約組織調整委員会・本部――。


 この施設の中枢で、構成員の魔術士達が時間をかけて魔力を結集し、巨大な結界を作り上げていた。床に張り巡らされた結界の上空には、ファウファーレが手に入れた霊鎧(れいがい)サリファが浮いており、下の結界に力を供給していた。

 ファウファーレは完成したウィーナ捕獲用の結界を前に、満足そう微笑んでいた。彼女の周囲には、ダッシ委員長を初めとする委員会の幹部達が取り巻いていた。

「貴様ら! この結界は一体何のつもりだ!」

 広間の扉が開き、一人の太った中年の豚の獣人が顔を出した。フンニュー副委員長である。

「見ての通り、ウィーナ委員を捕えるための結界ですよ。副委員長」

 ダッシ委員長が不敵な笑みを投げかけた。

「な、何だと! そこにあるのは霊鎧サリファ……」

 汗っかきのフンニュー副委員長が顔中に滝のような汗を流し、天井付近に浮遊するサリファを見上げた。

「そうです。そこのファウファーレが見事任務を果たし、ここに持ってきたのですよ。副委員長、あなたが命じたことだ」

 ダッシが馬鹿にするような口調で言った。

「そうだ。確かに私が受け取ったヴィクト委員から託された書状。そこには霊鎧サリファを取って来てほしいと書いてあったのだ。こともあろうにウィーナ委員を封じるための結界の触媒にするとは。貴様ら血迷ったか」

 戸惑うフンニューを見て、ファウファーレは笑いが止まらなかった。豚の馬鹿さ加減が面白くなり、思わず口角が吊り上がってしまう。

「おめでたいことね。まだ気付いてないなんて」

「ファウファーレ! お前も何か言ってやれ! こいつらはウィーナ委員を捕えようとしているのだぞ。何故指をくわえて見ているのだ」

「ごめんなさい副委員長さん。あなたに渡した書状、私がちょっと手を加えちゃった」

 ファウファーレは、委員会を訪れたビギナズからヴィクトの書状を受け取り、フンニューに手渡していた。その際、ウィーナの筆跡を魔法でコピーして、霊鎧サリファを取ってきてほしいという内容を書きくわえ、フンニューに渡したのだ。

「謀ったな……」

 豚は悔しさをにじませたうめき声を微かに漏らした。

「まあ、そういうことです。すみませんね副委員長殿。事が済むまで少々大人しくしていて頂きますよ」

 ダッシが言う。すると周囲を警備している兵士達が押し寄せ、フンニューの身柄を拘束した。

「冥界の危機の折にこのような情けない選択しかできないとは。委員会も堕ちたものだ」

 豚が吐き捨てた。

「副委員長。あなたは委員会結成以来の同志だ。できれば我らの理想に共鳴してほしい。だが、ワルキュリア・カンパニーに近い立場を取るあなたを説得している時間は今はない。しばらくの間、幽閉させてもらいますよ。なに、あなたは仲間だ。殺したりはしない。事が済んでから、我らと共に歩むか、ここを去るか選択してもらいましょう」

 ダッシが表面上だけ残念そうな表情で言った。

「一体、何をするつもりだ」

「まあ、それはおいおいと。見張りの兵にでも聞いて下さい」

 ダッシが言うと、豚は兵達に連行されていった。

 ファウファーレが推し進めたウィーナ量産化計画。力を失った弱いウィーナを捕獲して結界に閉じ込める。そして、ハイムが遂行しているリレー作戦の終了を待つ。女神としての力をウィーナが取り戻したら、協力者・リアルの能力をもってして、『勝利の女神』の複製をするのだ。量産型ウィーナはこちらの命令を何でも聞く最強の兵器となる。そうなれば冥王アメリカーンなど敵ではない。冥界を統べるのは自分達だ。

 力を取り戻したウィーナを封じ込めるほどの強さを持つ結界を作るには、神器である霊鎧サリファの守りの力を利用する必要があったのだ。

「さて、後はお前の手の者がウィーナ委員を連れてくるのを待つばかりだな」

「それは心配ありません」

 サクスの圧倒的な力をもってすれば、ウィーナを拉致してくるぐらい容易いだろう。ファウファーレは余裕のある態度を幹部達に示してみせた。

 ファウファーレにとってダッシ委員長を初めとする彼ら幹部も駒に過ぎなかった。現状では彼らに取り入って幹部の末席に加えてもらっている格好だ。しかし、あの緑の髪と金色の瞳を持つ男・リアルの力さえあればこのような委員会などあっという間に牛耳ることができる。頭を下げているのも今のうちだ。いずれリアルが冥界の王、ファウファーレは女王となる。

 ファウファーレは一旦結界の間を後にし、宛がわれている私室でサクスの帰りを待っていた。しかし、戻ってきたサクスはウィーナを連れてきていなかった。しかも、体中からぶすぶすと白い煙を出していた。強化処理の副作用で体の崩壊が進んでいるらしい。

 ファウファーレは苦しむ彼を部屋には入れず、廊下で出迎えた。

「ファウファーレ様あああ! 苦しいいい! キスしてくだしゃあああい!」

 かすれた声で必死に口づけを無心する。

「ウィーナはどうしたの?」

 ファウファーレが冷たい口調で言った。圧迫感を込めた突き放すような口ぶりで。

「ウィーナは間違いなく僕がこの手で殺しましたあああ! 安心して下さあああ! ぐるじいいいい!」

 それを聞いてファウファーレの心に怒りが込み上げてきた。それではこちらのウィーナ量産化計画が水泡に帰することとなる。

「はあああ!? 何考えてるのよアンタ! 私はウィーナを拉致してこいって命令したはずよ! 何で殺すのよ! それじゃあこっちの計画が台無しじゃないの! どうしてくれるのよ!」

 ファウファーレは弱っているサクスを前足の蹄で思いっきり蹴り上げた。

「んなことよりキスを……」

「はあああああっ!? のぼせあがるんじゃないわよ! 何であんたにキスなんてしなきゃならないの! 勝手に体崩壊して死ねよ」

 ファウファーレはもう一発キックを浴びせ、サクスを床に蹴り倒した。ファウファーレは自身の手を汚し、委員会に身を寄せていたワルキュリア・カンパニーの人間を排除し、内通者チューリーも始末した。なのに、ウィーナ一人つれてくることができないとは、何という役立たずだろうか。

「ぶじゃあああ! ぐえええええ!」

 サクスは悶絶しながらその肉体をドロドロに溶かし、その輪郭を失っていく。彼の骨や内臓は泥沼のように液化して廊下を汚していく。ファウファーレはこのような醜い死に様は今まで見たことがなかった。

「誰か来て!」

 ファウファーレは委員会の下っ端の構成員を呼び出し、死んだサクスの後片付けを命じた。せっかくリアルから教わった強化処理を施したのに、うまく使いこなすことができなかった。彼女は少なからず悔しい思いをしていた。

 ともあれ、ウィーナが死んだのであればウィーナ量産化計画は失敗に終わった。このままでは自身の委員会での立場が危ない。急ぎリアルに接触し、代替案を教えてもらう必要がある。

 そう考えていたとき、部屋をノックする音が聞こえた。開けると、委員会の下っ端構成員であった。

「どうしたの?」

「レディコマンドー委員が敗走してきました!」

「ええっ? 本当に? 嘘でしょう?」

 ファウファーレは驚愕した。レディコマンドーの実力はあの強化されたサクスより上のはず。委員会最強の戦士だ。それがジョブゼなどにやられるとは信じられない。こんなことならばレディコマンドーにウィーナの屋敷へ行ってもらえばよかった。

 ファウファーレの心に洪水のような動揺が押し寄せてきた。とにかく、すぐにでもリアルに会い、どうするかを相談しなくてはならなかった。



 ウィーナの屋敷――。


 意識を取り戻したら、不思議なくらいに頭の中が澄み渡っていて、いい心地がした。

 自分が寝室のベッドに横になっていることが分かったので、慌てて跳ね起きたりはしなかった。最後の記憶はワナンバーの放ったデッドリーガスを吸い込んだところである。どうやらあれから命拾いしたらしい。

「お目覚めになられましたか」

 メクチェートがベッドの横の椅子に座っていた。緑色の顔を神妙な面持ちに形作っている。

「……ああ」

 ウィーナは小さく答え、深いため息を天井に向かって吐いた。

「良かった……」

 メクチェートが安堵の表情を浮かべる。

 ウィーナはゆっくりと体を起こした。

「どうかそのまま横になったままで」

「構わん。今、意外なほど体の調子がいい。疲労も全くなくなっている。何か魔法をかけてくれたのだろう?」

「は、はい」

「そうか。ありがとう。こうして寝られていたということは、サクスは何とかできたようだな」

「はい。サクスは追い払うことができました。しかし、キッカイセー、チャピオ、マクシミリアン、ワナンバー、エイカン、メメントモリ隊、大納言アズキが犠牲となりました」

「そうか……」

 これほど規模が小さい戦いに、何という数の犠牲者だろうか。自身の無力さを痛感する。結局自分が強かったのは、ただ女神だったというだけのことだったのだ。

「ケニー殿は行方不明です。おそらく逃げたのかと。フィーバとハッシャーも逃げてしまいました」

「では、残ったのはお前とユーイか」

「そうです。ユーイは逃げたサクスの尾行を命じてあります」

「分かった。……サクスめ。あのとき、許しさえしなければ。私はなんという愚かな判断を」

「いえ、あのとき仮に解雇していたとしても、同じ結果になっていたと思います。それこそ、奴を殺しでもしない限りは」

 メクチェートが気遣いの言葉をかけた。

「すまない……」

「いえ、とんでもございません。それで、まだ報告が」

「ああ」

 メクチェートの眉間に皺が寄ったのが分かった。切り出し辛そうな雰囲気を感じる。

「シュロン殿が生きていました」

「何だって!」

 ウィーナが驚愕した。確かにシュロンはあのとき完全に息の根を止めたはずだった。なんという生命力なのだろう。

「サクスとの戦いの最中、シュロン殿は復活しました。ウィーナ様が毒を吸って意識を失われた直後、ウィーナ様の危機を感じ取られたのではないかと思います」

「信じられない……」

「はい、私も信じられないです。しかし、実際にシュロン殿は起き上がって、あのサクスを追い払ってくれたのです。……そして、私はウィーナ様の毒が回らないように仮死状態にしたのですが、毒が強力で私の力では回復しきれませんでした。そこをシュロン殿が一瞬で治療してくれたのです」

 ウィーナはメクチェートの報告を、相槌を交えながら真摯に聞いた。シュロンに助けられたとはまったく皮肉な話だった。彼女にはどのような心境の変化があったのだろう。

「シュロン殿は、今、自らに呪いをかけ、自分の罪を償っているところです」

「どういうことだ?」

 ウィーナが咄嗟に問いかける。

「自分の体を傷つけ続けて、再生するということを繰り返しているのです。一階の大浴場にいます」

「なんということを……。お前が止めてやることはできなかったのか」

「はい。残念ながら。ご自分で強力な呪術をかけてらっしゃるので。正直言いまして、どうすることもできません。もうウィーナ様でも……」

「そうか。ならば聖剣の力で何とかしよう」

「えっ? そんなことが?」

「可能だ」

 ベッドの横には、聖剣ジークが立てかけてあった。ウィーナは下着姿のままそれを手に取る。どのみち風呂場へ行くのだ。このままの格好でもいいだろう。それに、シュロンが苦しんでいるとしたらすぐに会わなければならない。

「ならば、シュロン殿を許して下さるのですね?」

 メクチェートが期待を込めた様子で問いかけた。

「いや、まずはシュロンと話す。決めるのはそれからだ。そのためにもまずは馬鹿なことをやめさせる」

 ウィーナはベッドから出てすぐに浴室へと向かった。メクチェートも後についてきた。


・サクス


 冥界の住人である魔族タイプの戦士で、ウィーナに仕える平従者である。青い肌と、背中にコウモリのような翼をもつ美男子だが、これは後述する「施術」によって手に入れた姿であり、元々は全く違う容姿だった。

 過去に組織で禁じられている魔界との契約を結んで、パワーアップを図ったことがあり、契約解除の上、減給3ヶ月の処分を受けている。

 以前からウィーナに対して下心を持っておりウィーナを手に入れたいと思っていた。ファウファーレにその願望を利用され、彼女の手駒となる。元々は平従者として標準的な力しか持っていなかったが、ファウファーレがリアルから授かった錬金術を施された結果、強大な力と美しい姿を手に入れた。

 しかし、ファウファーレの施術の未熟さと、度を超えて強化し過ぎた副作用により、精神は邪悪に染まり歪みきっている。更にはファウファーレより枷として「一定時間おきにファウファーレとキスをしないと体が崩壊する」という制約がかけられており、これによってファウファーレに従わざるを得ない状況と、不要になったらいつでも彼女に切り捨てられる状況を作り出している。

 ファウファーレの命令によって、ウィーナ量産化計画の要となるウィーナをさらうためにウィーナの屋敷に乗り込む。そこで圧倒的な戦闘力で、屋敷にいるウィーナの部下や冥王軍の特務部隊を次々と殺していき、屋敷を血の海にした。

 しかし、戦いの中で、ワナンバーのパーティーアタックでウィーナが死んだ(と思われていた)ことにより発狂。ウィーナを屍姦しようとすらしたが、ウィーナの部下達の必死の食い下がりによりよって長期戦となり、ファウファーレのキスが必要となる時間が来てしまい、屋敷から撤退。委員会本部ファウファーレの元に逃げ帰るが、ウィーナを連れてこれなかったことを知られるやファウファーレに罵倒され足蹴にされ、肉体が崩壊を起こして死亡した。 


HP 1800 MP 1400 攻撃力 800 防御力 550 スピード 800

運動能力 900 魔力 1700 魔法耐性 550  総合戦闘力 8500

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