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やるせなき脱力神  作者: 伊達サクット
第6章 殺戮の性欲
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第66話 餓狼の足音

「メクチェート殿」

 ハッシャーがとりあえず立ち上がり、メクチェートの元へと駆け寄った。

「やっぱりかなりやれている」

 ハッシャーがメクチェートの身を案じた。そしてハッシャーはぐったりと倒れているフィーバの方も振り向いて、顔をしかめた。

「悪い。何か魔力を回復できるやつを……」

 メクチェートがかすれた声をしぼりだした。とにかく、自分の魔力さえ取り戻せれば何とかなる。回復魔法はメクチェートの専門分野だ。

「はい!」

 すぐにハッシャーは倉庫の方へと走っていった。

 ハッシャーが倉庫から持ってきた魔力回復薬のおかげで、メクチェートは使い切った魔力を補給することができた。まずは、意識不明の重体であったフィーバを蘇生させる。次に、体中の骨がガタガタでろくに動けない自分の体を自由にし、仕上げに、軽傷のハッシャーも癒した。

 血だまりと死体だらけの凄惨な大広間。こんな惨たらしい状況の中で、男三人はウィーナの死体を囲んで立ち尽くしていた。

「何てこった……。もうワルキュリア・カンパニーもお終いだな。ハイム殿には申し訳ないけど」

 フィーバがウィーナの死体を見下ろして、そっけなく言った。

「そんじゃあ、もう自由解散ってことで。いいですかねえ?」

 ハッシャーが弱々しい口調で切り出した。表情からかなりの精神的疲弊が読みとれる。一刻も早く帰りたいのだろう。

「ウィーナ様は死んでない」

 メクチェートが静かに、しかし力強く言った。

「ええっ!?」フィーバとハッシャーが面食らう。「何で?」

「実は、さっき私がかけた魔法は回復魔法じゃない。仮死状態にして体の機能を停止させる魔法なんだ」

「そうだったのか。じゃあウィーナ様は今どういう状況なんだ」

「だから仮死状態だ。毒の進行も止まっている。何とかデッドリーガスを浄化しようとしたけど、もう死ぬ寸前で体中が毒素で溢れていたから無理だった。だから、咄嗟の判断で解毒の魔法から仮死状態にする魔法に切り替え、毒の流れを止めたってわけだ」

「なるほど……」

「どうして教えてくれなかったの?」

「敵を欺くにはまず味方からだ。アイツにはウィーナ様が死んだと思わせておく方が都合がいいと思ったから」

「でも、それいい具合に功を奏してましたね」

 サクスにウィーナが死んだと思わせたおかげで、随分と攻める隙ができたし、撃退することができたのだ。

「じゃあ早速仮死状態を解いて復活させてあげようぜ」

「駄目だフィーバ。そんなことしたらすぐに毒が回ってウィーナ様は死んでしまわれる」

「あ、そっか。じゃあ毒を回復させてから仮死状態を解くってことか」

「だけど、こうまで隅々まで毒に蝕まれていてはすぐには浄化しきれない。本当に死ぬ寸前だったんだ」

「じゃあ浄化魔法をかけて、ゆっくり時間をかけて洗い流すしかないですね」

「そうだな」

「とりあえずウィーナ様を寝室まで運ぶか。こんな場所ではあまりにも」

 フィーバが広間を見回しながら言った。戦いに身を置く人間でなければ、この光景を見たら血相を変えて逃げ出すであろう。

「そうっすね」

「ハッシャー。ウィーナ様を」

 メクチェートの指示に従い、ハッシャーがウィーナの体を持ち上げ、三階の彼女の寝室へと向かう。メクチェートとフィーバもそれに続いた。

「メクチェート。お前に全てがかかってるんだぞ。頼むぜー!」

「分かっている。任せろ」

 三人は、寝室のベッドにウィーナを寝かせた。

 メクチェートは解毒の魔法を唱え続けた。パンツ一丁だったフィーバは装備を身に付けた後、清潔なタオルでウィーナの体の汚れを拭き取っていた。ハッシャーはメクチェートに使う魔力回復役をもっとたくさん運ぶため、再び倉庫に向かっていた。

「フィーバ! 脚とかは念入りに拭いて差し上げろ。何せアイツがベタベタ触ってたからな。怪しげな液体でもへばりついていたらウィーナ様可哀想だよ」

「お、おう」

 仮死状態のウィーナの看病を続けていたら、何やら激しい足音が聞こえてきた。

「メクチェート殿! フィーバ殿! 大変どええええす!」

「ん? どうした?」

 フィーバが警戒し、サーベルの鞘に手を伸ばした。

 部屋に血相を変えたハッシャー飛び込んできて、床にたくさんの魔力回復役を放り投げた。

「シュロン殿の死体が消えてました!」

 メクチェートとフィーバの表情が、にわかに固まった。



 城下町・路地裏――。


「うおおおおおっ!」

 ジョブゼの手斧がレディコマンドーの圧倒的なるオーラをはねのけ、片腕を切断した。

「ぐわあああああ!」

 猿そっくりの角刈りの中年女性、レディコマンドーが血を噴出させながら絶叫する。

 一方、ジョブゼも幾度となく相手の攻撃を受けて満身創痍の状態であった。体中から血が吹き出て、青い鎧はボロボロに砕けており最早防具の役目を果たしていない有様だ。

 レディコマンドーの方が強さは圧倒的に上であったが、ジョブゼは戦闘への狂的な執念のみで戦っていた。強い相手と殺し合うことこそが彼にとって至上の喜びであった。

「ハハハハ。ハーッハッハッハア!」

 彼は目を血走らせて笑う。死の恐怖など微塵もない。楽しくて仕方がなかったのだ。また、自分が負けるともどうしても思えないのだ。相手の方が間違いなく強いというのに。現に彼は敵の腕一本を奪った。

「楽しいなあオイ! どうする? 次はもう一本の腕か? それともどっちかの脚にするか? ハーッハッハッハ!」

「ヒッ……ヒイイイイ!」

 レディコマンドーは恐怖で顔を引きつらせて、地面に転がった自分の腕を拾った。

「お、覚えていろ! 覚えていろよテメー! このままで済むと思うなよ! アタシにゃまだ可愛い息子達がいるんだよ! 今度会ったときはアタシら親子の力を見せてやる!」

 レディコマンドーは必死に捨て台詞を言い放ち、委員会の本部の方へ逃げていった。

 恐怖に彩られた相手の顔を見て、彼は急速に闘志を失っていった。戦意を失った負け犬を追い討ちしてもつまらない。ジョブゼは彼女を追わずに、黙って背中を見送った。

 戦闘は終わった。

 体中が傷ついており、全身に痛みが走る。

 しかし、強敵を打ち負かした後の心地よい消耗と疲労であった。この傷が癒えたとき、また自分は強くなる。ジョブゼは心の中でほくそ笑んだ。

 彼は上機嫌でその場を後にし、ウィーナの屋敷へと向かった。今頃、自分が逃がしたチューリーがウィーナと合流しているはずだ。寄り道はこのくらいにして、自分もウィーナの側で戦った方がいいだろう。

 しかし、そんなジョブゼの調子に乗った心持ちは、この後出くわす光景に打ち砕かれることになった。

 彼が見たのは、町の路地裏に横たわる女の死体。チューリーの死体だったのだ。真っ青な血だまりに横たわる彼女の表情は、苦悶を形作ったまま硬直していた。その頬に手を伸べると、ジョブゼの掌に冷たい悲しさが伝わった。

(そうか……。俺としたことが……)

 頭の中で悔恨する。

 レディコマンドーという強大な敵を自分が引きつけておくことに集中し過ぎて、一人で行動するチューリーにさらなる追手が襲いかかる事態を想定して立ち回れなかった。もし、自分がレディコマンドーと戦うことにこだわらずに、チューリーを連れて逃げることに専念していたら、こんな結果にはならなかったのではないか。

 一人で行動させず、ずっと自分が一緒にいてやればよかったのではないか。彼女の護衛を最優先として。

 自分自身に対する怒りが沸いてきた。自分の闘争欲求を満たすためにこのような事態を招いてしまうとは。どんな強敵相手にも死の恐怖を感じず、高笑いしながら戦う狂戦士が初めて自分自身の行いに対して恐怖したのである。強敵と戦いたいあまりに客観的に情勢を見極める視点を欠き、仲間を死なせることになった結果に恐怖した。そして、その恐怖は、自身の愚かさに対する怒りでもあった。

 ジョブゼは、チューリーの胸にぱっくりと開いた傷口に鼻を近づけ、犬のように臭いを嗅いだ。彼女の血の臭いと、その中に混ざった、致命傷を負わせたであろう武器の臭い。その臭いをジョブゼは記憶した。

 ジョブゼはチューリーの着ているコートを物色した。手がかりになるような物はなかったが、彼女は衣服の中にあらゆる暗器を隠し持っていた。ジョブゼはその中で、敵に向けて投げつけ、血を噴出させる魔水晶の針に注目した。

「借りるぜ」

 ジョブゼは針を数本取り出し、携帯している革袋に乱暴にしまい込んだ。

「墓を作ってる時間がない。これで勘弁してくれ」

 ジョブゼは立ち上がり、背中のマントを外した。そして、静かに、優しい手つきで、そっとチューリーにかけてやった。

(……殺ったのは誰だ? どこのどいつか知らねえが、貴様にも体から血が流れ出る恐怖を味わわせてやる)

 ジョブゼは頭の中でそう考えながら、迷いなく歩みを進めた。

 もうウィーナの屋敷に向かうつもりはなかった。餓狼(がろう)の如く、ただ獲物の臭いに従い突き進むだけだった。


・ファウファーレ


 冥界の住人である獣人タイプの戦士で、ウィーナに仕える管轄従者である。

 上半身は、背中に天使のような翼を携え、褐色の肌をした人間の女性で、下半身は白銀の体毛に覆われた馬という半人半獣の体を持つ。

 上半身の至る所に呪文を模したトライバルタトゥーが刻まれており、ビキニアーマーを着用している。

 武器は長槍で、体格を活かして高い位置から繰り出される攻撃はリーチが非常に長く、相手にとっては戦い辛い。

 下半身から繰り出されるキックを主体とした格闘も強力な一方で、多くの魔法を操り、空を飛べることも相俟って死角がない。

 また、戦闘用の魔法の他にも、遠隔地で情報を集めてくる蝶を召還したり、変身魔法や他人の筆跡をコピーするなど、一般的に習得が難しい諜報関係の魔法もマスターしており、工作員としての手腕も一流である。

 その高い戦闘能力もさることながら、任務・仕事に関しても非常に優秀で、組織に入ってから異例のスピードで管轄従者にまで昇進し、幹部従者への昇格も確実視されていた。

 一方で、裏では冥民調に通じているなど、影で暗躍している節があり、ウィーナは以前から真意を探る為にチューリーに様子を探らせていた。ウィーナが力を失った時点でワルキュリア・カンパニーを早々に見限っており、ヘイト・スプリガンの事件に乗じて周到に準備していた計画を実行に移し、ウィーナの敵となった。

 計算高く権謀術数に長け、自分のイメージを悪くせずに他人を利用するのが得意。バングルゼ・リザルト・トリオンフ・チューリー等、多くの仲間を手玉にとり、サクスのウィーナへの執着を利用して手駒にした。野心が強く、彼女にとってはワルキュリア・カンパニーや冥民調も自身が冥界でのし上がる為の踏み台に過ぎない。

 計画の邪魔になるバングルゼ達やチューリーを闇に葬ったが、本来は自ら手を汚すことを嫌う。


HP 380 MP 350  攻撃力 300  防御力 210 スピード 390

運動能力 300  魔力 350  魔法耐性 270  総合戦闘力  2550


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