第65話 ウィーナ死す
ウィーナ死す(笑)。
アイムストローング! マイネームイズストローング!!!!
「ウィーナ様!?」
メクチェートはユーイからウィーナを受け取り、床に静かに下ろした。
何度もウィーナに呼びかけるが、彼女は全く反応しない。目をつぶってぐったりとしている。
「そんなあ……」
ホウキを降りたユーイは悲しそうな表情でウィーナの顔を覗き込んだ。
「ウィーナ様あああっ!」
ウィーナを奪われたサクスが、猛然とメクチェート達の元へと追いすがってきた。
フィーバも脇を通り過ぎていったサクスの後をふらふらと追う。
「はあああああっ!」
メクチェートは高らかに掛け声を上げ、両手をウィーナの胸に添えた。そして全身全霊の魔力を流し込んだ。彼の肌をダラダラと汗が流れてる。
「あああ、ウィーナ様! 死なないで……」
サクスが表情を泣きそうに歪めてうろたえる。どうしていいか分からないようで、戦うどころではないらしい。
「サクス、お前は私の肩の水晶玉に手を置け。そして魔力を注入するんだ」
メクチェートが振り向き、敵に協力を願い出る。サクスは何の迷いもなく、メクチェートのアーマーの肩に装着されている水晶玉に手を置いた。
この水晶玉は彼の魔力をアップさせてくれる補助効果がある。サクスの協力により、彼の魔力はさらにアップし、ウィーナを覆う魔力も強さを増した。彼女を包む青白い光は一層輝きを増す。
それを見たユーイも、メクチェートのもう一つの水晶玉に手を乗せようとした。
「ハッシャーを頼む」
メクチェートはユーイを制止し、別の指示を下した。ユーイは「は、はい!」と返事をし、倒れているハッシャーの元へと走った。
フィーバは遅ればせながら、ユーイの代わりにメクチェートの肩の水晶玉に手を乗せた。そして、自分の持っているありったけの魔力を注ぎ込む。
「くっ……かっ……ぬううううう!」
メクチェートは苦悶の表情を浮かべる。食いしばった歯から我慢するような声が漏れる。
「メクチェート頑張れ!」
フィーバが応援の言葉をかける。
「貴様! 絶対に回復させろ! もしウィーナ様が死んだらどうなるか分かってんだろうな!?」
サクスが莫大な量の魔力を注ぎながら、苦し紛れの言葉を吐いた。
「だったらもっと魔力を貸せ! めいっぱい流し込め! うおおおお!」
メクチェートが飛ばした檄に応じて、サクスはとにかく魔力を流しまくった。
「かああっ!」
一際大きな掛け声を上げた後、メクチェートの掌から魔力の小爆発が起こった。ウィーナの胸元で淡い光が弾ける。
メクチェートは仰向けに床に倒れ込み、激しく息を切らす。応じて、彼らの周囲を覆う青白い魔力の幕が消え去った。
フィーバとサクスがウィーナに殺到する。絶え間なく彼女の名を呼び続ける二人。
フィーバが白く滑らかなウィーナの手首を取った。
「脈がない」
青ざめた顔でフィーバが呟く。
「そんな! 嘘だ! 嘘だああああっ!」
サクスが頭を抱えて泣き叫び、フィーバを乱暴に突き飛ばした。そして、彼女を抱え込んで泣き叫ぶ。
メクチェートは息を切らしながらその様子を茫然と見つめる。
「うわあああああ! 畜生! 畜生っ! ちくしょおおおおおおおお! ちくしょおおおおおお!」
サクスは絶望から泣き叫び、天井を見上げ咆哮した。大きなシャンデリアが振動でビリビリ震える。
「ウィーナ様が死んだ。死んだのか……。勝利の女神が。神が、死ぬのか……」
フィーバが相変わらずの血の気の失せた表情で、淡々と事実を呟く。
「うるせええええ!」
サクスの凄まじいパワーを秘めた八つ当たりがフィーバに飛んだ。
「ぶげ!」
フィーバは無抵抗で殴り飛ばされ、床に吹っ飛んだ。
「貴様! よくも、よくもおおおおお!」
サクスが倒れるメクチェートを見下ろした。彼の鋭い爪が赤いオーラに包まれ、まさに振り下ろされんとしていた。メクチェートはウィーナにかけた魔法に全身全霊をつぎ込んでしまったため、逃げる力も残っていない。
この絶体絶命の状況下において、メクチェートは息を切らしながらも、全く恐れたり取り乱したりする様子を見せなかった。ただサクスの怒りと憎しみを帯びた目を見据えている。
「……何かウィーナ様に言い伝えることは?」
メクチェートが毅然とした口調で問いかけた。
「ふざけんな貴様ああああ! うわああああ!」
サクスが涙をボロボロと流し、腕を振り下ろそうとした瞬間、彼の挙動が止まった。
「がっ……!」
潰れたような悲鳴を出し、彼の口から赤い血が吹き出る。そして腹から剣の切っ先が顔を見せる。
ユーイの回復魔法を受けて動けるようになったハッシャーが、剣でサクスの背中を刺したのだ。先程彼が拾った、死んだメメントモリ隊が遺したオリハルコンの剣だった。伝説の金属と言われる程の貴重な素材。軽量かつ尋常ならざる硬度と切れ味、破壊力を持ち合わせた超高級品である。
「くそおおおお!」
しかしサクスは止まらない。崩れた体勢をすぐに立て直し、構わずメクチェートに攻撃しようとする。
その瞬間、シャツとトランクス一丁のフィーバが、振りかざされた敵の手首を剣で切断した。宙を舞ったサクスの手が血しぶきを散らす。手を覆っていた赤いオーラがバチンと弾けて消滅し、ごとりと音を立てて床に落っこちた。
フィーバはサクスに殴られた後、すぐ側に転がっていたメメントモリ隊隊員の死体が持っていたダマスカス鋼の剣を拾っていたのだった。
「ぎゃあああああ!」
サクスが目を見開き、夜中に盛る野良猫のような悲鳴を上げた。
サクスはたまらず背中の翼を開き、空中に逃げようとする。しかし、それも何者かに阻まれた。メクチェートが、床から飛び立とうとするサクスの足首に、渾身の力でしがみついたのだ。
「今だユーイ!」
メクチェートが叫ぶ。
「わああああああああ!」
女の甲高い掛け声が大部屋に響き渡った。ホウキにまたがり、上空からサクス目がけて一直線に飛来するユーイ。その両手には、ウィーナが戦いの最中床にこぼれ落とした聖剣ジークが握られていた。
「おのれええええ!」
サクスは生き残っている片手を高く掲げた。すると彼の周囲に凄まじい勢いの衝撃波が放出された。
衝撃波によってフィーバ、ハッシャー、ウィーナやメメントモリ隊の死体、そしてサクスの足にしがみついていたメクチェートはたまらず部屋の隅へと吹き飛ばされた。しかし、サクスに突撃するユーイだけはその勢いを緩めなかった。彼女が前方に突き出している聖剣ジークが、衝撃波を斬り裂き、掻き分けているのである。
剣を持っているユーイは恐怖で目をつぶっていた。何がなんだか分からないまま、とにかく突貫しているだけだった。
「ヒッ……」
サクスの顔が恐怖で引きつる。次の瞬間、聖剣ジークはサクスの横腹に深々と突き刺さっていた。
「ぎいい……ち、ち、ちくしょおおおおおおお!」
サクスの叫びと共に、彼の口から血が噴き出された。血走った目つきで目の前のユーイを見据えている。その壮絶な光景にユーイの顔が引きつる。
「ひいいい、ごめんなさーい!」
ユーイは聖剣ジークから手を離した。
「か、勘違いしないでよ? べ、別に、あんたの為にやったんじゃないんだからね! あんたが敵だから普通に攻撃しただけなんだからね!」
ユーイがよく分からない弁解を口走りながら、すぐにホウキを反転させてサクスから遠ざかった。
「ん、ぐがあああ!」
サクスは刺さった聖剣ジークを引き抜き、乱暴に床に叩きつけた。
「フィーバ殿、生きてますか?」
「あうう……」
部屋の一角ではハッシャーが額にかかる血を拭う仕草を見せながら、床に倒れ込むフィーバに手を差し伸べているところだった。ハッシャーは先程剣と一緒に拾ったオリハルコンの盾で衝撃波を防御しており、ダメージを軽減していたのだ。
「うわああああ! ぶううわあああああ!」
サクスが奇声を上げながら、滅茶苦茶に両手を振り乱し、足をばたつかせ、手首の断面から血を噴射させながら暴れ始めた。
「何あれ……。踊ってんの?」
ユーイが上空に滞空しながら、怪訝な表情をサクスに向けた。
「ぎゃああああ! ウィーナ様ああああ!」
サクスは奇妙な挙動を続けながらウィーナの死体へと駆け寄った。そして、ズボンを下ろして下半身を露出させた。
ウィーナの背後に回り、乱暴にうつ伏せにした。そして、まだ使える手で足首をつかんで、片足ずつV字型に開いた。既にサクスの股間にぶら下がる肉棒は硬化し、槍の如く突き出ていた。
「き、貴様っ!」
メクチェートが苦し紛れに声を上げるが、魔力を全部使い切ってしまった上に、先程の衝撃波で壁に叩きつけられ、体の至る所を骨折していた。身動きが取れない。
「わああああ! それはアウト! アウトだってばー!」
上空のユーイが困惑の声を上げるが、サクスは聞く耳を持たない。
「ううう……。これはやめさせますか?」
ハッシャーがフィーバに目を流す。一方、彼に肩を担がれている状態のフィーバは「女神を、屍姦するか……」と返したが、ハッシャーの質問には回答しなかった。
メクチェートは、力を振り絞って杖を床に立てた。そして、杖を支えにして何とか立ち上がろうとしたが、体中の骨が彼の体の内部を痛めつけた。彼はあえなく床に崩れ落ちる。やはり立てない。
「みんな、ウィーナ様の亡骸を守ってくれ! ウィーナ様を汚しちゃ駄目だ!」
メクチェートは力を振り絞って叫んだ。一方、サクスはウィーナの白いパンティを脱がそうと試みたが、先に股を開かせてしまったので、これでは脱がせられないことに気が付いた。
「アイム、ストロング! アイム、ストローング!」
サクスは意味不明な言葉を発しながら、片手でウィーナの屍の足を閉じ、パンティを脱がすべく手を伸ばした。
「フィーバ殿。メクチェート殿がああ言ってますが。私が止めますか?」
ハッシャーのオリハルコンソードを握る手が震える。
「別にいい。どうせ死体だ。むしろ時間が稼げて好都合だ」
フィーバが小声でぼそりと言った。
「で、ですが……」
「あいつの力は分かるだろ。下手すれば」
「ううう……」
ハッシャーがうめく。
「アアアアアアア! ボクは優良種族だあああ!」
サクスは叫びながらウィーナのパンティをつかみ、激しく上下に揺すっていた。引っ掛かったようで、片手ではうまく脱がせられないのだろう。
「ユーイ! ケニー殿は?」
メクチェートは再び声を振り絞り、ユーイに問いかけた。
滞空したまま様子を静観していたユーイは、困惑した表情をメクチェートに向けた。
「それが、ベッドから消えてたんです。向こうの方はくまなく探したんですが、全然いなくって」
「何だって?」
逃げたのだろうか。元々期待していなったのに、この状況で少しでもケニーを戦力としてあてにしたことを彼は後悔した。
「ここは俺に任せろ」
フィーバは肩を担いでもらっているハッシャーの助けを退た。独力でよろめきながら歩き出す。そして丸腰のままサクスへ近づいていく。
「おいお前!」
「ああああん!?」
サクスは再び奇声を発しながらフィーバに向き直った。
「あ、いや、まあ、あの、ウィーナ様は死んだ。こうなったらもうお前にも俺達にも戦う理由はない。無駄に体力を消耗したって意味ないだろ? お互いもうボロボロだ。こっちも攻めるのはキツイが、お前もキツイだろ。どっちが死ぬか分からない。えーと、ほら、だからさあ、もう、ここでやめにして、お互いやることに干渉なしでいかないか?」
フィーバが明るい口調を努めて出し、サクスに相談を始めた。
「何を……。フィーバ……」
メクチェートが手を震わせ、フィーバに対する失望で歯を食いしばる。このままではウィーナの亡骸はサクスの手によって凌辱されることになる。
「グヒイイイイ、何言ってんだザコ虫ぃぃぃ、君達は殺すよおおおおお!」
サクスは掌をフィーバに向けて、真っ黒な衝撃波を繰り出した。
「わあああああ!」
「危ない!」
ハッシャーが両者の間に割って入り、オリハルコンの盾を構えてフィーバをかばった。
二人は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。フィーバは血を吐いて、ぐったりと倒れた。
「フィーバ殿! フィーバ殿!」
ハッシャーが呼びかけるが、返事はない。
「うっぎゃあああああ!」
そのとき、突然またサクスが悲鳴を上げた。そして、つかんでいたウィーナの脚から手を離し、全裸のまま再び暴れまわる。
「ぐ、ぐるじいいいい!」
「な、何なの? 今度はどうしたの?」
ユーイがその様子を見つめる。
「やべええええ! キスがああああ! 誓約があああ! ファウファーレ様ああああ!」
サクスがのたうち回って叫ぶ。
「ファウファーレ様?」
メクチェートがオウム返しした。
「様付けなんだ……」
ユーイがぽつりと言った。
「何でファウファーレ殿の名前がいきなり出てくるんだよ」
フィーバの安否を気遣いながら、ハッシャーがサクスを注視する。そのとき、彼はサクスの体中から真っ黒な煙が放出されていることに気がついた。
「うわああああああん! ファウファーレ様とキスしなければあああ!」
「ファウファーレ様とキス!? 貴様はウィーナ様を望んでここに来たのではなかったのか?」
メクチェートが問いただす。
「ぎゃあああ! ぐるじいい! も、もう死んだ奴のことなんてどうでもいい! ボクが愛する女性はファウファーレ様ただ一人だああああ!」
「な、何だって!?」
「ぶべらあああ! はべらああ! ファウファーレ様に会いたいよおおお! キスしたいよおおお! 体が維持できないいい! あべしいいい!」
サクスは体中から煙を出したまま、翼を広げて飛び上がり、屋敷の窓に突撃した。
「アイアム、ストローング!」
ガラスを突き破って、サクスは冥界の空へと逃亡した。
「ユーイ! 跡をつけるんだ!」
メクチェートが命令する。ユーイは「分かりました!」と言い、すぐにサクスの後を追う。
「待って」
メクチェートがユーイを咄嗟に呼びとめた。
「はい」
「無理するな。安全第一だ。気取られるぐらいだったら逃げてこい」
「了解です」
ユーイは微かに笑顔を見せ、すぐ真顔に戻った。そして、ホウキを飛ばして窓から飛び出していった。
「ウィーナ様……。チャピオ、キッカイセー、ワナンバー、マクシミリアン、大納言アズキさん……、フィーバ殿……」
ハッシャーがうなだれた様子で周囲を乱雑に転がる死体を見回しながら、ウィーナの死体に近付く。そして、放心した様子であぐらをかいて側に座り込んだ。
メクチェートも体中の痛みをこらえ、ウィーナの元へ這い進んでいた。
・ワナンバー
冥界の住人である魔族タイプの魔術士。平従者。
色白で人相の悪い男。一般的な杖を装備している。
平従者でありながら中級レベルの各種攻撃魔法を使いこなすが、スキルがただ魔法を撃つ為だけに偏向しており、それぞれの魔法が持つ危険性はおろか、魔法使いなら最低限知っておくべき基礎知識すら欠落している。また、魔力の扱いに関しても洗練性の欠片もないため、魔力の消耗が激しい。
ヘイト・スプリガン事件の際、非番だった部下の一人で、とりあえずウィーナの屋敷で待機していた。サクスが屋敷に乗り込んできた際、戦闘前に興奮して暴走した派遣従者・大納言アズキに意味もなく殴り飛ばされて失神。目が覚めたときはマクシミリアンによって敵の方角へ突き飛ばされて見捨てられた。サクスに迫られるがままに、仲間の内情をあっさりと吐露するが用済みと判断され殺されそうになり、咄嗟の口八丁で嘘を言いまくり命乞いをした。メメントモリ隊が増援に駆けつけた隙をついて魔法で相手の視界を奪い離脱。その後、メメントモリ隊はあっという間に倒されて再び狙われたが、エイカンが駆けつけたのを機に逃亡。
屋敷の3階まで逃げ、マクシミリアンに自分を見捨てたことをしつこく罵る(尚、ワナンバー自身も直前に仲間のエイカンを見捨てて逃げているが、その点については一切触れていなかった)が、逆ギレされてボコボコに殴られる。そうしている間にマクシミリアンもサクスの魔法を遠隔で食らって爆死する。ワナンバーはその光景に絶叫して屋敷の窓から飛び降りて逃亡を図るが、駆けつけてきたメクチャートとハッシャーと鉢合わせになり、無理矢理屋敷内の戦闘に駆り出された。
ウィーナがサクスに捕まった際、毒ガスを放射する魔法「デッドリーガス」を唱えウィーナもろとも攻撃するが、サクスには通じず、ウィーナだけが瀕死の重体となった。ワナンバー自身も、自分で出したガスを自分で吸って窮地に陥る。迫るサクスに対して炎の魔法を使おうとしたが、その瞬間にガスに誘爆してしまい、自爆してしまった。散々命乞いをして奇跡的にも一旦は生き延びたが、皮肉にも自らの手で命を失うことになった。
HP 70 MP 160 攻撃力 30 防御力 30 スピード 150
運動能力 40 魔力 200 魔法耐性 90 総合戦闘力 770




