表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やるせなき脱力神  作者: 伊達サクット
第6章 殺戮の性欲
62/98

第61話 首コキャ大納言

サクスがウィーナの肉体を狙ってウィーナの屋敷へ攻めかかる。

サクスのウィーナへ向ける一方的な感情が、屋敷を血の海に染める。

 ウィーナの屋敷の中はにわかに騒然となった。

 なにしろ、屋敷を覆っていた結界がどういうわけか、突然消え去ってしまったのである。

 正面玄関を入ってすぐの、一階のエントランスホールに、屋敷に身を寄せている従者達が集結した。日常生活魔法の使い手ユーイ、剣を携えた戦士チャピオ、槍を持つ戦士マクシミリアン、魔術士ワナンバー。そして、ツインテールの髪をした、ヒラヒラのドレスのような服を着て、自身の背丈よりも巨大な大剣を信じられないくらいの細腕で抱える幼女戦士・大納言アズキ。合計五名。

 大納言アズキは他の組織から人材派遣でやってきた非正規雇用の派遣従者で、その他四人は平従者だ。

 ウィーナ、フィーバ、エイカンは休息のために屋敷の三階で寝ている。冥王軍特務部隊・メメントモリ隊の六名は一階の仮眠室を借りて休息を取っている。

「結界がどうなったってんだ?」

 ハイエナの獣人・チャピオが頭部の耳をピクピク震わせながら言う。

「分からんが警戒した方がいいな。外のキッカイセーにどうなったか聞いてくるか?」

 続けてトカゲの姿を持つ爬虫類系の種族であるマクシミリアンが舌をチロチロさせながら言った。

 ユーイはキョトンとした顔で、ワナンバーは腕を組んでしかめっ面だ。

「嫌なのです~! 怖いです! 怖いです! 私怖いなのです~! いやーんいやーんなのです~!」

 幼女の大納言アズキが細い腕で抜き身の剣をブンブンと振り回しながら、頭を左右に振り乱して怖がった。

「うわ! 危ねーから振り回すな!」

 ワナンバーが慌てて振り回される剣から避難した。

「ワナンバー。この子絶対ぶりっ子だよ……」

 ユーイが辟易して声を漏らすと、彼女の虹色に輝く前髪も心なしか陰りを見せた。

「ぶりっ子じゃないですの! アズキはぶりっ子じゃありませんことなのですわの~!」

 途端に大納言アズキはそのゴスロリの衣装を振り乱して憤慨し、ワナンバーに食ってかかった。

「何だその語尾!? それに何で俺なの? 言ったのユーイだろ!」

「ムキ~! 駄目ですの駄目ですの~! プンプン~!」

「え、何!? プンプンってお前」

()っちゃうですの! ()っちゃうですの~!」

 突然大納言アズキは拳を振りかざして、目にもとまらぬスピードでワナンバーにパンチのラッシュを加えた。

「ぶへああああ!」

 ワナンバーは鼻血を噴出させて床に倒れ込んだ。手に持っていた杖が彼の手を離れてコロコロと転がり、音もなく止まる。彼は完全に伸びていた。

 それを見て凍りついたように固まるチャピオ、マクシミリアン、ユーイ。

「こ、このクソガキ……!」

 チャピオが怒りの声を絞り出した。

「違うです~! この手が勝手に、この手が勝手にやったんです~!」

「はあ?」

 チャピオがあんぐりと口を開け、思わず牙をのぞかせる。

「それにアズキは今年で35歳です~! 年上に向かって口のきき方に気をつけるですなのです~!」

 大納言アズキはその場でワタワタと謎の踊りをかましながら言った。

「35!? うひー! まさに魔法少女!」

 ユーイが両手で口を押さえてリアクションを取った。

「お前らワナンバーのことも思い出してやれよ……」

 マクシミリアンが床に転がるワナンバーを見つめて言った。

「ふ、ふげええ……」

 憐れワナンバーは、ヒクヒクと震えてダウン中だ。

「歳なんてどうでもいい! この派遣野郎が、正規従者に逆らうってのか! ええ!?」

 チャピオがそう言ったところで、突然玄関が開け放たれた。

 そこにいたのは、背中に巨大な悪魔の翼を携えた、上半身が裸で、青い肌の美少年であった。

「何者だ貴様!」

 チャピオが剣を抜き、切っ先を侵入者に向けた。

「サクスだよ。チャピオ、久しぶりだね。マクシミリアンにユーイも……。そっちは派遣のアズキちゃんだね」

 侵入者はサクスと名乗った。サクスは随分前から無断欠勤しており、ウィーナの屋敷に姿を見せずにいた。

 一同は不審に思う。どう見ても以前のサクスとは全くの別人であった。

「俺達を知っている……」

 マクシミリアンが槍を構え、鋭い眼光で相手を見据えた。

「ウィーナ様はどこ?」

 サクスを名乗る男は爽やかな笑みを浮かべながらこちらに近づいてきた。

 そのとき、チャピオはサクスの手が血塗られていることに気が付いた。

「貴様! キッカイセーを……」

「ああ、殺したよ。あんなザコ」

 あっけらかんとした表情でサクスは言った。

「それ以上近づくと撃つよ!」

 ユーイが杖を構え、先端に魔力を凝縮させた。

 その様子を見てサクスが不気味な笑みを浮かべた。

「何言ってんだよ。君達ごときがボクに勝てるわけないだろ……」

 それを聞いたチャピオが「はああああっ!?」と怒りの表情で声を上げた。

「おいマクシミリアン聞いたか? 今トンデモ発言が出たんですけど? 俺達四人に向かって『勝てるわけがない』だとよ?」

「この野郎が本当にサクスでそんなこと言ってるんだったらマジで頭が沸いてるな。サクスじゃなくってもただのイカレた野郎だ。まあ、どっちみち殺すことには変わりはない」

 マクシミリアンがチャピオに目配せして顔を歪めた。

「うははははなのです~! ブチ殺しちゃうなのです~! プリプリキュアキュアセラセラムンムンなのです~!」

 大納言アズキもハイテンションではしゃぎまわった。

「あ、あう~……」

 床に倒れてピクピクと震えるワナンバー。

「あ、いいこと思いついた!」

 ユーイの頭上で電球が光った。側に転がるワナンバーの杖を拾い上げ、両手に杖を持った。

「ジャーン! 二刀流! どう? どう?」

 ユーイが両手の杖をこれ見よがしに周囲にアピールした。

「ふん、力を持たない君達には分かるまい……。超越した者の恐ろしさなど……。ボクは君達とはレベルそのものが違う崇高な生命体に生まれ変わったのだよ。ウィーナ様はこのボクにこそ相応しい」

 サクスがウィーナの従者達を見下すように、自己陶酔的に語った。

「ぎゃはははは! 腹痛てー! なんだこいつ面白過ぎる!」

 チャピオが爆笑した。マクシミリアンも馬鹿にしたように笑い出した。大納言アズキは先程から満面の笑みだ。

「でもこいつサクスだ。間違いねえ! こんなこと真面目な顔して言うのは冥界中探したってあいつしかいねえ! マジでウケるし! こいつ魔界との契約解除された次は全く別の姿になりやがった。整形ってレベルじゃねーぞ」

 マクシミリアンはほとんど警戒を解いた状態で、槍を床に立てて砕けた仕草を取った。

「くびり殺しちゃうですの~! 八つ裂きにして臓物を食らい尽くしちゃうですの~! てへぺろ☆ 嫌アアアアアア! らめえええええっ! アズキそんな残酷な話ダメなのですのコリン星! 女子力高いからそんな怖い話ダメなのよさイチゴ姫! よくも残酷な話しやがったなゴルァ! 臓物引きちぎるぞテメエエエエエ!」

 大納言アズキは最初は泣きそうな表情で怖がっていたが、唐突に怒り狂い剣を振りまわした。危ない。

「あ、あううう~」

 未だに床に転がって鼻血をドクドク流すワナンバー。誰も彼を介抱してくれない。

 ユーイは二刀流のネタを披露したが、その場にいる全員に無視されていることに気が付いた。

「……あれ? 私って、もしかしてこの中じゃ一番キャラ薄い!? ヤバッ! せっかく24話以来の再登場なのに!」

 ユーイは自らのキャラを無理矢理濃くするために、意味不明なことを口走っが、引き続き全員から無視された。

「ブチ殺したるわゴルァアアアアなのです~!」

 大納言アズキ35歳は剣をブンブンと振り回しながらサクスに突撃した。

 サクスは大納言アズキの大剣を軽く回避し、彼女の首をつかんで180度ひねった。ゴキリと嫌な音がした。

「ぐぺばっ!」

 大納言アズキは首をへし折られて倒れ込んだ。うつ伏せだが捻られた首は天井を仰ぐ。目の焦点が定まっていないアヘ顔で死んでいた。

「へえ~。綺麗に折るもんだな」

 マクシミリアンが意外そうな表情で、感心したように大納言アズキの死体を見下ろした。

「勝手に突っ込むから……。知ーらないっと」

 ユーイが苦笑いを微かに浮かべて大納言アズキの死体から目をそらした。

「次はお前達がこうなる」

 サクスはチャピオ、マクリミリアン、ユーイに向けて不敵な笑みを浮かべて言った。

 それを聞いたチャピオは面倒くさそうな表情でため息をつき、頭をポリポリと掻いた。

「いや、派遣だからコイツ。なんか勘違いしてるみたいだけど。それでいい気になられても困るぜまったく」

 チャピオは剣の刀身を指の腹で撫でる。すると、刀身は青白く帯電して雷の属性を宿す。

 チャピオとマクシミリアンが同時にサクスに向かって飛びかかる。

 それに一瞬遅れて、後方からユーイが二本の杖を組み合わせて、炎の攻撃魔法『ファイヤーボール』を放った。

 ファイヤーボールが山なりの軌道を描き、前方を走るチャピオとマクシミリアンの頭上を追い越し、サクスに命中した。サクスは直立したまま動こうとしない。

 燃え上がるサクスに対し、間髪いれずにチャピオの剣とマクシミリアンの槍が襲いかかった。

 しかし、彼らの武器がサクスを捉えた途端、剣の刀身と槍の穂先はへし折れ、乾いた金属音を立てて床に落ちた。

「えっ?」

「何っ!?」

 チャピオとマクシミリアンの顔が引きつる。

 サクスの反撃が始まった。目の前のチャピオにその手をかざす。光が凝縮する。そして、エントランスホール一面を青白く照らす。

「エターナルフォースブリザード!」

 サクスが高らかに技名を宣言した。ユーイやマクシミリアンは部屋の温度が急速に低下するのを感じた。

「ま、待て! 待て! すいませんでした! どうか命だけは! 助け……」

 チャピオは慌てて命乞いを行ったが、サクスは構わず掌から激しい冷気を放射する。一瞬にしてチャピオの全身が凍結し、そのまま床に倒れ、粉々に砕け散って霧散、消滅した。

「……相手は死ぬ」

 サクスがエターナルフォースブリザードに負けじと冷たい視線で、次の獲物を物色する。マクシミリアンとユーイの顔が恐怖一色に染まった。

「う、う~ん……」

 そのとき、倒れていたワナンバーが頬に手をあてがいながらふらふらと起き上がった。サクスやマクシミリアンに背を向けている。

 マクシミリアンは体中を覆う鱗を恐怖で逆立たせ、柄だけになった槍を投げ捨てサクスに背を向け逃げ出した。その進路にはあさっての方を向いているワナンバーが立っていた。

「邪魔だどけえっ!」

 マクシミリアンはワナンバーを押しのけ、背後のサクスに向かって乱暴に突き飛ばした。それを見てユーイも屋敷の奥へ向かって走り始める。

「ユーイ、お前はメメントモリ隊と医務室のケニー殿を呼んでこい! 俺はフィーバ殿を呼んでくる!」

 マクシミリアンはユーイに言いながら大階段を駆け上がった。

「了解!」

 ユーイも一階の奥にある仮眠室に向かって進み始めた。

 サクスは自分に向かって突き飛ばされたワナンバーの胸ぐらをつかみ、キッカイセーのときと同様に持ち上げた。たちまちワナンバーの両足が床から離れる。

「わあああ! 何ぃ! 何が? 何が!?」

 ワナンバーは今自分が置かれている状況が全く理解できていなかった。

「ウィーナ様はどこだ?」

 サクスが殺気を放ちながらワナンバーに問う。ワナンバーは必死に首を回して周囲を見回すと、背後でユーイとマクシミリアンが自分を見捨てて逃げようとしている光景が目に入った。

「おい、お前ら! どこ行くんだ! 助けてくれオイ!」

 ワナンバーは二人の背中に向かって必死に訴えかけた。

「待ってて、すぐに冥王軍の人を呼んでくるから!」

 そう言ってユーイは構わず屋敷の奥へと姿を消した。

「ワナンバー、ウィーナ様には立派な最期だったと報告しておく。悪く思うなよ……」

 マクシミリアンが暗く沈んだ表情を一瞬だけ作りそう言うと、またすぐに必死な形相に戻って階段を駆け上がった。

「ふ、ふざけんなああああ!」

 ワナンバーが叫ぶ。

「ウィーナ様はどこだ!」

 サクスの手から電撃が放射され、ワナンバーの全身を電撃が走り抜けた。

「ぎゃああああ!」


 ワナンバーの悲鳴が屋敷に響き渡ったその頃、ユーイは厨房から持ってきた鍋とおたまを両手に持ち、仮眠室へ転がり込んだ。

 ベッドが並ぶ薄暗い仮眠室では男の軍人五人と、カーテンで敷居を作った奥で女性の騎士一人が眠っていた。

「起きろ! 起きろーっ! スクランブル! スクランブル! スクランブルエッグー!」

 ユーイは頭上で鍋とおたまをガンガン叩いて大きな音を響かせながら、やかましく騒ぎ立てた。

 さすがは訓練された軍人達といったところか。メメントモリ隊の六人はあっという間に跳ね起きた。

「何事ですか?」

 シャツとズボン姿の隊長ヘンリーが力強い表情で尋ねた。頼もしい。

「侵入者です! 凄く強くて私達の手に負えません。このままではウィーナ様も!」

「敵はどこに?」

「一階の、玄関入ったところの大広間!」

「了解した。メメントモリ隊! 出動!」

 ヘンリー隊長の命令のもと、他の隊員達はベッドの脇に置いてあるオリハルコン、ミスリル、ダマスカス鋼の装備品を一つ一つ身に付け始めた。

「あの? 何してるんですか?」

 すぐに部屋を出ない隊員達を見て、ユーイが苛立ちながら尋ねた。

「装備がなくては戦はできん!」

 兵士の一人が声を荒げた。

「急いで急いでーっ!」

 ユーイはたまらず鍋とおたまをガンガン鳴らしながら仮眠室をかけずり回った。


・キッカイセー


 冥界の住人である魔族タイプの戦士で、ウィーナに仕える平従者である。

 メイスと盾を装備した鎧姿の男で、肌は赤く、顔の大きな一つ目が特徴。ヘイト・スプリガンの事件発生時は非番だったため、後にウィーナの屋敷に出向き、屋敷の門番をしていた。元同僚のサクスいわく、「門の前で突っ立っているしか能のない男」。

 サクスがウィーナをさらいに屋敷に来た際、メクチェートの張った結界が邪魔で入れないでいるところを、立ち去るように警告していた。しかし、ケニーが別の場所に設置してある精霊石を取りはらったことにより結界は崩壊、キッカイセーはサクスに襲われる。

 怒り狂ったサクスに喉をつかまれ、キッカイセーはサクスに待つよう必死に訴えるが、お構いなしのサクスによってなぶり殺しにされてしまった。


HP 60 MP 20 攻撃力 70 防御力 100 スピード 40

運動能力 50  魔力 40  魔法耐性 60  総合戦闘力 440

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ