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やるせなき脱力神  作者: 伊達サクット
第5章 勇者と王女の夢の国
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第59話 インフィニット・インフィニター

 冥王の城・儀式の間――。


「覚悟はできています。私は本来生きていてはいけない存在」

 全裸の中年の男・カマセーヌは覚悟を決めた表情でそう言った。

 アツアーはミラージュソードを構えて、無力な存在となったカマセーヌの元へ歩みを進めた。

「あんたはそこまでイケメンコのことを恨んでいたのか」

 アツアーが静かに問う。固唾を飲んな表情で見守る兵士と神官達。

「はい。かつての握力大魔王との戦いで、私はイケメンコの引き立て役として死にました。私は冥界の底で眠りにつきましたが、その後、イケメンコが国王となり、王女のメルーリア様を妃として迎え、錬金術によって富を創り出していることが我慢ならなかったのです。そして、死んでも死にきれず、ヘイト・スプリガンという悪霊となってしまったのです」

「ああ」

「しかし、ヘイト・スプリガンになったのは、私だけの力ではありません。私の恨みの力を無限大に増幅させ、最強の悪霊にした者は、リアルという男でした」

「リアル?」

 アツアーや兵士一同は、新しい名の出現に少しばかりざわつく。

「リアルは自らを夢の騎士と名乗りました。私が死ぬ前、リアルがイケメンコに錬金術を授けたのです。イケメンコにとって最も大切なものと引き換えに。その大切なものが、私、カマセーヌであるとイケメンコは言ったのです」

「なるほど」

 アツアーは頷きながら、カマセーヌの語りの内容に思いを巡らせる。引き立て役として死んだとは、そのことであったのか。

「イケメンコは私に死んでくれと頼みました。握力大魔王の力は強大。人間の手でどうあがいても勝ち目はない。勝つには人を超えた万能の力、錬金術をリアルから授かるしかないと。彼はそう言いました。私は快く引き受けました。このままでは魔族に世界を征服されるのは時間の問題だったし、何より勇者イケメンコが私のことを最も大切なものだと言ってくれたのが嬉しかったのです。世界を救うためなら私は喜んで命を投げ出せる。こうして私はリアルとイケメンコの契約に、命を捧げたのです。しかし、死後、冥界で眠る私の前にリアルが姿を現しました。そして私に言いました。イケメンコは嘘をついたと。彼が本当に一番大切にしているものは王女メルーリアであったのだと。イケメンコはメルーリアの肉体に錬金術を施し永遠の時を与え、彼女の意識で管轄するシステムの中に国民の全ての心を封じ込め、その中で幸せを与え続けていると。そして、当のイケメンコは私のことを『あのような無能者、死ぬことくらいでしか役に立たんからな』と罵っているのだと。リアルは私に下界の映像を見せて、眼前にその証拠を突きつけました。そして、私に最強の悪霊となり、復讐をするように言い、私をヘイト・スプリガンにしたのです」

「なんてこった……」

 アツアーはつぶやく。

「なるほど、それではそのリアルという者が黒幕ということだな」

 後ろから声が聞こえた。振り向くと、アツアーのすぐ後ろに、元冥王アメリカーンが立っていた。

「あれ? いつの間に?」

「さっきから私はここにいた。傷を回復したからこうしてお前達に合流し、この者の長話を聞いていたのだ」

 アメリカーンは儀式の間の中央に立ち、周囲の兵や神官に向かって力強く語りかけた。

「皆の者、既に戦いは終結した! 私は最上階で決着がついたことを悟り、既に停戦の指示を正規軍・反乱軍の両方に出してきた。よってこれ以上の争いは無用である!」

 周囲に立つ反乱軍の兵士や神官は既に先程武器を捨てて降伏していた。彼らは一様に悔恨の表情を浮かべ、力なくうなだれた。

 アツアーは周囲に耳を傾けたが、既に戦いの喧騒は収まっていた。

「キヌーゴは麻痺状態で、あそこで神官達の介抱を受けています。キヌーゴが回復したら、王位継承の儀式を執り行いましょう」

 アツアーは部屋の奥で倒れているキヌーゴに視線を送りながら言った。

「うむ」

 アメリカーンも力強くうなずく。

「フフフフフ……。ハーッハッハッハッハッハ! ハーッハッハッハッハッハ!」

 突然、どこからか野太い笑い声が鳴り響いた。

「何者だ?」

 アツアーが周囲を見回すが、敵の気配はない。

 突如、真上から轟音が響き、天井が一瞬にして凄まじい光の爆発によって消滅した。

「うわあああ!」

「ひえええ!」

 兵士達が恐怖して叫ぶ。

 青天井となり、冥界の空が一望できるようになった儀式の間。その大きく口を開いた虚空に、巨大な陽炎が揺らめき、一人の中年男の巨大な顔が出現した。

 勇者イケメンコだ。

「イケメンコ! 貴様は死んだはずだ!」

 周囲を取り巻く兵士達の一人が上空に向かって叫んだ。

「キヌーゴ様の回復完了しました!」

 叫んだ兵士とほぼ同時に、神官達が報告する。

「ふう……。死ぬかと思ったわい……」

 キヌーゴが立ちあがり、額の汗をぬぐって安堵の表情を浮かべる。

「黙れえええ!」

 突然、イケメンコの声と共に天空から光の柱が降り注ぎ、キヌーゴに直撃した。

「ぎゃああああ!?」

 キヌーゴは真っ黒焦げになり、再び床に倒れた。神官達は慌てて回復魔法をかけ直す。

「貴様がイケメンコか?」

 アメリカーンが上空に映しだされる顔に向かって問う。

「いかにも!」

「何故生き返ったのだ?」

 アメリカーンが再び問う。イケメンコは儀式の間にいる者達を見下ろし、不敵な笑みを浮かべた。

「クックック……。死んだのは肉体だけだ。我が魂は死んではおらん! 私は全能の錬金術を操り自らの命を精神的不死性体へと昇華させ、マインド・インフィニターとしてこの冥界に君臨したのだ!」

 イケメンコが怒りの形相で話した。

「精神的不死性体? マインド、なんたら? アメリカーン様、それは何ですか?」

 アツアーが怪訝な顔つきでアメリカーンに問う。

「知らん……」

 アメリカーンは首をかしげた。

「ええっ! アメリカーン様でも分からないんですか? あれ悪霊じゃなくって?」

「よく分からん……。多分あの者が今作った言葉ではないのか?」

「何でもいいけど、あんな遠くにいたんじゃ剣が届きません! まあ、どっちみち、あれ幻影なんでしょうけど」

 アツアーが苦虫を噛み潰した表情で言う。さしものアツアーでも、剣の射程から余りにも遠く離れた者に対して攻撃することは不可能だ。しかも、あれは本体ではなく、ほぼ間違いなく幻影の類だ。

「カマセーヌ! 正直失望したぞ! よもや悪霊になり果てて私とメルーリア様の築き上げたメルール王国を脅かすとは!」

 イケメンコが恨みをにじませた声を儀式の間全体にぶつけてきた。

「それは悪かったと思っている。しかし、私はリアルによって無理矢理悪霊にされて……」

「キヌーゴ様の回復、完了です!」

 神官達の報告の後に、再びキヌーゴが立ち上がった。

「黙れ! 言い訳を言うなあああ!」

 そのイケメンコの台詞と同時に、再び天空から光の柱が降り注ぎ、どういうわけかキヌーゴに命中した。カマセーヌではなく。

「ぎょへええええ!」

 再びキヌーゴは真っ黒焦げになって倒れた。神官が再び回復を試みる。

「イケメンコ! お前は随分勝手なことを言うじゃないか。元はと言えばお前が錬金術を手に入れる為にカマセーヌの命をリアルに渡したのが原因だろう!」

 アツアーが上空のイケメンコの顔に向かって言い放つ。

「メルール王国の命運とカマセーヌの命ごときを一緒にされてもらっては困る。まあ、もうそれもどうでもいいことだ」

「何だと?」

「今やインフィニット・サイコロジーと化したこのイケメンコにとってもはや下界や冥界など関係ない。メルーリアにももう用はない。私はこの力を使い、どこにでもメルール王国のような理想郷を作り上げることができるのだ!」

 イケメンコはなおも怒りのしわを顔に増やし、自らの目的を言い放った。

「インフィニット……何だ?」

「さっきと名前変わってねえか?」

 兵士達がぼそぼそとツッコミを交わす。

「まずはこの冥界全てを光り輝くお花畑にしてくれるわ! 覚悟するがいい! ウワーッハッハッハ!」

 イケメンコが高笑いする。

 そのとき、儀式の間の入り口付近の空間が、にわかに白い光に包まれた。

 急な眩しさを感じて、一同が入口に向かって振り向く。

 音もなく光が薄れていく。

 そこに、一人の人物が姿を現した。

 貴族が着るような、金色の刺繍がふんだんにほどこされた白地の礼服に青いマントを羽織った、長身の青年である。

 アツアーは一瞬にしてこの者の異質さを感じ取った。ただ青年の姿形をしているというだけで、実際はもっと底知れない何かだということは間違いない。

 青年は明るい緑色の髪に、色素が抜けたような、金色の瞳を持っていた。

「お、お前はっ!」

 急にイケメンコがうろたえたように声を絞り出した。

 緑の髪の青年は、その場所に立ったまま、上空のイケメンコに視線を移しパチンと指を鳴らした。


・メクチェート


 冥界の住人である植物タイプの魔道士。ウィーナに仕える中核従者である。

 植物の葉のような赤い頭髪を持ち、肌は緑色をしている。腕部の皮膚は、蓮の花の花托のような無数のブツブツで覆われている。体内には共生関係にある無数の蛆や蛭を飼っており、腕の穴から生やした触手の内部を伝わせ、敵の体内に寄生させることも可能。

 両肩の装甲に水晶玉が装着されている鎧を着用しており、呪文の刻まれた長い杖を持つ。

 両肩の水晶玉は魔力アップの補助効果があるが、重いために肩がこる。

 回復・援護魔法に特化したスペシャリストであり、実戦における連射・速射を信条としている。ほぼゼロ詠唱で味方全体に広範囲の回復魔法をかける実力を持つ。

 各種回復・治癒魔法、『聖光防御』に代表される補助魔法の他には、特に植物属性・地属性の魔法を得意としており、攻撃魔法も充実している。また、精霊石の補助さえあればウィーナの屋敷全体をすっぽり結界で覆うこともできる。

 パーティーに組み込むことで仲間の生存率は大幅に増加するが、メクチェートのポテンシャルを完全に生かすには、前衛の護衛が不可欠となる。

 温厚で落ち着いた人物。組織内の調整役的な立場にあり、上司と部下の板挟みで苦悩することが多い。作中でも、結界を張った手柄をケニーに奪われたり、必要経費を自腹で払う羽目になったりなど、散々な目に会っている。一方、どんな圧倒的な相手に対しても振りかかる火の粉には敢然と立ち向かう気骨ある一面も持つ。


HP 160 MP 350  攻撃力 60  防御力 220  スピード 190

運動能力 90  魔力 430  魔法耐性 300   総合戦闘力 1800


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