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やるせなき脱力神  作者: 伊達サクット
第1章 ヘイト・スプリガンの出現
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第6話 勝利の女神、スライムに敗北

自己紹介のところの個人ブログに、小説の設定や、頂いたイラスト等を載せています。

よければご覧ください。

「おのれ、この私を愚弄する気か!」

 腰を抑えながら立ち上がったウィーナは折れた剣を投げ捨て、スライムに向かって指を差した。

 そして精神を集中し、魔力を人差し指の先端に集めた。彼女は光線で敵を射抜く攻撃魔法を使おうとしているのである。

 しかし、いくら頑張っても、魔法が出なかった。

「……あれ?」

 ウィーナは首をかしげて指先を見つめた。頬に一筋の汗が流れる。

「馬鹿め、どこを見ている!」

 隙を突いたスライムが、飛び掛って指を突いた。ひんやりとしたスライムの身体に、指がズブリと突き刺さった。

 指に鋭い痛みが走った。突き指してしまったのである。

「あいた! つ、突き指した……」

 たまらずウィーナは右手の人差し指を覆った。

「ハハハハハ! ハーッハッハッハ! よしんばにその指先から滅ぼしてくれたい! すなわちに肉体をも滅ぼしてくれるわ!」

 興奮しているのか、敵はよく分からないことを言った。

「ちょ、ちょっと待て! おい、待てと言っている」

 ウィーナは必死に左手でスライムを制止した。

「問答無用、肉体を滅ぼしてくれるわ!」

 スライムの体当たりをどてっ腹に受け、ウィーナは腹を抑えてかがみこんだ。あまりの失態にぐうの音も出ない。

「ぐ……、き、貴様、いいだろう、ウォーミングアップはもう終わりだ! 本気でやってやる!」

 背筋を伸ばし、突き指をこらえて腰の鞘に手を伸ばしたが、あるはずの剣が消えている。

 彼女はそのとき先程のことを思い出した。折れてしまったので自分で捨てたのである。何とも間抜けな話だった。

「ぶるあああああっ!」

 スライムの叫び声が背後から聞こえてきた。いつの間にか、後ろを取られていたのである。同時に、後頭部にプルンと柔らかい衝撃が走った。

 一応鎧で身を守り、頭には兜まで装着しているというのに、さっきから全く防御力の足しになっていない。

 頭の中身がぐらぐらと揺れるような感覚とともに、意識が遠のいていった。

「おあっ! やばい、助けよう!」

 ハチドリの声が、遠くから聞こえてくるような気がした。

 目が覚めると、ウィーナは掛け布団のないベッドに横たわっていた。

 目をこすって小さくうなり声を上げたが、体に不都合な点はない。健康体に回復していた。

「ウィーナ様、気がつきましたか」

 目の前のベッドの枠にハチドリが止まっている。

 その奥にショウリー、カッチが並んで立っていた。

「ここは?」

「冥王の城の医務室です。ここで回復魔法を唱えてもらって、一気にウィーナ様の体力を回復してもらいました」

 ハチドリが抑え目の声で説明した。

 確かに、掃除の行き届いた広い石造りの部屋に十台ほどのベッドが並んでおり、数名の冥王軍の兵隊や神官が椅子に座っている。

 ウィーナはすぐにベッドから起き上がった。

「ウィーナ様。新しい剣です。城でもらいました」

 カッチが頭を下げ、先程壊れたものと全く同じ製品である剣をウィーナの前に差し出した。

 ウィーナは「すまない」と言い、剣を受け取った。

 そして、セミロングの黒髪をさっと整え、枕元に置いてあった兜をかぶった。

「スライムはどうした?」

 ウィーナはハチドリに言った。

「はい、ウィーナ様が倒れられた後、その場にて数刻話し合った結果スライムは我々の手勢に加わることとなりました」

 ハチドリは得意げにクチバシを上下させた。

「……えっ?」

 ウィーナは表情が固まった。

「先ほどは肉体を滅ぼそうとして失礼しました。やっぱり仲間にして下さい」

 最初は気づかなかったが、よくよく見てみると、ショウリーやカッチの並んでいる足元に、先ほど自分を気絶させたスライムがたたずんでいたのだ。

「……好きにしろ」

 ウィーナは意図的に無表情を作った。

 この軟体生物には、今の自分が無力であることを存分に思い知らされ、部下の前でとんでもない大恥をかかされた。

 しかし、敵意がないと言うのであれば、別段仲間になろうが何であろうがどうでもよかった。

「はいはい、それはそれはどうもありがとうございましたね」

 スライムは瞳をパチパチさせながら、プルプルと体を波打たせた。言い方が少し気になったが、あえて気にしないことにした。

「それはそれはありがとうございまする。面白いでござる」

 スライムは同じような内容の発言を続けて二回繰り返したが、ウィーナは無視した。

「ハチドリ殿、やはり……」

 カッチが訝しげな表情で、スライムを仲間にしたのは正解だったのかという旨の婉曲な問いかけをハチドリに投げかけた。

「一人でも多い方がいい。ウィーナ様も判断なされた」

 たった今目が覚めたばかりなのに、ハチドリに責任を転嫁された。

「どっちでもいい……」

 ウィーナは吐き捨てるようにつぶやく。

「マッスルおとぎ話! マッスルおとぎ話! ぶるああああっはっはっは!」

 またスライムが場の雰囲気を読まずに不可思議な発言をした。

 彼の興奮に反比例して一同の士気が低下するように感じられた。


「それでは、急いで冥王の元へと向かおう」

 気を取り直し、五人(ウィーナ・ハチドリ・ショウリー・カッチ・さっきのスライム)は、冥王軍の兵士の案内で足早に現場へ向かった。

 ショウリーは、顔を真っ赤にし、よろめきながらついてきた。

 どうやら、ウィーナが気を失っている間に随分と酒を飲み、すっかりでき上がってしまったようだ。

 案内されたのは、玉座の間へとつながる赤絨毯の前であった。玉座の間へと通じる扉の前で、冥王軍の軍勢が取り巻いている。この場所から既に血の臭いがかすかに漂っており、周りを見てみると、手の空いている兵士達が死骸や血だまりを黙々と掃除していた。

「冥王はこの奥の玉座の間で、謎の超パワーを誇る巨人に人質にとられているのです。一応、ここで部屋を包囲しているのですが、手出しができずにいるのです。我ら雑兵の力では到底及びませんし、万が一冥王に何かあったときのことを考えると……」

 案内の兵士が沈痛な面持ちで説明した。

「『元』女神ウィーナ、この一大事に昼寝とはいい身分だな。随分と余裕なんですね」

 包囲している軍勢の中から先ほどの恥骨が現れ、こちらに近づいてきた。

「仕方がない。アクシデントに見舞われた」

 ウィーナは気まずい思いで言い訳した。

「黙れ、言い訳は無用だ。さっさと敵を鎮めてこい。報酬の100万G、どうやらいらんらしいな。所詮は天界の流れ者、まるで信頼に値しない!」

 恥骨は両手を腰に当てて言った。先程ウィーナに出動要請していたときの様子からは考えられないほど高圧的な態度だ。おそらく、周りに仲間がたくさんいるから調子に乗っているのだろう。恥骨の取り巻き達も、「そうだそうだ!」「さっさと行ってこい」などとはやし立てている。

「貴様、ウィーナ様に向かって無礼だぞ!」

 カッチが頭上の黄色い耳と、フサフサの尻尾を震わせながら一歩前に出た。

「ふん、人の背中に乗せてもらった分際でよく吠えるな」

「何だと? 俺は別に一人で走ったってよかった」

「よせ、カッチ。要するに依頼さえ果たせば文句ないのだろう?」

 ウィーナが言う。こんな場所で口げんかなどしたくもない。

「そういうことだ。何と言ってもこちらは大金を出すんだからな」

 恥骨はそう言って冥王のいる玉座の方へ顔を向けた。彼の白目は充血していた。おそらく彼もいろいろあって鬱憤がたまっているのであろう。

「よし、行くぞ」

 ウィーナ達は包囲している軍勢の間を通って玉座の間へと続く通路に入っていった。

「恥骨、散々威張って高みの見物か?」

 カッチにはああ言ったものの、ウィーナ自身も毒舌を言われっぱなしでは面白くなく、後ろを振り向いて恥骨を挑発した。

 恥骨は腕組してしばらく沈黙した後、「よ、よーし。これを機に俺の働きを冥王に見てもらうか!」と言ってウィーナ達の後についてきた。

 すると、周りの兵隊達が「おおーっ、やるじゃん」とか「恥骨先輩すげー」とか「さすが筆頭格」とか「ち・こ・つ! ち・こ・つ!」などと歓声を上げた。

 これで彼の軍内の立場は大体理解できた。


 こうして六人となった一行は玉座へと続く広く長い廊下を進んでいった。

 しばらくすると、湿った肌触りの空気に、濃い血の臭いが混ざって流れてきた。

・ショウリー


 冥界の住人であるヒューマンタイプの戦士。

 ウィーナに仕える平従者である。

 詰め所で待機していたところをハチドリが適当に選んできた。

 中国拳法の達人で、ヌンチャクを駆使した技や洗練された体術が武器。

 酒を携え、戦いの最中でも酔っ払っているが、別段酔拳の類を使えるというわけではなく、本当にただ飲んだくれなだけである。

 当然、酒を飲めば飲むほど弱くなっていく。

 自分の声に意思を込めて相手に伝達することができ、奇声しか発しなくても会話が成立するが、感情が高ぶると普通の言葉をしゃべることがある。


HP 230   MP 0  攻撃力 160  防御力 110  スピード 250

運動能力 170  魔力 20   魔法耐性 100   総合戦闘力 1040


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