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やるせなき脱力神  作者: 伊達サクット
第5章 勇者と王女の夢の国
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第50話 哀愁メクチェート

 これはウィーナが屋敷に到着する一時間前の出来事――。

 ウィーナの屋敷・大広間――。


 ウィーナの屋敷、正面玄関を入ったところにある吹き抜けのエントランスホール。

 そこは、先日の夕刻、ウィーナ達とその部下シュロンとの仲間割れが発生した現場である。広間には、異形の魔物と化したシュロンの巨大な死体と、バラバラに砕け散ったゲッケンの死体が、生々しく、そのままで残されていた。

 ウィーナの部下・ユーイの通報を受け、現場検証に当たっているのは冥王軍の特務部隊・メメントモリ隊であった。

 二名の騎士、隊長のヘンリーと副隊長のアリエスは、オリハルコンソード、オリハルコンアーマー、オリハルコンシールド、オリハルコンヘルムといった、伝説の金属オリハルコン製(純度100%)の超高級装備で身を固めている。

 二名の宮廷魔術士は、同じように全身を魔法金属ミスリルで、二名のエリート兵士は新開発されたばかりの超硬(ちょうこう)軽量ダマスカス鋼の装備で身を固めているという、六名全員揃いも揃って贅沢過ぎな部隊であった。

 隊長ヘンリーは、床に横たわる、六本の腕と色鮮やかな鱗の巨大な蛇の下半身を持つ女の死体に目を移す。

 上半身が、滑らかな白い肌と美しい顔立ちを持った女性なので、余計に下半身との対比が色濃く、おぞましさ、グロテスクさが際立つ。部下の魔術士の話では、検死しないと正確なことは分からないが、禁断魔法に手を染めた副作用でこのような妖魔の姿になったらしく、元々こんな姿ではなかったようだ。

 いくら力がほしいからって、よくこんな化け物の姿になることに耐えられるものだ。もっとも、冥界人は色々な姿形の種族が混然一体としているから大した問題でもないのかもしれない。

「もう、隊長! さっきから何ジロジロ見てるんですか? こんな化け物の女性が好きなんですか?」

 副隊長の女騎士アリエスが水色の長髪を揺らしながら、むっとした表情で書き上げた報告書をヘンリーに手渡した。

「いや、そういうわけじゃ」

 ヘンリーは唇をすぼめ、視線を死体から報告書に逃がした。

「民間人の件、断ってよかったのですか?」

 兵士の一人がヘンリーに問う。

「我らの管轄外だ。引き取りたくても引き取れない」

 ヘンリーがそっけなく言った。



ウィーナの屋敷・二階廊下――。


「で? あんたは特務部隊の言葉を鵜呑みにしてすごすごと引き下がったってわけ?」

 屋敷内の廊下で二人の男が立ったまま話をしている。一人は髪形がリーゼントでサングラスをかけ、真っ黒な鎧と赤いマントに身を包み、背中には『喧嘩上等』と書かれたのぼり旗を背負っている管轄従者・ケニー。もう一人は両肩の装甲に水晶玉が装着された鎧を装備し、呪文が柄に刻まれた長い杖を持つ、植物の葉のような赤い髪の毛と緑色の肌の男、中核従者メクチェートである。

「申し訳ありません」

 メクチェートが顔をしかめて謝罪した。

「申し訳ありませんじゃねーよ。そもそもさ、勝手に民間人を屋敷にどんどん入れたのはテメーだろゴルァ!」

 ケニーは眉間にしわを寄せメクチェートを見下しながら、吸っているタバコの煙をメクチェートの鼻先に思いっきり吹きかけた。

「ただ、あそこで助けなければ、本当に悪霊に殺されてたと思うんです、あの人達。見殺しにするわけにもいかないでしょう」

 メクチェートが反論する。

「中核の分際で何出過ぎた真似してやがる」

「だから、何度も申し上げた通りそのとき私以外は全員ヒラだったので、私の一存で判断するしかなかったんです」

「テメーがそんな判断していいわけねーだろ! あの民間人の衣食住の世話って誰がすんの? まさかウチの経費で面倒見るつもり? 一体何人いるんだよ? ウィーナ様の屋敷占領されるんじゃね? あれ」

「合計32人です」

「うるせーよ」

「申し訳ありません」

「あんたさ、何でも謝れば済むと思ってるよね、いつもいつも」

「いえ、別にそういう」

「どうするつもりだよ? あれ。言っとくけど全部お前が責任持って考えろよ」

「と、とりあえずは屋敷に待機させてウィーナ様の指示を……」

「だって特務部隊が引き取ってくれないんでしょ? それをウィーナ様に報告したって、ウィーナ様に責任をなすりつけるだけだろうっ! ゴラゴレゴルゴルァ!」

 ケニーがよく分からない凄み方でメクチェートの胸倉をつかんだ。

「意味が分かりません!」

 メクチェートがケニーの手首をつかんで、胸から振りほどいた。

「痛てててて! 痛ええええっ! うわ! 出たよ! 逆切れプラス上司に暴力。パワハラで訴えるぞテメー!」

 ちなみに、メクチェートは全然力を入れていない。

「いや、ちょっと待って下さいって。私はそんな話ではなく、民間人の」

「じゃあさっさと何とかしろよ! あんなやつらの面倒なんて見れねえよ!」

 ケニーが再びメクチェートの言葉を最後まで聞かずに怒鳴る。

「なぜ駄目なんですか」

「テメーが勝手に助けた民間人の保護をするったってタダでは無理だ! それウチの予算だろ? ただでさえ給料どうなるのか分かんねーのに何でテメーが勝手に助けた民間人にウチの財政を圧迫されなきゃならないんだよ!」

 ケニーが顔を真っ赤にして、メクチェートを鋭く睨みつける。

「待って下さい! それは既にクリアした話でしょ? さっき民間人から護衛料金を回収してきたじゃないですか、一人頭一万G! ちゃんとさっき渡しましたよね、全員分合計32万G」

 実は32万Gの内、民間人から集金できたのは19万2千Gに留まり、残りはメクチェートが自腹を切って負担した。そうしないと、ケニーが民間人を悪霊が飛び交っている外に放り出しかねないからだ。

「なんで管轄従者の俺を蚊帳の外にして、中核ごときのお前がそんな仕切ってんの?」

「だから今は護衛料の話を」

「管轄に手向かいしてんじゃねーよ! コラ!」

「スイマセン、でも一つ質問させて下さい。私や他の者達が対応しているとき、ケニー殿はどこに行ってたんですか? 現状で最高階級者が私だったので、やむを得ず」

「俺は忙しいんです、何も仕事がないあんたと違って。そんであんな足手まといを屋敷に入れちゃって。ゴラレゴルゴルァ!」

「だから、私が責任取って民間人は何とかします。ケニー殿ほどのお方にわざわざお伺いを立てるほどのことではないと思ってまして」

「だからそーいうのをやめろっつってんだよ。それじゃあ俺が一番階級が高いのに何も役割果たしてねーみたいじゃねーか。上下関係の掟と格式っつーもんがあるだろ! つらたん」

「じゃあどうしましょう? ケニー殿の指揮で民間人をどうするか」

「なら管轄の俺が命じる! めんどーはしたくねー! ヒャッハー! つらたん」

 ケニーがメクチェートに対してガンをつける。グラサンが光る。

「……分かりました。民間人を屋敷から出して、他の場所に移します」

「当たり前だ! 俺が最強だ! つらたん」

 メクチェートが発言した後に続いたケニーの言葉は、どうにも脈絡がなかった。

「それで結構です」

「不服か! 何ならタイマン張ってやろうか。つらたん」

 不服だが、それを言ったらさらに面倒が増えるだけだ。

「別に、不満など何もありません」

「じゃあさっさと行ってこい! やばたん」

「その前にさっき預けた保護代金を返してほしいのですが。民間人を他へ預けるんだったら話が変わってくる場合もあるんで」

「はて? 何のことかのう? わしは最近年で物忘れが激しいんじゃ」

「いやいやいや! 元々当面の安全を保証する上での金なんです。民間人が文句を言う可能性もあるでしょう。返さないとまずいです」

「知らなねーよそんなもん。言っとくけど保護料金はお前が勝手に徴収してきたんだからな、俺は命令なんてしてないから」

「いや! それはさっきの話と明らかに」

「言ってねーよ! さっきから何なんだよ。保護料金保護料金ってさてはお前着服する気だろ! 俺におごれよ!」

「いえ、神に誓ってそんなことは一ミリたりとも! 私はただ民間人の安全を」

「うわあああっ! うわああああっ! 体中が病じゃあああ!」

「え、その、ケニー殿?」

「ぐばああああっ! お前のパワハラが原因でこうなったあああ!」

 ケニーは腹部を押さえて倒れ込み、口から真っ赤な血を吐いた。

 メクチェートは顔をしかめる。この男は自由自在に病になることができる特殊能力を持っているのだ。

 メクチェートは平従者のハッシャーと医務室までケニーを運び、布団に寝かせた。この非常時に寝てるだけ。いいご身分である。

 布団の中でケニーが苦しそうに言う。

「おい、チェックメイト」

「私はメクチェートです! それじゃあ何か私が詰んでるみたいじゃないですか!」

「ゴルァアアアッハッハッハ! 超ウケるんですけどー!」

 ケニーが大声で爆笑した。

「な、何ですって?」

『詰んでるみたい』とは、決してギャグで言ったわけではなく、名前を間違えられたのが嫌だったから出た言葉だ。しかも、ケニーはこちらのボケを期待してわざと間違えたらしい。何でこんな非常時に、くそつまらないノリツッコミなどしなければならないのか。しかも、こちらは勝手に血を吐いて倒れたケニーを担いで医務室まで運んでやっているというのに、感謝の言葉もなしにこの唐突で意味不明なおふざけときている。

 そして彼はひとしきり笑った後、言葉を続けた。

「何であんな下層市民ばかり助けたんだよ馬鹿が! あんな何の金ヅルにもならないザコ虫共を」

 病人なのにやたら威勢がいい。十分元気そうだ。

「目の前で襲われていたから助けた。それだけです」

 メクチェートが眉ひとつ動かさずに答える。

「お前おかしいだろ、なんでセレブを助けねーんだよ」

「すいません、助ける者を取捨選択とか、そういう意識すらありませんでした」

「お前の鎧の肩のソレ、ウゼーんだよ! 何それ、ファッションなの? 邪魔だから取れ」

「この水晶玉で魔力アップの効果があるんです!」

「肩凝らねーのかよ、そんなデカいの付けて!」

「もちろん凝ります。でも我慢してるんです! あの、そんなことより、さっき預けた保護料金ってどこにあるんですか? 今持っているんですか?」

「グバアアアッ! つらたん」

 メクチェートが質問した途端、ケニーが再び喀血した。

 メクチェートはハッシャーと協力してケニーの介抱を行い、医務室を後にした。


「ふう……。で、メクチェート殿? どうでしたか」

 安物の鎧を装備して、頭にバンダナを巻き不精髭を生やした、中肉中背の冴えない風貌の男・ハッシャーがメクチェートに尋ねる。

「ケニー殿に少しでも期待を寄せた私が馬鹿だった。あの人達は他へ移す」

「ええっ!?」

「ケニー殿はそれがお望みだ……」

 言った後、メクチェートが歯を食いしばる。

「ひっでぇ! 集めたお金どうするんですか? 他へ移すんなら、絶対にみんな返せって言ってきますよ? そもそも金取れって命令したのケニー殿じゃないですか。意味が分かりません」

 ハッシャーが不満げかつ、心配そうな顔をする。

「私がとりあえず払う。収まりつかんだろうから」

「持ってるんですか?」

「私は家が近いから、すぐ走って金持ってくる」

「その間の時間使って、私が皆さんに説明しときますか?」

「いい、いい。私の方から話す。厨房にユーイがいるから、もう民間人は頭数に入れないでいいって伝えといて」

 メクチェートが小さくため息をついた。ただ襲われている民間人を屋敷に入れただけで、なぜここまで糾弾され、大金をポケットマネーから出さなければならないのか。


 結局、民間人32人はメクチェートが保護料金を自腹を切って返却し、メクチェートとハッシャーで護衛しながら近くの冥王軍の陣所に引き渡してきた。特務部隊は管轄外でも、他の部隊だったら保護しないわけにはいかないだろう。

 メクチェートは自分の運の悪さを身にしみて感じていた。何でよりにもよってウィーナ不在の屋敷でケニーがトップになるのだ。ケニーやメクチェートも含む屋敷に今いる数人の従者はユーイ以外、みんな非番で、冥界のただならぬ雰囲気に心配してとりあえず職場に集まった連中だ。

 ケニーがいるおかげでなんと無意味な徒労が増えるものだろうか。メクチェートはどっと疲れ、ウィーナの屋敷への帰路についた。

「まったく、ケニー殿は大したお方ですね。この大変なときにベッドで寝てるんですから」

 ハッシャーが悪意たっぷりに愚痴をこぼした。

「ああ、全くだ……」

 メクチェートは気の抜けたように同意した。


・エイカン


 冥界の住人である獣人タイプの戦士で、ウィーナに仕える平従者である。

 身長が一メートルより少しあるかという小柄な体格。全身が青黒く強張った外皮に覆われており体毛は一本もなく、額には、高く鋭い角が一本生えている。

 平従者の中ではほぼ最強の戦闘能力を持ち、下手な中核従者を上回る。しかし、頭はそれほど良くないので、なかなか部隊を預かる立場に出世できない。

 基本的に武器は選ばず、剣でも斧でも、獲物がなければ素手のままでも、とにかく敵に突撃してがむしゃらに攻撃する。自分の身体能力のみを拠り所とした、洗練された格闘術とは無縁の力押しな戦法が特徴で、応用は全く利かない。

 寡黙で没個性的な人物だが、命令には極めて忠実。一度命令を下せば、力尽きて倒れるまでひたすら戦い続ける蛮勇さを持ち、それは敵にとってはかなり厄介な存在になり得る。


HP 250  MP 0 攻撃力 330 防御力 260 スピード 290

運動能力 220 魔力 110  魔法耐性 240  総合戦闘力  1700

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