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やるせなき脱力神  作者: 伊達サクット
第4章 ファウファーレという女
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第49話 闇を駆ける

レディコマンドーは尋常じゃない強さです!

 チューリーはマネジメントライデンで勤務しているときのメイド姿ではなく、漆黒のコートに身を包み、冥界の闇に溶け込むような風貌であった。

 彼女は、ファウファーレがバングルゼ達の排除の為に本部施設内の私室を出て行った隙を利用した。ファウファーレの部屋に忍び込んで、中を物色し、ウィーナが書いたとされる『霊鎧(れいがい)サリファ回収の命令の書状』を手に入れたのだ。書状は彼女のコートの内側にしまってある。

 正直、チューリーは驚愕していた。ファウファーレの持つ書状とやらが、根も葉もない偽造された文章だと思っていたのだが、筆跡から印まで、どこからどうみてもウィーナ本人が書いたものとしか思えなかったのだ(チューリーはスパイという性質上、ウィーナとは書面のやりとりを何度も行っていたから、彼女の筆跡は正確に見分けることができる自信を持っている)。

 ウィーナが一度鎧を取りに行くのを禁じた洞窟に部下を向かわせるなど、にわかには信じがたいことだった。

 チューリーにできることはただ一つ。ウィーナと接触し、この書状を直接見せ、真実を問うことだけであった。

 バングルゼ、カネスタ、ゴーカクを見殺しにするのは忍びなかった。

 でも、彼女はそうするしかない。バングルゼ達は仲間であって仲間ではない。同じワルキュリアカンパニーに所属している者同士であっても、チューリーは公には籍を置かない諜報員だ。職務の性質上、彼らと同僚だということを知られてはならないのである。

 チューリーは思わずコートの内側の書状に手を当てた。

 孤独だった。敵を欺き、味方を欺き、他人はおろか、自分自身にすら警戒しながらただ闇の中を泳ぐことしかできない自分が。

 そしてこの書状。これがウィーナ本人の書いたものだとしたら、ウィーナとファウファーレは裏で結託して我々部下の排除に乗り出そうとしていることを意味するのではないだろうか。

 もはやどこにも自分の居場所がない。身内も、愛する人もおらず、仲間には存在を知られず、主君であるウィーナにも信頼を置くことは叶わない。

 こんなときなのに、ふと思う。バングルゼの言っていた爆笑できる話のオチはどんなものだったのだろう。そんな一抹の会話の断片に温もりを求めている自分が、少しだけ悲しかった。

 チューリーは、ファウファーレ達に気取られぬよう、物陰から出て、静かにその場を後にし、ウィーナの下へと向かう。

 人目につかぬ裏通りを走っている途中、目の前に一人の人物が現れ、チューリーの行く手を阻んだ。

「待ちな。どこへ行くつもりだい」

 角刈り、迷彩服、筋骨隆々の中年オバサン。

 委員会最強の戦士、レディコマンドー。

 その化け物じみた強さは良く知っていた。チューリーは戦慄する。

「なぜ、あなたが……」

 チューリーは問う。委員会に疑われるような形跡は全く残していないはず。

「ファウファーレから、あんたの行動に睨みを利かせておくよう言われたのさ」

 レディコマンドーがニヤリと笑った。

「ファウファーレ殿から?」

 チューリーに失意の感情が芽生える。

 おそらくバングルゼにファウファーレのことを遠回しに警告したことが、何らかの事情でファウファーレの知るところとなり、足が付いたのだ。

 甘かった。

 何か少しでも『裏』からではなく、『表』の側から偽りなしに、自分の気持ちで何か働きかけたい。そんな気持ちで行った、『裏』で得た情報を『表』にこぼした、たった一回の仲間への忠告。

 そのたった一回の甘え。バングルゼに仲間としての繋がりを求め、また、バングルゼの身を案じての自分の気持ちから発せられた一言。その代償が、今自分が置かれている窮地。

 チューリーは恐怖した。自分はここで死ぬのだろうか。本当に死ぬのだろうか。委員会の裏切り者として粛清されて。真実に触れることができず、ウィーナにすら死んだことに気付いてもらえず。

「覚悟はできてるんだろうねえ!? 女狐!」

 女狐。それは自分がファウファーレの動向を監視し続けてきて、何度もファウファーレに対して心の中で毒づいた言葉だ。周囲を手玉に取り、仲間を利用して暗躍する魔性の女。

 今気付く。所詮自分もファウファーレと同じ穴の狢なのだと。

 そして、自分自身が何者なのかも分からない、何をしているのかも分からないまま闇の中に消えて行く自分は、それ以下の、何の存在価値もないチリのような存在だ。

 チューリーはコートの内側に手を入れる。そこには、彼女が体中に隠し持っている殺人暗器の一つ、敵の体内に埋め込むと血が延々と噴き出る、魔水晶で精製した筒状の針がある。

 何とか相手の隙をついてこれを敵の急所に刺すことができればまだ希望がある。

 ただし、それができないようなら、スパイである自分に待つのは情け容赦ない拷問。この殺人器具は自殺用になる。

 頼れるのは自分だけ、生き延びるのも、自分を殺すのも自分自身の手で。それが唯一の矜持。

 彼女の頬に一筋の冷や汗が伝った。



 冥王城最上階・儀式の間――。


「おい、もう一度やるぞ、『アイ、アム、ヘイト・スプリガン』!」

 そう言いながら、王族語のテキストを持って現在の冥王・ヘイト・スプリガンに必死に説明している、煌びやかな神官の服に身を包んだ男。

 小柄で年老いた、緑色の竜の顔と、白く長い髭を伸ばしたその人物は、冥王四天王最後の一人、大神官キヌーゴである。

「ヌオオオオオッ! アイ、アム、ア、ヘイト・カマセーヌでござーい!」

 巨大なヘイト・スプリガンが大声で叫んだ。

「そうじゃない。『ア』はいらん! しかも自分の名前を間違えてどうする! あと、『ござーい』って何じゃ? もう一回やり直し! ほら、もう一度魔方陣Aに移動するんじゃ。それでは冥王継承の儀、TAKE23じゃあ! 皆の衆配置に着け!」

 キヌーゴが苛立ってヘイト・スプリガンや周囲の神官達に言う。

 さっきから一時間以上、ずっとこの調子であった。

 普通なら十分もあれば余裕で終了する、ヘイト・スプリガンの力と冥王の権限をミズキに継承させる儀式も、肝心のヘイト・スプリガンが言われた通りに動かないからちっとも終わらないのだ。

「ちょっと、キヌーゴ、何やってるのよ。早くしてよ! あいつらもうすぐそこまで来ているのよ」

 魔方陣Cの中央に座る、体中が傷だらけの人魚、冥王四天王の一人、ミズキである。先程、ロシーボの放ったレーザーキャノン砲の直撃を受けて、かなりのダメージを負ったのだ。

「文句があるならあいつに言え! これではラチが開かん!」

 キヌーゴが反論する。

「ゴガツバエいんだよおおおっ! ブチ殺すぞジジイがああっ! アドリブ入れて何が悪いんだ!」

 ヘイト・スプリガンが怒りの形相でキヌーゴを見下ろした。

「す、すまん、落ち着いてくれんかのう。次は成功させよう、な?」

 キヌーゴは慌ててヘイト・スプリガンをなだめると、彼は不満そうな顔つきでのっしのっしと魔方陣Aへと歩き始めた。

 周囲で怯えていた神官や兵士達も、とりあえずは安堵する。


 しかし、なかなか儀式は成功しなかった。やはり現冥王の頭の悪さではこの儀式は難しかったのだろうか。キヌーゴは焦る。まさかこんなに頭の悪い奴だったとは想定外だったのだ。

 そうこうしている内に、儀式の間の入口で爆発が起こり、分厚い鉄製の扉が吹き飛んだ。兵士達は動揺して入口に視線を向ける。

 煙が晴れ、そこに見えたのは、体中を金属製のアーマーに身を包んだ一人の小柄な男であった。

「ワルキュリアカンパニー幹部従者! ロシーボ参上!」

 彼の名乗りが、儀式の間へと響き渡った。



 時空の塔20階――。


 ハイムはついにリレー作戦の最終目的、下界に繋がる入口を有する20階までたどり着いた。静まり返った回廊は冷たく重苦しい雰囲気に包まれているが、邪悪な魔物の気配はない。ハイムは足を速め、奥にあるであろう、現世の扉へと進んでいく。

 その先に、目的である現世、勇者イケメンコの居城へと続く道があるのだ。

 しばらく進むと、正面に何者かの気配を感じた。

 邪悪な魔物とは対極に位置する、神聖で、神々しさすら感じる気配。

 そこに立っていたのは、白い鎧に身を包み、黒髪の少年の見た目をした男だった。その後ろにある、巨大な扉、それが現世へと続く道であることは容易に想像できる。

 そして、ハイムはその男を知っていた。

「……お久しぶりです。ハイムさん。姉がお世話になっております」

 男は礼儀正しく一礼した。

「あなたは、ウォーン様……」

 まさかウィーナの弟がここにいるとは。一体どういうめぐり合わせなのだろう。

 扉の前に立ちふさがる存在、主君の実弟は、味方か、それとも敵か。

 ハイムは既に水面下での戦いを淡々と始めていた。



 城下町・ウィーナの屋敷――。


 ウィーナ、フィーバ、エイカンはようやく屋敷に到着した。

 ウィーナ達の心配をよそに、屋敷は無事で、悪霊に破壊されているようなことはなかった。それもそのはず、何者かの手によって、屋敷全体が結界で守られているようなのだ。

「お帰りなさいませ、ウィーナ様」

 門の前に立つ、盾とメイスで武装した鎧姿で、真っ赤な肌に、大きな一つ目が特徴的な男、平従者のキッカイセーがウィーナ達を出迎えた。

「キッカイセーか、ご苦労。この結界は?」

「はい、メクチェート殿が敷地の四隅に精霊石を配置し、屋敷を悪霊から守っているのです。あ、ウィーナ様達は入れますよ。邪悪な存在だけを弾く結界なので」

 メクチェートとは中核従者で、治療・補助魔法のスペシャリストである。

「他にも部下が屋敷にいるのか?」

 ウィーナがキッカイセーに問う。

「はい、ケニー殿を初めとして、何人か、みんなたまたま仕事が休みで、よく状況が把握できていないんです。一体何が起きてるんでしょうか?」

 キッカイセーが困惑した様子でギョロ目の単眼をぐるりと回した。

「それは後ほど私の口から説明しよう。私達はとりあえず中に入る」

「ハッ!」

 ウィーナ達はぞろぞろと結界を通過し、庭へと入った。フィーバが小声でキッカイセーに「お疲れ」と声をかけた。

 とりあえず、屋敷の状況を確認しようと思った。ユーイに対応を任せた、シュロンやゲッケンの死体はどうなったのだろうか。

 そんな事を考えると、正面玄関への足も自然と速まった。


・ゴーカク


 冥界の住人である亜人タイプの戦士で、ウィーナに仕える平従者である。

 黒い学生服姿で、ビンの底のような丸眼鏡をかけ、頭に『めざせ冥大!』と書かれたハチマキを締め、人間の尻のような形状に膨れ上がった頭髪のない頭部が印象強いピンク色の肌の男。

 自称ワルキュリアカンパニー一の頭脳を持つ男。冥大に6浪しているだけあってその知識は相当なもので、彼の毒薬・解毒に関する知識によりバングルゼは一命を取り留めている。

 「~でしゅ」というしゃべり方が特徴で、頭が悪いと感じた人物は「スカトロブレイン」と罵る。

 バングルゼやカネスタと共にファウファーレに復讐すべく委員会に乗り込む。バングルゼが殺されたことを受け、ゴーカクは定規ソードと分度器シールドを装備しファウファーレに勝負を挑むが、この武具は何の役にも立たず、何もできぬまま槍で刺される。ゴーカクは隠し持っていた筋肉増強剤を飲んでパワーアップしたが、図に乗っているうちに槍で喉を貫かれ瞬殺された。


HP 40 MP 20 攻撃力 50 防御力 50 スピード 70

運動能力 20 魔力 50 魔法耐性 80  総合戦闘力 380


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