第45話 女狐と野郎共
洞窟から戻ってきたファウファーレは、見開いた両目から涙を流していた。
リザルトはその様子を見て、バングルゼが既に死んでいることを理解した。
そこで浮上する、先程保留した、もしファウファーレが一人で戻ってきたらどうするのかという問題。ファウファーレの口からはどのような言葉が出てくるのか。そして、それにどう対応すべきか。リザルトが頭の中で選択肢を探し回る。
「ファウファーレ殿、ご無事で?」
トリオンフが彼女の側に歩み寄る。ファウファーレは白銀に輝く鎧を抱えていた。目的の物は手に入れたということだ。
ファウファーレはトリオンフの問いに答える代わりに、涙を流したその顔をうつむかせた。沈鬱な空気が場に立ち込める。
「まさかバングルゼ殿が」
トリオンフが面食らった表情で言った。
「……私をかばって、穴の主の手に」
か細い声でファウファーレが話しだす。リザルトとトリオンフは互いに視線を合わせ、表情をうかがい合った。トリオンフは露骨に怪訝そうな顔をしていた。
「穴の主は倒したんですか?」
今度はリザルトが問う。
ファウファーレはうなずいた後、顔を上げて言葉を続ける。
「何とか穴の主の首を取ったけど、そのとき相討ちに。それで私に鎧を持ち帰るようにと……」
ファウファーレは再び顔をうつむかせ、手で口を押さえて目を涙で潤ませる。
「なんてこった……。まさかあのバングルゼ殿がやられるとは」
リザルトがトリオンフに視線を流しながら言う。
「ああ、殺しても死なねえような人だったのに」
トリオンフが眉をしかめ、顎先を指でゴシゴシとなでる。
「私が、私が悪いの! 私が先輩と二人だけでいいなんて言ったから! ごめんなさい……」
ファウファーレは手で涙を拭きながら悲しげに訴える。
「まあ、そうでしょうね、あんたのせいですねそりゃ」
トリオンフが冷めた様子で、身も蓋もない言葉で返した。
「え……」
ファウファーレの表情が固まり、大きく見開いた瞳から再び涙の雫がこぼれ落ちた。
「だって、なあ……。リザルト」
「ああ。入る前、確かファウファーレ殿仰ってましたよね? 戦闘では自分らよりファウファーレ殿の方が役に立つと。てっきりあなたも一緒に戦うのかと思ってました。見た感じ、傷一つついてませんが」
リザルトがファウファーレの上半身の褐色の肌、下半身の白銀の体毛を舐めるように凝視するが、戦闘で受けたダメージは全く確認できない。
「そ、それは……。先輩が、万が一のことを考えて、私に鎧の探索をするようにと」
ファウファーレは悲しげで、かつこちらを攻めるような表情で言った。
それに続いてトリオンフが、涙を流す女性に対して辛辣な言葉を投げかける。
「俺の見立てでは、ファウファーレ殿とバングルゼ殿の戦闘能力はほぼ互角。しかし、パワー一辺倒のバングルゼ殿よりもあなたの方が魔法だっていけるし、いろいろ応用が利く分強いと思うんですけど。状況見てやばかったら加勢するとかできなかったんですか?」
「ごめんなさい。本当に私が至らなかったせいなの。謝ったって許してもらえるようなことじゃないわよね」
「まあ……。別に俺に謝らなくてもいいですけど」
突き放すようにトリオンフが言った。
「こうしてはいられないわ……。先輩の死を無駄にしないためにも一刻も早く委員会に戻って、ウィーナ様にこの鎧をお届けしないと」
ファウファーレは泣きやみ、力強い表情で決意を新たにした。
先程からの彼女の様子を見ると、何かを企んでいるような様子にはとても見えない。リザルトは、ファウファーレが何らかの理由によって自分達を謀殺するつもりでここに呼んだのではないかと疑っていたが、思いすごしかもしれない。しかし、もしリザルトの予想が当たっていたとしたら、あの涙もこの決意表明も全て演技。とんだ食わせ者だ。
ここでリザルトは、ファウファーレの意に沿わぬ行動をあえてとり、相手の出方をうかがってみることにした。うまくいけば、ファウファーレの真意を引き出せるかもしれない。
「レッドアロー!」
リザルトはファウファーレの決意表明を無視し、レッドアローに合図を送り、自分の下へ引き寄せた。
そして、レッドアローを伴い、リザルトは洞窟の中へと歩みを進める。
「ライト!」
リザルトが手を掲げて声を上げると、彼の掌から拳程度の大きさの光球が発生した。暗い場所を照らす為の光属性魔法を唱えたのである。
「リザルト、どうするつもり?」
その様子を見てファウファーレが問いただす。
「どうって、バングルゼ殿の骸を持ち帰るんですよ。敵の首取って相討ちになってから、ファウファーレ殿に鎧を持ち帰るように話したってことは、死体は残ってるんですよね?」
それに、ファウファーレの綺麗な手を見る限り、バングルゼの死体を葬ってきたわけでもないだろう。墓を作るなら、手は泥で汚れる。
「どうして?」
ファウファーレは静かに問う。すでに涙は収まっていた。
「ちゃんと骸を持ち帰って、然るべき場所で葬る。そんでもって角でも切ってバングルゼ殿の遺族に送って、戦士として立派な最期を遂げたって伝えにゃならんでしょうが。それが戦士の心意気ってもんだし、人一人死ぬってのはそういうことです」
リザルトが言いながらファウファーレの表情をうかがうが、彼女の顔からは特に動揺の色は見えない。
しかし、これで相手がどう反応するかによってこちらの対応は大方決まってくる。
もしファウファーレがリザルトとトリオンフを殺すのが目的でこのような辺境の地まで連れてきたとしたら、既にその目論見はほぼ阻止できたと言っていい。
なぜなら、リザルトがレッドアローを伴って洞窟へ入ってしまえば、空を飛べないトリオンフはファウファーレに乗せてもらって帰るしかない。
するとファウファーレは殺害対象のトリオンフを後ろに乗せて飛行せねばならない。
トリオンフより戦闘能力が上のファウファーレでも無防備な背中、特に空を飛ぶ肝である翼を晒している位置関係では、暗殺は事実上不可能。ファウファーレは今さっき『一刻も早く戻る』と明言した以上、リザルトがバングルゼの死体を持ち帰ってくるのを待つという選択肢はその態度と矛盾して明らかに不自然になるから不可能となる。また、仮に『あなたのレッドアローをトリオンフに貸してあげてよ』と言われたら、バングルゼの死体は重いだろうからレッドアローに乗せないと運べないと主張すればいいし、トリオンフを乗せるのがそんなに嫌かと、難癖をつける材料となる。
後は、リザルトが洞窟へ入って視界から消えた後で、ファウファーレが自分の下半身にまたがる前のトリオンフを殺すという展開を潰すべく、リザルトがこの場所に留まって二人が飛んでいくところまで見送ればいい。一度トリオンフを後ろに乗せて上空へ上がってしまえば、トリオンフはいつでもファウファーレの首・翼に手が届くポジションを獲得できるし、ファウファーレ自身も上空でトリオンフと心中落下などという結末は望まないだろう。
ここで一番やってはいけない選択は、レッドアローにトリオンフと二人乗りして、上空へ飛び立つことだ。もしファウファーレがこちらを殺す気だとしたら、二人分の体重でスピードが殺されているレッドアローの翼を狙われて、たちまち地面へ真っ逆さまだ。
リザルトは、ファウファーレの横に立つトリオンフにも視線を送った。先程、入り口で待っていたときの会話もあるし、このアイコンタクトでリザルトがやりたいことは何となく伝わるだろう。
「おいおい、今はそんなこと言ってる状況じゃねえだろうよ。ファウファーレ殿も仰ったろ。せっかく取ってきた鎧なんだから早く戻ってウィーナ様に届けないと」
このトリオンフの反論で、リザルトはこちらの意図が伝わったと確信した。リザルトはトリオンフの助け船に遠慮なく乗らせてもらうことにして、さらに言葉を続ける。
「俺一人で行くんだから別にいいじゃねえか。お前はファウファーレ殿に乗せてもらえば飛んで帰れるだろ。鎧は任せたぜ」
するとトリオンフは面倒臭そうに顔をしかめて、大きく舌打ちをした。
「何だよ、しょうがねえなあ……。じゃあ、ファウファーレ殿、リザルトはいいからさっさと行きましょうや。すいません、後ろ乗せてもらえます?」
トリオンフがファウファーレの側面に回った。
リザルトは心の中で笑った。うまい。先程『一刻も早く戻る』と意思表示したファウファーレに同調する形で、違和感なく真横を取った。ファウファーレの人馬一体の体格なら表面積が大きくなる真横が攻撃を当てやすいし、蹴りもこない。これで行き詰ったファウファーレが不意打ちで実力行使に訴えてきても即座に抜刀できるトリオンフの方が有利。リザルトとトリオンフ、単独では管轄従者のファウファーレより戦闘能力で劣っていても、二人がかりなら勝てない相手ではない。
「待って、リザルト。気持ちは分かるけど、ここはそれぞれが思いのままに動くんじゃなくて、皆の力を合わせて一丸となって臨むべきよ。それに、亡くなった人を弔うのは戦いの決着がついてからが筋じゃなくって?」
ファウファーレがリザルトを見据えて、透き通るような声で話した。
「どんな筋ですかそりゃあ! 腐乱するでしょうが! ハエがたかって、ウジが沸き、魔物に骨肉を食われる。一度でも血みどろの地獄を経験している者ならそんな筋は出てきません」
リザルトは激昂するが、わざと怒ってみせているだけだ。
「今は仲間内で争っている場合じゃないわ」
そういうとファウファーレは背中の翼を広げ、ふわりと空へ舞い上がる。
そして反転してこちらを上空から見下ろしながら、胸の前で両手を組んで訴えた。
「さあ、三人で行きましょうよ。先輩の意志を継ぐためにも、ウィーナ様の為にも、私の後に続いて。お願い。リザルト、力を貸して……」
それを聞いたリザルトは、怒った態度を急に崩して、声を張り上げて笑い飛ばした。ファウファーレはどうしてもリザルトとトリオンフが二人でレッドアローに乗って上空へ上がる形に持っていきたいらしい。
「な、何?」
ファウファーレが驚愕の表情を作った。
「決まったな。トリオンフ」
リザルトが腰に提げた、竜の絵柄が施された鞘から、刀身の光り輝く長剣を抜いた。
「ああ。ファウファーレ殿、この場合は、もう欲をかかずに、一旦この場での計画は断念して、素直に俺一人を乗せて戻らなきゃいけなかったんですよ」
トリオンフも、腰の鞘から幅広の刀身を持つ、重量感に溢れた大剣を抜いた。
「何? 一体あなた達、何のことを言っているの?」
ファウファーレは泣きそうな顔で目を見開き、首を振って困惑する。
「糞芝居もいい加減にしろ! さっき俺達を力不足と言っといて、『力を合わせて一丸となって』だなんてどの口が言いやがる、ファウファーレ! もう化けの皮ははがれてるんだよ!」
リザルトがファウファーレへの敵意をむき出しにして、剣を構えた。
「なんなら、今から全員でバングルゼ殿の死体を確認しに行くか? もし死体に不審な点が何もなかったら剣を抜いたことは謝ろう。どうせ一度突破したダンジョンだ。走って確認しに行くだけならそんな時間はかかりゃしねえ。どうだ! 今のあんたにそれができんのかよ。ええ?」
このトリオンフの一言が決定打となった。
ファウファーレは困惑に満ちた表情から、不敵な笑みに変貌した。そして手に持つ霊鎧サリファを地面に投げ捨て、手を掲げる。
すると、彼女の掌にピンク色の光が発生して形を成していき、一本の長槍となった。
「見破るなんて、なかなかやるじゃない。あなた達」
そう言って、ファウファーレが二人の正面に降り立ち、槍を構えた。
リザルトとトリオンフも無言のまま構えを崩さず、敵との距離を詰めようとする。
「でもね、私は無駄な戦いはしたくないの」
ファウファーレが微笑む。軽妙な口調で。
「何だと?」
トリオンフが聞き返した。
ファウファーレが槍を片手に持ち直し、もう片方の手で合図をすると、何と、先程洞窟に入る前に見せた光り輝く魔法の蝶が、リザルトとトリオンフの口の中から一匹ずつ出てきたのである。
その光景を見た両者の顔がたちまち引きつる。
「洞窟の中で、あなた達の会話はこの蝶を通して私の耳に筒抜けだったの。全部ね」
「ふ、ふざけんな! そんなのハッタリだ!」
トリオンフが苦し紛れに叫ぶ。
「あなた、私がいないからって、随分と上司である私を呼び捨てにしてくれたわよね?」
ファウファーレがトリオンフに言った言葉に嘘はない。トリオンフはファウファーレどころか、バングルゼやハイムなど、ウィーナ以外の上司を呼び捨てにしていたのだ。
トリオンフが悔しそうに歯ぎしりながら呻いた。
「あなた達、私の言うことに従いなさい。そうしないと、体内の蝶を爆発させるから。いいわね?」
「き、貴様っ!」
リザルトは予想外の展開に焦った。こちらがファウファーレの行動を疑っていることも、バングルゼが戻ってこなかった場合ファウファーレをどうするか話していたことも全て最初から聞かれていたのだ。
そうなると、先程自分が仕掛けた揺さぶりも相手は想定済みだったということになる。出方をうかがわれていたのはこっちだったというわけだ。
リザルトは焦った。いつ蝶を入れられた? 何匹腹の中に入っている? いや、そんなことは今考えるべきことじゃない。どうやってこの場を切り抜けるか。果たしてファウファーレの言うなりになって生還できるのか。彼の心中で思考が駆け巡るが、有効な回答にたどり着けない。
そんなとき、トリオンフが威勢よく啖呵を切った。
「それこそハッタリだろうが。俺だって魔法ぐらい使えるから、魔力をある程度は肌身で感じることはできる。でも腹ん中にそんな蝶がいることなんて気付かなかった。つまり、蝶自体は微力な魔力で具現化させたもの。あくまで情報収集に特化したもので、爆発させることなんてできやしない。それにそんなことができるんなら、最初っからそれで俺達の腹をふっ飛ばせばいいじゃねーか! 今俺の口から出した蝶、試しに爆発させてみな!」
「ご名答……。やっぱりあなた達は他の馬鹿とは違うみたいね。委員会から遠ざけて正解だったわ」
ファウファーレは人差し指を突き出すと、二匹の蝶は指の周りを旋回しながら、光の粒となって霧散した。
「なるほどな……」
思わずリザルトはつぶやいた。これで心おきなく戦える。
「こんなブラフ、まともに受けてんじゃねーよ、リザルト」
トリオンフがこちらに目配せしながら言った。
「お生憎様、私はあなた達と戦うつもりはないの。それっ!」
突然、ファウファーレの手から、ピンク色のもやのような波動が広範囲に渡って放出された。相手に先制攻撃を許してしまったらしい。
リザルトは咄嗟に跳躍して、魔力らしい波動を回避したが、トリオンフは反応できずに、まともに浴びた。
「トリオンフ!」
リザルトが叫ぶ。巻き起こるもやを見て、これが相手を眠らせる催眠魔法だということに気が付いた。
「じゃあねー。帰り道、頑張ってね」
一方、魔法を放ったファウファーレは、さきほど捨てた鎧を拾い上げ、既に上空へと飛び立ち、こちらへ背を向けた。このまま飛んで逃げるつもりだ。
「くっそおおっ!」
トリオンフは持っている大剣で、自分の手の甲をぐりぐりとえぐった。
彼の緑色の肌から、真っ青な血が流れ出る。眠気を覚ます為の苦肉の手段であろう。
「なめやがってええええ! 死ねえええっ!」
剣を両手に構え直したトリオンフはそのまま剣を頭上に掲げ、上空のファウファーレがいる方角に、大きく振り降ろした。
すると、剣から激しく閃光を放つ極太の衝撃波が発射され、一直線にファウファーレに向かっていく。
しかし、ファウファーレはあっさりとそれを回避し、そのまま空の彼方へと飛び去ってしまった。
「あの女、ふざけやがって! リザルト、レッドアローに乗って空であいつを足止めしろ、俺は下から援護する!」
トリオンフが言った。ところが、リザルトは失意の表情でうつむいている。
「駄目だ、レッドアローが寝ちまってる……」
「何だって!?」
レッドアローは、四肢を折りたたみ、体を丸めて、鼻ちょうちんを出しながら気持ちよさそうに爆睡していた。
ファウファーレの催眠魔法はレッドアローにも及んでいたのだ。
仮に起こしても、この時間差ではファウファーレを追跡することは無理だろう。
「くっそー、やられた! もう最初っから全部読まれてたんだ……。完全にはめられた!」
リザルトが剣を鞘に収めて肩を落とす。
「おいリザルト、バングルゼは奴に殺されたんだ。それで俺達を委員会から遠ざけるってことは間違いなくウィーナ様の孤立を狙ってる。最悪、ウィーナ様を亡き者にするってこともあり得るぜ」
トリオンフも剣を鞘にしまい、手の傷を、もう片方の手でかばうように覆った。
レッドアローが使えない場合、ここから城下町まで歩いて戻るにしても、空を飛んでいるときは問題なかったメンドク山を越えねばならない。その場合、メンドク山は迂回して、ふもとのメンドク町で休息、食料購入を行うのが一般的だ。
すると、飛んでいけばほんの数時間程度ですむところが、丸一日かかりかねない。
つまり、リザルトとトリオンフがウィーナの身に危険が迫っていることを伝えられないまま、ファウファーレとウィーナが接触する可能性が極めて高いということだ。
「ファウファーレの野郎絶対ぶっ殺してやる! リザルト、城下町まで走るぞ!」
「馬鹿言え、この距離を。間に合うわけねーだろ!」
「ウィーナ様にもしものことがあったら俺たちゃ就職活動する羽目になっちまう! 給金が出ねーと来月の宿賃も払えん!」
「そんなに一つの職場に執着する必要はない」
「生憎お前ほど転職中毒ではないし、それは今この状況で論ずべきことじゃない!」
「そもそも眠ったレッドアローをここに置いては行けない」
「だったらお前は竜の面倒一人で見てろ。こうなりゃ俺は一人で城下町まで走って、この件をウィーナ様に全部告発してやるぜ!」
「正気か!? あいつの蝶の魔法の効果はお前も見たろ。俺達が何やってるかは今も筒抜けになってると考えた方がいい! 今俺達がバラけたらファウファーレが戻ってきて一人ずつ潰されるぞ。悔しいが俺達単体ではあいつに勝てん!」
あの蝶がまだ自分達の腹の中に残っているかもしれないし、この辺りに潜んでいるかもしれない。結局、ファウファーレはそこまで予測を立てていたということだ。完全に出し抜かれたという事実に対して、リザルトは敗北感を覚えた。
そして、レッドアローはどんなに叩いても目を覚まさなかった。
結局二人はレッドアローが自然に起きるのを待つ間、バングルゼの死体を運び出すことにした。ウィーナの下に駆けつけるのは時間的な厳しさから断念し、せめてバングルゼの死体を、面倒臭いながらもメンドク町のメンドク斎場で弔おうというのである。
しかし、洞窟の最深部まで行き、首の切断された巨大な魔物の死骸は確認することができても、バングルゼの死体はどこにも見当たらなかった。
どうやらファウファーレの報告は何もかも嘘だったらしい。後で調べられることを恐れて、誰にも分からない場所に埋めるなりしてしまったに違いない。考えてみれば当たり前の話だ。しかし、そうなると死体の処理方法が問題になる。ファウファーレの手は汚れていなかった。
だが、リザルトは面倒になってもう考えるのをやめてしまった。
洞窟の死体捜索は結局無駄足となった。
レッドアローは相変わらずぐっすりとお休み中である。
「なあ、トリオンフ。俺達ってなんか、全然駄目じゃねえ?」
リザルトが言った。
「……言うな。ウィーナ様、生きてんのかな……」
そう言ってトリオンフが、ズズッと鼻をすすった。
真っ赤な冥界月は沈み、夜が明けようとしていた。
・トリオンフ
冥界の住人である亜人タイプの戦士。中核従者。緑色の肌を持ち、血は青い。がっしりとした体格で、全身を派手な黄色の鎧に包んでいる。武器は幅広の刀身の大剣。リザルトと組んで仕事に当たることが多い。
やや粗野で直情的だが、反面、狡猾で抜け目のないところがあり、保身にも長ける食えない男。組織内での立ち居振る舞いが上手く、ファウファーレ・バングルゼ・リザルトと共に霊鎧サリファの回収に向かった際は、ファウファーレの陰謀に薄々感づいていながらも、主君であるウィーナがどう動くか確認が取れていないという理由で、あえて静観の立場を取っていた。その一方で、市街地の悪霊鎮圧の戦いをする傍ら、自ら政府と接触してウィーナ周辺の最新の情報を入手してくるなど、上から指示された行動のみに留まらず、見えていないところでは独自に行動していた。
ファウファーレが自分達を排除しようとしていることを見抜き、リザルトと共に戦おうとするが、ファウファーレの方が一枚上手であり、その場を逃げられてしまう。トリオンフはウィーナの危機を察知したが、結局駆けつけるのを断念した。
耐久力・防御力は高いが、外見通り動きが鈍く、戦闘時は相手の攻撃がバンバン入る。剣を振ることによって強烈な威力の衝撃波を放つことができるので、自身の移動スピードが遅いという不得手をよく心得ていると言える。
上司がいないところでは上司を呼び捨てにしているが、ウィーナだけは尊敬しているらしく、本人がいない場面でも様付けで呼ぶ。
HP 350 MP 100 攻撃力 230 防御力 280 スピード 60
運動能力 60 魔力 140 魔法耐性 80 総合戦闘力 1300




