第41話 駄目だ、この話サブタイ思い付かない
「貴様、離れろ!」
ミズキはまとわりつくババババを振りほどき、両手から青白い波動を放ちババババを吹き飛ばした。ハイムはその隙を突き、意を決して短刀を構えミズキに突っ込む。
『ハイム、交代だ! 最強技を使うぞ!』
その刹那、とっさにロシーボの通信が入ってきた。ハイムは咄嗟に足を止める。
「貴様あああっ!」
ミズキが続けざまにハイムに向けて光線を放とうと両手を突き出した。掌に魔力が凝縮され、光り輝く。
『今は駄目、敵が』
ハイムはロシーボに、簡潔に言葉を返す。
『吹っ飛ばす! 構うな!』
ロシーボが力強い口調で言った。
『分かった!』
ハイムは短刀を素早く鞘に収納し、腰に差したチェンジバトンを取り出して念じた。
敵の掌から凄まじい勢いの光線が放たれた。しかし、その光線がハイムに当たる直前に、彼女は姿を消した。光線はハイムの消えた場所を通り過ぎ、回廊を囲う灰色の壁を粉砕した。
「何っ!?」
ミズキはその光景に驚愕し、目を丸くさせた。
ハイムの代わりにその場所に現れたのは分厚いアーマーに身を包んだ小柄な男、ロシーボである。先程ミズキが戦ったウィーナの部下の一人である。粉砕された城壁の粉塵の膜を背に、ミズキを刺すように睨み据える。
あの男、この期に及んでまだ時空の塔を上っていたのか。ミズキの心中に不快の念が湧き上がってくる。このような雑魚、敵としては何の脅威でもないが、こうチョロチョロされると邪魔なことこの上ない。そうミズキが思った瞬間、ロシーボは床に片膝を付けその場にしゃがみ込んだ。
「進路クリア、射角二度修正、発射!」
そして、肩部のレーザーキャノン砲から極太のレーザー砲をミズキ目がけて発射した。この間ほんの二、三秒。ロシーボは、この瞬間を待っていた。ハイムとの交代待ちをしている間、時空の塔を進むのを中断し、レーザーキャノン砲のエネルギーを溜め最大出力で発射できるように準備していたのだった。
「キャアアアアッ!」
ミズキは回避することもできずレーザーに飲み込まれた。巨大な光の帯はそのまま城の壁を幾重も貫通し、外へ向かって伸び続けた。
広い回廊を揺るがす轟音と、周囲に波及するエネルギーの余波が空気を揺るがす。満身創痍のアメリカーンとアツアーの肌や鎧にもその振動は伝わり、びりびりと震えだす。
ロシーボを雑魚と侮ったミズキの慢心か、単に出現直後の不意打ちがクリーンヒットしただけか、それともレーザーキャノンの威力がケタ違いだったのか。
いくつかの要因が複合した結果なのだろう。とにかくミズキは光に飲まれ、その身を消し去ったかに見えた。ロシーボがバイザーの画面を確認したところ、ミズキにかけたロックオンは解除されていた。
反応なし。
殺した。
ミズキを殺した。ロシーボは己の勝利を確信する。
『やった、やったぞハイム……』
ロシーボはすぐさまハイムに回線を開き、勝利の報告をした。大きく安堵のため息が出る。
『本当なの!? ってか、時空の塔ってこんな場所なんだ。へー』
ハイムから発せられたのは、ミズキを倒したと言う報告と、初めて時空の塔に足を踏み入れたという事実両方に対する感嘆の台詞であった。
『……じゃあ、私はこのまま進むから』
ハイムが言った。
「了解」
ロシーボも承諾した。こうなったらこっちの方が楽そうだ。
通信を終えて、彼は周囲の情報を確認すると、見覚えのある男が二人、ボロボロの状態で床に座り込んでいた。元冥王アメリカーンと四天王の一人、先程の戦闘で危ない所を助けてもらったアツアーだ。
「やりましたぜ! 冥王様、アツアーさん。まあ、あんな奴このロシーボ様にかかればイチコロにも程があります」
ロシーボはだらしなくにやにや笑いながら満身創痍の両名に駆け寄った。
「見事……」
アメリカーンが渾身の力を込めて、何とかその身を立ち上がらせた。元冥王ともあろうものが民衆に情けない姿を晒すわけにはいかない。
「やったじゃないか。アンタ」
アツアーは力なく微笑んだ。自分がウィーナの部下の引き立て役になってしまったのは格好がつかないが、ここは素直に感謝すべきだとアツアーは思った。
そのとき、ロシーボのヘルメットに警戒警報が鳴り響いた。さきほどロックオンが外れた反応に、自動で再ロックオンがかかったのだ。
「げっ!」
ロシーボは恐怖に囚われ、思わず叫んだ。しかし、ミズキを示す反応が移動しているのはここではなく、城の頂上に位置する儀式の間。生きているのは予想外だったが、とりあえずは下がるつもりらしい。
城外を飛行して移動しているようだった。ミズキは空を泳げる人魚だ。
「悲しいお知らせです。あの、ミズキ生きてます。そんで上の方に向かってます」
ロシーボがうろたえながらその場の二人に報告した。
「くそ、あの女どんだけしつけーんだ。アメリカーン様、こっちも一度下がって回復魔法かけてもらいましょう」
アツアーも何とか立ち上がった。先程、もう冥王と呼ぶのはやめるように言われたから名前で呼ぶことにした。
「ああ、そうだな……。先へ進むのができんのは悔しいが、そうするしかあるまい」
アメリカーンは、アツアーを見て思う。いつもは四天王の中で一番やる気がなさそうで、飄々としており捉えどころがなく『終騎士』などという御大層な称号を与えたのは間違いだったかと思うことがあった。
しかし、いざ、本当に大変な状況になるとここまで自分に対して、もう自分は冥王ではないにも関わらず忠義立てしてくれるのは四天王ではこの男だけだ。死んだグヮンモドキでさえ、道は踏み外してはいないものの、その戦いの理由は私怨であった。
自分が臣下からの信頼を培ってこなかったツケを今支払わされているところだが、アツアーに関しては本当に感謝しなければならない。
「なに、ミズキのいいようにされるのが嫌だっただけです」
言葉を交わさずとも、アツアーにはアメリカーンの表情を見て、言わんとしていることを理解できた。
「ギャーッ! 連絡事項ですじゃああああああ!」
三名が、一旦体勢を整えるために、来た道を引き返そうとしたそのとき、先程ミズキの魔法で吹き飛ばされ、床に横たわっていたババババが突如絶叫した。
「連絡? 俺に?」
ババババから一番近い位置にいたロシーボが、自分が呼び止められたのかと勘違いしてババババに向かって歩みを進めた。
「何ですか?」
ロシーボがババババに問いかける。
「ミズキ様、キヌーゴ様がお呼びですじゃ。ミズキ様の出番になったから至急儀式の間に来るようにと」
「な、何だって?」
ロシーボはバリアナからの通信やウィーナの説明で、敵は儀式の間でミズキにヘイト・スプリガンの力を継承させようとしているのだと知っている。だからババババが言っていることは大変なことだと分かった。
「ミズキ様あああっ!」
いきなりババババが蛙のように床から跳ね上がり、ロシーボに抱きついてきた。
「えーっ! ちょ、ちょ、ちょ、何? 何?」
ロシーボがもがくが、ババババも必死でへばり付き、離れようとしない。
「キヌーゴ様、ワシは役目を果たしましたですじゃ! このババババもはや思い残すことはありませぬ。かくなる上はお慕いするミズキ様と共に自爆して死にますですじゃ!」
ババババは両目から滝のように涙を流して、感極まり訴えた。キヌーゴからの伝令という自身の大命は今果たした。
それならば自身の命をどう使おうが文句は言わせない。愛している女、ミズキと心中することができて、自分は何と果報者であろうか。
一方、そんなババババの思いなどつゆ知らぬロシーボは、意味が分からない。
みるみる内にババババの体中から焦げ臭い白煙が立ち込め、彼の紫色の肌が熱を上げ、発光する。
「心残りはミズキ様とエロイことしたかったですじゃああああっ!」
「人違いだ勝手に死ねええええっ!」
ロシーボは装備しているヘビーアーマーのパワーを開放し、アームパーツに凝縮させた。そして、その恩恵に預かった腕力でまとわり付くババババを引きはがし、勢いよく投げ捨てた。
「ミズキたまあああっ、連絡の筋肉ぶぺぺぺぺ増強剤の事項ですじゃバババァ!」
宙へ放り飛ばされたババババは、そのまま真っ直ぐアメリカーンとアツアーがいる方へ向かっていった。
ロシーボは、たまたまアツアーとアメリカーンがいる一直線上にババババを投げてしまったのだ。
アツアー達は、ババババの相手をしているロシーボに構わず去ろうとしていたが、何かの気配を感じて後ろを振り向く。なんと、変な奴が光を放ってこちらへ飛んでくるではないか。
「……えっ?」
その光景にアツアーが思考停止し、呆然とする。
「ゴハンですじゃあああっ!」
もう後の祭りであった。ババババは轟音をとどろかせ、アメリカーンとアツアーを巻き添えに大爆発した。
「うわああああっ!」
ロシーボは手首のバリアユニットを発動させバリアフィールドを展開、その爆風から自分だけ身を守った。
爆風が収まり、煙が晴れた後に出てきたのは、その身を燃やしながら倒れているアツアーとアメリカーンだ。既に死んでいるのだろうか。燃えたままピクリとも動かない。
「わああああっ! 消火剤噴射ーっ!」
ロシーボは大慌てで、両手首のリストレーザー砲から消火剤を放射した。
「ごめんなさい、ごめんなさーい!」
真っ白な噴霧が二人の体を包み、燃え盛る火炎を消し去るが、あいにく二人は既に黒焦げであった。黒くすすけた部分と真っ白な消火剤のコントラストが鮮やかに映る。
「おい、冗談よせ、生きてるでしょ、しっかりしてーっ! これで死なれたら俺の業務上過失致死じゃねーか! ウィーナ様助けてーっ!」
ロシーボは顔を真っ赤にして、こんがりと焼き上がったアメリカーンとアツアーの間に座り、二人をグラグラと揺さぶった。
すると、アメリカーンがうめき声を上げながら震える手をロシーボに向かって差しのべた。ロシーボは両手でその手を握る。
「は、早く……、儀式を……止めろ」
かすれた声で息も絶え絶えに、しかし力強くロシーボに訴えかける。
「そうだ、戦えるのは、あんたしかいない……」
アツアーも意識があった。死にかけのようだが、か細い声で呟く。
「まずはあんたらを手当てしないと」
ロシーボは泣きそうになって言った。
「我らに構うな、行けっ……!」
アメリカーンは逆に力強くロシーボの手を握り返した。
「行くんだ。先へ」
アツアーも同じく訴える。
「だって、あんた達はどうすんだよ? そのままだったら死ぬだろうが!」
「俺達は死なない、少し、休むだけだ……」
アツアーが柔らかく笑みを浮かべる。
「そう言うときって十中八九死ぬじゃないッスかー!」
ロシーボは眉毛をハの字にそり上げて、安らかな表情のアツアーに言った。
「行けっ……! 誇り高き勝利の女神の従者にして盟友、勇者ロシーボ!」
アメリカーンは吠えた。残った生命力を振り絞っての声であった。
『ハイム、回復させるアイテム持ってない? 至急必要だ!』
ロシーボはハイムに回線をつないで、大慌てでまくし立てた。
『あるけど傷の度合いは?』
『冥王様とアツアーが死にかけてる』
『申し訳ないけど、私の薬や魔法ではそこまでの重体は癒せないの』
『そんな』
ロシーボがおろおろしていると、アツアーも吠えた。
「さっきの奴が言ったことを聞いていたろう? 一刻の猶予も残されていない。構わず行け、ロシーボ!」
『ロシーボ、もし手遅れになったら今まで積み上げてきたものが台無しになるでしょ! 死んだ仲間のためにも、行ってロシーボ! 私も必ずイケメンコを連れてくる。任務は何としても成功させなきゃ!』
ハイムも通信機越しながら、アツアーの声を聞いてロシーボ側の状況を悟り、彼に発破をかけた。
「俺一人で……」
アメリカーンやアツアーはご覧の通り今にも命を消しそうな状態、ハイムは時空の塔にかかりっきり、他の正規軍の兵士達もまだここまで進軍してくる様子はない。
そして儀式のタイムリミットはもう間近。いや、もう手遅れかもしれない。
そんな状況で、万全なのが今、自分ただ一人だ。ロシーボは自身の心臓が何かに捕まれたような気分に襲われた。
ハイムが今言った、『死んだ仲間のためにも』という言葉がロシーボの脳裏にちらつく。ニチカゲの命をつないで回復した自分の体、そしてこのヘビーアーマー。
「わ、分かった! やってやる、やってやるぞーっ! ロシーボ、行きまーす! ニチカゲさん、見ていて下さい!」
ロシーボは自分を奮い立たせ、意を決して横たわる二名を後にして、城の最上階・儀式の前と駆け出した。
その後ろ姿を見届けたアメリカーンとアツアーは、静まりかえった回廊で、静かに目を閉じた。




