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やるせなき脱力神  作者: 伊達サクット
第1章 ヘイト・スプリガンの出現
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第4話 大巨人の予感

今まで、冥界人は悪霊を力づくで冥界の地の底に押さえつけることしかできず、そうすると時を置いて再び暴れまわったりして、根本的な解決にはなっていなかった。

そういう意味で、ウィーナの組織「ワルキュリア・カンパニー」は画期的な存在だった。

だが今となっては経営も行き詰まり、戦闘員に払う給料にも四苦八苦している有様で、組織としては末期段階であった……。

「入れ」

 ドアがほんの少しだけ開き、狭い隙間からハチドリは入ってきた。そして、少しの距離を飛行して、テーブルの上に降り立った。

「報告します。依頼を受けていたウチの部下が悪霊の捕獲に成功したのでウィーナ様に鎮めてほしいと申しております。やりましたな! 私の隊ですよ」

 ハチドリは意気揚々と報告した。報酬が入るのがよほど嬉しいのだろう。

 しかし、このまま使者を帰したいウィーナにとっては、鎮めの力がまだ残っているということを知られるのはまずかった。

「分かった。もういい、下がれ。早く。ご苦労だった」

 ウィーナは目線も併用してハチドリを部屋から出るように促した。しかし、ハチドリは不思議そうな表情でクチバシを開いた。

「あれ、お気に召さなかったでしょうか? あれほど金がないと嘆いておられたではないですか」

「えっ? 霊魂を鎮めるって、ウィーナは力を失ったのではないのか?」

 案の定、使者は白目をさらに白くむいてハチドリの発言に食いついた。

「ああ、あんたは冥王の……。確かにウィーナ様は以前の強さを失われてしまったが、無念の死者を安らかな眠りにつかせることはできる。だから最近は我々部下達で依頼の大部分をまかなっているのだ」

「ハチドリ、空気を読め」

 ウィーナは眉間にしわを寄せておせっかいな小鳥をにらんだ。

「何だ、そうだったのか。それならきっといけるぞ。頼むウィーナ、何とかあの化け物を説得して眠らせてくれ! 頼む」

 時既に遅く、使者はそう言ってウィーナに向かって頭を下げた。こうされると断れなかった。

「報酬ははずむと言ったが、いくらだ?」

 ウィーナの心中を占める諦観が、顔をうつむけ額を手で覆わせた。

「100万払う! 約束しよう」

「えっ、100万!」

 卓上のハチドリが驚愕し、ウィーナと使者の顔を交互に見つめる。

「まずは契約書だ」

 ウィーナは立ち上がり、ベッドの脇の引き出しから契約書を取り出した。

 それから少しの間、冥王の城と巨人の様子を使者から聞いた。

 相手は、意味が分からない位に強いということであり、城の者達は慌てふためいており現場を包囲するので手一杯らしい。

 ウィーナは数人の部下を雑用に引き連れていくことにした。どうしても駄目なら逃げようと思っているので、そんなに雁首をそろえて行くことはないと判断したのだ。

 現在、ハチドリ以外の幹部クラスの従者は全員別件で出払っている。人選はハチドリの直属から適当に選ぶことにした。

「ハチドリ、詰め所に行き適当な者を二、三人連れて来い」

「分かりました」

 ハチドリはすぐに飛び立ち、先ほどの小さなドアの隙間から廊下へ出て行った。

 ウィーナは軽く化粧を直した後、とりあえず武装をし、黒光りする鎧兜の出で立ちで、使者の待つ玄関先にやってきた。

 すると、既にハチドリが二人の従者を引き連れて待っていた。

 ハチドリが連れてきたうちの一人は、カンフー胴着を着ており酒の入ったヒョウタンとヌンチャクを携えた男、ショウリーである。ベルトのように太い眉毛に尖ったあごという、いかつい顔をしている。そのくせ髪型はおかっぱ頭であり激しく似合っていない。

 もう一人はキツネ型の小柄な獣人、カッチである。今日はラバー製の軽鎧に身を包んでいた。最大の特徴は顔の右半分と右腕が欠けており、銀色の金属、つまり義眼や義手で補っている点である。

 彼らは二人とも、ウィーナの前で姿勢よく直立した。

「この者達でよろしいでしょうか?」

 ハチドリは定位置であるウィーナの肩に舞い降りた。

 ウィーナは「うん」とうなずいてみせて、腹から声を張り上げた。

「ハチドリ、ショウリー、カッチ。今回の依頼は戦闘ではない。冥王を人質にとって城に立てこもる謎の巨人の説得である。敵の要求は自分を現世に戻すことであることから、怨霊の類と見て間違いあるまい。もし敵を説得できないようなら不意打ちでも騙し討ちでも用いて、何とか私の結界に封じるという形をとりたい。要は私が魂に接触すればいいわけだ。言っておくが今回の仕事、報酬は100万Gだ。それで間違いないな……えー、名は何と言う?」

 ウィーナはじれったさそうに体をゆすっている使者の方を向き、問いかけた。

「え、ああ、俺のことはコードネームで呼んでくれ。『恥骨』だ。諜報部に所属している」

「それでは恥骨、金はちゃんと払うのだろうな?」

「ああ、間違いない。俺の言葉は冥王の言葉だ。って言うか、さっき契約書作ったろ」

 正面に立つカッチが上目遣いで恥骨をちらっと見た。ショウリーは口を真一文字に結んで固く突っ立っている。

「ならいいのだ。……聞いたか? 100万Gだ。これだけ入れば契約反故の賠償金も完済できる。お前達の給金に困ることはない。無事依頼を達成できるかどうかはお前達の働きにかかっている。頼りにしているぞ」

 ウィーナが言い終わると、カッチが笑みを漏らして声を上げた。

「お任せ下さい。必ずやウィーナ様のご期待に応えてみせます」

「フゥー……ウアチャァァーッ!」

 ショウリーも拳を握り締め、興奮した語調で叫び声を発した。

「そんなことより早く行ってくれ! 今だって冥王様がどうなってるか知れんのだ!」

 あまり恥骨がせかすものだから、ウィーナは早々に冥王の居城へ向かうことにした。

 冥王の城まで空を飛んでいくため、ショウリーはウィーナが、カッチは恥骨が背負っていくことになった。

 屋敷の玄関前にて、恥骨はカッチ背中にのせ、紫色のたくましい翼を広げて冥界の空へさっさと飛び出した。


・恥骨


 冥王軍諜報部筆頭格である冥界の戦士。

「恥骨」というのはコードネーム。

 魔族タイプ。

 全身が紫色の肌に覆われ、白目、頭に2本の角、大きなコウモリのような羽を持つ。

 ヘイト・スプリガンが冥王の城に攻め込んで、冥王を人質にとったので、大金を餌にしてウィーナに出動要請をした。

 窓から土足で部屋に飛び込んでくるなど、無遠慮で良識に欠ける行動や言動が目立つ。

 おまけに、調子のいい性格で、周りに仲間がたくさんいる環境になった途端にウィーナに対し高圧的になり罵倒の言葉を浴びせた。


 HP  200   MP  0  攻撃力  130  防御力  150  スピード  100

運動能力  80   魔力  30   魔法耐性  30   総合戦闘力  720


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