第39話 ババババババババ
バババババババババババババババババババーッ! ブリブリブリブリーッ!
「開けて下さいですじゃ! 開けろですじゃ! 開けんかゴルアァァァですじゃ!」
ババババは玉座の中にいるはずのミズキを呼ぶために何回も扉を叩くが、扉は固く閉ざされており依然として何の反応もない。
「無理無理無理。もーいい。もー知らん。死ね、みんな死ね。ですじゃ」
ババババはついにあきらめ、悪態をつきながらその場に寝転がり始めた。
「副司祭、私がいつも使っているこの筋肉増強剤をお飲み下さい」
ババババを護衛している数名の上級兵士の内の一人、ローギルスが手にしているビンから丸型の白い錠剤を一粒取り出し、ババババに飲ませた。
「……ムグウッ!? ブハアアッ!」
急にババババは奇声を上げて起き上がり、両手を天に掲げた。
すると、彼の頭髪を初めとする体毛という体毛が一瞬にして全て抜け落ち、衣服が破けて全身の筋肉が見る見るうちに何倍にも肥大化する。皮膚の色は紫に変色した。
「さあ、これでもう一回扉を叩いてみて下さい」
ローギルスが言った。
「ババババババババー!」
その瞬間、変身を遂げたババババの驚異的な速さの強烈なパンチがローギルスの頭部に繰り出された。ローギルスの頭部は一瞬で粉微塵になって消滅した。
少しの時間差で、頭部を失ったローギルスの体が、その手に錠剤の入ったビンを持ったままどおっと音を立てて床に倒れ込む。
「ローギルス!」
「何なんだこりゃあ!」
その様子を間近で見ていた上級兵士ジェイコブ、リーク、アダップは驚愕し、顔をひきつらせる。
「ババババババババ」
ババババは目にもとまらぬフットワークを披露し、一瞬にしてリークの眼前に肉薄。その野太い両腕で、彼の喉笛を引きちぎった。副司祭ババババの紫色の筋肉が返り血で染まる。
「ババババッババッバッバッバ! ババー!」
「うわああああ!」
恐怖一色で顔を染め上げたジェイコブが剣を抜き、ババババに背後から斬りかかる。
「バッ!」
ババババはすかさず裏拳をジェイコブの頭部に叩きこんだ。ジェイコブの頭部が胴体から分離し、後ろに立つアダップの頭部に衝突した。
二人とも即死だった。
「ヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァーッ!」
ババババは四人の護衛兵を殺した後、玉座の間の扉に凄まじいスピードの連続パンチを無数に打ち込んだ。
すると、扉全体にひびが走り、轟音を立てて扉は砕けた。
それと同時であった。扉の奥から凄まじい量の水の壁がなだれ込んできたのは。
その津波のような水流にババババは押し流される。
ミズキが魔力で創り出した水で満たされた玉座の間で、溺死寸前で必死にもがいていたアツカーンはなぜか部屋の水が一定の方向に流れ始めたことに気がついた。
『冥王、何か流されてません?』
心の中で、アツアーがアメリカーンに語りかける。
『おのれ、ミズキの奴、今度はどんな魔法を使った?』
アメリカーンは心の中で苦々しげに言った。
「な、何なの? 扉が壊れた? キャーッ!」
ミズキまでもが悲鳴を上げ、部屋の入口に向かって流されていた。彼女にとっても想定外の出来事らしい。
アツカーンも水の流れに逆らえず、なすがままに入口へと吸い込まれていった。
◆
一方、ハイムは戦場を駆け抜け、問題の儀式が今どのような状況なのか確かめるべく、城の奥へと進んでいるところだった。
玉座の間に続いているであろう、ただっ広い廊下を駆け抜けていると、突如、前方から氾濫した川のような水流が押し寄せてきたのだ。
ハイムは何ら動揺することなく、地面を蹴り上げて高く垂直に跳び上がり、空中で体を上下反転させた。そして、そのまま足は天井に接触し、上下逆さまに立った体勢となった。重力を反転させて天井に立つ、忍法『グラビティ』である。
ハイムが顔を上げて床を流れる水を見守っていると、三名の人物が流されてきた。
一人は裸同然の格好をした、紫色のマッチョマン。
もう一人もビキニのような胸当てしか身につけていない、下半身がイルカのような姿をしているやたらとセクシーな人魚の美女。
最後は巨大な剣を持ち、鎧に全身を包んだ剣士風の男である。
人魚は四天王のミズキに間違いないだろうが、残りの二人に関しては情報がない。
情勢を的確に見極めるため、とっさにハイムは忍法シャドーボックスを使い、自らを影にして壁に溶け込む。うまくいけば、ミズキの隙をついて不意打ちを入れることができるかもしれない。
◆
こうして、水はひとしきり流れてしまい、水浸しの回廊に倒れ込む三名。
一番最初に起き上がったのは、ハイムから見る剣士風の男、つまりはアツカーンである。背筋を曲げ、苦しそうな表情で咳き込んでいる様子だ。
すると、紫色のマッチョ・ババババが突如として起き上がり、剣士の背中に強烈なギャラクティカマグナムを叩き込んだ。
「ババババババー! ブリブリブリブリーッ!」
「ぎゃっ!」
アツカーンは起き上がった早々に吹っ飛び、床に再び倒れ込む。まだ咳き込んでいた。
「アンタの仕業ね!」
復帰したミズキが下半身をプリプリと左右に振りながらババババに接近し、尻尾の弾力を活かして床を飛び跳ねて、ババババに尻尾を振りかざした。イルカの下半身を活かした格闘戦はミズキの得意とするところである。
ババババは、遠心力を宿した重い尻尾の一撃を受け、アツカーンと同様に床に倒れる。
「アハッ! まだまだ行くわよーっ!」
ミズキは両腕を左右に広げ、再びシッポをシャカシャカと素早く振りながらババババに近付いた。
(うわっ、何これ。気持ち悪い……)
ハイムは心の中で思う。
この人魚は陸上を移動するとき、いつもこんな変な動き方をするのだろうか? 人魚が陸上を、こんな気色悪い動きで移動しているのを小さい子が見たらトラウマになりそうだ。
「ババババババ!」
ババババは負けじとミズキに反撃のパンチを仕掛けるが、その間際にミズキがババババ目がけて、口から吹雪を吐いたのだ。
すると、ババババの体が頭部以外の全部が一瞬にして凍りつき、身動き取れなくなった。真っ青で、いかにも硬そうな氷であった。
「食らいなさい! 超高速ピチピチ尻尾往復ビンタ! そらそらそらそらああっ!」
ミズキはババババの体で唯一凍っていない顔に、尾ひれで目にもとまらぬ速さの往復ビンタを放った。
「ギャアアアア!」
ババババは大地を揺るがすような野太い絶叫を上げると、突如として彼の尻から波動のようなものが噴出し、ミズキの魔力で覆われた、彼の体を包む氷が砕け散った。
傍から見たら意味不明な光景だが、ハイムの眼力は状況を正確に観察していた。
ババババは自分の屁で氷を砕いたのだ。
「嫌あああっ! クサーイ!」
繰り出された下品なカウンターアクションに対し、ミズキは心底不快な気持ちとなり顔をそむけて鼻をつまんだ。そして、臭いを嫌がりながらも継続して行っている往復ビンタの力を一層強めた。
その一方で、アツカーンは二人分の魂から根性をしぼり出し、何とか体勢を立て直す。
直後、歯を食いしばって地面を蹴り飛ばす。そしてミズキに向かって疾走、その大剣で無防備な彼女の体をばっさりと斬りつける。
「あううっ!」
ミズキの目は、己の肌を走った痛感に眼を丸く見開き、思わず悲鳴を上げる。合わせて金髪が扇のように振り乱れる。
「ババババババー!」
ババババはその瞬間、相手をアツカーンに変えミズキを斬りつけたアツカーンに拳を振るう。
しかし、アツカーンは素早く姿勢を屈めてそのパンチをかわし、反撃にババババにも剣の一撃を加えた。
「バッ!」
ババババの首筋から腹部にかけて、剣は深々と筋肉に食い込み、裂いた。そして、ババババは床に倒れて「バ」「バ」「バ」と断続的に言葉をもらしながら痙攣する。
「ところでアツアー、この者は何奴だ?」
「知りませんよこんなの」
合体したアツアーとアメリカーンの会話が、ハイムには独り言としか認識できなかった。
アツカーンはミズキの様子を確認した。
渾身の一撃だったが、彼女の強靭な肉体には浅い傷をつけることしかできない。
強い。
人魚の持つ強大な生命力。
「くそっ!」
アツカーンはその手ごたえの無さにいら立ち、再びミズキに斬りかかるが、彼女の両手から激しいブリザードが放たれ、アツカーンは壁に叩きつけられた。四肢のいたるところが凍結している。
「なかなか痛かったわね。でも、その程度の力ではこの私の体にダメージを与えることなんてできないわ。そして、生半可な痛みは却って私に快楽を与えるだけ」
ミズキは妖艶な笑みを浮かべ、今できた胴の傷跡を指でなぞり、指先に付いた血をペロリと舐めながら、冷たい視線でアツカーンを見下ろす。
だから自分に従っていればこんな目に合うことはなかったのだとミズキは思った。
「どうやらお前を倒すには、必殺の一撃で一気に片をつける必要がありそうだ」
剣を再び構えたアツカーンの周りに黄色いオーラが発生する。だが先程の水中戦で力が大分消耗しており、かなり虚ろで、頼りない感じである。
「なるべく私を楽しませてよ。もっと痛くしてくれないと気持ちよくなれないじゃないの」
「とびっきりのを喰らわせてやろう!」
アツカーンとミズキの戦いは続いた。
ハイムは、その戦いの最中、倒れているババババの全身の筋肉が、まるで退化するかのように収縮していき、骨と皮だけのゾンビのようにやせ細った老人の姿になったのを見た。
そのような光景を前にしても、任務遂行においてプロフェッショナルなハイムは、決して動揺するようなことはなく、徹底して冷静であった。
・ババババ
冥王軍所属の神官。冥王四天王の一人・大神官キヌーゴの腹心で、副司祭を務める。
儀式の間で行われている「ヘイト・スプリガンの力をミズキに継承させる儀式」が佳境に入ったので、ミズキを儀式の間に呼んで来るために遣わされてきた。
位の高い神官が着る服装をし、紫色の肌を持ち、白い口髭に顎が覆われた魔族の老人である。台詞の語尾に「ですじゃ」が付くのが特徴。
ミズキやアツカーンがバトルを繰り広げている玉座の間が閉ざされていたため、中に入れないでいたところ、兵士ローギルスから筋肉増強剤を飲まされ筋肉ムキムキに変貌した。
これで扉を破壊できると思われたが、薬を飲んだ途端に奇声を上げ暴走状態になってしまい、護衛の兵士を皆殺しにしてしまう。
HP 350 MP 700 攻撃力 100 防御力 200 スピード 80
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