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やるせなき脱力神  作者: 伊達サクット
第3話 正規軍VS反乱軍
38/98

第38話 連絡事項ですじゃ

 一方その頃。ウィーナは――。


「いいだろう……」

 結局、ウィーナはハイムの言う通り、冥界民間軍事契約組織調整委員会に合流することとした。

 喉に短刀を突き付けるハイムを見たウィーナは、彼女の苛烈な眼差しに相反し、自分が冷静になっていくのを感じていた。

「ありがとうございます」

 ハイムはすぐに刀を収めた。

「これはリレー作戦に必要な通信機だ」

 もう予備の通信機はなかった。ウィーナから通信機を受け取ったハイムは、すぐに耳に装着した。

「冥民調へは城下町の分署に向かって下さい。フンニュー副委員長が力になってくれるはずです」

「そうか。助かる」

「道中の供の者に……。忍法、シャドーボックス」

 ハイムが床に向けて手をかざすと、彼女の影が大きく膨らみ、中から二人の男が現れた。

 一人は白い羽飾りを一本つけたウエスタンハットを深くかぶり、目にかかりそうな長い前髪をのぞかせた三白眼の青年である。薄汚れたマントに身を包み、手には弓を、背中には多くの矢を携え、腰には細身のサーベルを納めた鞘を下げている。

 彼の名はフィーバ。

 平従者の一つ上の職群である中核従者で、ハイムの副官的存在として、ハイムとウィーナの連絡役や、ハイムの任務の補佐をしていた者である。

 もう一人は、身長が一メートルより少しあるかという小柄な獣人、平従者のエイカンである。

 全身が青黒く強張った外皮に覆われており体毛は一本もなく、額には、高く鋭い角が一本生えている。手足はあまり長くなく、全体的に丸っこいシルエットを持っているが、頭部は大きく、爬虫類のような金色の瞳をもった目に、横長の大口が獰猛な印象を強くしていた。

 彼は平従者の中でも最高クラス、下手な中核従者をしのぐ戦闘能力を持っているが、残念ながら頭の方はそれほどでもなく、なかなか部隊を率いる立場に出世できない男である。

「話は聞いてたよね? ウィーナ様の護衛をして」

 ハイムは床下の影から出てきたフィーバとエイカンに微笑み、両名の肩に後ろから手を当てた。

「あ、はい、分かりました」

 フィーバは口を半開きにして、生返事をした。

「了解です!」

 エイカンはこの近い距離で話すには大き過ぎる程の声量で力強く返事をした。

「フィーバ、エイカン、すまないな。よろしく頼むぞ」

 ウィーナからも二人に礼を言った。

 二人も軽く返事をしてウィーナに頷く。こういうときに増員は本当にありがたかった。

「それではウィーナ様、私はこれで。また生きてお会いしましょう」

「……分かった」

 ハイムが踵を返し、城内の更に奥へ向かおうとしたとき、「あの、ハイム殿、どこ行くんですか?」とフィーバがとっさに声をかけた。

 ついさっき、ハイムはリレー作戦を引き継ぐと話したばかりなのに、随分と間の抜けた質問である。

 ついでに言うと、ハイムがまさに颯爽とこの場を去ろうとした瞬間に声をかけたのは、タイミングとしては最悪のように思えた。

 ハイムは振り向いて、少しばかり表情を曇らせた。

「さっきの話、聞いてなかった? 私はウィーナ様のやってる作戦を引き継ぐの」

「あっ、そうですか、すいません」

 フィーバは渋い表情になり、気まずそうに片手を頭のウエスタンハットに当てた。

「しっかりしてよ? ウィーナ様が無事に冥民調に接触できるか、フィーバにかかってるんだから!」

 ハイムは若干厳しい口調でフィーバに言い聞かせる。

 それに対して、フィーバは猫背になって首を大げさに縦に振り、ハイムの話が区切りの悪い所でも「はい! はい!」と連続で相槌を打ち、「分かりましたすいません!」と力強く謝った。ウィーナには、彼が本当に人の話を聞いているのか疑わしく感じられた。

「それではウィーナ様、私の側を片時も離れぬようお願い致します。エイカン! お前はウィーナ様の後ろを守れ!」

 フィーバはマントの中から弓を構えた腕を突き出し、背中に吊り提げた筒から矢を一本取り出してウィーナの前に陣取った。

「ハッ!」

 エイカンは何の疑問も持たずにウィーナの背後に回る。

 しかし、ウィーナは猜疑の念を禁じえない。普通、弓を持ったフィーバが後列につくべきではないだろうか。それとも、フィーバなりの考えが何かあるのだろうか。

「フィーバ! 何で弓のあんたが最前列で打撃系のエイカンが後ろなの?」

 その場を去ろうとして歩みを進めていたハイムは再び足を止め、フィーバに訴えた。

「えっ!? そ、そりゃあそうか!? ごめんエイカン、お前先頭」

 フィーバとエイカンが慌てて隊列を交替した。

「いつまでもこんな場所にいては危険です。一刻も早くここを離れましょう。ほらエイカン。さっさと行こう」

 自分が原因でタイムロスになっていることを棚に上げ、フィーバはエイカンを急かした。

「分かりました!」

 エイカンは声を張り上げ返事をすると、小さいが重量級の体をドスドスと揺らしながら出口とは全く関係ない見当違いの方向へ走り始めた。

「エイカン、どこへ行く! そっちじゃない!」

 ウィーナが慌ててエイカンを制止する。

 するとエイカンは真面目そのものの表情で「どっちに行けばいいんですか?」と言い、歯を食いしばった。

「そういやずっとハイム殿の影に潜んでたからな。どうしよう?」

 フィーバが狼狽してエイカンの方を見る。

「ウィーナ様は道分かりますか?」

 エイカンが頭を掻きながらウィーナに問いかけた。

「フィーバ! 何寝ぼけたこと言ってんの! あなたこのときのために、さっき道具屋でダンジョン脱出アイテムのエスケープクリスタルを買ってたでしょ!」

 ハイムがうんざりした様相でフィーバに向かって言った。

「はっ! そうだった。俺はこのときのためにさっき道具屋でダンジョン脱出アイテムのエスケープクリスタルを買ってたんだった……」

 フィーバは驚愕の表情を作って、マントの中から青く輝く水晶玉を取りだした。

「あいつ、執政部に雇われた女神ウィーナだ! ここで叩くぞ!」

 そんなことをごちゃごちゃと話しているうちに、反乱軍側の兵士達が大勢でこちらにやってきて、ウィーナ達はあっという間に包囲されてしまった。

「囲まれたぞ!」

 ウィーナは仲間達に声をかけ、剣を握りしめて構えを取った。

「くっそーっ! クリスタルでワープしたらハイム殿だけに戦わせることになる。でもこのまま戦ったらウィーナ様を危険にさらすことに……。わあーっ! ハイム殿、ウィーナ様! 一体こんなときどうすればいいんですかーっ! 何か適切な対処法を言って下さいーっ!」

 フィーバは思考回路の限界を超えてしまったらしく、顔を真っ赤にして頭を振り乱している。このような者に自分が護衛されるという事実が、ウィーナに疲れを与えた。この有様で、対悪霊戦の任務において平従者を率いる立場である中核従者というのが泣けてくる。

「どうしてだ、一体どうしてこんなことに……。俺はただ言われたことを言われた通りやっていただけなのに……」

 エイカンも敵に包囲された状況に唖然とし、当たりを見回すことしかできない。

「もたもたしてるからだ……」

 ウィーナは小声で毒づいたが、エイカンには聞こえないようだった。

「フィーバ、早くウィーナ様とエイカンを連れて脱出して! 私はいいから!」

「分かりました!」

 ハイムの指示に従い、フィーバはエスケープクリスタルを胸の高さ辺りでかざした。すると、エスケープクリスタルから激しい光が発生し、フィーバの体を包み込む。

「待って、ウィーナ様とエイカンが触れてないと!」

 そのとき、ハイムが慌てて忠告した。

「うおおおっ!? 光がっ!? この光は!?」

 フィーバが叫ぶと、彼一人だけが一瞬にしてその場から消えてしまった。クリスタルの力で、城の外に瞬間移動したに違いない。

 駄目だこいつ。ウィーナは心の中で思った。

「あれ、あれれっ!? フィーバ殿が消えた!? ウィーナ様、フィーバ殿がいなくなりました!」

 エイカンが辺りをキョロキョロ見回してフィーバを探し始めた。ウィーナはいちいち説明するのも面倒くさかった。

 既に場は動いていた。

 ハイムがウィーナの頭上遥か高くにジャンプしたのである。

「パニックシェード!」

 そう言うと同時に彼女は空中で踊るように回転し、両手10本の指先から黒いナイフのような形をした鋭利な魔力の結晶体を、周囲の敵全体に発射した。

 闇でかたどったナイフが体に刺さった敵兵士は、頭が混乱したようで、血走った目を見開いて、お互いに戦い始める。ダメージに混乱症状の追加効果がある高度な闇属性魔法だ。

「さあ、ウィーナ様今のうちに!」

「すまない!」

 ウィーナは、狂騒状態の敵兵をエイカンと共にかいくぐり、城内の来た道を引き返し始めた。

 そして、残ったハイムは通信機で時空の塔を進んでいるロシーボに回線を開いた。

『ロシーボ聞こえる?』

『え? ウィーナ様ですか?』

『違うわ、私ハイム!』

『ええっ!? ハイム!?』

 ハイムはロシーボに今までの話の流れを説明し、自分は儀式が行われている城の最奥部を目指すから、ロシーボは引き続き塔を上るようにと話した。

 彼は、ハイムとの久々の再開に面食らった様子だったが、ハイムの説明に関してはあっさりと了承した。現在は18階まで進んだという。

 ハイムは意を決して、敵陣に切り込んでいった。

 立ちふさがる敵兵を、手にした二本の短剣で冷徹に切り裂きながら。

 彼女の通った後には、反乱軍の兵士達の屍が幾多にも転がっていた。



 一方、城の玉座の間では、アツカーンとミズキの死闘が繰り広げられていた。

 ミズキはその強大な魔力で、部屋の空間全体を魔力の水で満たし、玉座の間を海の底にしたのである。

 その中をミズキは自由自在に泳ぎ回り、強力な攻撃魔法を好き放題アツカーンに打ち込んだ。

「どうしたの? もっと抵抗してよ!」

 ミズキはなめらかに美しく身を翻しながら、高らかに笑った。

 一方のアツカーンは窮地。

 海中ではうまく動けない上に、剣も相手に全く届かない。もう五分以上は息を止めているが、十分はもつだろうか。

 頭の中でアメリカーンとアツアーが会話をする。

『冥王! 全然だめじゃないですか!』

『しょうがないだろう、水中など想定外だ!』

『何かいい方法はありませんか?』

『気合しかない!』

 アツカーンは、大剣を振り回して、必死にミズキに食らいつこうと水中をもがいていた。

 そして、玉座の間の外側、ミズキの魔力で固く閉ざされた鉄で縁取られた大きな扉を必死で叩いている人物がいた。

 数名の上級兵士を護衛に連れ、位の高い神官が着る服装をし、紫色の肌を持ち、白い口髭に顎が覆われた魔族の老人である。

 彼は冥王四天王の一人・大神官キヌーゴの腹心。副司祭ババババであった。

「ミズキ様、キヌーゴ様より連絡事項ですじゃ! 開けて下さいですじゃ! 開けて下さいですじゃ! ですじゃ!」

 ババババの呼び掛けも虚しく、巨大な扉はひんやりとそびえたつだけで、彼を迎え入れようとはしない。

 玉座の間で一体何が起こっているのかババババには知る由もなかった。


・ワーパ


 冥王軍の宮廷魔術士。ヒューマンタイプ。ヘイト・スプリガンの騒乱の際に、執政部側に所属。

 年老いた老練な魔術士で、回復魔法や補助魔法を得意としている。

 アメリカーンとレブラックの戦いにおいて、解説役を担当した。

 その後、他の兵士達の力をアメリカーンに結集する魔法を唱えた際、丁度壁をぶち破って場内にアツアーが乱入したため、図らずも合体戦士「アツカーン」が誕生することとなった。


HP 100 MP 320 攻撃力 20 防御力 100 スピード 180

運動能力 60 魔力 400 魔法耐性 300 総合戦闘力 1480



・ネルギー


 冥界の住人であるヒューマンタイプの戦士で、冥王軍のエリート兵士。

 ヘイト・スプリガンの騒乱の際に、執政部側に所属。

 レブラックとの戦いにおいて、アメリカーンの引き立て役と驚き役を担当した。


HP 200 MP 150 攻撃力 250 防御力 200 スピード 270

運動能力 130 魔力 200 魔法耐性 200 総合戦闘力 1600


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