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やるせなき脱力神  作者: 伊達サクット
第3話 正規軍VS反乱軍
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第32話 部下切腹

 ウィーナが状況を理解できたのは、城下町と城の中間地点辺りの上空で、巨大な二つの光が衝突した後だった。

 町の方角から発射された光線が、ほぼ同時刻に城の上部から発射されたらしい光線と激しくぶつかり合い、空一面に凄まじい雷撃のようなエネルギーを放出している。

 空を猛り狂う悪霊達の動きもそれに触発されたように激しさを増していく。

 その常識を外れた凄まじい光景と轟音に、周囲の戦闘が一瞬中断されたほどであり、ロシーボなどは唖然として空を眺めることしかできない。

 平素より闇に包まれし冥界は、まるで天界の只中にいるかのごとく激しい光にさらされた。

 ウィーナは一頭身の体にされて大きくなった目玉を見開いて冥王の居城の様子を確認する。すると、城の頂上部に巨大な砲台があり、豆粒のように大量の兵士達がその周囲を取り巻いているのだ。

 今なお連続して、砲台から光線は出続けている。

 二つの光線はその衝突点で、しばし一進一退の攻めぎ合いを展開した後、ついには空そのものを吹き飛ばすような大爆発を起こした。空を埋め尽くすような悪霊はある者は消し飛び、またある者は遥かかなたへ吹き飛ばされる。

 そして、目がくらむようなまぶしさと共に、まるで南国の突発的な集中豪雨のような流星群が爆発の余波となって降り注いだのだ。

 すでに、一瞬の沈黙を打ち破って周囲の戦闘は再開されていた。

 そこに矢のような光が瞬く間に戦士達を打ちのめしていく。

 恐怖や痛みから来る悲鳴がその雨音となり、戦場に響き渡る。

「マイハニー!」

 アメリカーンの声が聞こえたのと同時に、ウィーナの周囲に漆黒の結界が生まれた。ウィーナを包む闇の幕は、真っ直ぐに降りかかる光を全て飲み込んでいく。

「ウィーナ様! ウィーナ様あああーっ!」

 状況に全く対応できていないロシーボの背中や腕にも熱く鋭い光が刺さり、彼の服や肉が焼け焦げる。赤熱した彼の皮膚がただれ落ちる様子が結界から確認できた。

「うわあああーっ! ぎゃあああーっ!」

 すぐ側で彼は苦痛に顔を歪め、地面に転がり、エビのように背を丸めて悲鳴を上げた。

「ロシーボ!」

 ウィーナは叫び、ロシーボのみならず周囲の状況を把握することに全神経を傾けた。

 ウィーナに結界を張るために手を伸ばしたアメリカーンにも数発の光線が当たったが、彼は強靭な肉体と精神力で、結界を張る構えを微動だにさせなかった。冥王としての力は失ったとはいえ、彼自身の「素」の力は健在だった。

 アメリカーンに指揮権を譲った上級魔族の男は、意外にも華麗なステップでやすやすと光を回避していた。

 もう光の雨はやんでいた。

 ある者は体中を貫かれて死に、またある者は運よく無傷で済んだ。必死に頭上に盾をかざし身を防げた者や、城壁の崩落に巻き込まれ、瓦礫の下敷きとなった者もいるようだ。

「何をしている! ひるまず攻めろ! 味方の死体を踏み越えて行けーっ!」

 上級魔族の男が腹の底から出したような怒声を上げ、味方陣営に檄を入れる。

 しかし、この流星群によって出た被害は、屋外に本陣を構える味方ばかりだ。反乱軍の勢いが増すばかりで、城内一階の戦線さえいつまで維持できるか分からない。

「かくなる上は、私自ら出陣する。戦える者は我に続け!」

 アメリカーンが呼びかけると、バイル、デッキ、ジョアンの三人に加え、多くの兵士達が賛同し、アメリカーンを先頭に本陣から城内へと突入していった。

(マイハニー、あなたはあなたの戦いをするのです。決して逃げてはなりません。共に勝ち残り、再び会いましょう)

 ウィーナの頭の中にアメリカーンの声が響いた。再び会うかどうかは別の問題として、彼の言う通り逃げるわけにはいかない。

「ロシーボ! しっかりしろ!」

 ウィーナは結界を飛び出して、倒れているロシーボに駆け寄った。

「大丈夫です、私は大丈夫です」

 ロシーボは傷口を押さえながらかすれた声で言った。

「少しの辛抱だ。今衛生兵のところへ連れて行く」

 ウィーナはロシーボをかついで回復役の兵士がいる場所へ歩みを進めたが、案の定順番待ちでごった返している。

 本陣の城門の背後に位置する回復所は、大量の負傷兵で足の踏み場もないほどであり、手負いの衛生兵までもが怪我人に回復魔法を唱えたり、薬を投与したり、包帯を巻いていたりしていた。

 衛生兵の魔力にも限界がある。死の危険がある緊急性の高い者に回復魔法をかけ、そうでない者には薬などの応急手当で対処している。

「ロシーボ」

 ウィーナは背中のロシーボに声をかけたが、何の反応もない。一頭身の体では首を曲げることができないので、一旦ロシーボの体を目の前に持ってきた。

 すると、彼は苦悶の表情のまま気を失っていた。このままでは危ない。

 ウィーナは歯がゆさから舌打ちをして再びロシーボを背負う。すると、回復所で横たわる負傷兵の中に、瀕死のニチカゲが見えた。あの体格と髷を結った髪型は、他人と見紛うはずもない。

「ニチカゲ!」

 ウィーナはロシーボを背負ったままニチカゲの元へ駆け寄った。

「ウ、ウィーナ様……。ご無事で何よりッス。いやあ、ちょっとばかりやられ過ぎましたよ。ハハ……」

 彼は力無き笑顔を見せた。普段は血色のよい顔も、脂汗にまみれた土気色となっており、体中に巻かれた包帯は血で滲んでいる。

「彼は城内から逃げる我々のしんがりを務めたのです。自らの体を盾とし、敵の攻撃をひたすら精神力のみで受け続けたのです」

 ニチカゲの横で治療を受けている亜人の兵士が、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにして語った。

「ロ、ロシーボ君……!」

 ニチカゲが、背中のロシーボに気付き、にわかに表情を強張らせた。

「先程の光にやられた。このままでは……」

 さすがのウィーナも、死が迫る部下に対して何もできない状況に、焦燥を隠し切れなかった。

「……今ウィーナ様のお役に立てるのは自分よりロシーボ君ッスね。かわいい弟分のためにこのニチカゲ、一肌脱ぐッスよ」

「お前、何を考えている?」

 ニチカゲの、何かを悟ったような穏やかな表情にウィーナはある予感を感じ取った。

 彼が己の命を捨ててロシーボを助けようとしているのではないかという予感だった。

 ニチカゲは重い体を震えながら起こし、ウィーナが負ぶさっているロシーボの腰元から、メモリーナイフを抜き取った。

「ウィーナ様、このニチカゲの最期、見届けて下さい!」

「ふざけるな。そのようなことは許さん。早まったことをするな」

 よもやメモリーナイフに自分の命を託し、ロシーボに与えるとでも言うのか。

 ウィーナの心に軽い怒りが芽生えた。

 なぜそう簡単に己の命を捨てる覚悟ができるのか。なぜ己の勝利のために最後の瞬間までもがき、あがこうとしないのか。

 己の勝利に執着が無ければ、皆の幸福を喜び、穏やかに分かち合うその瞬間まで生きるべきであり、それを手にする方法を模索すべきだ。

 他人のために自己を犠牲にするなど、人々の競争心が生み出した女神である自分の役目である。

 ニチカゲの命を与えるのなら、ウィーナの命を与えればいい。

「介錯を務め申す!」

 突然背後から声がした。

 見ると、冥王軍の紋章が入った着物をまとった侍が現れ、刀を抜きニチカゲの背後に立つ。頭は清潔感のある剃髪で、力強い眉元が、目線の力強さを引き立たせている男だ。

「誰だお前は!?」

 ウィーナは強い口調で質問した。

「冥王軍所属、羽舞花三途守是煕はぶかさんずのかみこれひろ!」

 侍は名乗りを上げ、静かに刀を構えた。清らかで美しい刀身が、鋭く銀の光を反射させた。

「ウィーナ様、あなたはこの冥界に必要なお方ッス。ロシーボ君はこれからもウィーナ様の助けとなるでしょう。後は、後は頼みます! 我が人生、曇りひとつ無き好日の下にありッス! はあああーっ!」

 それはあまりにも時間的余裕のない切腹だった。

 ニチカゲはウィーナを片時も待たず、何の迷いもなく己の腹を真一文字にかっさばいた。分厚い脂肪に覆われた腹部に、見事なまでに力強くメモリーナイフを走らせたのである。

 そして、その瞬間に、羽舞花三途守是煕は刀を振り下ろし、ニチカゲの首を寸分の狂いもない太刀筋で切り落とした。

 確かな決意の表情のまま、転がり落ちる首。

 その一部始終をウィーナと周囲の負傷兵、衛生兵は見届けた。首の断面から熱き鮮血が噴出し、ウィーナ達を赤く染める。

「おのれ!」

 ウィーナはすぐに背中のロシーボを足元のシートに寝かせ、ニチカゲの手から血塗られたメモリーナイフを取った。

 そして、メモリーナイフをもはや昏睡状態のロシーボの心臓に、深々と根元まで差し込んだ。


・バイル


 冥界の住人である魔族タイプの戦士で、冥王軍の上級兵士。

 ヘイト・スプリガンの騒乱の際、執政部側に所属しており、アメリカーンが冥王の座から追い落とされた後に護衛として彼に付き従った。

 今でこそ行動を共にしている兵士はデッキとジョアンのみだが、本来なら10人程度の下級兵士を従える立場にある。


HP 150 MP 140 攻撃力 160 防御力 230 スピード 140

運動能力 150 魔力 120 魔法耐性 110 総合戦闘力 1200


・デッキ


 冥界の住人である魔族タイプの戦士で、冥王軍の中級兵士。

 境遇はバイルと同じ。

 一定の実戦経験を積んだ信頼感のある中堅どころであり、軍の中核戦力を構成している大量の名も無き兵士達の一人。


HP 100 MP 100 攻撃力 100 防御力 100 スピード 100

運動能力 100 魔力 100 魔法耐性 100 総合戦闘力 800


・ジョアン


 冥界の住人である魔族タイプの戦士で、冥王軍の下級兵士。

 境遇は上の2人と同じで、執政部側に所属しており、アメリカーンの身柄確保後、そのまま護衛に加わった。

 立場や能力が低くても、元冥王だった者や、勝利の女神と間近で行動を共にし同じ戦場に立っているのは紛れも無い事実である。

 ジョアンにとって生き様には下級も上級も無いのであろう。


HP 50 MP 20 攻撃力 60 防御力 60 スピード 70

運動能力 50 魔力 40 魔法耐性 50 総合戦闘力 400


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