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やるせなき脱力神  作者: 伊達サクット
第3話 正規軍VS反乱軍
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第31話 入り乱れの総力戦

 ミズキとの死闘が終わって、ひと時の静寂に包まれた冥王の居城の地下室。

 ウィーナ、元冥王アメリカーン、ロシーボ、そして三人ばかりの兵士が出入り口の階段付近に集合した。

 すぐ側に、蜂の巣となり見るも無残なレンチョーの死骸が転がっており、時空の塔の入り口付近には、グヮンモドキ、サル・マタの死体が横たわっていた。

「今、我々のすべきことは儀式の阻止です。上の階では、ヘイト・スプリガンの力の前に我が軍は甚大な被害を受け、全ての戦力は一階まで退()がってしまいました。上のフロアは全て反乱軍の手に……。大臣や官僚達、文官の多くはこちらについていますが、神官やそれに連なる聖職者達は、ほとんどがキヌーゴに従う形で相手側に」

 アメリカーンが深刻な表情で言葉を紡いだ。

「ヘイト・スプリガンが前面に出てこずに、正規軍が一階で陣を張れるということは、ヘイト・スプリガンはすでに儀式の第二段階に入っているということか」

「いかにも。ミズキの戦闘能力は冥界でも数本の指に入るほどです。彼女に冥王の権限とヘイト・スプリガンの力が継承されたらもはや抵抗もかないません」

 ウィーナの問いかけに対し、アメリカーンは事態の逼迫さを説明した。

「しかし、アツアーが時空の塔を上っている。何とか奴らより先手を打ち、ヘイト・スプリガンの力を削がねば」

 だが、時空の塔を上るのは一人の作業だ。性質上、同時進行で仲間が手伝ってやることはできない。

「マイハニー。今我らがすべきは、反撃のために一階の正規軍に合流することです。そこを死守し、あなたが力を取り戻すまで耐え抜くのです」

 ウィーナは無言でうなずき、通信機を口の近くに持ってきた。

『聞こえるかアツアー、こちらはウィーナだ』

『こちらアツアー』

『我々は一階の正規軍と合流する』

『了解』

『そちらはどうなっている?』

『今14階だ! まだ全然いける』

『了解した』

『ニチカゲ、こちらウィーナ! 今そちらはどうなっている』

『ウィーナ様、自分は執政部側が撤退するための殿(しんがり)をしているッス!』

『戦闘中か! すまない、ニチカゲ! 私も一階へ向かう。必ず生きて合流しろ!』

『了解ッス!』

 ウィーナは通信を終えた。

 そして一行は、時空の塔の入り口を有する地下室を後にし、一階の大広間へと急ぎ駆けつけた。

 開けた視界に飛び込んできたのは、阿鼻叫喚の乱戦だった。すでに大階段を反乱軍の兵士に取られており、正規軍側は、もはや防衛線を維持できていないようだ。

 ざっと見て、この大部屋に両軍合わせて百人前後はいるだろうか。正規軍も反乱軍ももはや見分けがつかなかった。

 殿(しんがり)を担ったというニチカゲの安否など、確認しようにもできない。

 部屋を揺るがすような絶叫だけが途切れなく鳴り響き、入り乱れる肉弾戦を前に、距離を置いて陣取る弓兵は味方に当たるのを恐れて矢すら放てない。

 本来後方に隊列すべき小柄な魔術士が矢面に立ち、青黒い肌と歪曲した二本角を持つ、目を金色に光らせた巨兵のバトルアックスに頭をかち割られる。

 そして、その巨兵は背後から他の魔術士が放った炎属性の攻撃魔法を受け、全身火だるまになりのた打ち回る。

 その魔法を放った魔術士はどこからか飛んできた矢に喉を貫かれ人ごみの中にするりと崩れ落ち、その人ごみの中から、何者かの手首を口元にぶら下げた血まみれの獣人種の兵士が走り出てきて、眼前でアサシン風の男と斬り合いをしている耳の尖った長髪の剣士に腕を振りかざした。

 剣士は咄嗟に反応して斬り合いを中断。すんでのところで身を転がし回避したが、その鎧には生々しい爪跡が刻まれる。

 その剣士と斬り合っていたアサシン男と獣人男が倒れた剣士に突っ込むが、上空から鷹のような翼を羽ばたかせる長槍を携えし鳥人種の兵士が援護に駆けつけ、即席で二対二の戦いとなった。

 奥から手前に視線を戻してみると、背中にぱっくりと傷口を開いた兵士と、あごを粉々に砕かれ、肉がはがれ落ち歯肉が丸見えになっている兵士が、他の兵士に肩を担がれ運び込まれる。

 そこに待機していた僧侶の服に身を包んだ女兵士が、運び込まれた二人に杖を振り、回復魔法を詠唱した。

 二人の傷はすぐに癒え、無傷の状態に戻った。

 あごを砕かれていた方は、仲間から新しい剣を受け取ってすぐに戦いの中に身を投じたが、背中に傷があった方は瞳の焦点が定まっておらず、頭を激しく掻きむしっていた。そして、訳の分からないことをわめきながら、戦場から遠ざかるようにふらふらと歩き出した。

 しかし、彼を回復した女性兵士が、彼の肩を力強く掴み「そっちじゃないでしょ」と言って、激しく拒絶する兵士を乱戦の只中に無理矢理押し出した。

 兵士はおぼつかない足取りでぶつぶつと何か言いながら入り乱れる殺し合いの中に突き飛ばされ、見えなくなった。

 その様子を最後まで確認もせずに無表情で女僧侶は持ち場へ戻り、運び込まれた味方の回復をただ黙々と再開する。

「ヒャーハッハッハッハァ! 死ね死ね死ねい!」

 体中を火花が飛び散らんばかりのオーラに身を包んだモヒカン頭のヒューマン種の兵士が、高笑いをしながらトンファーを振りかざしてウィーナ達に突っ込んできたが、冥王を護衛していた兵士の一人がいち早く横一線に剣を抜き、的確にモヒカン男の首を()ねた。

 今死んだこの男は、執政部側の正規軍か、ミズキ側の反乱軍か、もはやそれすら分からない。

 今剣を振るったこの兵士も、殺される前に殺した。

 ただそれだけのことだった。

「なあジョアン、俺らって何を信じて戦えばいいのかな……」

 先程、アメリカーンにデッキと呼ばれていた中級兵士が、自ら切り落とした首が床に転がり落ちる様を眺め、後輩らしき下級兵士に話しかけた。

「信ずべきものなど、他に求めるな。真実など己の中にしかない」

 バイルと呼ばれていた上級兵士が、ジョアンより先に、突き放すような口調でデッキに回答を出す。デッキはばつが悪そうに口をすぼめて、血の滴り落ちる剣を床に突いた。

「なら、真実なんてそこら中に転がってますね。はっきりしているのは殺し合いっていう事実だけだ」

 ジョアンという下級兵士が、先輩の話を歯牙にもかけぬように、少しばかり悲しそうな表情で誰にともなく言った。

 彼の手首は小刻みに震えており、それが恐怖から来るものか、武者震いなのかはウィーナも知る術がない。

「おお、冥王がお戻りになられた!」

 近場にいた一人の兵士がウィーナ達に気付き、歓喜の表情でこちらへやってきた。そして、その様子につられて多くの兵士達が集まってくる。

「さあ、アメリカーン様。すぐ後方の本陣へ向かい、我々の指揮を執って下さい。今でも我らにとっての冥王はアメリカーン様に他なりませぬ」

 アメリカーンは「分かった」と簡潔に合意を示し、案内する兵士に続こうと歩みを進めた。

「さあ、お仲間の皆様も」

 案内に従い、ウィーナ、ロシーボ、三人の兵士達も後方の本陣に入った。

 正規軍の本陣は、城門に構えられていた。

 冥王の居城は首都である城下町を見下ろせる高台に建造されており、本陣の外周からは屋外に広がる都市の様子を遠目に確認できた。

 城壁周辺の上空では、空を飛べる種族の兵達が、ある者は天使のような、またある者は悪魔のような翼を羽ばたかせ、飛び交う矢や攻撃魔法の合間をぬって空中戦を繰り広げている。屋内だろうと屋外だろうと、やっていることに変わりはなかった。

「あ、あれは何だ!?」

 ロシーボが城下町の上空を眺めながら、驚きの声を上げた。

 ウィーナもその様子を見てみた。冥界の漆黒の空を、光を放つ無数の霊魂が縦横無尽に飛び交っているのだ。

「ロシーボ、これはヘイト・スプリガンが冥王となった影響だ」

 ウィーナの言葉は状況を見ての推測だったが、限りなく確信に近い推測だった。

「こんなときに暴れだすなんて、絶対悪霊だよ! アーマーの戦闘力考えると結局俺が戦うハメになっちゃう。ああもう、ニチカゲさんはどうしちゃってるかな? よりにもよってよりにもよるとは!」

 ロシーボが一人で失意の愚痴をこぼす。ウィーナはこの期に及んで覚悟の据わっていないロシーボを情けなく思った。

 部下の数も激減したこの機会に、この戦いが終わったら、彼を一からウィーナ直々に鍛え直すのも楽しみだと思った。

「恐れていたことが起ってしまいましたか。ヘイト・スプリガンが己が憎しみの力で冥界に眠る悪霊たちを呼び起こしてしまった……」

 アメリカーンも苦々しい表情を作り、荒れ狂う霊魂を見上げた。

 そこに、兵士の一人がやってきて、ウィーナ達に状況を説明する。

「執政部の判断で、城下町の住民は我が軍の手引きにより避難を始めています。城下町では我が軍と冥界民間軍事契約組織調整委員会が共同で悪霊と市街戦を展開しています」

「冥民調が動いたのか?」

 ウィーナは兵士に問いかけた。

「はい、どうも、冥民調は今回の事変をいち早く知っていたようであり、初動の早さは目を見張るものがありました。魔術師ギルドにも協力を呼びかけ、各所に適正な戦力を配置し、指揮系統も作り上げていたのです」

「そうか……」

 昨日の夕刻、ヴィクトがビギナズに持たせた書状に、状況が事細かに書いてあったのだろう。それが冥民調を動かすきっかけとなったのだ。

 まさか、ヴィクトの死後に彼の対応が功を奏すとは。ウィーナの心中に感慨深い何かが溢れてきた。

「おら、てめえら、押されてんぞ! 命を捨ててここを守れーっ! とにかく何とかしろ! 何とかするんだーっ!」

 本陣に座している指揮官らしき赤い肌をした上級魔族の冥王軍人が、広間内で血みどろの戦いを繰り広げている兵士達に抽象的な檄を飛ばした。

「敵の素っ首持たずに本陣に戻ってきたクズはこの俺が処刑してやる! 敵を一人余さず八つ裂きにしろ!」

 赤い顔をさらに真っ赤にさせて怒鳴り散らす司令官に、アメリカーンは歩み寄り、彼の肩を軽く叩いた。

「ご苦労だった。これより私がここの指揮を請け負う」

 アメリカーンに交代を促されて、振り向いた司令官は急にかしこまって席を譲る。そこにアメリカーンがどっしりと腰を据えた。

『ウィーナ、聞こえて? こちら執政部のバリアナ!』

 急に、バリアナの動揺の色を帯びる声が通信されてきた。

『こちらウィーナだ! どうした?』

『今、私達は城下町の方に移動してて、冥民調と話を進めてるんだけど、冥民調が最終兵器を城にぶち込むって言うの』

『最終兵器?』

『城塞攻略用決戦兵器、超究極魔道サイバー破壊電磁光線、デストロイ・エッセンス砲よ!』

『なんだそれは?』

『全てを滅ぼす光線を放つ、巨大な砲台よ! 冥民調がギルドから接収したやつで……。もう秒読みに入ってるわ! って言うかもう発射されてる!』

『何だと?』

 すると、城下町からこちらに向かって、一筋の巨大な閃光が城の上方目がけて押し寄せてきた。


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