第2話 九堂家の役割
「燐君あーそぼ!!」
「あそぼー!!」
どこからか俺を呼ぶ二つの女の子の声
モヤにかかったその世界の廊下を歩き、二人の元へと向かう
どこか懐かしい、そうかこれは夢か。いつしかの夏休み、いつものようにお決まりの3人で仲良く遊んでいた
片方の女の子はもう少し大人びているが最近聞いたことのある声だ
そして俺は扉を開くと、そこには二人の女の子が──
「......名前は......名前はなんだっけ...?」
目を開けると俺は部屋で布団に大の字で寝ていた。窓の外からセミのけたたましい鳴き声が聞こえてくる
「あれ...?...夢から覚めたのか...暑いな...ズボン脱ご...」
俺はゴソゴソとズボンを脱いでパンツになる
「しかしいつの間に寝たんだ...?ってか頭いてぇ...」
すごい頭ががんがんするな、それに身体も重い。そういえば昨日俺は何をしていたんだっけ?
「確かカムイと散歩に行って...それで、あぁ!!!」
そうだ、その後いきなりカムイが喋り出して女郎蜘蛛っていうキモイ妖怪に襲われたんだんだ!!
「それで...確か...そう!「神装」っていう謎の力で女郎蜘蛛をぶっ飛ばして...それで、あれ?俺その後倒れたのになんで家にいるんだ?」
うまく思い出せないけど、初めて神装を使ったかなんだかで倒れたんだったよな
そしてその神装をするために婆ちゃんから託された刀は枕元にはしっかりと置いてあった
「とりあえずカムイを探して聞くしかないよな」
俺は刀を持って重い体を無理やり起こして部屋を出てカムイを探す
「カムイはどこにー...っていたいた、おいカムイ」
婆ちゃんの長い廊下を歩いているとカムイの白いフサフサとした尻尾が揺れているのを見つける、俺は駆け足で近寄っていく
「燐!!あんたなんて格好してるの!!せっかく香織ちゃんが来てるのに!!」
「香織ちゃん...?」
どうやらカムイがいた部屋は居間だったようで、そこには母さんとそしてもう一人昨日会った着物の女の子と白い狐、女の子の方は顔を真っ赤にしている
そして俺は自分の格好を確認する......
冒険者 リン
装備
上・タンクトップ
下・パンツ
武器・刀
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!す、す、すいません!!き、着替えてきます!!」
俺は慌てて自分の部屋へと戻る
その時畳の上でベタっと寝ていたカムイの「フスッ」と吐いた笑ったような鼻息が聞こえた気がした
「も、申し訳ございませんでしたぁ!!」
そして着替えてきた俺はそのまま今の畳へとスライディング土下座をかます。膝の皮が摩擦で剥がれてめちゃメチャ痛いが今は謝ることに全力を尽くす
「ほんとにお見苦しいものを見せてしまって大変申し訳ございませんでしたぁ!!」
俺はただ畳に額をこすり続ける
「え、えっと...顔を上げて燐君、事故だから仕方ないよ、ね?」
「あ、ありがとうございますっ!!...ってあれ?なんで俺の名前を?」
昨日俺はこの子に名前を言ってなかったはずなんだが...
「燐、覚えてないの?南雲香織ちゃんよ、あんたがここに来る度によく一緒に遊んでた子じゃない」
「南雲...香織...」
「あんた、ほんとに忘れてたの?やぁねぇ、ごめんね、香織ちゃんこんな馬鹿な息子で」
南雲香織か......香織、カオリ...
俺の頭の中でそのカオリという名前と泣いてる女の子の顔が浮かんでくる
「あぁ!!カオリちゃん!!思い出した!!泣き虫のカオリちゃんだ!!思い出したよ!!」
「あは、あはは...思い出してくれたのは嬉しいけど、思い出すのがそれなんだね...」
「はぁ...ほんとにバカ息子なんだから...」
あ、やばい勢いで「泣き虫」なんてつけちゃった。考えてみれば思い切り悪口じゃないか!!
「ご、ごめん!!その、悪口とかじゃないから...!!」
「うん、わかってるよ。それに小さい頃はよく泣いてたのはホントのことだし」
そう、香織ちゃんは本当にことある事に泣いていた。確かもう1人の女の子......今なら思い出せそうな...
そう、アスカだ。よくアスカにいたずらされて泣いていたんだ。一応合ってるか確認してみよう
「そうそう、アスカによくいたずらされてたんだよな?」
「あ、燐君アスカちゃんのことも思い出したの?」
「ん?あぁちょうど今思い出したんだ」
どうやら正解みたいだな。そうそう、小さい頃こっちに来ては香織ちゃんとアスカとよく3人で一緒に遊んでたんだ
「それにしても香織ちゃんは本当に美人に育ったわねぇ。ね、燐もそう思うでしょ?」
「ん?あぁ...まぁ確かに香織...ちゃんは美人だと思うけど」
「ふふふ、ありがと。あと燐君、普通に呼び捨てでもいいからね?あ、でも呼ぶなら名前で呼んでね?」
「あ、あぁじゃあこれからは香織って呼ぶよ」
流石にちゃん付けで呼ぶのは恥ずかしかったんだよ、助かった助かった
「あ、あんた香織ちゃんにしっかりお礼言いなさいよ?あんたカムイと散歩に出かけて日にやられて倒れてる所を香織ちゃんが見つけてくれたんだから、下手したら脱水症状で死んでたわよ?」
「え、香織ちゃんが?」
あれ?俺を家まで運んだのはカムイじゃないのか?
「ほら、とりあえずお礼言いなさい」
「う、うん、ありがとう香織助かったよ」
「うん、偶然だったからね。燐君に何もなくてよかったよ」
まぁ確かにあそこに偶然香織通ってくれた可能性もあるのか
「じゃあ私はお昼ご飯の支度をしないといけないから、香織ちゃんも一緒にどう?」
「はい、喜んでご同伴させてもらいます」
「ほんとに礼儀の正しい子ね!ほら、あんたもしっかり見習いなさいよ!」
「いてっ!」
母さんが俺の頭をパタリと叩いて居間を出ていく
そして俺と香織だけが残される
「あの、燐君、ごめんなさい!!」
「......へ?」
香織がいきなり頭を下げて俺に謝ってくる
「えっと...どういうこと?」
「私とホムラの不注意で燐君を危険な目に合わせちゃったから」
「危険な目.....?」
危険な目?じゃあもしかして香織は昨日のことを知っている?
「リン、カオリを許してやれ」
「ん?カムイ、別に許すも何も......ってお前は喋っていいのよ!?」
さっきまでぐでっと寝ていたカムイが俺のところまでのそのそとやってくる
「カオリは俺が喋れること知ってるし、妖怪や魑魅魍魎のことに関してはお前よりもよっぽど詳しいし関わってる」
「......ほんと?」
俺はカムイから香織に顔を移して聞いてみる
「うん、そうなの。それで昨日は大きな妖気を感知して、すぐにそっちに行っちゃったからまさか燐君の方にも出てくるって思わなくて危険な目に合わせちゃったから、それでごめんなさいってこと」
「......あー...まぁそれに関しては別にいいよ、無事だったし」
俺は頭をかきながらそう答える
「えっと...じゃあ香織が俺を助けてくれたってのは...」
「うん、急いで燐君のところに戻ったんだよ。その時燐君が神装解放して女郎蜘蛛を退治してたから驚いちゃったけどね」
「なるほど、カムイそれで合ってるか?」
「あぁ俺がお前を運ぼうと思った時に現れてくれてな正直助かった」
確かに意識を失う前に女の子の声が聞こえてきた気がするな、あれは香織の声だったのか
「そうか、ありがとう香織助かった」
「うん、でも燐君を危険な目に合わせたのは事実だから」
「まぁ俺的にはそれでよかったぜ?遅かれ早かれリンはあぁいう目に会ってだろうし、リンが九堂の力に目覚めたからな」
カムイが楽しそうに笑ってそんなことを言う
「その言い方だと、俺またあんな目に会うのか?」
「当たり前だ、九堂の役割はこの世の魑魅魍魎という悪から人を守るためにいるんだからな、お前はゲンジとヒサコからそれを受け継いだんだ」
「まじかよ...」
もしかして昨日みたいな体験をこれから何度もするってことかよ...
「そのことについて燐君に説明しないといけないかなって思って今日は燐君の御見舞も兼ねてここに来たの」
「...言いぶり的に香織は色々と知ってるんだな?」
「うん、私は南雲家の力を受け継いだ者だからね。二年前くらいこの子、「九尾・焔」の力を借りてるの。ほら、ホムラ挨拶して」
「こんにちわ、ホムラよ。私はあなたを小さい頃から知ってるわ、大きくなったわねリン」
「あ、どうも九堂燐です」
俺は白い狐、ホムラにぺこりと頭を下げる
「じゃあとりあえず説明しないといけないね、燐君はどこまで知ってるの?」
「えっと...神装という力、「白狼・神衣」と九堂家のはじまりぐらいかな、昔婆ちゃんにお伽噺として聞いてたんだ」
「なるほど、節子お婆ちゃんらしいね」
香織が笑いながら俺に答え、そしてそこから様々なことを説明してくれる
「まず、祓魔師というのは昨日の女郎蜘蛛みたいなこの世にいる悪い妖怪たちを退治する役割を担った人たちのことを呼ぶの。祓魔師になれるのは守護神や守護霊の力を使える人間だけ、その選ばれた人たちが平安時代に家名を祓魔師の任と共に国から与えられたの。あの陰陽師で有名な安倍晴明もその一人なんだよ」
「話を聞いた感じだと、祓魔師というのは世襲制みたいなものなのか?」
「うん、そうだね。でもその中でもルールがあって、例えば私がいる南雲家は女しか力を継げないんだ」
「だから香織の両親じゃなくて香織が香織のおばあちゃんが継いだんだな。...じゃあうちはどうしてだ?」
「それは簡単だ、タカシに神装を使う力がないからだ。ヒサコは力を持たないタカシをこちらの世界に引き込まないように何も教えなかった。それでも力を受け継がせる義務があるからヒサコは力のあるお前に託したんだよ」
タカシというのは俺の父さんで婆ちゃんの息子にあたる。カムイの話を聞く限り父さんには力がなくて俺には力があった、だから婆ちゃんは刀を爺ちゃんから俺に受け継がせたということだな
「それで祓魔師としての仕事なんだけど寝、話したとおり悪い妖怪を退治するのが私たちの仕事なの」
「悪い妖怪がいるって事はいい妖怪もいるのか?」
「うん、今は人の生活の中に溶け込んだり
姿を隠して暮らしているんだ。でもやっぱり人にも悪い人がいるように妖怪にも悪い妖怪がいるの」
「それが昨日の女郎蜘蛛のような妖怪ってけで、それを退治するのが俺たちの仕事ということか」
なるほど話はかなりシンプルだな、俺や香織の家系は代々そういった悪い妖怪を人から守るお仕事を陰ながらやってきたということか
「とりあえず俺は婆ちゃんと爺ちゃんからその仕事...家業みたいなのを引き継げばいいってことだよな?」
「うん、そういうことだね。えっと...燐君はそれでいいのかな?」
「んー...まだ色々わからないけど、要するは人を化物から助けるってことだろ?」
「うん、そうだね。陰ながら人々の生活を守るヒーローみたいなものかな」
「あぁだったらやるしかないよな、婆ちゃんがせっかく俺に残してくれたものなんだ!」
16歳になった今でもヒーロー願望が地味にあった俺にとっちゃ嬉しい話だな
昨日みたいなスーパーパワーで化物を退治する、かなりワクワクしてくるな
「よかったよ、燐君がそのまま九堂家の任を受け継いでくれて」
「もしかして受け継がなかったらなんかあったのか?」
「うん、妖怪とかは既に国家機密レベルの話になってるから祓魔師でもないのにそういう妖魔の類の存在を知っちゃったら戸籍ごと抹消されちゃうんだよね」
「......もしさっき俺が九堂家の祓魔師としての任を継がないって言ってたら...?」
「うーん...人知れず暗闇でぐっさり?」
よ、よかったぁ...あそこで断ってなくって!!
俺は夏なのに冬じゃないかと感じるぐらいの寒気を全身で感じていた




