(5)
澪が最近とても綺麗になった。
いや、もともと澪は我が姉ながらけっこう美人なほうだったけれど。
男の俺には具体的にどうとかはよくわからないけれど、最近澪は変わった。ファッション雑誌とにらめっこしていることが多くなった。こそこそとスマホをいじってにやけていることが多くなった。なんだか買い物に出かける頻度も増えた気がする。
「男ができたせいよ」
ニーナは澪が垢抜けていくにつれてひどく悔しがった。
「許せない」
俺は、俺と、愚痴しか言わないニーナの間で板挟みになりながら、澪がどんどん「女子高生」になっていく様を黙って眺めていた。
「ねえ、直」
ある日の夜、澪が俺の部屋に入ってきた。俺が澪の部屋に入るときはノックをしないと怒るくせに、なんだって自分はノックしないんだろう。
「ノックくらいしろよ」
「いいじゃないノックくらい」
澪は夜だっていうのに髪の毛をふわふわに巻いて、化粧までしていた。部屋にこもっていると思ったら、そんなことをしていたのか。まったく澪の行動が理解できない。男子ネットワークで回ってきたエロ本を枕の下に押し込みながら、「なんだよ」と俺は澪につっけんどんに言った。
澪はひるまずにずんずん俺の部屋に入ってくる。
「どっちがかわいい?」
澪は両手にワンピースを二着持っていた。右のワンピースも左のワンピースも花柄で、俺には色の違いくらいしかわからない。右が白で左がピンク。
「どっちがいいって? 俺は着ねえぞ」
「バカ、直じゃなくてあたしが着るの。できるわけないけどもし直に彼女ができたとして」
「余計なお世話だ」
「彼女がデートに着てくるとしたらどっちがいい?」
ははん、合点がいった。化粧の髪の毛も彼氏とのデートの予行演習なんだな。
「右かな」
「清純派ね」
「ピンクはちょっとぶりっこだ」
「わかった」
澪が白いワンピースを体の前に合わせる。うん、似合ってる。
「いいんじゃね?」
「じゃあこれにする」
出ていくとき、澪が立ち止まって振り返った。
「ニーナ、また男子のことフッたんだってね。いい加減彼氏作ればいいのに」
澪はなんて鈍感なんだろうか、と思った。事態はそんなに単純じゃないというのに。