●「バイバイ」の本当の意味
●「バイバイ」の本当の意味
ある日、中年の女性が相談にみえました。
その彼女には辛い過去がありました。
20代で結婚した彼女は、
夫の転勤で、夫の実家がある九州で暮らす事になったという。
二人はこの地に家を建て、
幸せに暮らす事を夢見て、共働きした。
やがて、
女の子が産まれる。
彼女は子育ての為に、一時旧職したが、
子供が3歳になると、また仕事を始めた。
ところがある朝、
子供が熱があり元気がなかったという。
夫はすでに、会社に出勤していた。
子供の体が震えていたが、寒さのせいだと思い。
湯たんぽを作り、
一日家で寝ているように言うと仕事にでかけた。
しかし、その後、
子供はインフルエンザ脳症で、亡くなったのである。
何度も何度も、自分を責めたという。
なぜ、体の震えをケイレンだと気がつかなかったのだろうか。
なぜ、あの日会社を休まなかったのか。
自分が、娘を殺したようなものだ。
そして彼女に追い打ちをかけたのが、
夫の「お前が娘を殺した」と責めた事だったという。
睡眠薬と精神安定剤が欠かせなくなった。
やがて、二人は離婚。
彼女は埼玉の実家に、帰ってきた。
実家の両親の所も、ふたりとも病院通いをしており、
決して生活は楽では無く、
彼女が私の所に来た時、生活保護を申請すると言っていた。
私もそんな彼女の相談に乗ってあげたのだが、
その後、彼女に生活保護がおりる事は無かった。
結構、簡単にはおりないもんだなと思った思い出がある。
そんな彼女の一番の悩みは、
やはり亡くなった娘さんの事だった。
彼女は今でも、自分の過失だと自分を責め、
毎年、毎年、
埼玉から九州にある娘さんの墓参りをしていた。
しかし、もう貯金も無くなり、
生活保護を申請する身であり、お金に余裕もなくなる。
今回、墓参りに行くのが最後になるでしょう。
でも、
娘を死なせてしまった上に、
もう墓参りも出来なくなります。
娘はきっと、私を怨む事でしょうね。
そんな事を考え、ずっと一人で悩んでいたのだという。
私は彼女に、
「子供さんは、貴方を怨んでなんかいないと思いますよ。
子供は、そんなやたら親を怨んだりしないものですよ」といい、
また、墓参りについてはこんなアドバイスをした。
お墓が遠くにあり、
交通費の関係や、時間の都合でなかなか行けないというケースはよくある事である。
そんな時、
そんな事情を、お墓の前で正直に言う事である。
例えば、
来年は来れないというのであれば、
「ごめんなさい。来年は来れません。」
と正直にいいましょう。
もしくは、
私は来れませんが、掃除を誰かに頼みますからね。という風に。
そして、彼女の場合のように、
もう来れないという場合も、
「ごめなさい。今日が最後です。
お金が無くてもう来れないのよ。ごめんさいね。」
と何度も、何度も、何度も謝りましょう。
そして、形だけでもいいですから、
墓石を綺麗にして、
草むしりとかして、お線香とお水と花を飾ってあげましょう。
最後は、
「さよなら、安らかに成仏して下さいね。
そして幸せな来世に生まれ変わってね。さよなら」
と言ってあげて、
その子のお墓の周り(前後左右)のお墓に、
「もう来れなくなります。どうぞ、娘をよろしくお願いしますね。」と
近所の家に頼むように、お線香とお花をあげてお願いしましょう。
心を込めて、そう許しを請えば、
たいていは許してもらえるのである。
それ以後は、遠くの自宅から、
このお墓の方向にあたる窓を開けて、合掌し、
お線香とお水をあげて供養してあげてください。
彼女は、そうします。と言って、
九州に、最後の墓参りに旅立った。
ところが、
最後の墓参りに行った彼女に、
ある不思議な事が起こったのである。
彼女は九州の娘さんのお墓に、朝10時頃に着くと、
お線香とお水と花を飾った。
墓石を綺麗に洗い、
墓地の草むしりをした。
今日が最後となると、
よけい愛おしくなり、心が籠ったという。
一段落すると、
墓の前に、ピンクの浴衣を置いた。
「ごめんよ。ホントはピンクの着物が着たいって言ってたのに、
母ちゃん、お金無くて、買えなくて、これで我慢してね。」
そして、おにぎりと牛乳を置き、
娘と最後の昼食を食べた。
「ごめんね。
母さんがここに来れるのも、今日が最後なんだよ。
お金が無くてもう来れないのよ。ごめんさいね。」
「こんなドジな母さんの子に産まれなければ、
きっと、幸せな人生をおくれたのにね、ごめんよ。」
彼女は、何度も、何度も、
何度も娘の墓前で謝った。
最後に、私に言われた通り、
娘のお墓の前後左右のお墓にも、お線香とお花を供えてお願いした。
「私はもう来れなくなります。
どうぞ、娘をよろしくお願いします。」と。
そして、最後に娘の墓に合掌した。
「さよなら、安らかに成仏してね。
そして幸せな来世に生まれ変わってね。
来世は、いい所の家に産まれるんだよ。さよなら、
さよなら。」
こうして、彼女が3時間にわたる墓参りを終え、
墓所を後にしようとした、その時である。
後ろから、暖かい風が吹いてきて、
小さな女の子の声がしたという。
「バイバイ」
ビックリして振り向いたが、誰もいるはずはなく、
空耳かとも思ったが、
それは確かに、小さい女の子の声だったという。
それも娘の声に似ていた気がすると。
こうして、
埼玉に帰宅後、彼女は私に尋ねたのです。
「あれは、娘だったのでしょうか?」と。
私は、
「貴方の娘さんだったと思いますよ。」と言った。
小さな娘さんの墓参りをした最後にした声。
そして、お母さんが去り際に追いかけるようにした声。
それが、小さな女の子の声だった事。
そして、バイバイという言葉。
全てのつじつまが合うと思ったからだ。
亡くなった霊が、
生きている人に声をかけるという事はあります。
でも、霊にとってはとても大変な事で、
とてもパワーを必要とする事なのです。
ましてや4歳で亡くなった子が、
墓参りに来てくれた母親に声をかけるというのは、
本当に一言だけが、精一杯だった事でしょう。
そんな状況で、
母への最後の言葉は普通、子供なら、
「行っちゃ嫌だ。」とか、
「待って!」とか、
「また来て!」とか、「来なきゃ嫌!」とか色々あるでしょう。
でも、
この子は偉いよねぇ。
自分の事よりも、
かあさんがもう私の事で悩まないようにと、
「バイバイ」を選んだのです。
かあさん、もう私の事を気にしなくていいんだよ。
だから、さよなら。と。
きっと、
この子なら自分で成仏しますよ。
大丈夫、
貴方を怨んでなんかいませんよ。
そして、
貴方が墓地で聞いたバイバイには、
もう1つ意味があると、感じるんですよね。
彼女はそれを聞いて、涙した。
私が感じた、彼女が墓地で最後に聞いた、
温かい「バイバイ」のもう1つの意味、
それは、
「いつか、また、
かあちゃんの子供に
なれますように・・・・・」
END