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見習い神主と狐神使の、あやかし交渉譚  作者: 江本マシメサ
第二部 見習い神主と狐神使の、呪いの巫女

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第四話 調査をする前に

 七ツ星稲荷神社は呪われている──思い返しただけでも、あまりいい気分にはならない。

 長年、この地を厄災から守ってきた神様がいる神社を、どうして呪われているだなんて噂が出回ったのか。


 父には言わないことにした。俺以上に、現状を気にしていたからだ。

 母にも同じように、言わないほうがいいだろう。そう考えていたが、ミケさんより待ったがかかる。

 事件を調査する上で、何かあった場合を想定し、母にだけは報告しておいたほうがいいだろうと。

 母は剛胆というか、懐が広いというか。とにかく、何が起きてもドシンと構えていることが多い。

 ミケさんの言う通り、母にだけは伝えておくことにした。


 台所に行くと、母は夕飯の支度をしている。

 煮物がぐつぐつと煮える音と、トントントン、と母が包丁で何かを切っている音が聞こえた。それは、台所にかけられたBGMのように思える。声をかけたら、ペースが崩れてしまうのかと思うほどに。

 躊躇ためらっていたら、母は振り向かずに声をかけてきた。


「……勉、どうかしたの?」

「え、なんで俺ってわかったの?」

「なんとなく、気配で」

「……」


 物心ついたころから、母は不思議な発言をすることがあった。

 じいさん曰く、母は強い守護霊を持つ最強の巫女だと。何かあったら、父よりも先に母に相談するようにとも言っていたような気がする。


「それで、何? 今日の夕食は、お味噌汁にイカと大根の煮物、大村寿司よ」

「いや、夜ごはんを聞きにきたんじゃなくて……って、なんで大村寿司?」


 大村寿司というのは、うちの町の郷土料理だ。見た目は四角い押し寿司だが、作り方や材料は他の地域で作られているものと違う。

 大村寿司は主に、お祝いの席やお客さんを歓迎する席で食べられる場合が多い。じいさんの好物で、誕生日は毎年母が作っていた。


「今日は、じいさんの誕生日ではないし……」

「みんなが落ち込んでいるから、元気づけようと思って」

「ああ、そっか」


 そういえば、大村寿司が好きなのは、じいさんだけではない。父も妹も、大好きだ。もちろん、例にもれず俺も。


「少し、手伝ってくれる?」

「あ、うん。手、洗ってくる」


 シャツの腕を捲って洗面台で手を洗ったあと、台所へと戻る。


「勉、棚から寿司桶を出してくれる?」

「わかった」


 棚から出した大きな寿司桶を、テーブルの上に置く。

 母は炊飯器の炊き立てご飯を、寿司桶の中に入れた。ほかほかと白い湯気が舞う中に、砂糖で甘くした酢を入れて切るように混ぜていた。

 酢のツンとした匂いをかいでいると、不思議とお腹がぐうとなる。


「もうちょっと待ってね」

「うん」


 母は手際よく、大村寿司を作っていく。

 四角い寿司用の型に酢飯を詰め、次に甘く煮込んだ椎茸とかんぴょう、ごぼうを散らす。


「勉、フライパンから、魚のそぼろを持ってきて」

「わかった」


 大村寿司最大の特徴は、長崎の海から上がった新鮮な魚が入っていることだろう。

 甘辛く味付けされた魚のそぼろは絶品だ。


 上から酢飯を載せ、再び同じ具に白身魚のそぼろを追加する。上から酢飯を被せ、一番上はすべての具と『はんぺん』と呼ばれるピンクと黄緑のかまぼこを載せ、最後に金糸卵で全体を覆う。

 蓋を閉めて、ぎゅ、ぎゅと押したら大村寿司の完成だ。

 家庭によって、さまざまな味があるらしい。母は水主村家に代々伝わるレシピを使って作っているのだとか。


「去年のじいさんの誕生日以来かな」

「そうね。なかなか、作る機会がなくて」


 大村寿司は、五百年の歴史がある。戦国時代の戦で勝利した領主をもてなすため、考案された特別な料理のようだ。

 領主の帰還は急な話だったため、食器の数が揃わず、家にあった細長い木箱で押し寿司を作ったことが発祥とされている。


「じいさんが、何回も大村寿司の歴史を話していたな」


 毎年毎年酔っぱらって同じ話をしていたが、今年は聞けない。それを思うと、しんみりとしてしまった。


 押し寿司の型から出されたものは、拳大にカットされる。まるで、ケーキのようだ。

 完成したら、ラップで覆う。


「よし、と」


 あとは、父が帰って来るまで待つばかりだ。


「それで勉、話って何?」

「あ……うん。ちょっと、言いにくいことなんだけれど」


 勇気を出して、話すことにした。


「──というわけで、今、うちの神社が呪われているんじゃないかって噂話が急激に広がっているらしい」


 母は顎に手を当て、眉尻を下げて悲しそうな表情をしていた。


「でも、まだはっきりとした話ではないから、まだ父さんには黙っていようと思うんだ」

「う~~ん」


 母はさらに、悲しみに満ちた顔となる。やはり、家族に隠し事は厳禁だったか。


「だ、だめ?」

「ううん、いいと思う」

「いいんか~い」


 ツッコミが、台所に空しく響き渡った。ふざけている場合ではないのだ。


「何か、他に気になることが?」

「どうして、稲荷神社は呪われているって、思われやすいんだろうって思って」

「あ~……」


 子狐たちとも話したが、妖狐の伝説と混同されやすいのだろう。

 神社にいるのは霊狐で、悪さをするのは妖狐。ここ、テストにはでないけれど、覚えておいてほしい。


「漫画とか、稲荷神は狐の姿で描かれることが多いし、そこから妖狐のイメージと繋がってしまうのかもしれない」

「そうね」


 調査について、母から無理はしないように、それから人様には迷惑をかけないようにと忠告された。


「あと、お父さんに黙っている以上、徹底して隠してね」

「うん……大丈夫……たぶん」


 隠し事は得意じゃないけれど、頑張るしかない。


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