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見習い神主と狐神使の、あやかし交渉譚  作者: 江本マシメサ
第二部 見習い神主と狐神使の、呪いの巫女

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第一話 想いが呪いに変わる時

 女は恨みがましい視線を、年若い男女に向けていた。

 二人共、幸せそうに腕を組んで歩いている。

 親密な関係であることが、ひと目でわかった。

 そんな男女を見つめる女は、ボソリと呟いた。


 ──あの、女狐め!!


 守ってくれるといったのに……。

 ずっと一緒だからと言ったのに……。


 約束は、反故された。


 自分のモノにならないのなら、いなくなればいい。

 女は思う。


 こうして、強い想いは『呪い』となった。


 ◇◇◇


 サラサラ、サラサラと雨が降る。

 ついに、梅雨の時季となってしまった。

 個人的に雨は、あまり好きじゃない。

 神社の掃除ができなくなるし、登下校も満員のバスに乗らなければならないからだ。


 そんなわけで、時刻は朝の六時五十分。そろそろ起きる時間だが、雨のせいでいまいち起き上がる気になれないでいた。


「とむ、起きていますか?」

「起きる、今から」


 部屋の外から声をかけてきたのは、狐の神使である葛葉三狐くずはみけつさん。通称みけさんだ。

 彼女はうちの神社──七ツ星稲荷神社を守る神使だった。

 なぜ、神使であるみけさんが人間の姿となってここにいるのか。

 それには深い、深~い理由わけがある。

 きっかけは、じいさんの死だった。

 信じられない話だが、うちのじいさんは七ツ星稲荷神社の神使だった。

 ばあさんに惚れ、結婚したまではよかったが──じいさんは人の体で死を迎えてしまう。

 じいさんの存在は、七ツ星稲荷神社を中心とした結界の要となっていたらしい。じいさんの死をきっかけに、街を守る結界が崩壊してしまった。

 それと同時に、じいさんの血を引く父には狐耳が、妹には尻尾が生えてきた。俺はなにも見た目に影響がなかったけれど、後日、とんでもないことが発覚する。

 結界が崩壊したあと、摩訶不思議な生き物『あやかし』が神社を破壊したり、家族を脅したり、人にとり憑いて死へ誘うように導いたりと、さまざまな事件が起こった。

 そんな時、俺達を助けてくれたのが、神使の片割れであったみけさんだ。

 人化したみけさんは、さまざまな神具を使ってあやかしを倒してくれた。

 しかし、神使は対の状態で完全である。じいさんを失ったみけさんは、完全な状態でなく、対あやかし戦でも苦戦していた。

 何度も壁にぶちあたり、打つ手がなくなる。

 そういう時は、神頼みをするのみ。神社の拝殿でお願いするのではなく、本当の神様を呼び出して願いを聞いてもらうというリアルな神頼みだった。

 稲荷神社とはいえ、主祭神である『()()()()(たまの)(かみ)』はあまりにも遠い存在だ。

 そのため、七ツ星稲荷神社に関係が強い末社の神様に助けてくれと泣きついた。

 一柱目は──蘆屋大神あしやおおかみ

 あの有名な安倍晴明のライバル陰陽師として有名な神様だ。

 陰陽師といったら狩衣を着ている姿が有名だが、蘆屋大神はお坊さんの恰好をしていた。同じ陰陽師でも、いろんな姿をしているらしい。

 蘆屋大神は荒魂で、助けを求めてきた俺達を『知るか!』と言って消えていった。

 初対面の時は冷たい態度だったけれど、それから何度も姿を現しアドバイスをくれる。

 厳しい神様だけれど、ここぞという時は助けてくれるありがたい神様だ。

 こういうのを、ツンデレというのか。

 二柱目は──有馬大神ありまおおかみ

 この地に関わりの深い戦国武将で、厳格な中にも優しさを滲ませる和魂を持つ神様だ。

 俺達の相談にいつだって優しく手を差し伸べてくれたのも、有馬大神である。

 二柱の神様の助けを借りながら、あやかしを退治するため切磋琢磨していた。


 そんな中で、俺の中にある摩訶不思議が思いがけず活躍する。

 なんと、俺の体内に神刀『永久とこしえ花ツ月はなつづき』の刃が在ったのだ。

 神刀を得たみけさんは、本来の力を取り戻す。

 こうして、大きな力を持つあやかしを倒し、神社の結界は蘆屋大神が修繕してくれた。

 新しい神使も、京都の稲荷神社にある白狐社から派遣される。

 飼い犬のもちよりも小さい、コロコロとした小狐が二匹やってきた。今は彼らが七ツ星稲荷神社を守護している。

 七ツ星稲荷神社は平和になったかと思いきや──朝食の席で、父がある問題をボソリと呟いた。


「最近、参拝客が減ったような気がする」


 頭を抱えるのは、俺の父。ここ、七ツ星稲荷神社の宮司を務めている。

 じいさん亡きあと、狐耳が禿げ頭に生えてきたという、残念過ぎる姿をさらしている。


「祈祷の予約も、先月の半分以下で……」

「ええ、なんで?」

「わからん」


 今月は、五穀豊穣を祈る『田植え祭』がある。それなのに、毎年声をかけてくれる農家さんからの連絡がほとんどこないのだという。


「また、あやかしの仕業とか?」

「それはありえません」


 みけさんがきっぱりと否定する。結界の状態は完璧で、あやかしの一匹も入り込んでいないという。


「だったら、何が原因なんだろう?」

「もしかして、何か、強い力が──」


 考えてもわからない。

 突然、バン! と音を立ててお箸を置いたのは、中学二年生の妹、紘子ひろこ

 一言も喋らないどころか、「ごちそうさま」も言わずに立ち上がる。

 そして、無言のまま居間から出て行こうとした。


「おい、紘子、ごちそうさまくらい言えって」

つとむ、いいから、好きなようにさせておきなさい」

「……」


 中学に入ったくらいから、あんな風に頑固さというか、クールな感じになってしまった。

 父は「今は思春期だから」と言って片付ける。


「勉、もう、学校に行かないと、今日はバスでしょう?」


 母に指摘され、ハッとなる。雨の日のバスは混雑するので、早く行かなければ。

 ご飯を口いっぱいに頬ばって、味噌汁で流す。


「ごちそうさま! 行ってきます!」

「とむ、気を付けて」

「うん」


 二杯目のご飯を食べるみけさんの言葉に頷き、家を出た。


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