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見習い神主と狐神使の、あやかし交渉譚  作者: 江本マシメサ
第一部 見習い神主と狐神使の、あやかし没交渉

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第二十二話『神社参拝とは?』

 今の時期は近くの公園で花見をする人たちが帰りがけに参拝するので、神社の中は賑わっている。

 そういうわけもあって、助勤の神主や巫女総出で頑張っていた。

 今日みたいに人数の多い日は社務所の台所で食事を作る。

 メニューはカレーライス。

 材料は神様にお供えした食材のおさがりを使って作られる。

 既に氏子の奥様方が来てくれていて、カレー鍋をかき混ぜていた。


「お疲れさまです」

「あら、勉くんも来ていたの?」

「美味しいカレーが食べられると聞いて」

「まあ、嬉しい」


 奥様方はボランティアでこういうことをしてくれるのだ。ありがた過ぎて涙が出る。

 七ツ星神社は地域の協力のおかげで成り立っているのだ。

 本日は父に助勤の神主河野さん、巫女の瀬上さんに野中さん、氏子さんの奥様が三名、ミケさんと俺、以上。


 手伝いを申し出ると、ご飯の盛り付けを命じられた。

 一升炊きのジャーの中はサフランライスで、黄色が色鮮やかに出ていた。

 まず、巫女さん二人に神主の河野さんの食事の時間となる。

 河野さんは痩せの大食らいなので、ご飯は多めにしておいた。

 奥様方の分も装っておく。

 休憩所にカレーが運ばれている間、みんなを呼びに行った。


 祖父の家でどら焼きを戴いてきたというのに、お腹は空腹を訴えていた。

 カレーが食べられるのは一時間後。我慢我慢。

 今日はお守りが飛ぶように売れる。景気がいいなあと思いながら、在庫を補充した。


 ミケさんは父とお祓いをしている。今日は五件の申し込みが入っているとか。

 当日申し込みもあったと瀬田さんが言っていたので、今日は大忙しだろう。


 一時間後、待望の休憩時間となった。

 授与所は野中さんと交代をして、父とミケさんを呼びに行く。


 カレーを前にしたミケさんは、不思議そうな顔で眺めていた。


「とむ、これはなんでしょう?」

「カレー。数種類の香辛料を混ぜて作った、刺激の強い食べ物?」

「かれー、ですか」


 ちなみに、奥様方が作ってくれたのは、中辛のカレー。そこまで辛くないと思われる。 

 うちの食卓に上がるのは一年に一回あるかないかなので、とても嬉しい。


 最近のご飯は全て和食だった。ミケさんのために母がメニューを選んで作っていたのかもしれない。

 初めてのカレーはお口に合うのか。

 まずは一拝一拍手をして、和歌を詠む。


「たなつもの――」

「たなつもの、もも草木きぐさも 天照あまてらす、日の大神の めぐみえてこそ」


 これは全ての食材や穀物を始めとする自然の恵みは天照大神のご加護のお蔭ですという感謝の言葉。

 それから、いただきますと言って食事を開始する。


 ミケさんはスプーンの先にちょこっとだけカレーを掬い、口に含む。


「!」


 目を見開くミケさん。


 もしも口に合わなかったら、近くのコンビニでパンでも買いに行けばいいと父が言う。


「どう?」

「辛くて、不思議な味です」


 今度はご飯と一緒に。

 無表情でもぐもぐ食べるミケさん。大丈夫、かな?

 カレーを食べている様子を見届けてから、父と俺も食べ始めた。

 

 カレーの米に野菜、鳥などは神前にお供えしていたもので、それを戴く行為を『直会』や『神人共食』と言う。

 神と人が同じ食材を味わうことによって縁を深め、守護の力を強めるものらしい。


 食後も一拝一拍手をして和歌を詠む。


「朝よひに――」

「朝よひに 物くふごとに とようけの かみのめぐみを おもえよのひと」


 これは食事をするたびに、神様に感謝をしようというお言葉。

 和歌の中の『とようけ』というのは豊受大神のことで、穀物を司る神様だ。こちらの神様は宇之御魂神うかのみたまのかみと役割が似ているので、同一視されることもあった。なので、なんとなく親近感がわいてしまう。

 ごちそうさまと言って、食事を終えた。


「ミケさん、カレー、どうだった?」

「最初は奇妙な味だと思っていましたが、食べているうちに癖になったというか……その、美味しかったです」

「だったらよかった」


 氏子の奥様部の鴨カレーは大変美味しい。ミケさんにも分かって貰えて嬉しかった。


 社務所に置いている鞄の中からスマホを取り出す。

 三件、友達のグループメールのメッセージが入っていた。受信時間は一分前。

 一件目は「七ツ星神社なう」、二件目は「トム居る?」、三件目は「神社のお参りの方法を教えてくれ」というものだった。

 どうやら同じクラスの友達三人が、うちの神社の前に来ているらしい。

 休憩時間は十五分ほど残っている。父に了承を得て、歯を磨いたあと友達の所に向かうことにした。


 階段を降りて行けば、鳥居の前に三人の男子の姿が。


「お待たせ」

「おう」


 今日はカラオケに行っていたらしい。朝、お誘いのメールが来ていたが、午前中は祖父の家に行って、午後からは神社の仕事だと断っていたのだ。


「すげえ、トム、神主ヌシカンに見える」

「格好だけね」

「真っ白だな、その服」

「見習いだから」

「なるほどなあ」


 神主は役職ごとに袴の色が変わる。出仕と呼ばれる見習い神主は白い袴を履くようになっているのだ。


「それで、神社の参拝方法を習いたいって」

「頼む」


 稲荷神社なので、きちんとしないと祟りが怖いと言っている。


「だから、祟らないって」

「でも、適当なお参りをしたらお稲荷様が怒るだろうが」


 まあ、絶対にないとは言えないけれど。

 正しい参拝方法を知っておくのはいいことだ。せっかくなので、しっかり指導をさせていただく。


「まず、鳥居の前で一礼」

「え、こっから始まるのかよ!」

「危ねえ、神社の中で待ってなくて良かった」

「あ、待て。ガムもだめ。神社の中は飲食禁止」

「へえ!」


 境内での参拝中は飲食禁止になっている。神社の中は神様の神域なので、飲食が禁止されているのだ。


「鳥居を通る時は端を歩く。真ん中は神様が通るから」


 説明をしながら、鳥居の連なる階段を上って行く。


「まず、鳥居がいっぱいあるのが怖えよ」

「これ、近所の商店から奉納されたものだから怖くないって」

「そうなんだ」


 鳥居を後ろから見れば、「奉納○○商店」みたいな屋号が書いてある。


「あ、マジだ」

「サッカー部の山田の店もあるじゃん」

「おっ饅頭屋なんだ。帰り冷やかして帰ろうぜ」


 階段を上がって参道を歩く。すると、最初にあるのが手水舎。手と口を清める。


「右手で柄杓ひしゃくを取って、左手を清める。次は右手。左手に水を注いで口を濯ぐ。最後に柄を洗って終わり。水の継ぎ足しは禁止だから。最初に掬った水で一連のお清めを終わらせること」

「待って待って!」

「説明早い!」

「やること多過ぎだろう!」


 仕方がないので、一緒にやりながら教えてあげた。

 次に拝殿の前で神様にお参りをする。


「お祈りは自分の願いだけじゃなくて、神様への挨拶やお礼も忘れずに」


 参拝は神様との縁結びと言ってもいい。

 挨拶をして、礼を尽くし、それから願いことをする。


 まず、場を浄化させるために拝殿の鈴を鳴らした。

 ガラガラ勢いよく何度も鳴らす必要はない。一回、カランだけで十分だ。

 それから、お賽銭を入れる。


「あ、五円玉、持ってない」

「あ、俺も」

「十円は駄目なんだろう?」


 五円(御縁)がいいとか、十円(遠縁)みたいな当て字があって、賽銭の金額は決まっているのかと聞かれるけれど、賽銭の意味は神様に感謝をして納めるものだ。だから、金額はあまり関係ないような気がする。

 まあ、この辺は地方によってもいろいろ解釈がありそうだけど。


「賽銭にお金を入れる時はそっと入れて」

「今まで投げつけてたわ」

「俺も」

「正月とかは人多すぎて無理だろ」

「まあ、そうだけどさ」


 各々自分のお財布と相談して、お賽銭の額が決定したようだ。


「鈴を鳴らして、賽銭を入れたあとは、拝殿の前ではニ礼二拍一礼」


 神前でのお辞儀は九十度。きっちりと綺麗に頭を下げる。


 皆、熱心にお祈りをしていた。


「では、最後にあちらの社務所でお守りとかお札をお求め下さい」

「よっしゃ、巫女さん!」

「行こうぜ」

「これのために来たんだよ」


 みんな喜んで社務所に行ったのに、窓口に居たのは父だった。

 野中さんは玄関掃除に向かったらしい。


 男三人衆は明らかにテンションが低くなりながら、おみくじを引いて帰って行った。


 その、なんていうか、ごめん。

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