第七話 零章の終幕、縁切りのお仕事(夜明)
七、
幼少の頃、俺は爺ちゃんの部屋に飾ってあった木刀に手を伸ばしたことがあった。少々、そういうのに興味があったから手にしたのだが……ちょうどそこに爺ちゃんがいたのだ。爺ちゃんは笑って
「お前を強くしてやろう」といった。それが俺にとっての地獄の始まりだった。ちょっとした血と鼻水とその他もろもろの液体が詰まった今思い出してもしょっぱい過去のお話だ。
―――
目の前に立っている焔華は勿論、幼少の頃から鍛えられてきた存在なのだろう。
「次は外さぬ!」
できれば外して欲しい。何故かって?そりゃ、あんなのあたったら夏場に木刀でスイカを叩き割るような感じだ。木刀なんてかんけいねぇ、ありゃ、りっぱな凶器だ。
「待て」
「待ったなしだ!」
俺に飛び掛ってきて一撃を食らわそうとする。
恐ろしいほどのパワーファイターなのだろう、俺はそれをさっと避け、剣を自分の顔面に縦に構える………そこへ、下に下ろされたはずの木刀が俺の顔面を横切りにしようとして襲い掛かってくるが、俺の木刀がそれをはじく。危うくしりもちをつきそうになったのだが……そこはなけなしのガッツで踏ん張った。
「やるな………」
う〜ん、まだ夏場のすいかわりで横に切られたスイカはみたことがないな。てか、そんな一撃をまともに喰らいたいとは絶対思わん。
「………ああ、ちょっと聞き忘れてたんだけどあんたなんで剣の道を突っ走ってんだ?」
このご時勢にまじめに剣の道を突き進もうという人はあまりいないだろう。ま、俺たちエンキリは
「暴力に屈しないように」という理由でそれぞれがそれぞれ、何かしらの防衛策を持っている。
「知れたこと……強者と渡り合うため、ただそれだけだ!」
木刀を俺に向けてそう宣言する。うわ、かっこいいな……正直、俺には理解できんがね……
「そうかい、余計戦う気がなくなってきたぜ」
「やめるといえど、拙者は何度でもおぬしに挑戦するぞ。ストーカーになってでも、おぬしとの決着をつけるからな」
目がマジだ。
「お前、ストーカーの意味わかってるか?」
「よくわからん!だが、なるのならば一流を目指すとしよう!」
こりゃなんともまぁ……熱く燃え滾っている目だろうか?ストーカーを極めるってあんた………極めたらどうなるんだろ?ま、本当にそうなったのならこいつを呼び出して縁をめちゃくちゃに断ち切ってやろう。ストーカーなんかいたらこちらの商売上がったりだ。
「じゃ、ここでまじめにあんたを討ち果たす!」
俺は再び、腰を低くして目を細める。木刀も腰に直して相手との距離を一定に保つ……
「………正直、攻撃をしてこないからがっかりしたぞ」
「………そりゃ、まぁ、まだ一回も攻撃してないからな………俺、弱いもん」
避けて避けて防御して……そんなところだろうか?でもまぁ、俺は相手の攻撃を喰らって
「ああ!最高!」とか言っちゃうような危ない感覚の持ち主ではない。
「たしかん、口ばっかりだからな……弱い犬は良く吼えるものだ」
相手は期待はずれだとばかりにそんなことを言ってくる。それに対しての反論はしない。なぜなら、それは事実だからな……小さい頃は爺ちゃんの稽古から逃げるために強くなった。いかにして相手の行動を防ぐか、そればかりを考えて成長してきた……
「ここでおぬしをこの木刀のさびにしてくれよう!」
ごめん、それ無理だわ………
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
「だって、木刀はサビねぇからよ!!!」
俺は思い切り相手の木刀に小太刀をぶつけ、それを相手の足元に投げつける。小太刀をぶつけられた木刀は起動を左にそらしてその隙に左手で長い木刀をつかって相手の腹部を瞬間最大加速で突く。
「ぐぅ………」
途中で手を離しているので相手は中途半端に意識を保っており、すぐさま横なぎをしてくるところで……俺は相手の胸倉を掴んで壁に放り投げた。
「でやぁぁぁぁ!!」
ああ、ちなみに余談だが……投げ技などをするときはきちんと相手を掴んであげないと思わぬ大怪我をしてしまうのがよくある。みんな、相手を思い切り投げるときはきちんとそのあとのことを考えてつかんであげようね♪
「………さ、これで終了」
壁に当たってそのまま動かなくなったと思われる焔華に俺は告げた。
「………死んでねぇよな?」
殺人罪だ。決闘だから相手が死んでもしょうがない……いや、その時点で果し合いか………決闘罪に殺人罪……こりゃ、ちょっと洒落にならんな。わらえねぇ……
――――
「あいたたた………」
女の子を背負って外に行こうとすると危ない。最近、物騒だからな………結局、道場にあったタオルに水を浸してそれを相手の頭乗っけてやったのだ。既に意識は回復しているようで、相手は俺の膝の上で覚醒した。
「男に膝枕した感覚はどうだ?俺はやっぱり女の子にしてもらいたいけどな」
目を覚ました相手に俺は声を掛ける。勿論、相手はぎょっとしていた。
「……………拙者は負けたのか?」
「ああ、お前は負けた。これでお前がストーカーになることはないな……よかったな、一流のストーカーを目指さなくて……」
右足を勝手に見させてもらったのだが、ああ、実に白くて美しい足だったと伝えておこう。白い足にあったものは小太刀を当てたときに出来た青あざ。それは痛々しかった。ああ、やっぱこれって俺の責任だからな……
「悪いな、俺たちエンキリは勝てなきゃ意味がないんだ」
「………お前らには武士道というものがないのか?」
「すまん、俺ってどっちかというと忍者のほうが好きだ」
「……………」
負けたのが悔しいのだろう、焔華の頬には涙がつたう……
「……お前の敗因は慢心と技量不足」
「そうか………やはり、拙者はまだまだ未熟だったか……」
「ああ、そうだ………」
しんみりとした感じなのだが、俺は非常に眠い……あちらの世界の人たちが俺を眠らせようとまぶたの上で不思議な踊りを踊り始めているのだ。ううん、正直言ってこのまま焔華に倒れこんでしまいたいのだが………初対面の相手にそんなことしたら折檻ものだ。
「今日は……もう遅いから、早く家に帰れ……負けたからって切腹するなよ?」
そろそろ夜も明ける頃だ……エンキリの仕事に決闘なんてないかも知れんが………結構ハードなお仕事だった。
「じゃ、最後に願いを聞いてくれ………」
俺の意識が遠のいていくその間際、俺は焔華の言葉を聞いて適当に頷いたのだった。人間、睡魔となく子には勝てないのである。
―――
翌朝、気合と根性で起きるとさっさと学校へと向かった。それは何故か………手野見さんがどうなったのかを知りたいからだ。人と人との縁はそんな急に変わったりしないかもしれないが、念のためである。ああ、朝目を覚ませば俺の目の前には焔華がいなかったことを伝えておこう。
早めに学校に登校すると、やはり学校に生徒の数は少ない。見た目がまじめな手野見さんの姿は既にあり、そんな彼女に一人の男子生徒が手紙を彼女に渡していた。
「よ、読んでください……お願いします!」
そういって男子生徒は俺の隣を通っていき……その後にはぼさっとした手野見さんの姿が残され、俺はよかったと思ったのだが……人生、そううまくいかないようだ。
「……どうしよう、これ……」
手野見さんは俺に山ほど詰まれたラブレターを見せてくれたのだった。




