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強襲

後ろからは式神や火矢が飛んでくるが術者の姿が見えない。火矢は距離が開けば問題ない。現に走り出してからすぐに火矢は止んだ。

式神に関しては距離がまだあるのか、元から術者などいないのか。

―――どのみち、確認しても仕方ないか。

そもそも式神と云うのは人間が念力だか怨念だかを紙に込めたもので、幾つか種類があるらしい。

紙そのまま形からして飛んでくる式神は安易な物だと推測する。大方『対象者以外が触れれば爆発する』等の簡単な命令しか書き込まれていない。

精度や命令内容は村の手形と違いはないだろう。その証拠に腕に着けている小手で地面に叩き落としたものや木に貼り付いたものは爆発どころか燃えてすらない。

動物にしか反応しない特徴などは行商に見せてもらった手形と同じだ。

それに手形と一緒の仕掛なら、かなりの距離を式神が移動出来る。術者が遠い場所から式神だけ放っていると考えると、立ち止まるだけ無駄だと判断し影弘はとにかく走るとこに決めた。

面積が大きい分、式神にあたりやすい百足は隣で泣きわめ居ているが様子からして威力は大したことはない。だが、数か多い。

むしろ、増えて来ている。このまま崖まで追い詰める気なのだろか。

妖怪である影弘と百足は結界に触らなければ問題ない。とにかく、百足は海に落として後は自力で崖を這い上がって来ることを願うのみだ。

昔、虫のムカデが水溜まりの中を移動していたのを見たことがあるから大丈夫だろうと影弘は百足の逃亡法を自己完結させた。

―――問題はその後だ。

百足と一緒に海に飛び込んだところで式神が追いかけて来るのは目に見えている。

百足は臭いを消したあと崖を登って適当な岩にくっついてやり過ごせば良いだけだ。だが、人型である影弘は崖を登るには不自由が多すぎる。

あえて捕まってみて村に潜入することも考えたが捕まった瞬間、死しかないと云う事実に至り影弘は無理な策を考えるのは止めた。

良い考えが浮かばすにただ走っていると突然、目の前が開け視線に海が広がっていた。

大岩近くの崖に出たのだろう。左に視線を向ければ下手な侍の城よりも高くそびえ立つ岩が嫌でも視界に入る。

影弘は一つの考えに至る。大岩には結界が張られていない。正確には大岩を避けるようにして結界が張られている。

昨日丘から見た限りでは大岩に何かしらの手が加えられているのは確定している。勿論、敵の懐に飛び込む訳だからただでは済まないだろうが海に飛び込むより動きやすい分、まだ勝算がある。

―――一か八か大岩に逃げ込むか?

「どぉするんですかぁ!影弘さん!崖に出ちゃいましたよぉ!?」

百足の半狂乱の声に影弘が思考を戻す。百足の対処法は既に決まっていたので存在をすっかり忘れていた。影弘は百足を崖のぎりぎりまで誘導し、とびきりの笑顔で送り出す。

「臭い消えたら這い上がってこい。その頃には終わってるから」

「えぇ?」

状況を飲み込めない百足をよそに影弘は百足を抱えて海に向かって思いっきり投げた。百足の叫び声が崖下からこだましているが気にしない。

最初は気にも止められただろうが背後からしゅるしゅると何かが擦れあう音が聞こえた時には影弘には気にしている余裕はなくなった。

「来やがったか」

後ろを振り替えれば何千もの式神が集まり百足よりも大きな一匹の大蛇を作り上げていた。

飲み込まれる処か触れるだけで怒涛とも呼べる爆発の連続が起こることは予想できる。それに比べ影弘は上半身裸に腕に防具だけ着けた状態で刀すら持っていない。

おまけに相手は素手で触れば爆発でする。現状は最悪だ。

―――まともにやっても敵わねぇ。

なら、選択肢は二つしかない。

一つは逃げる。

もう一つは他の要素で勝ち目を上乗せする。影弘が大岩へと向かおうとした時、あることに気がついた。


**********


暗い闇の中。

女は夢を見ていた。

女がまだ幼かっく両親と幸せに暮らしていた頃の夢。

祖父の家に泊まりに行くと必ず両親と蛍狩りに行った。お気に入りの浴衣を母に着せて貰い父と母とで片手ずつ手を繋いで貰って夜道を歩いて行った。

河原に着くと母が作った冷やしあめを皆で飲むのが恒例だった。

最初は生姜がキツいからと甘めに作って貰っていたが、この日初めて父と同じ辛さの冷やしあめを飲んでソレが美味しくて両親と同じ物を飲めた事が嬉しくてはしゃいだのを覚えている。

それから蛍を見ながらとりとめのない話をした。

新しい友達の話。父の仕事の話。母の料理の話。何でもない話だったが今ではソレがひどく愛おしい。

帰る頃になると父が私の頭を撫でてくれた。

「また家族、皆で来ような」

父が笑いかけてくれるのが本当に大好きだった。

こんな穏やかな時間がずっと続くと思っていた。愛おしい人達がずっとそばに要てくれると信じていた。

―――それなのに…。

意識が懐かしい河原ではなく暗い闇に戻って行き自分が目を覚ます感覚に落胆しる。

目を開けたところで自分の手すら見えない闇は変わらない。なら、このまま愛おしい夢に浸っていたいと強く願うのに、その願いさえ嘲笑うように老婆の笑い声が聞こえ始めた。


**********


背後は崖、目の前には大蛇。最悪と言っていい状態だ。

影弘は大岩に背を向け走り出した。元から距離が近いため、すぐに大蛇に追い付かれ飲み込まれそうになる。

大蛇が口を開け影弘に突進をかけた瞬間に影弘は跳躍し大蛇を飛び越え近場の木に移った。

対象を飲み込めなかった大蛇はゆっくり頭を持ち上げると頭部のみ形を崩し、顔だけを前後に入れ替える。

紙の集合体であるため、形は自由に変えられるらしい。これでは斬るなどの物理攻撃は通じない。むしろ術者の思う壺だ。影弘は刀を取りに行くと云う選択肢を除外する。

影弘の姿を見付けると式神は再び大蛇の姿を取って影弘に襲い掛かる。式神が影弘に到達する前に影弘は別の木に飛び移り再び森へと入る。

長い鬼ごっこの始まりとなった。


**********


最初は大蛇の視界から消えるように突然、木から落下してみたり茂みに隠れたりしたが大蛇はそれでも追ってくる。

逃げる途中でネズミを捕まえ大蛇に投げ込んでみるもネズミの面積か小さい性か小規模の爆発で終わってしまい大蛇の姿を崩すまでに到底及ばなかった。

影弘は川へと向かって走った。

式神といっても所詮は紙だ、濡れてしまえば重くなって飛べなくなる。それに式神は海に潜った百足を追わなかった。それは自身が濡れることを恐れた為だと影弘は解釈していた。

本当は百足に半分押し付けるつもりだったが宛が外れた。

追っ手がかかった場合、百足は自分の手に負えなくなると必ず影弘を頼るだろう。それで面倒事だけを押し付けられるのは嫌だった。

だからわざわざ追っ手がかかっているかもしれない状況で百足の逃走を止めて説教していたのだ。どのみち巻き込まれるなら連帯責任で百足にもしっかり付けは払ってもらうつもりでいた。

なにより、昨夜の様に臭いが付いたまま突然、影弘の前に現れて術者に奇襲されるのを避けたかった。だから自身の負担軽くするためにも面倒に首を突っ込んだふしもあった。

だが、現状はどうだろか。

逃げるにしても戦うにしてもどちらかが足手まといになる状況だった為、百足を先に逃がした。

そして、百足は影弘に全ての面倒事を押し付けて逃げおおせた。

「ムカデのくせに生意気なんだよ!!」

影弘は腹の底から苛立ちを叫ぶと地面を蹴りつける。

高く飛躍すると同時に後ろを振り向けば、大蛇が大口を開けて影弘に迫っていた。影弘の口元は自然と歪む。

そのまま川の中央へ向かって勢い良く飛び込んだ。

読んで下さった皆様に感謝です

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