立往生
このサイト様に投稿するのが始めてです。
正直、拍手とか返信とかが解りません。申し訳ありません。
機能がわかりましたら、お返事出来るかも知れませんが、それまではご容赦ください。
また、文がおかしい。誤字脱字などありましたら脳内補正や温かく見守って頂けると有り難いです。
村が一望出来る丘にある一番高い木の枝にあぐらをかいて影弘は何度目ともわからないため息を吐いた。
空には満月が煌々と輝いていて灯りをつけなくても眼下に広がる村とその向こうに見える海は月明かりだけでよく見える。誰が見てもこの風景は絶景と言うだろう。たが影弘にはその風景こそが悩みの種なのだ。
影弘から見ている村は背に崖と海が広がっていて海側からよじ登るのは困難。
右側は村よりも高い崖がそびえ立っている。村の中からみればソレは崖だろうが、影弘がいる丘から見ればソレは崖ではなく"ばかでかい岩"だ。
岩の先は勿論、急な崖と海である。陸と村を繋ぐ場所は全て木と石で出来た防壁が立てられている。防壁の上には数ヶ所、矢倉がついて村と云うより砦と揶揄したほうがしっくりくだろう。
岩がある所は一応陸とつながっており矢倉も防壁も作られて居ないため潜入しやすく感じるが、そこが一番危ない。
一見ただの岩だが当目から見ると岩の中腹に多数、松明の火が覗いている事から何かしらの手は加えてあるはすだ。岩の上に道があるならまだ良い。だが、岩の中をくり貫かれているのならその目的は限られてくる。
―――岩を伝って村に侵入するはずが岩の中にある岩牢に入るはめになるなんて御免だ。
かといって防壁をよじ登ろうにも防壁と地面の間にはネズミ返しである先端を尖らせた丸太がいがぐりの様にひしめきあっている。突破するのに時間がかかり過ぎる。
ソレならば左側と思うが左側は村の出入口である。正面突破が決められるならこうしてうだうだ悩んでなどいない。
岬と呼ぶには広すぎるが、海に競りだした土地をまるまる砦にしたのが村である。
普通の人間が住むだけ村なら跳躍したり、門を破って入ればいいがこの村はそうはいかない。
―――相当強力な結界が張られている。ここまで噂通りだ。
この村は妖怪退治を生業としてる村で、ここには『持ち主の願いを何でも叶える宝玉』があるそうだ。日々、その宝玉を狙い妖怪が奇襲をかけるがその宝玉を守る一族にことごとく退治されてしまう。
だが一族は人間にだけはその恩恵を与え、病や戦を静めているともっぱらの噂だった。影弘自身もその宝玉を狙う妖怪の一匹である。
流石は難攻不落の要塞とでも言おうか。いい考えが浮かばず影弘は後に倒れる。倒れるといっても木の上なので重力に従い木に足をかけぶら下がる。
影弘は逆さまから見える風景、どこまでも続く森を眺めていると頭上、つまり地面からシュルシュルと何がが這い上がってくる音がする。
音の主に覚えがある影弘は体を起こし枝に座り直した。
「どうですかぁ?潜入出来そうですか?」
恐る恐る控え目に影弘の隣から声がかかる。
「噂には聞いてたけど難しい。これ張ってる奴が本当に人間なのかと疑いたくなる」
率直な感想を述べると隣から駄目かぁと落胆した声が聞こえる。
正直、結界を壊す方法が無いわけではないが後が厄介なので出来れば使いたくないが、どうしてもの時は仕方がないとも思う。影弘は複雑な心境で腰に差している刀を一瞥する。
この事を声の主に伝えようか考えあぐねていると隣人は木の幹に体を巻き付けて方向転換し下へ降りようと世話しなく動いている。その時に血の臭いが鼻を掠めた。
「百足。お前、匂うぞ。人間食って来ただろ」
「あ、わかります?お腹すいちゃってぇ」
「目立つ行動は止めろよ?」
「あはは、わかってますよぉ。ムカデは肉しか食えないんですから多少は許して下さいよぉ」
百足と名乗る妖怪、人間を軽く飲み込める程の巨大なムカデから発せられる間の抜けた声にた反省の色はない。
軽く百足を殴る。
「そこ背中ぁ、やるなら肩にしてくださぃ。」
殴った矢先に声の主がたまうが、人型である影弘に巨大ムカデの肩やら背中なんてわかる訳もない。
影弘はあえて冷たい目線を送る。
「冗談ですよぉ、コレ結構受けてくれる人いるんですけどねぇ」
そそくさと逃げ出す百足だが、言葉を繋ぐにも最後は頭と影弘の距離がかなり遠い。聞き取りづらくはあったがトホホとため息を吐きながら百足は下へ降りていった。
百足と出会ってまだ七日と立っていないがこの穏和な性格を影弘は案外好ましく思っていた。
まだ村への潜入方法も思い付いてはいないし、その後の計画も目処がまったく立っていない。考える事は山積みで必要な情報も皆無だが、影弘には対等な立場で接してくれる協力者が新鮮で悪くないと思えるのだ。
影弘は自分が今までいた環境の違いに苦笑をもらすと、なんの躊躇いもなく木から跳躍した。
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昔、神と呼ばれる異形の物達がいた。
彼らは時に人と交わり人と共にあり、人を食った。
神は人から崇められると同時に恐れられ『バケモノ』『妖怪』と蔑まれた。そして数百年の時がたち人が神に対抗する力を身に付け始める。その頃には神は全て『妖怪』と名前を変え人に使役され疎まれる存在となっていた。
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自分の手すら見えない闇の中。時間の流も季節の移り変わりも感じられない場所からは老婆の笑い声がこだましている。
『憎かろう?憎め。憎め。』
『辛かろう?お前を苦しめる奴は殺してしまえ』
『何故、お前だけがこんな目に合わなければならん?全てをお前さんに押し付けのうのうと暮らしている村人は薄情じゃ』
『お前さんは全てを捧げ村人に延いては人間のために尽くしてきた。なのに、儂に取り憑かれたと解るとすぐさまお前さんを捨ておった』
闇のなかで捲し立てる老婆の楽しげな声の合間に「いや、止めて」とか細い女の声が微かに響く。嗚咽と共に聞こえる声は老婆ではない若い女の声だ。
鈴を転がしたようなとはよく言うが泣き声さえ美しいと感じるソレは聞きた者の心を締め付けることだろう。
『儂ならお前さんを自由にしてやれる。お前さんに人並みの幸せをあげられる。』
全てを蔑む様にゲタゲタ笑う老婆の声は先程と打って変わって突然、優しい声色に変化する。普通は戦慄を覚えるはずなのに何処か信じてしまいそうになる。
しかし、その声に答えるものは居なかった。
少しの沈黙の後、老婆の村人を非難する声と女を助けたいと訴える声が再度響き始め、その声は途切れる事がない。
だが、女が老婆の声に肯定することは一度もなかった。
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日が登り始める頃、村近くの川で水浴びをするのがこの村に着いてからの影弘の日課だ。
人型とは言っても影弘も妖怪であり、人と違う特徴が有るため人間の目を避けて行動をしいている。そのため自然と行動時間が決まってしまう。
影弘と人間の違い多々あるが一番目立つ違いは髪色だ。人間の髪は黒が主流だが影弘の髪は明るめの灰色である。
昔は母に白銀と揶揄された髪色を気に入っていたが今では腹違いの兄との同じ色で有ることが忌々しい。一時期は"兄とお揃い"が嫌で本気で丸坊主にしようかと悩んだ事がある程だ。最終的には坊主にしたときに兄に冷笑されるのか嫌で止めた。
取り合えず体を洗い終わった影弘は次いでに着物を洗い、迷った末に防具と袴だけ洗わずに身につけておいた。
洗濯後の着物を盗難防止とよく乾くという理由により木の一番高いところに干していると村から金物を打ち鳴らす音が響き始める。
影弘が村に目をやると村の正面門が開き商人で有ろう荷物を抱えた人間達が村に入って行く。
村は自給自足だけで賄えないので定期的に行商を入れている。最初に影弘が村に来たときに行商の用心棒として村に潜入しようと試みたが見事、断られた。
村に入るには手形が無ければ無理なのだそうだ。
手形には勿論、術がかけられており、許可の無いものや妖怪が触れると爆発するらしい。
―――どうしたもんだか。今度は見世物小屋にでも入るか?
着物を干し終え行商を眺めていると突然、巨大ムカデが行商の列に飛び込んで行った。
行商の悲鳴が響く中ムカデは一番近くにいた子供に食らい付きそのまま森へ逃げていく。
村の矢倉の上から矢が放たれるが数本ムカデの胴体に刺さるだけで後は弾かれてしまう。矢が刺さっても気にした風もないムカデはそのまま森の中へ消え去った。
―――何やってんだ!?アイツ!
昨日、目立つなと釘を刺しておいたのに寝て起きたら綺麗さっぱり忘れて人間襲う百足の知能はやはり虫同等でしかないと影弘は確信した。
―――取り合えずは百足を殴る。
影弘は決断すると洗濯ものをそのままに百足を追うべく木から跳躍した。
百足が逃げたと思われる方向に直線距離向かう。木々を跳躍していくにつれて血の臭いが濃くなってゆく。
百足が逃げる途中に人間の一部でも摘まみ食いしたのだろう。これならかなり探しやすい。だがそれは影弘だけでなく村の術者が使役している妖怪も同じ事だ。
逆を言えば村の奴等にも見つかりやすい。
村の術者が百足を殺そうが、百足が人間を食おうが影弘には関係のない。影弘本人も百足を助けたいのか、自分の言うことを聞かなかった事を叱りつけたいのかわからない。
だが、目の前で起きたことを放置することは出来なかった。
臭いがかなり濃くなった頃、百足の赤黒い胴体が木々の隙間から覗くのが見えた。
―――居やがった。
影弘は足に力を込め一気に地面を蹴る。百足との距離が一気に縮まり再度、地面を斜めに蹴りつける。体全体を回転させ遠心力を加え一回転と同時に百足の胴体を斜めに蹴りあげた。
人間の男三人並べたぐらいの長さの百足の体が一度宙に浮きべじゃっと情けない音を立てて地面に落ちた。
衝撃で半分以上を腹に納めていた人間の残骸が飛び出すが、耳やら内臓の一部やらなので最早肉片と言った方がしっくり来る。衝撃を受けた百足は頭をあげるとすかさず飛び出した肉片を何事もなかったかのように口に入れ直した。
「百足。俺が昨日、言ったこと覚えてるか?」
咀嚼が終わり口が空くと百足が苦笑を返す事から忘れては居なかったのだろう。
だが、昨日の今日である笑って誤魔化されてはやらない。
「ほら、あれ。作戦ですよぉ。村の真ん前で妖怪が人間食ったんですぅ。村の奴等は面子を守るために僕を討伐しに出入り口を頻繁にあけるでしょ?そこを潜入って腹ですよぉ」
「目的はお前の討伐。討伐対象が目の前に居るのって意味無くないか?一発で終わるよな?それに門が空いても結界はどうする。」
「け、警備の為に門が開く回数は増えるはずですぅ!僕はずっと隠れてますからぁ。」
「それは討伐じゃなくて村周辺の巡回だ。恒例化するまでにどれだけ人間食うつもりだよ。その頃には奴等は躍起になってるからお前、すぐに殺されてるぞ」
「けどぉ、お腹いぱっい食べられるのは、それはそれで幸せでぇ」
「腹満たす前にお前は死んでいる」
「その前にぃ影弘さんがぁ、しゅばばぁっとぉ…」
「よし。百足、先ずは軽く死んどくか。」
影弘の中で表現できる最高の笑顔を百足に向け、拳を構える。百足はただの冗談の延長だと思ってはいないようだ。
「影弘さん、怖いですよぉ。」
と明るい声を出しては居るが間合いをあけようと後ろに下がっている。
警戒は生き残るための重要な要素のひとつである。冗談で他者を殺せる奴なんて人間にも妖怪にも腐るほどいる。その時、本当に自分が危害を加えられるか加えられないかを察知するのは大事なことだ。
百足は妖怪としては弱い部類に入る。弱いが故に百足は警戒や不穏な空気には敏感だ。
それは称賛すべき点ではあるが、この警戒心を目の前の影弘ではなく能力も実力も全く不明な村の奴等に向けて欲しいと影弘はため息をついた。
―――何だかんだ言っても知能は虫同等なんだよな。
百足の楽天的思考は後に回すとして先ずは村からの追手を確認しなければと村の方向に目をやったその時、甲高い笛の音が影弘達の耳についた。
村の追手だ。影弘は舌打ちと共に百足を連れ笛と逆の方向に走り出した。
「なぁ、何で追っかけてきてるんですかぁ」
「お前が血の臭い撒き散らしてたせいだろう!」
「だからぁ移動しながら食べて僕のいる場所を錯乱しようとしてたんですよぉ?なんでぇ?」
「お前が人間食い終わった場所は何処だよ!」
「……それぇ影弘さんも悪くないですかぁ?」
「…うるせぇ。止めなきゃお前、自分の巣穴まで臭い持って行ってじゃねぇか!とにかく、お前は一回海に潜って臭い消せ。村の大岩近くまで走るぞ」
背後から火矢や式神が飛んでくるのを交わしながら影弘達はは大岩の先にある崖を目指した。
この作品が皆様に少しでも興味を持って頂けたなら幸いです。
おもしろいと言って頂けるよう頑張ります。